はじめに
スクラムマスターとしてチームメンバーと1on1をする、というのは一般的かと思いますが、そこからさらに守秘義務を明確化したうえで、コーチングに踏み込んでみたお話です。
Management 3.0 の「ワーカーハピネス」や、参加しているコミュニティ スクラム道関西の「開発者に笑顔を」が大好きです。たのしいは正義だと思っています。
過去にマネージャーを経験し、人と丁寧にかかわることを意識していました。そのあたりは『KAG Tech Book -Vol1-』に書いていますので、もし興味があればご覧ください。
どのような変化があったか
基本的に守秘義務を守りつつ、帽子をかぶり変えながらいろんな話をします。
その結果、チーム内で発生している不安に立ち向かえるようになったり、立ち向かえずとも深刻に受け取らずに済むようになったり、本人が問題だと感じていたことが、もみほぐされた実感があります。
個人の受け止め方が変わることで、対応の仕方が変わり、ふりかえりや会議で自信をもって発言できるようになったり、その変化がチームに影響を与えることがありました。
私としては、たとえチームに直接的な影響が見えなくとも、個人が楽しく笑顔で仕事ができていることが一番うれしいです。私が見えていないだけで、きっとチームに何かしらの影響は生まれているはずだと思います。
チームの加速を阻害するのは、不安や期待のズレ
私は、問題の多くの原因は人間関係だと昔から考えています。
例えば技術的負債。「〇〇さんに相談しても話が進まないし、もうこれでいいか」とか、どこかで話し合いを諦めたようなこともあると思っています。
エドモンドソン教授が提唱した心理的安全性の背景にある不安もそうですよね。
- 無知だと思われないか
- 無能だと思われないか
- 邪魔をしていると思われないか
- ネガティブだと思われないか
それ以外にも、立場やロールの違いによって「言っていいのか」の不安もありますし、相手の話を深刻に受け取りすぎてしまい、対話ではなくすべてを抱え込むような場面もあります。
多くは心理的安全性や期待マネジメントの課題としてチームで取り組んでいく事ではありますが、個人がどのように受け取っているか、不安をどう扱っているかを個別で支援することも重要だと考えています。
そこで、コーチング要素も取り入れつつ、個人にフォーカスするようにしています。
話す内容
話題は、チームのこと、最近の興味、キャリアなど、なんでも話します。
雑談しながら、ガジェットの話をしたりもします。
かなりパーソナルな部分にふれることもありますが、現状そればっかりではないので、まだ業務として取り扱っています。もし継続的に深いテーマに踏み込み続けるのであれば、副業としてパーソナルコーチングの紹介をするかな?
今はあくまで業務としての関わりの中でコーチングスキルを多用しているだけなので、本格的にコーチングに振り切るには、業務から切り離したい気持ちがあります。
様々な帽子をかぶりかえる
自由に話題を振ってもらうので、例えば以下のような帽子にかぶりかえることがあります。
| 帽子 | どういう時に使う? | 関わり例 |
|---|---|---|
| コーチ | 基本これ | 問いかけ |
| SM アジャイルコーチ |
チームのプロセスやその他 | その場での学習 チームでの行動の促し |
| EMのような立場 | 評価・キャリア | 評価の無いフィードバック 評価付きのフィードバック 様々なロールのお話 |
| 先輩エンジニア | 技術的不安の解消・キャリア | 過去の経験含めた説明や提案 |
| 個人(人として) | 純粋に考えを伝えたい場合 | 聴く・共感・肯定 |
基本的にコーチングとして話を聞いていくのですが、私の経験からいくつか引き出し、帽子によっては矛盾する話をすることもあります。
"EMや組織レイヤーとしては〇〇と考えると思う。ただし、個人的には△△した方が□□さんにとっては楽しそうだよね。"
といった形で、個人的にはこれかもねとお話をしたりします。
実際にどうやるか
これは経験があるからできている事だとは思いますが、全てをこなす必要はないです。
人と向き合いたい、少しでも個人に輝いてもらいたいと思う人なら、誰でも取り組めると思います。
おわり
誰か一人の心の景色が少し晴れると、
その変化は会話に、意思決定に、空気へと自然と波及していきます。
スクラムマスターが「誰かひとりの不安や悩みに本気で寄り添う」ことは、
チーム全体を動かす、いちばん静かで確実なアプローチだと感じています。
だから私は、これからも一人の声を聴くところから始めます。
その静かな一歩が、チームを加速させる原動力になるのだと信じています。