― AI時代の体験設計と「設計責任」の話 ―
UXジェネラリストは「何でもできる人」ではない。
今求められているのは、体験の構造と判断を引き受ける人だ。
前置き
ここ数年、UXの現場では同じ言葉を繰り返し聞いてきた気がします。
「UXユニコーンは幻想だ」「専門性を持て」「何でも屋は評価されない」
実際、UXは分業が進み、リサーチ、UI、デザインシステム、UXライティングなど、
それぞれが専門職として成立するようになりました。
この流れ自体は、とても健全だったと思います。
一方で最近、少し違う空気も感じています。
「全体を見られる人が足りない」「結局、誰が判断するのか分からない」
そんな声を、以前より多く聞くようになりました。
Nielsen Norman Groupの
“The Return of the UX Generalist” という記事は、
この違和感をかなり正確に言語化しているように思います。
UXジェネラリストは、本当に「戻ってきた」のか
もしそうだとしたら、それは昔と同じ意味なのでしょうか?
なぜUXジェネラリストは否定されてきたのか
まず前提として、UXジェネラリストが長く否定されてきた理由ですが
- スキルの深さが足りない
- 品質が個人に依存する
- 組織としてスケールしない
プロダクトが大きくなり、UXが事業にとって重要になるほど、
「属人性」はリスクになります。
専門分業によって再現性と品質を担保する、という判断は自然でした。
また、「UXユニコーン」という言葉が象徴するように、
一人ですべてを完璧にこなす存在は現実的ではありません。
その結果、
「ジェネラリスト=何でも浅くやる人」
というイメージが定着していきました。
この評価自体は、今振り返っても間違っていなかったと思います。
それでも今、UXジェネラリストが必要とされる理由
ではなぜ今、再びジェネラリストの話が出てきているのでしょうか。
一つは、前提条件が大きく変わったからです。
生成AIによって、UXの専門作業の一部は急速に補完され始めています。
UIのたたき、文章の生成、簡単なリサーチ整理。
以前なら専門家の手が必要だった作業が、
「一人で十分に回せる」領域になりつつあります。
もう一つは、UXの射程そのものが広がったことです。
UXはもはや画面の話だけではなく、
ユーザー体験全体、オペレーション、サービスの流れまで含むようになりました。
その結果、専門職が増えるほど、
「全体をつなぐ役割」が空白になりやすくなっています。
ここで求められているのは、
すべてを完璧に作れる人ではありません。
構造を理解し、翻訳し、判断できる人です。
AIによって変わりつつある「前提」と設計対象
さらに踏み込むと、AIによる変化は
個々のツールや業務効率の話に留まりません。
社会全体にAIが浸透することで、
ユーザーの情報取得、判断、行動のプロセスそのものが変わりつつあります。
すでに私たちは、「自分で探す」「自分で比較する」「自分で操作する」
という前提が、少しずつ崩れ始めている状況にいます。
今後は、ユーザー本人ではなく、
AIが代理で情報を収集し、選択肢を絞り、行動を実行する場面が増えていくでしょう。
そのときUXの設計対象は、
もはや「人の操作体験」だけでは成立しません。
人とAIがどのように役割を分担し、
どこで意思決定が行われ、
誰が責任を引き受けるのか。
こうした前提条件そのものを含めて、
体験設計、サービス設計、さらにはビジネス構造を考える必要があります。
このレイヤーまで扱おうとすると、
特定の画面や機能に閉じた専門性だけでは足りません。
社会の変化、ユーザー行動の変化、
そしてAIを含んだシステム全体を横断的に捉え、
「どの前提を採用し、どこに判断を置くか」を決める役割が不可欠になります。
その意味で、AIの進展は
UXジェネラリストという役割を不要にするどころか、
むしろ加速させているように思います。
現場で感じていること
実際、私自身の関わっているプロダクトや組織でも、
UXの専門性が細かく分かれる一方で、
「で、結局どうするのか」を決める役割が曖昧になる場面を何度も見てきました。
リサーチの示唆もある、UIの改善案もある。
技術的な制約も、事業的な優先順位も分かっている。
それでも最後の一歩で止まってしまうのは、
全体を前提条件ごと引き受けて判断する人がいないからです。
そういう局面で必要だったのは、
特定領域の専門家ではなく、
「今の制約下で、どこを捨てて、どこを取りにいくか」を
言語化できる人でした。
振り返ると、その役割を自然に担っていたのは、
肩書きよりも構造を理解している人だったように思います。
まとめ
UXジェネラリストは、万能ではありません。
そして、誰にでも向いている役割でもありません。
ただ、AIが社会の前提条件となり、
ユーザー行動や設計対象そのものが変わりつつある今、
体験・サービス・ビジネスの成立を
横断的に考える役割は、ますます重要になっています。
UXジェネラリストは「戻ってきた」のではなく、
設計の問いが拡張された結果、必要とされるようになった。
UXジェネラリストという言葉で呼ばれることもありますが、
本質的には、体験の構造に対して
アーキテクト的な責任を引き受ける役割なのだと思います。
※ 皆さんの現場では、この「設計責任」は誰が引き受けていますか?
