今年も、もう10月になりますね。季節がうごき、暑さがやわらぐ今のころ、新入社員はいい意味で緊張感がとけてきます。すこし余裕が生まれ、中には自発的に勉強をしようというひとが出てきます。
それで、この時期こういう質問をよく受けるのです。
「勉強はしたほうがいいですか?」
私はいつも『つみき』を例に、彼(彼女)らを納得させます
『つみき』を集めよう
「アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何物でもない」という名言は広く知られています。ジェームス・W・ヤング氏の「アイデアの作り方」という本に書かれた一句ですね。
「良いアイデアを出すこと」は、才能が必要とか、天才だけが思いつくとか、そういうもんだとカン違いしているひとがいますが、それはあやまりです。「アイデアは既存の要素の組み合わせ」ですので、「既存の要素」さえ知っていれば誰にでも浮かぶものなのです。
私はいつも、これは「つみき」のようだなと思います。
例えば、つみきのお城を作りたいとき、さまざまなパーツが必要になります。我々はシステムエンジニアなので、「アプリを作りたい場合」で考えてみよう。
※イラストのお城(散らばった不要なつみきは除く)が「アプリの完成形」だとします。
アプリを作るために、どんなつみきが必要でしょうか。ざっくりとあげてみます。
- 機能設計
- 画面設計(デザイン)
- 開発
- プログラミング
- データ管理
- 認証・認可
- 公開(リリース作業)
これらを『つみき』だと考えてください。
ここに「開発」という「四角のつみき」があります。そのつみきがいくつかあったとして、お城は作れるでしょうか。「三角のつみき」がないと、お城は作れません。
ほかのつみきも準備してみました。数も十分にあります。けれどそこには「認証・認可」というつみきがありませんでした。それでお城は作れなくなります。もし、ほかのつみきで代用しようとしても、不格好なものになってしまうか、崩れてしまいます。
こんなケースもあります。
プログラミングというつみきをひとつ持っていました。それは「C#」という「長方形のつみき」です。ところが、今回作るお城には「JavaScript」という「正方形のつみき」が必要だったのです。お城は作れなくなりました。
データベースのつみきにだって、さまざまな形・色に違いがあります。SQL、Oracle、PostgreSQLなどですね。どうやら今回のお城には「縦横が同じくらいの、赤色の円柱形のつみき」が必要のようです。
いろいろなつみきを持っていれば、どんな形のお城にも対応できます。また、それだけではなく、「この形のつみきを使った方がカッコいいんじゃないか?」「こうすればもっと安定するんじゃないか?」───そういうカスタマイズを考えることもできるようになります。
私は、このように知識をつみきだと考え、なにかを作るとき(仕事をするとき)には、より多くのつみきをもっているほうが有利だと結論づけています。
─── むろん、ひとりですべてのつみきを持っている必要はありません。ほとんどのひとは組織に属し、チーム戦で戦うため、つみきを持ちよることができるためです。
ただ、そういうとき、自分がもっているつみきと、相手がもっているつみきがどんなものであるか理解できていれば、自分との相性が分かるし、今のつみきでは足りないことに素早く気が付くことができるかもしれません。
また、いろんなつみきを少しづつ持っているひと(管理側)と、「四角のつみき」のみを数十も持つひと(開発者)では、活躍できる場面がちがうでしょう。後者はいわゆるプロフェッショナルで、「俺はほかのつみきはからっきしだが、四角のつみきだけは、種類も数も、誰よりも持っている」というひとです。これはこれで使いやすい人材ではあります。
より大きい『つみき』に登ろう
ところで、「温故知新」(論語・孔子)ということばがあります。「古きを温ねて新しきを知る」=過去を理解することで未来や新しいことを学ぶと言う意味です。
つみきが建築資材だとして、我々を「レゴの人間」だと考えてください。
レゴの人間は背がひくいです。そのため、精々自分のまわりを見渡すくらいしかできません。隣のひとと目が合うかもしれませんね。あまり景色がいいとは言えないでしょう。
ここでいう景色とは、過去と未来のことです。
そこで、つみきの上に登ってみることにします。そうすると、すこし遠くだけ過去が見えるようになります。同じように、前を向けば、すこし先の未来が見えるのです。
この時、つみきの大きさは重要です。より高いつみきに登れば、背丈は何倍も高くなり、よりひろい景色を見ることができます。つみきを重ねていけば、より過去を見つめることができるし、ずいぶん先の未来まで見通せるようになるかもしれません。
もしお城を建てることができ、天守閣にのぼることができたら?つみきのお城から眺める景色は壮観でしょう。つみきの街並みや、そこで生活していた(る)ひとたちまでもが見えるかもしれません
■補足
なにも、昔のことを勉強しようと言っているわけではありません。いまのものを学べばよいのです。どうせそれらはいつか古くなるのですから。それで、その分野において未来のことが見えるようになるでしょう。「次はこんなアップデートがくるんだろうな」というのが分かるようになるはずです。
大量のつみきを持つメリット
つみきをコツコツ集めるひとは、どんどん有利になっていきます。
例えば、ゴールである「お城」の形をみたときに、「あーなんとなくできそう!」だとか、っていうのが分かります。これは特大アドバンテージです。
逆に、つみきをもたない人は困ることになります。そもそも「それができそうか?」が分かりません。ですので、あきらめるか、ギャンブルをすることになります。悲惨な事故につながりかねません。
また、すでに大量のつみきを持つひとは、新しいつみきを見つけたときに「その組み合わせパターン」が多いです。それで、ひらめき力が増えるのです。既存のつみきを想像し、「あ、この形なら、まえ見つけたこのつみきと合わせてうまく使えそう!」という化学反応が起こるワケです。
こういうと、「つみきの形を覚えていないと」ということを言われるひとがいますが、具体的につみきの形を覚えておく必要はありません。
オモチャ箱にでも片しておけばよいからです。今は使えなさそうだけど、こういう形のつみきがきたら使えるかも、と頭の片隅に追いやって、次のつみきを集めればよいのです。
Qiita、Zenn、はてブなどで「気になったものをつまみ読み」しているひとが、気が付いたら最強なっていた、なんて話は珍しくありません。彼(彼女)らはつみきを集めるのが得意なのです。そして、オモチャ箱に綺麗に整理する能力も長けています。
まとめ - つみきが多いと楽しい
「つみきを集める作業(勉強)」はやって損はありません。
───というお話でした。
「つみき遊び」は「つみき」が多いほど楽しいですし、べつに同じつみきが多くても楽しいですし、いろんなつみきがあるともっと楽しいです。
いくらかつみきを集めていると、「なんだこのつみき(笑)」と思ってしまうような歪(いびつ)なつみきに出会うこともあります。その時には役にたたないつみきだとしても、仕事をしているとどこかでピタッとはまる時が来るものです。
オモチャ箱の端っこにも片しておけばよいのです。
そのうち、「誰もこんなニッチなつみき、もってないよな。困ったな」というチャンスが舞い込みます。そのときに、サッと手をあげればよいのです。そういう歪なつみきに限って、お城のてっぺんの旗になったりするものです。
われわれでも、キツネが憑いてくれれば、思ってもみなかったような力を発揮でき、少ないつみきでも、ひらめきパワーでお城のひとつを作れるかもしれません。
けれど、キツネはなかなか憑いてはくれません。
いつ憑いてくれるのかも分かりません。
ただ、たくさんのつみきを集めるくらいであればキツネ抜きでも進みます。ぼちぼち集めたつみきがある程度積もれば、キツネなしでも、自分で驚くほどの力を発揮できるようになるでしょう。
以上です。
Appendix
つみきの例え話は、設計や構成があるものなら、なんにでも当てはめることができると思います。「決まった構成に、パーツを割り当てていく。」という考えです。
例えば記事の執筆。
私は基本的にPREP法という「構成」をとっています。このPREP法を使うことで、材料さえあれば構成にわりあてるだけなので、誰でもカンタンに記事を書くことができるのです。
PREP法をひとことで説明すると、分かりやすく説得力のある文章や話し方の構成テンプレートのひとつです。「Point(結論)」「Reason(理由)」「Example(具体例)」「Point(再結論)」の順序で展開するため、PREP法といいます。
- Point(結論):最初に自分の主張や結論を端的に述べる。
- Reason(理由):なぜその結論に至ったのか、理由を説明する。
- Example(具体例):理由を裏付ける具体例やデータを挙げる。
- Point(再結論):最後に再び結論を述べて、主張を強調する。
つみきの例でいうと、ここではたったの3種類(P、R、E)のパーツがあればよいことになります。記事は型や枠が大事なので、つみきではなく、テトリスのようだと考えてみます。
簡単にですがイメージを図化しました。
Pのパーツは、土台と頂点の「I型」
Rのパーツは、形を崩さないための「L型」
Eのパーツは、より高く積むための「S型」「T型」
①結論であるP(I型)を横に置いて議題を確定。
②理由であるR(R型)で議題を強化。
③例えであるE(S型)で結論までの高さを出す。
④結論であるP(I型)を頂点に置いて完結。
※Eのパーツがが複数あれば、高く、広く積みあがる。ただし、話がズレたり記事がダラダラ続いたりするので注意する。
このように、最初はざっくりと出した結論(議題)を、理由から述べ、例えをあげて、より鋭い結論へと組み立てていくのです。