(1) 数学的定義
dy/dx = lim_{Δx→0} (y(x+Δx) − y(x)) / Δx
→ 入力がわずかに変化したときの出力の変化率。
(2) AIにおける対応
ニューラルネットの学習では、誤差関数 E(w) を
パラメータ w に対して微分し、最小化方向を求める。
∂E/∂w = 勾配 (gradient)
これが「AIにおける微分」の中心的役割。
モデルはこれを使って自分自身を**修正(learning)**する。
(3) 実装上の対応(バックプロパゲーション)
誤差逆伝播法(Backpropagation)は、チェーンルールによる微分展開:
∂E/∂w = (∂E/∂y) · (∂y/∂x) · (∂x/∂w)
→ ネットワークを構成する全ての演算を**自動微分(automatic differentiation)**で分解。
これがAIの「思考の微分」といえる。
【2】積分の意味(AI視点)
Integration = 累積・学習の蓄積(weight update accumulation)
(1) 数学的定義
y(t) = ∫ f(t) dt
→ 微小変化 f(t) を時間に沿って積み重ねた結果。
(2) AIにおける対応
AIの学習過程では、微分(勾配)を時間軸上で積み重ねる:
w(t+1) = w(t) − η ∂E/∂w
η:学習率(Learning rate)
これは積分形式で表せる:
w(t) = w(0) − ∫ η (∂E/∂w) dt
つまり、AIの学習とは「誤差の勾配を時間積分して重みを更新する」こと。
積分=経験の蓄積(learning over time)。
(3) RNN・LSTMにおける積分的構造
リカレントネット(RNN)は、過去の状態を逐次的に加算・保持する:
h_t = f(Wx_t + Uh_{t−1})
これは離散積分方程式に等価:
h(t) = ∫ f(x(τ), h(τ)) dτ (連続極限)
→ LSTMの「セル状態 C_t」は実質的に**積分器(integrator)**であり、
情報を“忘れずに蓄積”する構造。
【3】微分・積分のAI的対応表
| 数学的概念 | AIでの対応 | 物理的意味 | 数式的形態 |
|---|---|---|---|
| 微分 (d/dx) | 勾配計算 (∂E/∂w) | 変化・方向性 | ΔE/Δw |
| 積分 (∫dx) | 学習の累積 (ΣΔw) | 経験の蓄積 | w(t)=w(0)−∫η∂E/∂w dt |
| 2階微分 | 曲率 (Hessian) | 最適化の安定性 | H = ∂²E/∂w² |
| 数値積分 | 重みの履歴更新 | 時間発展 | w_{t+1}=w_t−η∇E_t |
| 積分方程式 | RNN・LSTM状態更新 | 記憶保持 | h_t=f(Wx_t+Uh_{t−1}) |
【4】連続時間モデル(連続ニューラルODE)
深層学習の発展では、「微分方程式としてのネットワーク」も登場する:
dx/dt = f(x, t, θ)
→ これは Neural ODE (Neural Ordinary Differential Equation) モデル。
学習とはこの微分方程式を時間積分して解く過程である。
解の形:
x(t1) = x(t0) + ∫_{t0}^{t1} f(x(t), t, θ) dt
ここでの積分は数値積分(Runge–Kutta法など)として実装される。
AIが「連続的に思考・推論する」モデルといえる。
【5】AI流「微分と積分」の統一式
AIの内部では、
微分=変化の発見、積分=変化の累積として動作している:
微分: ∂E/∂w → 変化の方向を見つける
積分: w(t+1) = w(t) − η ∂E/∂w → 変化を積み重ねる
これを時間連続に書けば:
dw/dt = −η ∂E/∂w (学習微分方程式)
w(t) = w(0) − ∫ η (∂E/∂w) dt
【6】サンプリング・z⁻¹との関係
AIの学習ステップ n は、離散時間系のサンプリング点に等しい:
w[n+1] = w[n] − η ∂E/∂w[n]
Z領域では:
W(z)(1 − z⁻¹) = −η ∂E/∂W(z)
すなわち:
(1 − z⁻¹)/η ⇔ d/dt(学習微分)
Tₛ/(1 − z⁻¹) ⇔ ∫dt(経験積分)
AIの重み更新はまさに離散時間の微分積分演算そのものである。
【7】まとめ / Summary
| 概念 | 数学的式 | AI的解釈 |
|---|---|---|
| 微分 | dy/dx | 誤差Eの勾配(変化の方向) |
| 積分 | ∫ f(t)dt | 学習・記憶・経験の蓄積 |
| 定積分 | Σ_{t=0}^n f[t]Δt | 学習履歴の総和(経験値) |
| z⁻¹ | 時間遅延 | 前ステップの重み記憶 |
| Neural ODE | dx/dt=f(x,t,θ) | AIを連続時間モデルで表現 |
✅ 結論
AIにおける「微分」と「積分」は、
単なる数値演算ではなく、
知識の変化と蓄積の動的過程を数学的に表現したもの。
すなわち:
微分 = 知識を更新する感度
積分 = 知識を蓄積する記憶
ニューラルネットの学習とは、
世界の変化を微分で捉え、積分で学ぶシステムそのものである。