自然言語処理
機械学習
VR
ビッグデータ
裁判のIT化

裁判所がfaxを使う運用を変更し、新しいシステムを導入するらしいという噂を聞きました。
米国では2001年からPACERがweb閲覧できて、シンガポールでは2世代目のシステム構築が進んでおり、韓国の裁判のIT化のシステムはベトナムへ輸出されているというのに、未だfaxを使っているとは。失われた20年。わたくしが一番きれいだったとき、裁判所はfaxを使っていたことを知りました。
少し調査をしたところ、日本の裁判所がfaxをやめるということは、いわゆる一行を変えるだけの問題とも関連していそうでした。ただ裁判所の運用が少し変わるだけではなく、もっと根本的な大きな変更が必要となってしまうような、そんな感じがしました。
少なくとも、議論の展開によってはオンライン会議/VR/ビックデータ/自然言語処理/機械学習が重要になってくる可能性があると思われたので、以下に自分が調べたことを共有させて頂きます。

結論的なこと

裁判所がfaxをヘビーに使っているのは事実。
faxを使うオペレーションは裁判所の細分化されたシステムに強く根付いている。
この機会に裁判のIT化だけでなく裁判業務そのものを変えても良いのではという議論も多い。
興味深い議論:
1. 裁判資料の価値と可能性
2. tv/vr裁判の可能性
3. スマートコントラクトと新しい執行、VirtualDataRoom、etc

世界の裁判のあり方は多種多様。
様々な選択肢がありえるなかで、日本に適した新しい裁判を追求して行く上でも、
エンジニアももっと議論に参加した方が良さそう。
特に、「データの保管」と「データの定型化」と「APIへの要望」周り。

今議論されていること

2017年10月に内閣官房に裁判手続き等のIT化検討会が設置され、そこでfaxやめるやめないみたいな話が議論されることになり、既に3回開催されていました。この検討会は閣議決定により設置された日本経済再生本部の下部組織のような位置付けです。なお、検討会は非公開ですが、資料は公開されています。
ざっくりといえば、今まで議論されてきたことは、
- 今の裁判所の非効率性
- 諸外国の事例
- その他要望
といったところです。
12月27日に開催された第3回で論点が整理されたので、2018年3月までに何らかの結論が出てくると思われます。【追記】2018/3/31に裁判手続等のIT化に向けた取りまとめが発表されました。

裁判所の非効率性

日本の裁判所で裁判を傍聴すれば、その非効率性は当事者でなくても、感じられます。民事裁判の場合、ほとんどの裁判が5分ぐらいで終わります。書面にて提出した内容を口頭で「陳述」したことにする及び次回期日の調整をするだけだからです。重たそうな資料を出しては戻しては次の裁判所に行く弁護士の方々を見ていると、web上で書面・資料の提出(e-filling)やスケジュール管理(e-case management)やそもそもweb上で裁判(e-court)出来ても良いのでは、と素直に感じます。
また、控訴審でどれほど資料が読み込まれているのかも疑問です。

諸外国の事例


実際に諸外国は既にそうしたe-filling/e-case management/e-courtシステムを構築し運用しています(第二回配布資料)。議事録を見ると諸外国に20年ほど遅れているという感傷的な意見も見受けられましたが、逆に言えば諸外国の事例のコピペをすれば良いだけとも言えます。参考までにいくつかの国のe-fllingはこんな感じです:シンガポール(elitigation)スペイン(lexnet)ロシアフランス(町村北大教授のブログ)韓国(町村北大教授のブログ)米国(再度、町村北大教授のブログ)...
【追加】クラウドサインの橘弁護士の韓国裁判レポートはmustで読む価値あります。

日本でそうしたシステムを作ると、マイナンバーを思い出すまでもなくあまり良い予感はしませんが、上記検討会第2回でも紹介されていたスペインのARCONTEというシステムは日本の富士通社が関わっているようです。 結局は仕様の問題 なのかもしれません。現段階では、日本の新しい裁判システムはAPI化を想定しているフシがありますが、 どのようなAPIがあるべきなのかに関してエンジニア側がもっと発信していく必要があると思います。

新しい裁判


ところで、裁判のIT化がここまで遅れてしまっていることは、いわゆる一行を変えるだけの問題とも関連していそうです。faxは裁判所のオペレーションに深く根ざしている、というかIT化をすることは根本的に新しい裁判を必要とする可能性があるのです。つまりパンドラの箱を開けてしまいかねないのです。
特に、注目するべきなのは、「裁判の公開」や「裁判のあり方」などの根本的or理論的議論がちらほらと見受けられることです(第一回議事要旨)。議事録や資料を読んでいると、ある種の熱意というか、諸外国の事例のコピペだけでは終わらない可能性を感じます。現段階では(弁護士用の)民事裁判のシステムを作る程度のスモールスタートなのですが、議論の行く末次第では、刑事裁判や行政審判なりもしくは根本的に新しい裁判の追求への発展もあり得ると思います。
そういう意味で今のうちから多くのエンジニアがこの議論に参加して行くことで、この議論もより豊穣なものになると思いました。

面白そうなテーマ

1. 裁判資料と自然言語処理(e-filling周り)

裁判資料の価値

裁判資料の価値は、注目に値します裁判資料には、一般的な契約書や各種書類だけでなく、裁判中の音声データ及び調書など、(自然言語処理)エンジニアの垂涎の的となるような豊富なデータがあります。
比較的裁判資料が公開されている米国では裁判資料を用いたchatbotが幾つか(ROSS,セクハラ検知ボットetc)開発されています。EUだとこんなのがありました。日本でも弁護士ドットコム社が交通事故chatbotを開発していますが、こうしたアプリがどんどん生まれる予感がします
なお、 音声データに関してですが、議事録を見ると裁判中のリアルタイム速記モニター(映画『否定と肯定』では導入されていますね!)の需要はかなり高そうです。また、書記官により議事録が「調書」としてまとめられますので一種の正解データとして使えると思います。

裁判資料の第三者公開

裁判のIT化に関する議論で最も興味深い議論の一つは裁判資料をどこまで公開していくか、ということになると思われます。 少なくとも、諸外国のコピペでe-filling(裁判資料のファイルシステム)的なシステムは稼働するのでしょうが、裁判資料がクラウド上にあるならば、それをweb閲覧することも可能にしたいと思うのは自然な流れです。米国ではすでにPACERというシステムでそれを実現しています。とはいえ、個人情報をどのように保護するか・匿名化の作業コストは誰が払うのか等難しい議論になりそうです。

判決の公開

また、議事録を読んでいると、判決の予測可能性の向上への需要が相当程度高いことが見受けられます。
しかしこれを実現するには、全判決のデータが必要になると思われます。今のように良く分からない基準で一部の判決を公開するのではなく、全判決をweb公開するべきというのは一見正論なのですが、同時に日本には驚くほど様々な法律雑誌があり、全判決をweb公開した場合それらの法律雑誌の経営基盤に影響が出る可能性があります。これらの法律雑誌の戦後日本の法秩序への多大なる貢献や紙媒体でのアクセスを確保する重要性など、豊穣な出版文化があるだけに議論が難しいところです

資料分析やディスカバリー制度

ディスカバリー制度とは、裁判に於いて原告・被告が証拠を開示し合う制度のことです。
コモンロー諸国に比べディスカバリー制度は充実していませんが、日本でもaos社fronteo社など開示された資料の分析サービスを提供している会社がいくつかあります。ディスカバリー制度の本場英米圏で調べて見たところ、英国のravn社は分析だけでなく予測も可能にするシステムを開発しているようです。米国の契約分析サービスであるkirasystemscasetextも面白そうなサービスです。
恐らく、上記のような裁判資料の当事者・第三者公開の方針が定まるにつれ、日本でもディスカバリー的資料分析的なサービスも増えて行くと思われます
また、セキュリティーの話題とも関連しますが、VirtualDataRoomの技術や運用が成熟して行くことで、日本の刑事裁判でもディスカバリー制度が発展して行く可能性があります。

AI裁判官

議事録にはありませんでしたが、裁判資料の公開が進んでいる米国で、AI裁判官の流れが進むのは容易に想像出来ます。実際に少し調査すると、米国では裁判官を補佐する為に、COMPASなるシステムを使用している州もあるようです(判決例はこちら)。このシステムでは以前までの統計や被告が入力する書類をもとにアルゴリズムが結論を出し、それを参考に判決を出すみたいです(Amazon Mechanical Turkで集めた400人とほぼ同じ結論という記事)。いかにも米国らしいですが、このシステムが黒人への人種差別をしている可能性に関する議論もありました。中国でも同様の試みをしているようです。【2018/1/30追記】韓国も破産関係の訴訟で司法AIの導入を予定(2020年)のようです。
こうした諸外国の方向性からも、上記のような裁判資料の当事者・第三者公開の方針は、日本の裁判のあり方を大きく変える可能性があります。

データの整備やデータの定型化

裁判資料にしろ、判決にしろ、音声データにしろ、それらを使い開発するには包括的なデータの整備やデータの定型化が重要になってきます。今の日本の裁判所でも確かに判決を部分的に公開しているのですが(最高裁の場合、判決から判決文のuploadはとても早いです)、なかなか使い辛いデータとなっています。また、その判決に至る文脈的なデータ・メタデータがあまり整備されていません。検察の起訴・不起訴に関するデータも整備されていません
米国ではこのような民間の判決サイトデータベース(や判決予想サイト)があります。米国のある判決予測に関する論文(Daniel Martin Katz,Michael J. Bommarito II,Josh Blackman (2017) A general approach for predicting the behavior of the Supreme Court of the United States)ではこれらのデータを使っていました(自然言語処理はしていない!?)。
Competition on Legal Information Extraction/Entailment (COLIEE)の、何故か日本の民法を使う国際法律人工知能コンペ!?に提出された各論文も興味深いです(日本の大学の研究チームも多数参加しています)。日本でも可視化法学のようなユニークな試みがあります。
今後開発予定の新しい裁判システムはAPIを通じた提供を想定している雰囲気が議事録(第三回の論点整理)からは読み取れますが、こうしたエコシステムをより発展させて行くようなデータのあり方に関してはエンジニア側が粘り強く訴えていく必要があると思いました。

書記官と正解データ

また、司法統計が拡充していくことで、一種の正解データが用意される可能性 を感じています。例えば、家族構成・事件の根本的原因・要約etcという感じでしょうか。しかもその 正解データを作るのが日本の裁判所の書記官であるならば、かなりの高クオリティーになりそうです。中国のように企業・国家が個人情報を取得し放題!?な国に比べ、個人情報法制が厳格で情報の包括性が欠ける国では正解データで補うという方向性が良いのではないかと思います。そういう意味で、逆説的に、裁判のIT化は書記がリーダーを発揮するような、そんな社会に日本を近づける可能性も秘めています。

機械学習による裁判傍聴

2015年にシンガポールはシンガポール国際商事裁判所を開設しました。すでに運用されている国際仲裁センター国際調停センターも活発に世界の顧客を獲得しようとしています。また、知財ハブ構想を掲げており、アセアン地域の知財登録から紛争解決までをシンガポールで可能にしようとしています。こうした戦略の背景には、良いルールがあるとプラットフォームが形成され、エコシステムが形成され、情報が集積することが挙げられます。
ところで、集積した情報をどのように社会的に共有して行くかのベストプラクティスはまだまだどの地域も試行錯誤をしているようです。上記のようなことが、一定程度実現したら、「機械学習による裁判傍聴」も可能となると思われます。例えば、フェイクの時代に裁判所の事実認定能力がより価値を増していくならば、裁判で明らかになった事実から社会的な議論を始めるような、そんな新しい公共圏のあり方も想像してしまいます。

ビックデータと個人情報保護と著作権

裁判資料をどこまで公開するべきなのかという「裁判の公開」の議論は、現代的な文脈ではビックデータと個人情報や著作権の議論とも密接に関係してきます。個人情報ならば、例えば医療とか遺伝とかですかね。

個人情報保護

裁判資料は、生死に関わることや生物的な個人の特定がされる訳ではありません。個人的な書類や社会的な文脈を示唆する情報が多く含まれることが特徴でしょうか。いずれにせよ、「医療」や「遺伝」などのビックデータと個人情報のテーマが社会的に議論になることで、価値観や基準がより包括的で明確なものになると思います

著作権

著作権に関しては、一般的な機械学習に於いて複製は認められており(著作権法47条7項)、裁判資料は裁判手続きに於いて複製が認められています(著作権法42条)が、第三者が裁判資料をAPIにより取得し機械学習する場合はどうなるかは不明です

個人情報保護・著作権をクリアした枠組み

個人的な感想ですが、諸外国の事例を見ても、20年のハンデがあるとはいえ直ぐにでも追いつけそう(諸外国の事例はレガシーなシステムが散見されるので)ですが、裁判資料が保管されていないことだけはあまりにも残念です。アーカイブの議論とも絡みますが、 早急に個人情報保護・著作権をクリアした枠組みを作るべきと思いました。
なお、日本の場合、民事訴訟は5年ぐらい、刑事訴訟は(何故か検察が保持しているのですが)3-100年の保管期間のようです。ちなみに、一年間の裁判件数が大体400万件であり、一件につき150円の印紙代が掛かるので、約6億円ほどで日本の一年間の全裁判の資料を閲覧できると思われますGoogle Booksと著作権みたいな訴訟も、裁判資料を巡って、将来あり得るかもしれませんね。
ちなみに、reddit創業者のアーロン・スワーツは、PACERを無料で使用できるようなクローンサイトであるRECAPを作ったことでも有名です。

2. TV裁判/VR裁判の可能性(e-court周り)

TV裁判

昨年から宅建業法で定められている重要事項説明はオンラインで可能になりました。もしTV裁判も可能になれば遠隔地の方の利便性を相当増すであろうことは容易に予測できます。例えば、知財高裁(何故かHPが独立してます)は東京にしかありませんが、わざわざここでの訴訟のために東京に出向く必要は無くなるでしょう。また、全国展開しているような企業でも、各地の裁判をTVを通じて「傍聴」することで管理が出来るでしょう。もしくは各地に専門裁判所が出来る傾向を作るかもしれません。

VR裁判

英国ではVRを通じた裁判の実験が始まっています。また、米国の刑務所でもVRの活用がされているようです。
裁判員裁判は「迅速化」の要請のために、寧ろ公判前整理手続が長期化している可能性が指摘されていますが、このようなVR裁判が可能になれば裁判員裁判の「迅速化」に大いに資すると思われます。また、最近家庭裁判所に関しても親権を巡る話題が増加しています。もしかしたら、VRを使うことで新しい紛争解決方法が模索できるかもしれません。

裁判の公開はどうなるのか?

ところで、最高裁の審理や判決は幾つかの国で、ネットで動画(英国台湾)・音声(米国)を通じて「傍聴」出来ます。そして中国では、一部の裁判所が裁判をweb中継(広州,北京。中国では各地方裁判所のHPが独立していることも興味深いです)しています。
参考までにイタリアのミラノ地裁のニュース映像も付記しておきます。
このように「裁判の公開」(憲法82条)も各国で多様な展開があります。日本はどうあるべきなのでしょうか。

地域概念の変容

知財高裁が東京にしか無いことの意味は大きいと思います。例えば、最近東京では、グレーゾーンファッション音楽などの弁護士事務所が出てきています。地方の弁護士会館は裁判所敷地内にあることも多いです。そうした東京一極化が緩和する可能性もあります。
興味深いと思われるのは、議事録では外国在住者の裁判へのアクセスみたいな表現でしたが、 裁判の管轄権の概念も揺らぐ可能性があるのでは、ということです。例えば、日本固有の領土でありながら不法に占拠されている北方領土の住民たちが、日本の司法サービスを享受出来る可能性があります(参考:ロシア映画『裁かれるは善人のみ』)。そのとき、日本の裁判所は、日本語だけ日本法だけでしか裁判を提供出来ないので良いのか、という問題も出てくるように思います。ちなみに、韓国の裁判所は英語を使った裁判を提供するようです。

案外実現可能性は高いかもしれない

恐らく、今年竣工する京都国際調停センターか2021年に竣工する東京・中目黒のビジネスコートでこうしたTV/VR裁判の可能性が具体的に追求されるのではないでしょうか。こうした知財・商務周りは国際的な競争が激しいので、一定程度国際標準に従わざるを得ないでしょうから。
なお、http://www.legaltechcenter.net ではそうしたTV/VRを使った新しい裁判の実験をしています。

3. 執行への不満

現在裁判所は催促競売をweb上で手続き出来るようにしています。
しかし、議事録を見ていると、日本では執行の不確実性があるため訴訟コストが回収できないというような議論が多々ありました。日本の民事訴訟の件数が減っていることは執行の確実性に問題がある可能性もあります。
少し行き過ぎだと思いますが、中国では強制執行を受ける人の名前が公表されるようです(こんなtwitterもありました)。参考までに「信用中国」では行政処分の対象となった個人や内容も公開しているみたいですね。
検討会での議論にはまだ出てきていませんが、スマートコントラクトは一つの解決策なのかも知れません。スマートコントラクトに関してはまだ良くわかっていないのですが、もしかしたら物理的な執行をするために裁判所と連携できるような仕組みがあるべきなのかもしれません。
なお、執行に関してはyahoo社の「競売の更なるIT化」に関する記事も大変参考になります。また、倒産・破産に関しては例えば米国にはこのようなマーケットプレイスがあります。

議事録にはあまり記載がなかったですが、以下のような可能性も想起しました。

4. 刑事裁判

デイスカバリ―制度やVirtual Data Room

現段階の議論は民事裁判に限定したスモールスタート的な感じですが、いずれ刑事裁判のIT化にも発展すると思われます。
恐らく、今年の6月から始まる司法取引の運用の様子を見てということになると思われますが、例えばデイスカバリ―制度の発展などもあり得ると思われます。その時はVirtual Data Roomや裁判資料の解析ツールなどが注目されると思います。

科学的な捜査と刑事裁判

日本でつい最近大阪地検にもデジタルフォレンジックのチームが作られたり、新しい機械学習を用いた筆跡鑑定で再審請求がなされたり、米国では犯罪予測システムPREDPOLが導入されていたり、EUではVALCRIという科学的捜査が研究されていたりと科学的な捜査手法は日進月歩で発展しています。
懸念があるとするならば、日本の刑事裁判は、そうした科学の発展や再検証を前提としているのか 、という点です。フィリピンでは逮捕状が電子化されていたり、イギリスには再審委員会があったりします。 【追記】台湾では起訴状を公開するように刑事訴訟法が改正されました。1928年に制定・施行された台湾の刑事訴訟法は日本の刑事訴訟法と類似しているので興味深いです。

刑罰に於ける社会コストという議論

現金の社会コストの議論が盛り上がっていますが、刑事事件の減少に伴い再犯率の高さなどに関心が行くことで、刑罰のなかで更生・社会コストという観点が強まっている印象があります(例えば、この記事なども興味深いです)。仄聞ですが、日本の刑務所に於いて社会復帰の為に用意されるメニューは時代錯誤な側面があるようです。もしかしたらITを使い改善が出来るかもしれません。刑務所は法務省の管轄であり文部省に比べ束縛が少ない!?ので思い切った施策が出来るかもしれませんし、そのノウハウは海外にもスケールしそうな気がします。その試みが成功したならば刑罰や刑事裁判のあり方も大きく変わるでしょう。

ランダム性と量子コンピューター

また、昨年には検察審査会の選出の正統性の議論が多少国会でありました。裁判員の選出も、様々な例外規定があるので多少は手動なのでしょうが、どこまでランダムなのかは良く分かりません。少なくとも未だにfaxを使っているような組織がランダム性に関して深い考察をしているには思えません。もしそうしたランダム性に関する疑義が社会的関心の対象となった場合は、量子コンピューターの導入も視野に入れるべきかもしれません。 もし裁判のIT化の議論の延長に量子コンピューターの導入が決定したら、faxと量子コンピューターの共存も面白いと思います。

5. 裁判官の働き方改革

裁判官というフリーランス的働き方

来年度の税制で所得税控除が変更になる見込みですが、様々な働き方が認められる社会になってきています。ここで注目したいのは、裁判官とは、憲法で独立性(第76条3項)や、給与の減額が無いこと(第80条2項)を保証されている存在だと言うことです。また、罷免するには国会の弾劾裁判所の決定が必要(第78条)です。極端な言い方をすれば、裁判官とは、減額が無い10年間の業務委託契約を国家と締結したフリーランサーだと言えるでしょう。そういう意味で裁判官が自由に働けない社会では、憲法・法律の保障が無い人達はもっと自由に働けないでしょう。
とはいえ、裁判官の成果の計測は、処理件数のノルマ達成であったりするようです。裁判官の成果(社会的正義の実現、秩序の安定、新しい判例etc)の計測が結局は処理件数ベースでしかできないならば、裁量労働制に於ける「成果」の計測もなかなか難しい気がします。多くの裁判は過去の事例と類似している可能性があるので、裁判のIT化により生産性の向上 or 処理件数が大幅に向上した場合、どのように成果を計って行くのか興味深いです。
例えば、以下は台北高等行政法院のエレベーターの表示版の写真(交渉して撮りました)ですが、「裁判官の運動場」があったり「ベビールーム」があったりします。日本の裁判所は裁判官の働き方を良くするためにどのような設備があるのでしょうか?
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裁判官に私達の働き方を良くしてもらうのではなく、裁判官の働き方を良くするために私達が何が出来るか、問わなければならないのかもしれません。

何故中国の裁判所は高モチベーション?

中国ではアリババ社などが裁判所と連携し書記官AIを随時裁判に導入していくようです。北京大学ロースクールとAI会社の連携や(個人的にはやり過ぎだと思いますが)裁判資料閲覧の際の顔認証システムなどの記事もありました。恐らく、中国国務院の三カ年計画の一環なのでしょうが 中国の司法府が、党の下部組織に過ぎないなかで、IT化を推進していくモチベーションは注目に値します(20年ほど前の映画『日独裁判官物語』で礼賛されているドイツでも何故かあまり裁判のIT化が進んでいないようです)。日本の裁判所は違憲審査権・司法行政権・行政裁判権・二重予算というほぼフルスペックの司法権を有していますが、どちらかと言えば低モチベーションな組織体質があるように思われます。特に、裁判のIT化は規則の運用を変えるだけで出来る側面がありますので。。。
こうした中国の事例からは、司法権の強さよりも、 個々の紛争を解決するインセンティブの方が裁判のクオリテイ―を高める可能性を感じました。少なくとも、裁判のIT化はそうした個々の紛争をより良く解決する仕組みになれば良いな、と思います。また、個々の裁判官のモチベーションが高まることで、裁判のITシステムの継続的な運用が可能になるのだと思います。

6. その他の議論

本人訴訟

日本の裁判の特徴の一つは本人訴訟が多いことです(コミケでも出版されてました)が、裁判のIT化の議論を見ていると、本人訴訟をサポートするようなサービス(フランスでの例)も求められているように思われます(第一回議事要旨。「本人訴訟」の出現箇所に注目)。クラウドファンディング等も関係が出てくるかもしれません(なお、米国では訴訟の証券化がされているようです)。

法廷通訳

また、最近のトレンドですが、国際紛争の国内化とでも言うべき事態が進んでいます。国際紛争を解決する手段としての東京地裁、とでも言うべきでしょうか。日本国籍保有者が当事者で無い訴訟が増えていて、東京オリンピックに向けて模擬裁判もしたりしています。法廷通訳のクオリテイー確保、というのも裁判のIT化で解決できる問題かもしれませんISOでこのような標準の議論もされています)。

その他

その他にも、電子署名、セキュリティー、電子決済etc が議論されていました。これらの分野のエキスパートの方は一度裁判手続きのIT化検討会の資料に目を通してみてはいかがでしょうか。

裁判のあり方は変わる

変化する裁判

上記のような可能性の議論で重要なのは、裁判は社会の変化に伴い大きく変化する動的なシステムであるということです。日本でも、ADRの導入や労働審判の導入や(恐らく今後iphoneのバッテリー問題で活用される)消費者団体訴訟制度の導入など、裁判のあり方も随分と変わっています。今年から京都の国際調停センターの竣工が始まる予定です。2021年には東京・中目黒にビジネスコートが出来るようです。恐らく、今後も行政訴訟のあり方やCtoC取引の増大に伴い極小額訴訟のためのODRなどがいずれ議論になると思われます。
また、今の中国司法のIT化は昔の中国映画『再生の朝に』からは想像出来ないことに留意する必要があります(とはいえ、中国では今でも窃盗罪で死刑になる場合があるらしいです)。
ところで、パリではレンゾ・ピアノ(Renzo Piano)設計の新しい裁判所が竣工します。結構大きい建物ですが、どのような訴訟を想定しているのでしょうか?

裁判所以外の裁判

また、裁判は、裁判所だけで起きているわけではありません。特許庁公正取引委員会などの行政審判や国会での弾劾裁判所などの裁判もあります。そういう意味で、裁判のIT化は包括的な行政・立法のIT化に発展するかもしれません。

懸念点

上記のような可能性がありつつも、同時に裁判のIT化に於いて幾つかの懸念事項が議論されています。

ITを使えない人

ITを使えない人の裁判へのアクセスをどう確保するか、というような議論です。個人的には、 インターネットやwebは憲法14条が規定する法の下の平等との親和性が高い ことがもっと理解されても良いと思います。例えば、英国・米国では最高裁の審理を過去の審理も含めて全国民がwebで「傍聴」出来ます。webを活用すれば、日本でも地方の方や未来の方が最高裁が提示した法理をより理解出来、日本の法の安定性に寄与する可能性があります。

裁判の公開

「裁判の公開」に関する議論は、「知る権利」・「プライバシー権」・「法廷内の秩序」・「更生」等様々な利益が絡み合った難しい問題だと思われます。裁判が公開され過ぎて、裁判をしたくない方が増えても、本末転倒です。
重要だと思われるのは、「裁判の公開」は曖昧な概念で社会により様々なカタチがあることです。例えば、日本でも戦後まもない時期は法廷内で写真撮影は禁止されておらず、また一時期メモが禁止されていたことも労働組合訴訟の遂行の妨げになるからだったようです。英国でも法廷内でメモに関する議論が最近あったようです。
難しい議論ですが、例えば「アマンダ・ノックス事件」をドキュメンタリー化したnetflixのオリジナル番組で表現されている、イタリアのどちらかと言えば極端な「裁判の公開」は議論の目安になると思います。

予算

議事録には明確には無かったと思いますが、どのように運用するのか、改善していくのか、予算はどうするのかという点は重要だと思います。個人的には、知財高裁でスモールスタートするのが一番良いと思っていましたが(韓国は知財裁判所からスタートしています。第二回平岡委員提出資料)、第三回の事務局資料を見ると民事訴訟一般を念頭に裁判のIT化がなされるようです。やはり日本経済再生本部の下部組織ということで新しい予算が獲得出来るからなのでしょうか。いずれにせよ、もし上記の可能性が追求されるならば、個人的にはふるさと納税なりの寄付を裁判所にしたいと思います
また、ベンチャー企業にとっても、経済産業省でなく裁判所から補助金を貰うことで、検察の安易な起訴も少なくなると思われます。

セキュリティー

セキュリティーに関する議論は、今後裁判のIT化の議論の行く末を大きく左右する可能性があります。現段階の取りまとめでは防衛・金融程の厳しいセキュリティー基準は必要ないよね、という方向性のようですが今後はどうなるでしょうか。行政府の大幅な交代が起きるなどでセキュリティーに関する議論が再熱し良く分からなくなる前に、セキュリティーに詳しいエンジニアの議論への参加が求められます。

おわりに

金子さんがwinnnyの件で京都地裁で罪に問われていたとき、岡崎市の図書館に1秒に1回程度のリクエスト頻度でクロールをしていた男性が逮捕されたとき、ヤフー社の検索エンジンを米Google社が提供する際にビックデータと独禁法的議論が盛り上がりかけたとき、裁判所はfaxを使っていました。
まわりの人達が沢山萎縮し、日本の多くの可能性が失われました。。。

裁判所がIT化を推進して行くということは、IT産業に於ける新しいビジネス・新しい雇用創出だけでなく、ITとの親和性の高い司法が日本でも期待が出来るというような可能性があると思います。

先日発表された取りまとめをもとに政府案が国会の法制審議会に提出され、そこで様々な議論がされ、最終的には民事訴訟法の改正が数年以内にされるようです。また、民事訴訟法の改正を待たずに裁判所内の運用で出来るようなIT化はどんどん進むようです(最近ある東京地裁の民事裁判では裁判官がMacを使っていました)。

今後も議論の推移を慎重に見守っていきたいです。

情報収集の方法

  1. 裁判手続き等のIT化検討会のHP
  2. 1.の更新が遅い時は、内閣官房の担当者に電話をする(担当はWakeさん?)。
  3. 衆議院/参議院法務委員会や内閣委員会
  4. 以下のtwitterアカウントを適宜フォローする

【追記 2018/4/18】
裁判のIT化のgitリポジトリを作りました。
https://github.com/hajimetakase/saiban-no-it-ka/