リストのリフレクション補題
2019/07/25
この文書のソースコードは以下にあります。
説明
MathComp の seq は、seq.v の中で、
Notation seq := list
という具合に、list のNotation (構文糖)として定義されていて、Standard Coq の list と同じものであることが判ります。
(注記)
括弧による表記については、[::]
など、MathCompのNotationで上書きされるので、かなり変わったものになりますが、支障にはなりません。ここでは、型としてはseqを、括弧の表記はMathCompの表記を使いますが、データ型として「リスト」と呼ぶことにします。
(注記終わり)
MathComp の中から、Standard Coq で定義されたリストの命題を使用することができます。当然、おなじ意味(同値)な命題もあります。
実際には、Standard Coqでは Prop型の命題(述語)として、MathCompではbool型を返す関数として定義されているわけですが、それらの間で同値性を示すリフレクション補題を証明することで、相互の変換ができ(リフレクションですね)、証明が捗ることがあるかもしれません。
コード例 その1
Require Import List.
From mathcomp Require Import all_ssreflect.
Section List_1_1.
最初の例は、Standard Coq の Lists/List.v で定義されている Forall と Exists です。述語Pが、リストの要素のすべてで成り立つ、あるいは、ある要素で成り立つ、ことを示す命題です。(∀と∃の意味の、forallとexists とは別な意味です。)
Check Forall : forall A : Type, (A -> Prop) -> seq A -> Prop.
Check Exists : forall A : Type, (A -> Prop) -> seq A -> Prop.
これらに対して、MathComp では、ssreflect/seq.v で all と has という関数が定義されています。
@は、implicitな引数を表示するために使っています。この場合、型Tの指定は、引数として省略できます。
Check @all : forall A : Type, (A -> bool) -> seq A -> bool.
Check @has : forall A : Type, (A -> bool) -> seq A -> bool.
ここでは、型しか示しませんが、実際の定義はそれぞれのソースコードを参照してください。
Standard Coq の Forall と Exists は、(A->Prop)型の述語と、A型のリストをとり、全体としてProp型を返します。
Mathcop の allと has は、(A->bool)型の関数と、A型のリストをとり、全体としてbool型を返します。
Forall と all の間のリフレクション補題を次に示します。
Lemma ForallP {A : Type} (P : A -> Prop) (p : A -> bool) :
(forall (a : A), reflect (P a) (p a)) ->
forall (s : seq A), reflect (Forall P s) (all p s).
Proof.
move=> H s.
apply/(iffP idP).
- elim: s => [Hp | a s IHs /= /andP].
+ by apply: Forall_nil.
+ case.
move/H => Hpa Hps.
apply: Forall_cons.
* done.
* by apply: IHs.
- elim: s => /= [| a s IHs].
+ done.
+ move=> HP.
apply/andP.
inversion HP; subst.
split.
* by apply/H.
* by apply IHs.
Qed.
reflect (Forall P s) (all p s)
が、Forall と all が同値であることを示すリフレクション補題で、これだけで同値であることを示します。
しかし、(A->Prop)型の述語P と、(A->bool)型の関数p とがリフレクション関係であることを条件としなければなりません。なので、前提に
reflect (P a) (p a)
が必要となります。
リフレクション補題をしめす reflect の定義は、ssreflect/ssrbool.v にある定義か、文献 [1.] を参照してください。
Exists についても同様です。
Lemma ExistsP {A : Type} (P : A -> Prop) (p : A -> bool) :
(forall (a : A), reflect (P a) (p a)) ->
forall (s : seq A), reflect (Exists P s) (has p s).
Proof.
move=> H s.
apply/(iffP idP).
- elim: s => [Hp | a s IHs /= /orP].
+ done.
+ case=> [Hpa | Hpa].
* apply: Exists_cons_hd.
by apply/H.
* apply: Exists_cons_tl.
by apply: IHs.
- elim: s => /= [| a s IHs] HP.
+ by inversion HP.
+ apply/orP.
inversion HP; subst.
* left.
by apply/H.
* right.
by apply: IHs.
Qed.
End List_1_1.
実行例 その1
最初に、ここで証明したリフレクション補題を使う例です。
Goal Forall (fun n => n == 1) [:: 1; 1; 1; 1].
Proof.
apply/ForallP.
apply/ForallP
がゴールに対してリフレクション補題を使うことを示します。詳細は、文献 [2.] の 3.7節を参照してください。
すると、ForallP の前提部分の証明を求められます。
a == 1
と同値な命題は a = 1
ですから、補題 eqP
Check eqP : reflect (_ = _) (_ == _).
を使って証明することができます。
- move=> a.
by apply: eqP.
残った
all (fun a => (a == 1) == true) [:: 1; 1; 1; 1]
については、「計算」で真偽を決定することができるので、done で証明を終了することができます。
- done.
Qed.
リフレクション補題を使わない場合は、Forall のコンストラクタである、Forall_cons と Forall_nil を適用してゴールの要素を個々に証明することになります。
Check Forall_cons :
forall A (P : A -> Prop) x l, P x -> Forall P l -> Forall P (x :: l).
Check Forall_nil :
forall A (P : A -> Prop), Forall P [::].
Goal Forall (fun n => n == 1) [:: 1; 1; 1; 1].
Proof.
apply: Forall_cons.
- done.
- apply: Forall_cons.
+ done.
+ apply: Forall_cons.
* done.
* apply: Forall_cons.
** done.
** apply: Forall_nil.
Qed.
タクティカルの利用して、短く書くことは可能ですが、本質的な操作は変わらないことに注意してください。
Goal Forall (fun n => n == 1) [:: 1; 1; 1; 1].
Proof.
do ! apply: Forall_cons => //=.
Qed.
コード例 その2
Section List_1_2.
次の例は、指定の値と同じ値がリストの中に存在することを示す In です。Starndard Coq の場合は、値とリストをとる述語 In、MathComp の場合は、\in という中置記法の演算子を使います。
Lemma In_inb {A : eqType} (x : A) (s : seq A) : In x s <-> x \in s.
Proof.
elim: s.
- done.
- move=> a s IHs.
split=> /=; rewrite inE.
+ case=> H.
* by apply/orP/or_introl/eqP.
* by apply/orP/or_intror/IHs.
+ move/orP; case.
* move/eqP => ->.
by left.
* move=> H.
move/IHs in H.
by right.
Qed.
Lemma InP {A : eqType} (x : A) (s : seq A) : reflect (In x s) (x \in s).
Proof.
apply: (iffP idP) => H.
- by apply/In_inb.
- by apply/In_inb.
Qed.
End List_1_2.
実行例 その2
Goal In 3 [:: 1; 2; 3; 4].
Proof.
apply/InP.
ここで証明したリフレクション補題 InP を使うと、Goal として: 3 \in [:: 1; 2; 3; 4]
が得られます。これについても、「計算」で真偽を決定することができるので、done で終了します。
done.
Qed.
参考文献
[1.] リフレクションのしくみをつくる
https://qiita.com/suharahiromichi/items/9cd109386278b4a22a63
[2.] 萩原学 アフェルト・レナルド 「Coq/SSReflect/MathCompによる定理証明」 森北出版