6月11日にグランドプリンスホテル新高輪で行われた、IBMのThink Japan 2018 Code Dayに参加してきましたのでレポートしたいと思います。
当日は台風の影響で朝から雨と風が強く、参加者の出足は鈍かったようで9時半に会場入りした時には、受付はガラガラでスムースに抜けて基調講演会場の入りも1/4程度でしたが、開演10分前にお手洗いに行ったときにはほぼ満席近くに埋まっていました。のちの主催者発表によると二千名の来場者があったそうです。
総評
さてこのイベント、昨年はIBM Watson Summitと銘打って、Cognitive Dressを纏ったモデルのお嬢さんがにこやかに微笑んでいらしたような記憶がありますが、今年はCognitive Dressではなく量子コンピューターが鎮座していました。インスタ映えしないので写真はありません。代わりに昨年のCognitive Dressをご紹介します。あしからずご了承ください。
ちなみにこの日、雨にぬれてもシミが目立たないようにと、黒のポロに黒デニム、足元は黒のコンバースといういでたちで参加したらまるっきりスタッフの衣装とかぶってました。
なんとなく、Microsoftのde:codeを意識しているような気がしますが気のせいでしょう。とは思いつつ、寸前までThink Japan Developers Dayだったものが、会場に来てみたらCode Dayになっていたので意識したのかもしれません。de:code は、LOVE to CODEがスローガンで、こちらはIBM <3 Developersでした。IBM <3 Codeになっていなかったところがポイントかもしれません。
いずれにせよ、IBMもMicrosoftもお互いに開発者へのアピールと支援が命運を握っていると感じていように思います。ところで、開発者への支援といえば、2018年7月15日にDEVRELCONというデベロッパーとのリレーションシップに関するカンファレンス(全編英語)が開催されるそうです。
なんとキーノートにはサンフラン在住でフロントエンド・エンジニアとして活躍され、現在Slackでデベロッパーリレーションを担当されているTomomi Imuraさんが登壇されます。各企業で開発者との交流に悩まれている方はご参加されてはいかがでしょう。波乱万丈な彼女のエンジニア経験に裏付けられたリレーションシップへのアプローチはきっと参考になると思います。
基調講演
午前の基調講演の印象が強すぎて、午後からのセッションが霞んでしまいました。これはセッションを選んだ自分の責任なのですが、一番印象に残り有意義だったのが基調講演というのは初めてで自分でも驚いています。
オープニングは研究開発担当の執行役員の森本さん。IBMは今までOSSに貢献してきたし(確かに。Eclipseでは大変お世話になりました🙏)、これからもOSSに貢献していくという決意表明がありました。続いて、本社のChief AdvocateであるWillie Tejadaさんから、IBMが開発者支援として新たに立ち上げたIBM Codeというリソースについて説明。Code(サンプルコードなど)、Content(技術系ブログやドキュメントなど)、Community(MeetupやHands-Onなど)を開発者支援の三大要素だと大事に思っていると説明。さらにCall For Codeというコンテストを開催し、災害から世界を守るための何かをITで提供したいとのこと。
続いては、UMLの元祖というか父というかIBMフェローのGrady Boochさんから、コンピューター界隈の歴史と変遷を語った後デベロッパーへのメッセージ。
「世界を変えられるのはエンジニアだ」と、僕の座右の銘である「技術者だけが現実の世界を変えられる」by 大村益次郎(村田蔵六) in 花神 written by 司馬遼太郎と同じことを言っています。さらに、「コードを書こう、本を読もう、オンライン講座で学ぼう」との熱きメッセージ。いでたちは仙人のようで、語り口も穏やかで柔らかいけれどその言葉はずっしりと僕の心に届く。
僕よりも4つ年上でありながら、昨年はAIに関する50冊を超える本を読み、5つくらいのオンライン講座を受講したそうです。本来の仕事をこなしながら、週に1冊の技術書を読み8時間程度をオンライン講座に使う生活を1年続けているわけです。「58歳の文系エンジニアが~」なんていっている場合じゃない。あんな優秀な人が日々進化する技術をキャッチアップしようと勉強しているのに、凡人の自分が老眼と戦いながらちょっと勉強したくらいでやった気になっている場合じゃない。ものすごく危機感を持ちました。この15分に参加し生でこのメッセージを受け取っただけで、このカンファレンスに来た意義がありました。(動画は近日公開されると思うので是非ご覧ください!)
ここまでのまとめ。コード、コンテンツ、コミュニティ。コードを書こう、本を読もう、オンライン講座で学ぼう。これであなたもこのカンファレンスで語られたIメッセージは完全に理解。
このあとルミナスプロダクションの長谷川さんから、FFのキャラにAIを云々というお話がありましたが、ごめんなさいBooch氏の話に感動しすぎてほとんど耳に入っていませんでしたので割愛します。
ここから先は2つのパネルディスカッション。
最初はIBM Developer Advocateの大西さんをモデレーターに「イノベーターの世界観」と題して、ユニティの大前さん、ソラコムの玉川さん、スクエニの三宅さんがイノベーションを起こせるクリエイターになるにはという観点からディスカッション。印象的だったのは、ソラコムの玉川さんが言っていた「だいたい専門家になるのに1万時間勉強する必要がある。1日8時間勉強すれば3年半で専門家。15年あったら4つの分野で専門家になれますよ」というアドバイス。
これを聞いていて、「きっと一日8時間も勉強する時間とれません!」とかいう人がいるのだろうなと思いました。ディスカッションのテーマには選ばれませんでしたが、パネラーへの質問事項で「仕事が多忙で学習意欲が出ません。どうしたらいいですか」というのもあったくらいですから。「学習意欲が減退するほど仕事しちゃいけない気がする」とツイートしたらインプレッションが2,500もあって、そう思う人が多いのだなと少しホッとしました。
これば僕個人の感想ですが、未知の業務や技術にあえて仕事として突っ込んでいくことで、業務中に8時間以上みっちり勉強することができるかもしれません。実務の世界で納期と品質に追い立てられながら習得しようとあがいているうちに、1年である程度のスペシャリストになれる可能性は高いと思います。もちろん、最初は泣きたくなるほど役に立たないし生産性も悪いと思います。知らないのだから。しかし、そこで得た知識と経験は、ただ勉強するよりもはるかに早く深くスキルとして根付くように思います。
続いては、魔法使い落合陽一さんの講演から、その流れでモデレーターを務めつつディスカッションへ。講演では、1万人が悩む1万種類の課題があるという話が耳に残ります。ダイバーシティを実現するためにソフトウェアでできることは何か、ひとつの課題を解決しても残り9,999種類の課題×1万人が残されている。気が遠くなる話ですが、大量生産の時代から少量多品種生産の時代に意識も生産体制もコスト管理も上手に移れれば、僕たちにも何らかの手助けができるかもしれないと製造業の中の人として思うのです。そして、ひとつの製品としては赤字になるにせよ、それを社会貢献活動として受け入れられるようになれば、少しづつ世の中は変わるかもしれないと。
パネルディスカッションでは、「エンジニアの世界観」と題して、タレント兼フリーランスエンジニアの池澤さん、SOMPOシステムズの西野さん、ミクシィの村瀬さん、IBMのMarco Visentini-Scarzanellaさんを迎えてディスカッション。この中では唯一西野さんが会社員という感じで親近感を感じます。例えば、会社の名前を使えるけどその分ステークホルダーが多くて物事の回りが遅いとか。逆に池澤さんが今ジョインしている会社は全員フリーランスで自由度は高いけれど、その分個人としての信用が大事になるとか。
さらに共感できた点は、自分の価値が給料に見合わないと思ったら会社を飛び出そうというアドバイス。非常に合理的な考え方だと思いますが、これは逆にいうと会社という看板を外しても食っていけるだけの価値と信用を身につけましょうという意味です。会社を離れた自分の立ち位置を、世間の中で自分はどこに位置しているのかを肌で感じることが大事だと思います。
試験を受けて資格を取ったりオンライン講座の修了証をとったりも大事ですけれど、個人的にはカンファレンスやコミュニティ勉強会への参加もあわせてオススメしたい。そこで講師の語る内容をどれくらい理解/共感できるか、ほかの参加者はどのような反応なのか。Ask the Speakerで質問したいことが見つかるか、懇親会で他の参加者と感想や疑問点を語り合えるのかなど、自分の立ち位置を相対的に把握する有効な手段だと思います。
クロージングにキーナン社長のスピーチがありました。
10万件もらくらく! Python Pandasを利用したデータ変換・データ分析
IBMのDeveloper Advocate西戸さんから、大量のデータを分析する際にpandasを使用するとどのようなことができ楽になるのかのデモと説明。anacondaのインストールから環境設定までを早送りするデモビデオが面白すぎて会場が大笑い。何度かやったことがある作業なので何をやっているかは分かるけれど、逆にその分だけあれよあれよ感が増して面白すぎました。このセッションでは西戸さんが、Jupyterを「じゅぱいたー」と呼んでいたことに衝撃を受けました。ずっと「じゅぴたー」だと思っていたのです。もう一つ、DBに接続する際にpythonなのにJDBCを使って接続していた点です。以前使っていた課題管理システムTracでもSQLiteと接続するときJDBCでしたっけ?ちなみにpandasはここ2か月ばかり使っていますがDBへの接続はやったことありませんでした。今度試してみようと思います。
LINEがIBM WatsonエコシステムとつくるAI、コミュニケーションの未来
LINEの砂金(いさご)さんによるLINE Clover Waveの話。砂金さんがMicrosoftを去るきっかけになったのはLINEで女子高生と出会ったことだったそうです。その子の名は「りんな」。LINEと共同でこの女子高生AIのフロントエンドを作っているとき、これからはエンドポイントを持っているところが面白いことができるのではないかと考えLINEへのジョインを決めたそうです。実際にLINEに移ってきてClover WAVEなどのVUI/VUXに関わり音声に大きなポテンシャルを感じているようです。今後はそのほかのスマートスピーカーと同様にSDKの公開とアプリの充実を目指しているそうですが、この話は去年の11月にも聞いた気がします。あれから半年ですがまだSDKが出ていないということに少し違和感があります。
学習時間を大幅短縮するディープラーニング・プラットフォーム
IBMの伊東さんが、のっけからPower CPUの話を始めたので予備知識のなかった僕はちょっとひっくり返りました。古参のAppleユーザーならよくご存じのようにPowerPCはApple、IBM、モトローラが共同で開発したRISCチップで、その後AppleがIntelに鞍替えしたので、僕の視界からは完全に消えていたCPUです。今では、CPUアーキテクチャそのものがオープンソース化されてコンソーシアムで標準が管理されているようです。もし、設計図がGitHubで共有されていたら日経は正しい表現だったことになりますね😃 NVidiaの平野さんが最新のGPU事情を説明し、最後にIBMの金田さんがディープラーニング関係の話で締めた感じです。
AI、ディープラーニング、機械学習、GPUの全てをWatson Studioで!
IBM Offering Manageerの時光さんから、データ分析、機械学習向けの基盤として新しく機能が整理されたWatson Studio(旧:DSX)の説明とデモンストレーション。データ分析のための基盤と機械学習の基盤がセットになったデータサイエンティスト向けの機能であり、データの保存、管理、加工、取得から、そのデータを利用した分析あるいは学習などの一連の作業を同じ環境下で実施できることをアピール。ちなみに時光さんはJupyterを「じゅぴたー」と呼んでいらっしゃいましたので少し安心しました(^^;
IBM Cloud と Xamarin の意外な親和性
エクセルソフトの田淵さんとマイクロソフトのちょまどさんが、XamarinのフロントエンドからWatsonのバックエンドにつないでチャットボットを構築するデモを実演。
Watsonには.NETベースのアプリケーションで利用できるSDKが用意されておりXamarinからもこのSDKを使用して簡単に接続することができる。バックエンドのチャットボットはNode-Redを使用してフローを構築し、「〇〇の性格は?」と〇〇にtwitterアカウントを入れて問い合わせると、最新50件のツイートを取得してテキストから性格を分析する。その後似たようなシステムをAzureで開発する場合のデモを実演し、WatsonでもAzureでも同じようなことができるしXamarinならどちらでも、どのデバイスでも行けますとアピール。動いているちょまどさんを見るのは2回目ですが、初めて見たときとあまり変わらなかったのでキョドっているのはどうやら地のようです。