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『おもしろい』とは何か(4) @ゲームプログラマの小話[創作:エンタメ論]

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『おもしろい』とは何か(4)

『おもしろい』とは何か、最終回です。

おもしろいというのは感情が動くということ。感情の動き方には個人差があるということ。感情が動くメカニズムの根本は我々ヒトが生き物であるということ。これまでそういった話をしてきました。

最終回では、それらを踏まえた上で『おもしろい』の届け方のお話をします。

より多くの人に&より印象的に創って届ける

さて、あなたが今創ろうとしている『おもしろい』エンタメは誰にとっておもしろいものでしょうか?

例えばそれがビデオゲームだったとした場合、がっつりゲームを遊ぶ人 or あんまりゲームを遊ばない人、男性 or 女性、小学生 or 大人、論理的な人 or 感覚的な人、などなど色んな人が想像できます。

商業的な目的を気にせず、自分の『好き』を表現した『おもしろい』が作品になればそれでいい、というのであればそういった自分以外の人のことを考えなくても大丈夫です。

ただ、より多くの人におもしろいと感じてもらいたい、より多くの人の感情を動かしたいと思うのでしたら、自分ではない人たちのことを考えなければなりません。

つまり、創るだけなく創り届けるところまで考える必要があるということです。

『おもしろい』を創り届けるための3つのステップ

より多くの人に『おもしろい』と感じてもらうエンタメを創る際、大きく3つのステップがあると筆者は考えます。

  • 第1ステップ:創っているモノに対して自分自身が『おもしろい』と感じられるようになる
  • 第2ステップ:創っているモノのおもしろさを説明できるようになる
  • 第3ステップ:そのおもしろさをより多くの人が体験できる状態に落とし込む

特に商業(仕事で創る)エンタメではこれらのステップがとても大切だと筆者は考えます。

では、これらステップを1つずつ説明していきます。

第1ステップ:自分自身が『おもしろい』と感じられるようになる

まず、創ろうとしているモノに対して「これはおもしろい!」と思える状態になってください。

企画書推敲、漫画や小説ならネーム・プロット、ゲームやアプリケーションならプロトタイプ、といったように手段はなんでもかまいません。少しでも早くあなたが「これはおもしろいものができる!」と確信できる状態を目指してください。

チームで作っている場合にあなたがディレクターなのでしたら、チーム全員ではなくあなただけでもかまわないので「これはおもしろいものができる!」と思える状態をまず目指してください。

創作経験が少ない人ですと、この勘所は難しいかもしれません。その場合は確信とまではいかなくても「今回はこのおもしろさをベースにゴールを目指してみよう!」と思えるレベルを目標にしてみてください。

第2ステップ:おもしろさを説明できるようになる

「これはおもしろいものができる!」と確信できたそのおもしろさ。それはどうしておもしろいのでしょうか?これを説明できるようになってください。

1人で創っていてもチームで創っていたとしても、ぜひ説明できるようになってください。

なぜならこれが、あなたが創ろうとしているエンタメをより多くの人に、もしくはより印象的に届けるためにどうするかを考える上でのベースになるからです。

第3ステップ:より多くの人が『おもしろい』を体験できる状態に落とし込む

第2ステップで考えたものをベースに、より多くの人に、より印象的に届ける状態に調整していきましょう。

この調整手段はいろいろあります。

例えば、ビデオゲームの対戦パズルゲームのぷよぷよ。ボタンを押すとぷよが回転し、同じ色のぷよを4つつなげると消え、連続して消えると連鎖となってたくさんのおじゃまぷよで攻撃できる、というゲームです。

このゲームのおもしろいところは3つめの『連鎖をしておじゃまぷよで攻撃』の部分です。ボタンを押して回転させたり、4つつなげると消える、というのはプレイヤーに体験してもらいたいおもしろさの部分ではありません。ですがこれを知らないと『連鎖をしておじゃまぷよで攻撃』を体験することはできません。

作り手からすると、ボタンを押すと回転するという操作方法も、4つつなげると消えるというゲームルールも最初から分かっています。しかし、プレイヤーはそれらを知らない状態からプレイ体験を始めます。

より多くの人に『おもしろい』と思ってもらうことを目指すのであれば、操作方法とゲームルールをなるべく絞ってプレイヤーに伝えた上で、少しでも早く連鎖のおもしろさを体験してもらうようなゲームデザインにする、という調整を行います。

連鎖のおもしろさを初めて体験するまでに1時間かかるようなゲームデザインですと、多くの人はそれまでにゲームをやめてしまう可能性があるからです。

他の例で、漫画の暗殺教室。これは宇宙人(のような見た目)の担任の先生を生徒が暗殺しようとする物語の漫画です。

仮に、プロット(お話の設計図)の段階で、「生徒全員が超強い人間の先生を暗殺しようとする物語はおもしろそうだ!」と思いついたとします。ですが、もし人間の先生を殺そうとする描写をした場合、身近な殺人を連想してしまい一部の人が嫌悪感を示すかもしれません。

この物語は、『生徒が先生を殺そうとするが逆に先生は愛情を持って生徒に接する』という異様な関係の中で生徒と先生の絆の成長を描くお話で、そこがおもしろさの軸だとしましょう。仮にそうした場合、「人間でなく宇宙人の容姿にすれば人間を殺そうとする描写の嫌悪感はなくなり、より多くの人におもしろさが伝わるようになるはずだ」という調整が入り、コロ先生(※担任の先生の名前)が生まれた・・・かもしれません。

ぷよぷよと暗殺教室。この2つの例のように、何がおもしろいのかを説明できる状態であれば、不要な要素だったり重要度の低い要素が分かるようになります。そしてその結果、より多くの人におもしろい体験をしてもらうための調整がしやすくなります。

『誰に届けるか』というのも重要

ステップ3の調整をするにあたって、どういう人に体験してもらいたいエンタメなのかも考慮しておくと良いでしょう。

誰にでもおもしろいと感じてもらえるのがベストですが、第2回でも話したとおり、全員がおもしろいと感じるエンタメを創ることは不可能です。

あなたの創ろうとしているおもしろい体験はどういう人に届けたいものなのか、それを考えた上で創作するとより印象的なエンタメができあがると思います。

まとめ

『おもしろいものは創っただけでは届かないことがあるので届けるところまで考えましょう』ということが今回伝えたかったことです。

様々なエンタメがあふれかえる今、昔と比べて届けることはとても難しくなっているように感じます。そのため、創るだけでなく創り届けるところまで考える必要性が以前よりも増しているなぁと筆者は痛感しております。

さて、4回にわたって説明してきた『おもしろい』に関するお話は今回で一区切りです。

この一連のお話は様々なエンタメに当てはまる考え方ではありますが、おもしろくするための具体的な手法ではありません。

ビデオゲームなら筆者の守備範囲ですが、物語、お笑い、体験型イベントなど、それぞれのエンタメならではのおもしろくするノウハウ紹介は別の誰かに託そうと思います。

最後まで読んでいただきありがとうございました!

おわり

リンク:ゲームプログラマの小話-目次

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