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大規模DBシステムの落とし穴:リードレプリカ、RAC、CPU性能で学ぶスケーラビリティ設計の真実

Last updated at Posted at 2025-10-09

インフラエンジニアのキャリアを積む中で、DBシステムのスケーラビリティ(拡張性)と性能を追求する課題に何度も直面します。特に「リードレプリカ」や「クラスタリング」といった技術を導入する際には、システムの特性を見極めないと、かえって性能を落とす落とし穴にはまりかねません。

本記事では、私の過去の経験談を基に、大規模データベースシステムの設計で本当に重要なポイントを解説します。

1. 参照負荷を捌く「リードレプリカ」:接続切り替えの技術選定

リードレプリカは、マスターDBの書き込み負荷を軽減し、参照(Read)処理をスケールアウトさせる最も基本的な仕組みです。

仕組みの再確認と技術的な課題

基本的な構成は、「作成/更新/削除(Write)はマスターへ」「参照(Read)はリードレプリカへ」と接続を振り分けることです。

しかし、この 「接続の振り分け」 こそが、実装上の大きな課題となります。

接続切り替えのアプローチ メリット デメリット
アプリケーションコード 柔軟性が高い。コード内で細かく制御可能。 コードの複雑化、接続情報の管理が煩雑になる。
データベースプロキシ アプリケーションコードの変更が不要。自動でクエリを解析しルーティング。 プロキシ自体の導入・管理コストが発生する。

AWS環境のベストプラクティス:Amazon RDS Proxy

AWSのAmazon RDSやAuroraを使用している場合、接続切り替えのベストプラクティスはAmazon RDS Proxyの活用です。

RDS Proxyは単にクエリを振り分けるだけでなく、以下の重要な機能を提供し、運用負荷を大幅に軽減します。

  • 自動ルーティング: SELECT文はレプリカへ、DML(INSERT/UPDATE/DELETE)はマスターへ自動で振り分けます。
  • 接続プーリング: アプリケーションからの接続を効率的に管理し、DBの負荷を抑制します。
  • 高速なフェイルオーバー: マスター障害時、新しいマスターへの接続切り替えを劇的に高速化します。

2. 性能を落とす「クラスタリング」:Oracle RACとキャッシュフュージョンの教訓

データベースのスケーラビリティ技術として、複数のDBノードで同一データファイルを共有する クラスタリング(例:Oracle RAC) があります。私の10g時代の経験では、このRACが逆にボトルネックになりました。

キャッシュフュージョンが性能の足かせに

Oracle RACは、ノード間でキャッシュされたデータブロックを高速ネットワーク(インターコネクト)経由で転送するキャッシュフュージョンによってデータの一貫性を保ちます。

しかし、アプリケーションが特定の少数のデータブロックに対して頻繁に更新(Write)を繰り返すワークロード(ホットスポット)を持つ場合、このブロック転送が多発します。

結果として、ディスクI/Oを減らすための機構が、ノード間通信という新たなボトルネックを生み出してしまい、複数ノードに分散したにも関わらず、性能が低下するという「落とし穴」が発生しました。

シングルインスタンスで性能改善した理由

このシステムは、最終的にシングルインスタンス構成に戻し、メモリ容量を大幅に増やすことで劇的に性能が改善しました。

これは、真のボトルネックが 「ノード間通信のオーバーヘッド」や「メモリ不足による頻繁なディスクI/O」 であったことを示しています。RACの複雑な管理オーバーヘッドを排除し、大量のデータを高速なメモリ(SGA)内に収めることが、最も効果的な解決策でした。

教訓: クラスタリングは、ノード間でデータ競合が少ない、分析系の並列処理にこそ最大の効果を発揮します。OLTP(トランザクション処理)では、システムの特性をよく見極める必要があります。

3. DB性能を左右する「CPU周波数」の重要性

データベースの性能を考える際、多くの場合「メモリ」や「ディスクI/O(SSD/NVMe)」に目が行きがちですが、私の経験則では 「CPUのクロック周波数」、すなわちシングルスレッド性能 が非常に大きな影響を与えます。

トランザクション処理は本質的に直列的

特にOLTP(トランザクション処理)においては、INSERTやUPDATEなどの書き込み処理は、データの一貫性を保つために、内部でロック管理やログ書き込みといった直列的な処理を必要とします。

  • コア数(並列性能) が多いCPUよりも、 クロック周波数(単一処理速度) が高いCPUの方が、一つ一つのトランザクションを完了させる速度が向上します。
  • 結果として、高いクロック周波数を持つCPUは、全体のトランザクションスループット(処理件数)とレスポンスタイムの改善に直結します。

まとめ:設計の鍵は「ワークロード分析」

大規模データベースの設計では、技術の流行やカタログスペックに惑わされることなく、 「アプリケーションのワークロードがどういう特性を持っているか」 を徹底的に分析することが成功の鍵となります。

  • 参照が多いか? → リードレプリカとプロキシの採用
  • データ競合が多いか? → シングルインスタンスでのメモリ増強、またはシャーディングを検討
  • レスポンスタイムが重要か? → 高クロック周波数のCPUを選択

システムは常に進化しますが、これらの設計原則は、今後も変わることのないインフラ技術者の基礎となるでしょう。

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