はじめに
ここ2年、私はClaude(生成AI)と一緒に、株式のトレードシステムを個人で開発してきました。
株価データをリアルタイムに監視し、特定の条件を満たしたときに自動でトレードする——そんなシステムです。
(※ロジックの詳細は伏せます)
平日の日中は会社でエンジニアとして働いているため、開発に使えるのは空き時間だけ。
そんな制約の中で作り上げたシステムが、どれくらいの規模になったのか。AIとのペアプログラミングで生産性はどう変わったのか。
ようやくシステムが安定してきたので、振り返ってみたいと思います。
運用1カ月の「リアルな」成績
まず、きれいごとなしの実績から。
運用開始から1カ月弱。バグと戦いながら少しずつ安定化させてきた結果がこちらです。
| 項目 | 実績 |
|---|---|
| トレード数 | 203 件 |
| トレード量 | 33,762,839 円 |
| 損益 | -5,211 円 |
そう、まだマイナスです。
ただ、ここ最近はシステム自体が安定してきて、運用・障害対応(サービスマネジメント)に取られていた時間がほぼなくなってきました。
これからは戦略のチューニングに集中できるので、なんとか黒字化させたい——というのが今の心境です。
(もちろん、相場である以上、大きく損失を出すリスクも十分にあることは承知の上です)
作ったシステムの「規模」
開発を続けるうちに、「これ、全体でどれくらいの規模になったんだ?」と気になり、コード量を集計してみました。
| 区分 | ステップ数 | 内容 |
|---|---|---|
| コアロジック (ap/classes/service/backtest) | 26,854 行 | Python実装の中核 |
| Web/CGI | 16,151 行 | 画面・帳票系 |
| DB/SQL | 2,333 行 | スキーマ・運用SQL |
| インフラ/Shell | 1,275 行 | デプロイ・systemd |
| ドキュメント (RST) | 24,918 行 | 設計書 |
最初の1年は、1クラスずつコツコツ手作りしていました。
ところが、Claude 4.6以降、生産性が文字通り別次元になりました。 処理の概要を伝えるだけで、実装からテストまで一気に駆け上がってくれます。
「人間が作ったら、いくら?」をAIに試算させてみた
ふと、この規模を従来のSI(受託開発)の見積もりに換算したらどうなるのか気になり、Claude本人に試算してもらいました。
私: 本システムの開発規模を人手で作る場合、現在の品質や難易度も考慮すると、何人月・いくらくらい必要そうか試算できますか?
Claude: SI業界の標準的な見積もり手法(COCOMO / FP法 / 工程別生産性)でざっくり試算してみますね。
難易度評価(係数換算)
本システムは、こんな特性を持っています。
- 金融/取引ドメイン(バグ=損失に直結) → 難易度 ×1.5
- リアルタイム性(即時発注) → 難易度 ×1.3
- 大規模データ(数億レコード級のDB設計) → 難易度 ×1.2
- マルチタイムフレーム(分/時/日の複数エンジン並走) → 設計コスト増
工程別の人月試算
| 工程 | 生産性 | 対象 | 人月 |
|---|---|---|---|
| コアロジック | 350 step/人月 | 26,854 | 約77人月 |
| Web/CGI | 800 step/人月 | 16,151 | 約20人月 |
| DB設計・SQL | 1,000 step/人月 | 2,333 | 約2人月 |
| インフラ構築 | 1,200 step/人月 | 1,275 | 約1人月 |
| ドキュメント | 3,500 step/人月 | 24,918 | 約7人月 |
| 開発工程 小計 | 約107人月 | ||
| 要件定義/設計 (+20%) | +21人月 | ||
| 結合・総合テスト (+25%) | +27人月 | ||
| PM/品質管理 (+15%) | +16人月 | ||
| 総合計 | 約171人月 |
想定コスト(東京SI標準単価)
| ロール | 単価 | 稼働 | 費用 |
|---|---|---|---|
| PM/PL | 130万/人月 | 20人月 | 2,600万 |
| アーキテクト(金融経験者) | 150万/人月 | 25人月 | 3,750万 |
| シニアエンジニア | 110万/人月 | 50人月 | 5,500万 |
| ミドルエンジニア | 85万/人月 | 50人月 | 4,250万 |
| QAエンジニア | 80万/人月 | 26人月 | 2,080万 |
| 合計 | 平均約106万/人月 | 171人月 | 約1.82億円 |
ケース別のレンジ感はこちら。
- 楽観(少数精鋭):80〜100人月 / 8,000万〜1億円
- 標準SI見積もり:150〜180人月 / 1.5〜1.8億円
- 大手SIerフル受託:200〜250人月 / 2〜2.5億円
あくまで機械的な試算ではありますが、会社の空き時間だけで作ったものが、数億円規模に達していたという事実には、自分でも驚かされました。
コーディングは、ここまで変わった
AIの登場で、私のコーディングスタイルは根本から変わりました。
- 昔: ブラウザに作りたい概要を書く → 出てきたコードをコピペ → vimに貼り付けて手動実行 → エラーが出たらまた質問…
- 今: 処理概要や要件を伝えるだけ → 実装・修正・テストまで自動で完了
「コードを書く」作業から、「何を作るかを考える」作業へ。重心が完全に移りました。
気づき:AIの生産性は、技術スキルに「比例」する
使ってみて強く感じたのは、AIによる生産性は、使い手の技術スキルにほぼ比例するということです。
スキルが高い人ほど、的確な指示・適切なレビュー・正しい設計判断ができるため、生産性が一気に跳ね上がります。
おそらく、プリンシパルやアーキテクトクラスの人材がAIを本気で使いこなしたら、とんでもない生産性を叩き出しているはずです。
「AIがあれば誰でも同じ」ではなく、AIは技術力を増幅する装置。そう捉えるのがしっくりきます。
おわりに:あなたは、何を作りたいですか?
個人が、数億円規模のシステムを作れる時代になりました。
こうなると、もう「何もしない」という選択肢はもったいないと思うのです。
- ストア公開用のアプリを作るのもよし
- SaaSを立ち上げるのもよし
- クラウドを使えば、インフラ構築だって一人でできる
道具はもう、目の前にあります。
あなたは、何を作りたいですか?