記事の内容が抽象的な概念要素が多いので、別日になりますがより掘り下げた内容にして解説記事を別途出します。
発端
Qiitaでネットマーケティングを検索する人が何人いるか分からないけど、将来の方に役立つことを願って書き残します。
はじめに:これまでの学習スタイルを振り返る
- エンジニア職・非エンジニア職へのIT系技術指導だけでなく、エンジニア職または非エンジニア職に非IT系での登壇機会が増えました。その中でも最近、私的にホットなネットマーケティング検定を例に扱います
- 本稿の目的は生成AIを使用して作問する・学習することの一つのプラクティス解説によります
ネットマーケティング検定に限らず、サーティファイの試験はテキストの内容を覚えるスタイルが主流でした。主な出題傾向として多いのがAIDMAやAISAS、4P理論、CGMといった用語が丁寧に整理されており、試験対策として非常に有用でした。
(この辺りの情報は無料セミナーで多く出てくるもので、探せば数少ないですが見つかります)
引用元の合格体験記では、こんな学習プロセスが紹介されています。
- 公式テキストを1週間かけて通読
- 問題集を3回繰り返し実施
- 間違えた箇所をネットで調べてスクショ保存
- 試験前に何度も復習
このアプローチは非常に効率的で、多くの合格者を輩出してきた事でしょう。
従来型学習の課題(CGMとUGCを例に解説)
しかし、用語を暗記することと、その概念を実務で使えるレベルで理解することの間には、大きな隔たりがあります。
「CGMとは Consumer Generated Media の略」と覚えても、実際のサービス設計でSNSとCGMをどう使い分けるべきかは見えてきません。少なくとも、ネットマーケティング検定レベルの内容(またはテキスト)では実務を想定した内容になっていないな、と感じる事が多くあります。
エンジニアがマーケティング用語を押さえるために勉強する価値はあるな、と思っているので検定受験を目的にしない学習用途としては悪くないのですが、初級すぎて次につながらない。
そして、マーケティング系に限った話ではないのですが、初級編から中級編へのステップアップのハードルが高すぎる気がします。
いや「初級から中級へのハードルが高い」というのは正しくなく、初級の内容がどのように実務に結びついてくるのか、のイメージが難しいのです。
教える側の変化:作問意図を明示する重要性
従来の作問スタイルの課題:「CGMとは何か?」問題を例に
かつての選択式問題は、こんな形式が多くありました。
問:CGMとは何か?
1. Consumer Generated Media
2. Customer Generated Marketing
3. Content Generation Method
4. Corporate Growth Management
この問題は、略語の正式名称を知っているかを確認するものです。正解は1番ですが、これを正解できたからといって、実務でCGMを適切に活用できるわけではありません。
これは問題が悪いという事ではなく、学習提供の現場としてこのレベルの内容を教えるのも大変だったということです。
また、作問する講師の負荷も高いため、必然的に作りやすい問題を量産するという負のループに陥ってしまっていたという問題でもあります。
では、この問題をどう改善できるでしょうか。作問者としての思考プロセスを追ってみましょう。
ステップ1:問題の本質を見極める
まず考えるべきは、「CGMについて、学習者に何を理解してほしいのか」という点です。略語を覚えてほしいのでしょうか。それとも、もっと本質的な理解を求めているのでしょうか。
実務でCGMが話題になるのは、こんな場面です。「新商品のプロモーションで、CGMを活用したいんだけど」「ユーザーの口コミを増やすために、CGM戦略を考えよう」といった会議です。このとき必要なのは、略語の知識ではなく、「CGMとは何を指すのか」「どんなサービスがCGMなのか」という概念の理解です。
ステップ2:よくある誤解を特定する
次に考えるのは、「学習者はどこで躓くのか」という点です。
【マーケティング用語を知らない方向け要約 兼 躓きポイント解説】
- CGM: ユーザーが発信した情報を集約するもの。『消費者』生成メディア
- 覚え方として 「UGC->CGMに蓄積」 を推奨
- SNSはCGMの側面を持つことが多い
- ここでは「ECサイトなどユーザーの口コミページがあるサイトはUGCを活用しているが消費者生成情報が主体ではないためCGMとは定義しない」とする
- 個人ブログ自体はCGM。ただし個人ユーザーがオリジナルで作成したコンテンツ情報を発信する媒体とした場合は「消費者の意見」という観点から外れるため限りなくグレーである
- UGC: ユーザーが発信した情報そのもの。ユーザー生成『コンテンツ』
- たとえば口コミ
- SNSでの発信はもちろん、ブログなど独自サイトで発信されたコンテンツ自体もUGC
※UGCにしてもCGMにしても、その情報自体が第三者から発信されているひいき目のない信頼できる情報かどうか?がポイントである。
これを踏まえて、CGMに関してよくある誤解は、以下のようなものです。
- TwitterやInstagramのような「SNS」そのものをCGMだと思っている
- 想定する例外の排除
- ユーザーが投稿した「コンテンツ」をCGMだと思っている
- UGCとCGMの「C」が同じものだと勘違いしているケース
- 企業が運営する「公式アカウント」をCGMだと思っている
- トリプルメディア(オウンドメディア・アーンドメディアの学習前後によくある)など類似問題との混同
これらの誤解の根本には、「コンテンツそのもの」と「コンテンツ=ここでは消費者情報を集めるプラットフォーム」の区別がついていない、という問題があります。Twitter上の投稿はUGC(User Generated Content)であり、それを集約して配信するTwitterというプラットフォームがCGMです。このレイヤーの違いを理解することが、実務での正しい判断につながります。
ステップ3:本質的な理解を問う問題に再設計する
ここまで考えると、問題の設計方針が見えてきます。同じ「CGMとは何か?」という問いでも、選択肢を変えることで、本質的な理解を問う問題にできます。
略語の正式名称を問うのではなく、「CGMが何を指すのか」「どんな誤解が多いのか」を踏まえた選択肢にすることで、受講生の概念理解を確認できます。
こうして再設計したのが、次の問題です。
問:CGMとは何か?
1. TwitterやInstagramなど、ユーザーが自主的に作成したコンテンツそのもの
2. YouTubeや食べログのように、ユーザー生成コンテンツを集約して配信するメディア
3. 企業が運営する公式SNSアカウントやオウンドメディア
4. 企業が作成した広告コンテンツを配信するプラットフォーム
正解は2番です。この問題では、従来のやり方のような略語を知っているかではなく、概念の本質的な違いを理解しているかを問うています。
この問題の作成過程は、学習が浅かった講師に対して再学習を促す事になり、結果的に講師自身の学びの質にも寄与することになります。
ステップ4:選択肢の設計意図を明確にする
各選択肢には、それぞれ意図がありますが、本題ではないため参考情報として閲覧してください。
【クリック・タップで開閉】問題解説
選択肢1は、「プラットフォームとコンテンツを取り違えている」という典型的な誤解です。TwitterやInstagramというプラットフォームはCGMですが、その上で投稿されるツイートや写真といったコンテンツはUGC(User Generated Content)です。「ユーザーが作成したもの」という点に引っ張られて、コンテンツそのものをCGMだと誤解する受講生が多くいます。この選択肢では「投稿コンテンツそのもの」という表現で、プラットフォームではなくコンテンツを指していることを明確にしています。
選択肢3は、「消費者発信」と「企業発信」を取り違えている誤解です。CGMのCはConsumer(消費者)であり、企業が運営する公式アカウントやオウンドメディアは含まれません。「メディア」という言葉から、企業の公式チャネルもCGMだと考えてしまう誤解パターンです。
選択肢4は、選択肢3と似ていますが、さらに「広告コンテンツ」という要素を加えています。CGMは消費者が自主的に生成したコンテンツを扱うメディアであり、企業の広告を配信するプラットフォームとは根本的に異なります。この選択肢は、「広告配信プラットフォーム」とCGMを混同する誤解を表しています。
このように、よくある誤解パターンを選択肢に組み込むことで、受講生は自分の理解の穴に気づくことができます。単に正解を選ぶだけでなく、「なぜ他の選択肢が間違っているのか」を考えることで、概念の輪郭がくっきりと見えてくるのです。
さらに、前提条件を明示したことで、もう一つの教育的効果が生まれます。受講生は「なぜこの前提条件が必要だったのか」を考えることで、概念の境界が曖昧な領域があることを学びます。実務では、完璧に定義された用語ばかりではありません。状況に応じて「この文脈では○○をこう定義する」と前提を共有することの重要性も、この問題から学べるのです。
作問プロセスのまとめ
「CGMとは何か?」という問題の再設計プロセスは、以下のように整理できます。
- 問題の本質を見極める:略語ではなく、概念の理解を問うべき
- よくある誤解を特定する:プラットフォームとコンテンツの混同
- 誤解を選択肢に組み込む:正解だけでなく、間違いからも学べる設計
- 実務での判断力を養う:この区別ができないと、戦略立案で躓く
このプロセスは、生成AIとの対話を通じて効率的に進めることができます。「CGMについて、よくある誤解は何ですか?」「その誤解を選択肢にするなら、どう表現すべきですか?」と問いかけることで、質の高い問題を短時間で作成できます。
生成AIによる作問プロセス
このような問題を作る際、私は生成AIとこんな対話をします。
講師:「CGMとUGCの違いを問う問題を作りたい。よくある混同パターンを選択肢に入れてほしい」
AI:「混同パターンとしては、プラットフォームとコンテンツの取り違え、企業発信と消費者発信の取り違えが考えられます。こういった選択肢はいかがでしょうか」
このように、単に問題を生成するだけでなく、「どういう誤解を想定するか」という作問意図を共有しながら進めることで、質の高い問題が作れます。
講義設計の変化:生成AI時代の教える側・学ぶ側の役割
AIを盲目的に信じて、全員がAIを使える前提で講義を行うことは、AIを活用できない学生・受講生との格差をより助長してしまうため、講師の責務までAIに丸投げしてはいけません。
各講師から学生・受講生へ適切なAIの利活用推進と案内が必須です。
問題の質向上がもたらした新しい課題
ここまで見てきたように、問題の質を上げることで学習の本質に迫ることができます。「CGMとは何か」という略語を問う問題から、「CGMとUGCの違いを理解しているか」を問う問題への転換は、受講生に本質的な思考を促します。
しかし、この転換は新たな課題を生み出しました。従来の暗記型学習なら、テキストを読んで用語を覚えれば済みました。しかし概念の本質を理解し、実務での判断力を養うためには、より深い思考が必要です。受講生の認知負荷は確実に増えています。
講師としては、一人ひとりの理解度を確認し、躓いているポイントに個別対応したいところです。しかし現実には、講義時間も準備時間も有限です。30人のクラスで、一人あたり5分ずつ個別指導をすれば、それだけで2時間半が必要になります。これは現実的ではありません。
ここで生成AIの活用が考えられます。AIなら同時に30人全員に個別対応できます。各受講生が自分の躓きポイントについてAIと対話すれば、講師の負担なく理解を深められるはずです。
しかし、ここに大きな落とし穴があります。
現実の壁:受講生はAIの出力を理解できない
理想を語れば、受講生は生成AIと自由に対話し、段階的に理解を深めていくべきです。しかし現実は違います。多くの受講生は、年齢に関わらず、生成AIが返してくる長文の解説を読むことができません。あるいは読んでも、その説明自体を理解できません。
例えば、受講生が「CGMとUGCの違いがわかりません」と生成AIに質問したとします。すると生成AIは、このような解説を返すかもしれません。
「CGMとUGCは、レイヤーが異なる概念です。UGCはUser Generated Contentの略で、ユーザーが作成したコンテンツそのものを指します。例えばTwitter上の個々のツイート、Instagramの投稿写真、YouTubeの動画などです。一方、CGMはConsumer Generated Mediaの略で、そうしたUGCを集約し配信するプラットフォームを指します。TwitterというサービスがCGM、その上で投稿されるツイートがUGCという関係です。この区別は実務で重要で、例えばマーケティング施策を立案する際、CGMを選ぶ判断とUGCを増やす施策は異なるアプローチになります...」
この説明は論理的で正確ですが、多くの受講生にとっては「読めない壁」となります。「レイヤーが異なる」「集約」「プラットフォーム」といった抽象的な用語が、次々と登場します。構造化された思考に慣れていない受講生は、最初の数行で読むのをやめてしまいます。
これは中学生だけの問題ではありません。大学生も社会人も、システムやAIとの対話能力という点では、それほど大きな差はないのです。ただし、若年層の方が吸収力はあります。一度理解すれば、その知識を次に活かす力は若い世代の方が高い傾向にあります。しかし、最初の理解のハードルは、年齢に関わらず高いのです。
つまり、講師がどれだけ頑張って講義品質を高めても、受講生の理解度に直結しなければよい講義にならないという事です。
受講生の理解レベルに合わせて講義設計を嚙み砕いたり、講義難度に順応できるように指導方法を変える必要があります。
解決策:受講生用AIのチューニングが必須
この問題を解決するには、受講生が「そのまま使える」状態に生成AIをチューニングすることが不可欠です。これはプロンプトエンジニアリング、さらにはファインチューニングによって実現します。
プロンプトエンジニアリングとは、AIへの指示の仕方を工夫することで、望ましい応答を引き出す技術です。例えば、先ほどの「CGMとUGCの違いがわかりません」という質問に対して、長文の説明を返すのではなく、こんな応答をするようにAIを設定できます。
「わかりました。一緒に考えていきましょう。まず質問です。あなたがTwitterに投稿したツイートは、何と呼ばれると思いますか? CGMですか、それともUGCですか?」
このように、小刻みな問いかけによって受講生自身に気づかせていく方式なら、構造化思考ができなくても、一つひとつの問いに答えることで理解が形成されていきます。
さらに、講師の講義スタイルに合わせたチューニングも重要です。ある講師は板書で図を多用するかもしれません。別の講師は実務の事例を豊富に語るかもしれません。AIが「あなたが授業で見た図を思い出してください」と言及したり、「先生が話していた○○という企業の事例では」と講義内容を踏まえた応答をしたりすることで、受講生は自分の学習文脈の中でAIの回答を理解できるようになります。
教える側のポイント:学習環境を設計する責任
生成AI時代の講師には、新しい役割が加わりました。それは、受講生が生成AIを使える環境を整備する責任です。「AIを使って自分で勉強してね」と丸投げするのではなく、どう使えば効果的なのか、その環境設計まで含めて講師の仕事になったのです。
具体的には、まず「質問テンプレート」を用意します。受講生の多くは、何をどう質問すればいいのかわかりません。そこで、こんなテンプレートを提供します。
「私は問題○番で選択肢△を選びましたが、正解は□でした。私の選んだ選択肢のどこが間違っているか、簡単な言葉で段階的に教えてください」
このテンプレートをコピーして、○△□の部分だけを書き換えれば、受講生は適切な質問ができます。質問の仕方がわからないという最初のハードルを、このテンプレートが取り除いてくれるのです。
次に、AIの応答スタイルを設定します。これはプロンプトエンジニアリングやファインチューニングによって実現します。例えば、こんな指示をAIに与えます。
「あなたはネットマーケティング検定の学習を支援するAIです。受講生から質問を受けたら、長文の説明ではなく、小刻みな問いかけによって受講生自身に気づかせる方式で応答してください。一度に与える情報は2〜3文以内にとどめ、受講生が答えやすいYes/No形式、または選択形式の質問を使ってください。講義で使われた板書や事例を参照する場合は、『授業で見た図を思い出してください』『先生が話していた事例では』といった表現を使ってください」
このような指示によって、AIの応答は劇的に変わります。先ほどの長文解説ではなく、受講生が一歩ずつ進める形になるのです。
さらに講師は、講義中にAI活用の時間を組み込みます。問題を解いた後、5分から10分程度、各自がスマートフォンやPCで生成AIと対話する時間を設けます。この間、講師は教室を回りながら、対話が詰まっている受講生をサポートします。「良い質問ができているね」「ここまで理解できたなら、次はこう聞いてみたら」といった声かけです。
また、講師自身の準備時間も、生成AIによって削減できます。問題の質を上げると、通常は解説資料の作成負荷も上がります。しかし生成AIを活用すれば、作問意図を明確にした上で「この問題について、よくある誤解パターンを3つ挙げて、それぞれに対する段階的な解説を作ってください」と依頼することで、補助教材を短時間で作成できます。生成された解説を確認し、必要に応じて講義スタイルに合わせて微調整するだけで、質の高い教材が完成します。
教わる側のポイント:自分専用のプロンプトを育てる
一方、受講生側にも新しい役割があります。それは、講師が用意した枠組みの中で、自分に合ったプロンプトを徐々に身につけていくことです。
最初は講師が提供したテンプレートをそのまま使います。「私は問題3番で選択肢2を選びましたが、正解は3でした。私の選んだ選択肢のどこが間違っているか、簡単な言葉で段階的に教えてください」といった形です。
しかし講義を重ねるうちに、受講生は自分なりの工夫を加えるようになります。ある受講生は、「図で説明してください」と付け加えた方が理解しやすいことに気づくかもしれません。別の受講生は、「先生が授業で話していた企業の事例と関連付けて説明してください」という表現を追加することで、より腑に落ちる説明が得られることを発見するかもしれません。
これは、講師の講義スタイルと受講生の学習スタイルを、生成AIが媒介する関係です。同じネットマーケティング検定の内容でも、ある講師は実務事例を多用し、別の講師は理論の体系性を重視するかもしれません。ある講師は図解を好み、別の講師は言葉での説明を重視するかもしれません。受講生は自分が受けている講義のスタイルに合わせて、AIへの問いかけ方を調整していきます。
例えば、実務事例を多用する講師の講義を受けている受講生なら、こんなプロンプトを育てていくかもしれません。
「私は問題5番で選択肢1を選びましたが、正解は4でした。先生が授業で話していた楽天の事例のように、実際の企業ではどう判断しているのか教えてください。そして、私の選んだ選択肢がなぜ間違っているのか、その企業の判断と比較して説明してください」
このプロンプトは、講師が提供した基本テンプレートから進化しています。「実際の企業では」「比較して説明」といった表現を追加することで、受講生は自分の理解スタイルに合った回答を引き出せるようになります。
重要なのは、このプロンプトの進化が、受講生の学習の深まりと連動していることです。最初はテンプレートをコピーするだけだった受講生が、講義を重ねるうちに「こう聞けば理解しやすい」「この講義スタイルにはこの聞き方が合う」という気づきを得ていきます。これは、受講生が自分自身の学習プロセスを意識化し、最適化していく過程でもあります。
両者の相互作用:継続的な改善サイクル
ここで重要なのは、教える側と教わる側の関係が、一方向ではなく相互作用だということです。
学生がその授業・講義を受ける理由を講師は明確に提示し続け、マインドセットを促す事で学習効果を促進できます。
講師は受講生のAI活用状況を観察することで、新たな気づきを得ます。多くの受講生が同じ概念で躓いているなら、次回の講義でその部分を重点的に扱うべきです。特定の質問テンプレートが効果的なら、それを他の受講生にも共有できます。受講生がどんなプロンプトの工夫をしているかを見れば、自分の講義スタイルがどう受け取られているかもわかります。
例えば、多くの受講生が「図で説明してください」というフレーズを追加していることに気づいたら、講師は「自分の講義では視覚的な情報が不足しているのかもしれない」と振り返ることができます。逆に、「実務事例と関連付けて」という表現が頻繁に使われているなら、「事例の豊富さが受講生に響いているのだな」と確認できます。
受講生側も、他の受講生のプロンプトから学ぶことができます。講師が「こんな聞き方をしている人がいて、良い結果が出ているよ」と共有すれば、それを自分の学習にも取り入れられます。あるいは、グループワークの時間に「どんなプロンプトを使っている?」と情報交換することで、学習効果を高め合うこともできます。
このサイクルは、従来の講義では不可能だった、きめ細かな個別最適化を実現します。講師の準備時間は有限ですが、一度チューニングしたAIは同時に何十人もの受講生に対応できます。そして、その対応から得られる受講生の反応は、次の講義の改善につながります。受講生が育てたプロンプトは、自分の学習スタイルの最適化だけでなく、講師へのフィードバックにもなるのです。
こうして、生成AI時代の講義は、講師と受講生が協力して学習環境を育てていく、双方向のプロセスになりました。講師は環境を設計し、受講生はその中で自分のスタイルを見つけ、そのフィードバックが講義をさらに改善していく。この継続的な改善サイクルこそが、AI時代の学習スタイルの本質ではないでしょうか。
とはいえ、AIをチート行為のために使う動きは一定数想定しておくべきです。プロンプトインジェクションについて学生に指導し、また自身もプロンプトインジェクションに備えてファインチューニングをしたり、場合によっては学習モデル自体を構築する必要があるかもしれません。
実例:問題で見る作問意図と対話的学習
【クリック・タップで開閉】元記事リスペクトとしてマーケティング問題にしました。これは知識があった方が意図を理解しやすいです。
それでは、実際の問題を使って、教える側の意図と学ぶ側の理解深化プロセスを見ていきましょう。
例題1:4P理論の本質的理解
問題:4P理論として適切ではない組み合わせはどれか?
- Product: ブランドポジショニング戦略
- Place: サプライチェーン最適化戦略
- Price: バンドル戦略
- Promotion: マルチチャネル統合戦略
正答:4
作問意図
この問題で理解してほしいのは、4P理論の各要素が実務でどう区別されるかという点です。多くの初学者は、「マルチチャネル」という言葉から「複数の販促チャネルを使う」と考えてPromotionに分類しがちです。
しかし、マルチチャネル統合戦略は、実店舗・ECサイト・モバイルアプリなど、複数の「販売チャネル」を統合する話なので、Place(流通)の領域です。Promotionは「広告を出す」「キャンペーンを打つ」といった、顧客に知ってもらう活動を指します。
この混同は実務でもよく起こります。例えば、マーケティング会議で「プロモーション予算」という言葉が出た時、それが広告費なのか流通コストなのかを明確にしないと、議論が噛み合いません。
対話的学習の例
学習者が生成AIとこの問題について対話するなら、こんな展開が考えられます。
学習者:「選択肢4が誤りということですが、マルチチャネルって複数のSNSで広告を出すことじゃないんですか?」
AI:「良い疑問です。『チャネル』という言葉が混乱の元ですね。マーケティングでは、『販売チャネル(Place)』と『コミュニケーションチャネル(Promotion)』という二つの意味で使われます。マルチチャネル統合戦略は前者、つまり店舗・EC・アプリなど、どこで買えるようにするかという流通の話です」
学習者:「なるほど。じゃあ、複数のSNSで広告を出すのは何と呼ぶんですか?」
AI:「それは『マルチメディア戦略』や『クロスチャネルプロモーション』と呼ばれ、Promotionの領域です。この区別ができると、例えば予算配分の会議で『チャネル拡大に1000万円』と聞いた時、それが新店舗開設なのか広告費なのか、正しく理解できるようになります」
例題2:アクセス解析の技術的理解
問題:自社のECサイトにアクセス解析ツールを導入する際、以下の状況に最も適した解析手法の組み合わせはどれか。
状況A:JavaScriptを無効にしているユーザーのアクセスも含めて、すべての訪問者数を正確に把握したい。ただし、ページビューの重複計測(キャッシュからの表示など)は許容できる。
状況B:ユーザーがページ内でどこまでスクロールしたか、どのボタンをクリックしたかなど、詳細な行動データをリアルタイムで取得したい。
- 状況A:サーバーログ型 / 状況B:ビーコン型
- 状況A:ビーコン型 / 状況B:パケットキャプチャ型
- 状況A:パケットキャプチャ型 / 状況B:サーバーログ型
- 状況A:ビーコン型 / 状況B:サーバーログ型
正答:1
作問意図
この問題は、エンジニアにとって身近なアクセス解析の技術的な選択を問うものです。理解してほしいのは、各手法のトレードオフです。
サーバーログ型は、Webサーバーへのアクセス記録を解析するため、JavaScriptの有効・無効に関係なく全訪問者を計測できます。一方で、ユーザーの詳細な行動(スクロール深度、クリック位置など)は取得できません。
ビーコン型は、JavaScriptをページに埋め込んでユーザー行動を追跡するため、詳細なデータが取得できますが、JavaScriptを無効にしているユーザーは計測できません。
実務では、この二つを組み合わせることが多くあります。「全体のトラフィックはサーバーログで把握し、行動分析はビーコン型で深掘りする」といった設計です。
対話的学習の例
エンジニア:「実装を依頼される時、『Google Analyticsを入れてほしい』とだけ言われることが多いんですが、これはビーコン型ですよね?」
AI:「その通りです。Google Analyticsは基本的にビーコン型です。ページにトラッキングコードを埋め込んで、JavaScriptでデータを収集します」
エンジニア:「となると、JavaScriptを無効にしているユーザーのアクセスは計測漏れになりますね。マーケティング部門はそれを理解しているんでしょうか?」
AI:「良い視点です。多くの場合、マーケティング担当者はそのトレードオフを理解していないことがあります。もし全訪問者の正確な計測が重要なら、サーバーログ解析との併用を提案できます。あるいは、『JavaScript無効のユーザーは全体の数%程度なので、詳細な行動分析を優先する』という判断もあります。この提案ができるかどうかが、単なる実装者と技術的な相談相手との違いです」
エンジニア:「なるほど。それなら、要件定義の段階で『何を優先したいか』を確認すべきですね」
AI:「まさにその通りです。『アクセス解析を入れたい』という要望の背景には、『全訪問者数を正確に把握したい』のか『コンバージョンに至るユーザーの行動を詳しく分析したい』のか、異なる目的があります。その目的を理解することで、最適な技術選択ができます」
例題3:ROI計算の実務的理解
問題:ECサイトの売上向上プロジェクトにおける以下の指標設定と戦略のうち、誤っているものを1つ選べ。
- KGI(重要目標達成指標)として「年間売上高3,000万円達成」を設定した
- CSF(重要成功要因)として「カート放棄率を15%削減する」を設定した
- KPI(重要業績評価指標)として「サイト訪問者数を月間1万人増加」「平均客単価を10%向上」を設定した
- プロジェクトに500万円投資し、1年後に追加利益750万円を達成した場合、ROI(投資対効果)は50%である
正答:2
作問意図
この問題で重要なのは、KGI・CSF・KPIという似て非なる概念の違いです。特にCSF(重要成功要因)は、数値目標ではなく「成功のために何に注力すべきか」という戦略的な焦点を示すものです。
「カート放棄率を15%削減する」は測定可能な数値目標なので、KPIに分類されます。CSFの例としては、「決済プロセスの簡素化」「新規顧客の獲得強化」「リピート率の向上」など、注力すべき領域を示す表現になります。
この区別ができないと、プロジェクト計画の段階で「何を測定するか(KPI)」と「どこに力を入れるか(CSF)」が混同し、チーム全体の焦点がぼやけてしまいます。
対話的学習の例
学習者:「CSFとKPIの違いがよくわかりません。どちらも『成功のために大事なこと』ですよね?」
AI:「確かに混同しやすい概念ですね。違いを理解するには、『定性的か定量的か』で考えるとわかりやすいです。CSFは『どの領域に注力するか』という戦略的な方向性、KPIは『それを数値でどう測るか』という測定指標です」
学習者:「具体例で説明してもらえますか?」
AI:「例えば、ECサイトの売上向上プロジェクトで考えてみましょう。
- KGI:年間売上高3,000万円達成(最終ゴール)
- CSF:『決済プロセスの簡素化』『リピート率の向上』(注力すべき領域)
- KPI:『カート放棄率を15%削減』『リピート購入率を20%向上』(測定指標)
CSFで『決済プロセスの簡素化』という戦略を立てたら、それを測るKPIとして『カート放棄率を15%削減』という数値目標を設定します。CSFは『何をするか』、KPIは『それがうまくいっているか測る物差し』という関係です」
学習者:「なるほど!じゃあ、プロジェクト会議で『我々のCSFは何か』と聞かれたら、数値じゃなくて戦略的な方向性を答えるべきなんですね」
AI:「まさにその通りです。この理解があると、会議での議論がぐっと建設的になります」
例題4:消費者行動理論の実践的応用
問題:消費者行動理論として適切なものはどれか?
- AIDMAはAISASの登場により陳腐化したと言える
- 従来のAIDMA/AISASモデルだけでは説明がつかない消費者行動をAIDEESやAISCEAS、SIPS理論のような新興モデルで消費者行動を網羅している
- カスタマージャーニーは心理プロセスを整理する理論
- パルス型は心理段階を整理したモデル
正答:3
作問意図
この問題では、マーケティング理論が「完全な正解を提供するもの」ではなく、「現実を理解するための補助線」であることを理解してほしいと考えています。
AIDMA、AISAS、AIDEESなどは、それぞれ異なる視点から消費者行動を説明する枠組みです。AIDMAが古いからダメ、新しいモデルが出たから全消費者行動を説明できる、というものではありません。状況に応じて適切なモデルを選んで使う、という柔軟性が実務では重要です。
カスタマージャーニーは、顧客が商品を知ってから購入・利用するまでの「旅」を可視化する手法で、各段階での心理や行動を整理するために使われます。
対話的学習の例
学習者:「AIDMAやAISASって、結局どれを覚えればいいんですか?新しいモデルがどんどん出てきて混乱します」
AI:「良い質問ですね。実は『どれか一つが正解』ということはありません。それぞれのモデルは、異なる文脈で役立ちます」
学習者:「というと?」
AI:「例えば、AIDMAは店舗での購買を想定したモデルです。Memory(記憶)の段階があるのは、『店に行くまでの間、商品を覚えていてもらう』ことが重要だからです。
一方、AISASはネット時代の行動を反映しています。Search(検索)とShare(共有)が入っているのは、インターネットの特性を考慮しているからです。
どちらが優れているかではなく、『何を説明したいか』で使い分けます。店舗プロモーションを企画するならAIDMA、SNSキャンペーンを設計するならAISASの方がフィットします」
学習者:「なるほど。理論は『道具』なんですね。状況に応じて使い分ける」
AI:「まさにその通りです。カスタマージャーニーも同じです。これは特定の理論というより、『顧客の体験を時系列で描く手法』です。その描き方にAIDMAを使うこともあれば、AISASを使うこともあります。理論を丸暗記するのではなく、『この状況ならどの枠組みが説明しやすいか』という実践的な視点が大切です」
まとめ:キーワードは対話の起点
本記事では、ネットマーケティング検定の学習を題材に、2025年の学習スタイルを紹介しました。
教える側の変化として、作問意図を明確にすることで、単なる知識確認ではなく本質的な理解を促す問題設計ができるようになりました。生成AIを使えば、「よくある誤解」を選択肢に組み込んだり、実務での応用場面を想定した問題を効率的に作成できます。
学ぶ側の変化として、キーワードを暗記のゴールではなく、対話の起点として使うことで、概念の本質的な理解と実務での応用力が身につきます。「CGMとは何か」を覚えるのではなく、「なぜCGMとUGCを区別する必要があるのか」「実務でどう判断すべきか」を理解することが重要です。
特にエンジニアの方々にとって、マーケティング知識は「別世界の話」ではなく、日々の開発や提案の質を高めるための実用的なスキルです。アクセス解析の実装一つとっても、背景を理解していれば技術的な提案の幅が広がります。
生成AI時代の学習は、一方通行の知識伝達ではなく、対話を通じた理解の深化です。この記事が、皆さんの学習や教育の参考になれば幸いです。