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【初心者向け】Google CloudでAIサービスを開発・公開する流れを検討してみた

Last updated at Posted at 2025-10-19

【初心者向け】Google CloudでAIサービスを開発・公開する流れを検討してみた

対象読者

  • これからGoogle CloudでAIを使ったサービス開発を始めたいと考えている方
  • AIモデルの開発からサービス公開までの全体像と、各工程でのサービス選択基準を知りたい方
  • Vertex AI, Cloud Run, GKE, Compute EngineのAI用途での使い分けを理解したい方

TL_DR

  • Google CloudでのAI開発は「① 開発・実験」「② 学習」「③ 推論(サービス提供)」のフェーズに分けられる。
  • 開発フェーズでは、連携性と手軽さから Vertex AI Workbench が第一候補となる。
  • 推論(ホスティング)フェーズが最も選択肢が多く、運用負荷・コスト・柔軟性のバランスでサービスを選ぶ。
  • 迷ったら、まずは Vertex AI を中心に検討するのが最も効率的でモダンな進め方です。

はじめに:なぜGoogle CloudでAIを開発するのか?

AIモデルを開発してサービスに組み込むまでには、単にモデルのコードを書くだけでなく、データの準備、大規模な学習、完成したモデルのAPIとしての公開、そして継続的な運用といった、多くの工程が必要です。

これらの工程を効率的に、そして安定して実行するための考え方や仕組みをMLOps(Machine Learning Operations)と呼びます。

Google Cloudは、このMLOpsを実現するための統合プラットフォームとして「Vertex AI」を提供しています。

Vertex AI は、ML モデルと AI アプリケーションのトレーニングとデプロイを高速化するための Google Cloud の統合プラットフォームです。

この記事では、Vertex AIを中心とした各種サービスをどのように使い分け、アイデアから実際のサービス公開までを実現していくのか、その全体像をステップバイステップで解説します。

第1章:開発・実験フェーズ - アイデアを形にする

目的: データを探索し、モデルの試作品をインタラクティブに開発・実験する。

すべてのAI開発は、データを理解し、小さなモデルで試行錯誤を繰り返すことから始まります。このフェーズでは、Jupyter Notebookのような対話的な環境が中心となります。


第1章:開発・実験フェーズ - アイデアを形にするための環境選び

AI開発の第一歩は、データを理解し、試行錯誤するためのインタラクティブな環境を準備することです。Google Cloudでは主に3つの選択肢があります。

サービス 基盤 セットアップ 運用負荷 おすすめの要件
Vertex AI Workbench マネージド 非常に容易 Google Cloudサービスと密に連携した開発を行いたい(第一推奨)
Colaboratory Enterprise マネージド 容易 既存のColab資産を活かしたい、ColabのUIに慣れている
Compute Engine VM (IaaS) 手動 OSレベルでのカスタマイズや、コンテナ化できない特殊なライブラリが必要

1-1. Google Cloudネイティブな選択肢:Vertex AI Workbench

Vertex AI Workbench は、データ サイエンティストと機械学習デベロッパーが、データ分析、データ探索、プロトタイピング、モデル トレーニング、モデル デプロイのプロジェクト全体を共同作業できるように設計された、Jupyter ベースの単一開発環境です。

利点:

  • 連携性: Cloud StorageやBigQueryといったデータソースへのアクセスが、追加の認証設定なしでシームレスに行えます。
  • 手軽さ: 数クリックでGPU付きの最新環境が起動します。
  • 統合: Vertex AIの他の機能(学習ジョブの投入、モデルの登録など)をノートブックから直接呼び出せます。

選択すべきケース:
Google CloudでAI開発を始めるほとんどのケースで、Vertex AI Workbenchが最初の選択肢となります。

1-2. 自由度の高いVM環境:Compute Engine

Compute Engine は、Google のインフラストラクチャで仮想マシンを作成して実行できる、安全でカスタマイズ可能なコンピューティング サービスです。

利点:

  • 最大限の柔軟性: OSの選択からカーネル設定、ドライバのインストールまで、すべてを完全にコントロールできます。

選択すべきケース:
コンテナ技術が利用できず、OSレベルからの環境構築が必須となる特殊な要件がある場合の最終手段です。サービス開発というよりは、一時的な研究・実験環境としての利用が主となります。運用・セキュリティ管理の負荷が非常に高い点に注意が必要です。


第2章:学習フェーズ - Vertex AI Trainingという強力な選択肢

目的: 開発・実験フェーズで作成したコードを使い、大規模なデータセットで本格的なモデル学習を行う。

ノートブックでの実験が成功したら、次は大量のデータを使って、高性能なGPUマシンで数時間〜数日間かかるような本格的な学習を実行します。このとき、自分のPCやノートブック環境を動かし続けるのは現実的ではありません。そこで、学習処理を専門のサービスに任せます。

サービス 用途と特徴
Vertex AI Training (推奨) 学習コードをコンテナ化して実行するフルマネージドなサービス。分散学習やハイパーパラメータチューニングといった高度な機能を簡単に利用できます。学習が完了するとリソースは自動で停止するため、コスト効率に優れています。
Artifact Registry 学習や推論で使うDockerコンテナイメージを保存・管理するプライベートリポジトリです。
Vertex AI Model Registry 学習済みのモデルを一元管理する場所。モデルのバージョン管理や、どのデータセットで学習したかといった情報の記録が可能です。

ノートブックでの実験が終わったら、大規模データでの本格的な学習に移ります。このフェーズでは、Vertex AI Training を使うのがほぼ全てのケースで最適解となります。

Compute EngineのVM上で自力で学習スクリプトを長時間実行することも可能ですが、Vertex AI Trainingにはそれを上回る以下の利点があります。

  • サーバーレス: 学習の開始時にリソースが確保され、終了時に自動で解放されるため、コストの無駄がありません。VMを立てっぱなしにする必要がありません。
  • スケーラビリティ: 複数台のマシンを使った分散学習の設定が容易です。
  • MLOps機能: ハイパーパラメータの自動チューニングなど、モデルの性能を効率的に引き出すための機能が組み込まれています。

第3章:推論フェーズ - 最適なホスティング方法の選び方

学習済みモデルをサービスとして公開する「推論フェーズ」は、最も多くの選択肢があり、要件に応じて慎重に選ぶ必要があります。

3-1. サービス選択の判断基準

選択の際には、以下の4つの軸で比較検討します。

  1. 運用負荷: インフラの管理にどれだけ手間をかけたくないか?(マネージド vs セルフマネージド)
  2. 柔軟性: 推論の前後にカスタム処理が必要か?複雑なシステムの一部か?
  3. コスト: リクエストが無い時もコストを許容できるか?(常時起動 vs サーバーレス)
  4. スケーラビリティ: アクセス数の増減にどれだけ自動で追従してほしいか?

3-2. ホスティングサービス徹底比較

サービス 前提技術 主な用途 運用負荷 スケーラビリティ コスト特性 こんな要件に最適
Vertex AI Endpoint コンテナ (フルマネージド) 学習済みモデルのホスティング ◎ 自動 常時起動 【推奨】 とにかく簡単かつ迅速にAIモデルをAPI化したい。MLOps機能(A/Bテスト等)を活用したい。
Cloud Run コンテナ (サーバーレス) カスタム処理を含む推論API ◎ 自動 (ゼロスケール可) リクエスト課金 推論の前後にデータ変換等のロジックが必要。リクエストが散発的で、コストを極限まで抑えたい。
GKE コンテナ (セルフマネージド) 複雑なマイクロサービス ◎ 高度な制御 柔軟 (ノードは常時起動) 既存のKubernetes基盤上で、AI機能を他のサービスと連携させたい。複雑な推論パイプラインを構築したい。
Compute Engine VM (IaaS) コンテナ化不可なモデル 非常に高い × 手動 常時起動 レガシーなシステムや特殊なドライバが必要で、コンテナ化がどうしても不可能な場合の最終手段。

3-3. ユースケース別 詳細解説

ケース1:学習済みモデルをとにかく早くAPI化したい → Vertex AI Endpoint

予測を取得するには、トレーニング済みのモデルを Vertex AI エンドポイントにデプロイします。

最もシンプルで推奨される方法です。Vertex AI Model Registryに登録したモデルを選択し、マシンタイプ(CPU/GPU)と台数を指定するだけで、すぐにAPIエンドポイントが作成されます。

  • 利点: AIモデルのデプロイに特化しているため、インフラの知識はほぼ不要です。トラフィック監視、自動スケーリング、モデルのバージョン管理といったMLOpsに必要な機能が標準で提供されます。
  • 考慮点: マシンを常時起動させておくため、リクエストが全くない時間帯もコストが発生します。

ケース2:推論ロジックをカスタマイズしつつ、コストも抑えたい → Cloud Run

Cloud Run は、コンテナ化されたアプリケーションをサーバーレス環境で実行できるマネージド コンピューティング プラットフォームです。

推論の前処理(画像のリサイズ)や後処理(結果の整形)などをPythonコード(例: FastAPI, Flask)で自由に実装し、モデルと一緒にコンテナ化してデプロイします。

  • 利点: リクエストがないときはコンテナが0台になるゼロスケールが最大の特徴で、コスト効率に優れます。Webアプリケーション開発のフレームワークがそのまま使えます。
  • 考慮点: 大規模なGANモデルなど、コンテナの起動に時間がかかる場合、最初のリクエストへの応答が遅くなる「コールドスタート」問題が発生する可能性があります。

ケース3:大規模システムの一部としてAI機能を組み込みたい → Google Kubernetes Engine (GKE)

GKE は、コンテナ化されたアプリケーションのデプロイと管理に使用できる、本番環境に対応したマネージド環境を提供します。

すでにGKEでマイクロサービスアーキテクチャを構築している場合、その中にAI推論サービスを一つのコンポーネントとして追加するアプローチです。

  • 利点: 既存のCI/CDパイプラインやモニタリング、サービスメッシュといった仕組みをそのまま活用できます。GPUノードプールを利用して、推論ワークロードに最適化されたリソース管理が可能です。
  • 考慮点: Kubernetes自体の学習・運用コストが高く、専門的な知識が要求されます。

第4章:全体を繋ぐMLOpsパイプライン - Vertex AI Pipelines

目的: これまでの全工程を自動化し、継続的かつ安定的にモデルを改善・デプロイする仕組みを構築する。

ここまでの各フェーズを手動で実行するのは大変ですし、ミスも発生しやすくなります。そこで、一連のワークフローをコードとして定義し、自動実行させるのがMLOpsのゴールです。

Vertex AI Pipelines は、サーバーレス方式で ML ワークフローをオーケストレーションすることで、ML システムのデプロイとスケーリングを支援します。

サービス 用途と特徴
Vertex AI Pipelines 「データ準備 → 学習 → 評価 → デプロイ」といった一連のMLワークフローをコードで定義し、実行・管理するサービス。これにより、誰が実行しても同じ手順が再現でき、新しいデータが追加されたのをトリガーに自動で再学習・デプロイする、といった高度な自動化が可能になります。
Eventarc Google Cloud内の様々なイベント(例: Cloud Storageへのファイル作成)を検知して、他のサービス(Cloud RunやVertex AI Pipelinesなど)を起動させるためのトリガーサービスです。

まとめ - 最初のステップとしての推奨構成

Google CloudでAIサービスを開発・公開する流れと、各フェーズでのサービス選択について解説しました。選択肢は多いですが、以下の構成から始めるのが最も効率的です。

  • 開発・実験: Vertex AI Workbench
    • 理由: Google Cloudの各サービスとシームレスに連携でき、手軽に始められるため。
  • 学習: Vertex AI Training
    • 理由: サーバーレスでコスト効率が良く、分散学習などの機能も簡単に利用できるため。
  • 推論・ホスティング: Vertex AI Endpoint
    • 理由: 最も簡単・迅速にモデルをAPI化でき、MLOpsの基本機能が揃っているため。

この 「Vertex AI中心構成」 を基本とし、要件が高度化するにつれてCloud RunやGKEの利用を検討していくのが、成功への着実なステップになります。


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