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Tech DoDay 2

創業社長が「ブロックチェーンやるぞ!」と叫んだ時、エンジニアはどうすべきか? その1




この物語はフィクションです。




登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

ただし、食べログのリンクが記載されている場合は実在の店舗を参考にしています。

この物語に含まれるセリフ、寓意は全て筆者の想像・意見の表出であり、それ以外の個人・団体の意見を代表するものではありません。



1. LINE電話

「今度はブロックチェーンやれってよ」

女の話はテキストで来るし、過去のプロジェクトの件ならSlack。

23:45にキヨからLINE電話というのは、つまりめんどくさい話ということだ。

「また社長様からの御下命か?」

「ああ。『AIのプロダクトは軌道に乗ったんやろ? 次いこや』だとさ」

キヨが働く会社、財人財公司は、もともと人材紹介業から発展した。

今でも営業利益の80%は人材エージェントフィーから発生している。

残りの20%は研修関連で、キヨはこのチームのBizDevだ。

「今度は」というのは、2年前に財人財公司の創業社長、綾倉さんが「AIでお客様企業の社員のエンゲージメント上げろ!」とぶち上げたことを念頭においている。

今でこそ、エンジニアのキヨがBizDevという概念を浸透させているが、当時は綾倉社長が新規案件の話を振るのは常に営業チーム。

なぜAIをやろうという話が出てきたのかもわからないまま、不可解な伝言ゲームでしか情報が伝わって来ず、エンジニアチームは右往左往するばかりだった。

ちなみに俺はちょうどその頃フリーになったばかりで、学部時代からの友人から電話がかかってきて、一年ほどこのプロジェクトに入っていた、というつながりだ。

「とりあえず甘いもんでも食べながら、ブレスト付き合ってくれよ」


2. モンブラン

飯倉片町のキャンティに着くと、キヨはすでに2個目のモンブランを半分食べ終えたところだった。

俺は甘いものは食べないのでハイネケンを頼んで席に着いた。

「さっきまでホットパッチを当ててたんだ。Docker imageのサイズを劇的に減らす方法を見つけてくれたやつがいて助かったよ。ユーザーが増えて、パフォーマンス問題が話題になってるなんて、お前がいた頃と比べるとすごい進歩だろ?」とキヨが切り出した。

「確かにそうだな。あの頃は何作ればいいのかの整理ばかりでコードなんてほとんど書いてなかったからな」

「まあそういうフェーズに入ってきているからさ、次のプロダクトを作りたいとちょこちょこネタ探しに動いてはいたんだよ。社長とも、エージェントフィーの高騰でキャッシュが入ってきてる今のうちに第3、第4の柱を作りたいと議論してた。

エージェントで労働市場のデータを抑え、俺が今やっているエンゲージメント向上ツールで社内のデータを抑えた。これらを統合して、会社の垣根を越えた人材配置の最適化をやりたいってな」

「その二つを抑えたら当然そうなるよな。野球みたいに人のトレードが活発化したら面白い」

「そうそう。もちろん優秀な人材を外に出したくない、って企業側の事情もあるから、そこはうまくやらなきゃいけないけどな。その辺に関して、スモールスタートでMVP作って検証する設計を進めてたんだ。それが、、」

キヨは大仰な仕草でフォークを高々と掲げてから、栗に突き刺した。

「突然、ブロックチェーンが降ってきたんだ」


3. 「ブロックチェーンが必要 → No.」

25:00過ぎにキヨと別れた。酔い冷ましがてら、坂を歩いて下りながら家に帰る途中に何本か電話をかけた。

時間も時間なので、最初の二人は出なかった。

三人目が出た。最近ブロックチェーン関係のベンチャーを立ち上げた聡だ。

聡の会社では、Ethereumのモバイルウォレットアプリと、Ethereumベースのゲームをリリースしている。

キヨから相談された経緯を話すと、聡は苦笑いした。

「最近よく聞くパターン(笑) それでどう進みそうなの?」

「キヨと営業担当が共同で進めている。営業担当がなまじ勉強するやつだから、ICOやろう! 人材共通通貨を流通させて、労働市場の流動性を上げよう!ってとっさに社長にぶち上げたみたいで。。社長もその方向で、ってなるらしい」

「勉強してるって言っても、一年半前の発想だな。。。ICOはアメリカではここ数ヶ月ほぼ行われていないし、今後規制も厳しくなる。知り合いのゲーム会社も上場してるから、ブロックチェーン絡ませただけで、監査のコストが跳ね上がったらしい。

それはともかく、お前はなんてアドバイスしたんだ」

「そもそもなんのためにブロックチェーン使うんだ? 社長のビジョンはなんなんだ? と訊いてみた」

「『イシューからはじめよ』大好きなお前らしい質問だな。それで?」

「どうもよくわからないらしい。とにかくブロックチェーンだ、ただ俺はどんな使い方がいいかまではわからないから、企画考えて持ってこい、と。しかも社長が中国の案件にかかりっきりで、ほとんど会話の時間が取れないからタチが悪い。まあ俺が昔AIの案件に入った時もそんな感じだったよ。

実際、ブロックチェーン関連のサービスやってるお前から見てどう思う?」

「その流れでブロックチェーン使う意味はないと思うよ、少なくとも技術的にはね」

「やっぱりそうか。俺もナカモト論文読んだり、Mastering Bitcoinをさらっと読んだくらいで、十分にキャッチアップできてはいないけど、まだ何かに使えることが明確になっているとは思えなかった」

「その感覚はまともだと思うよ。この図を見てみなよ」

聡がスクショを送ってきたので、俺はiPhoneから耳を離して画面を覗き込んだ。

No.だけかよ笑」

「ああ。それを社長さんに見せてあげれば話は簡単だぜ?」

「これで済んだら簡単だろうけど、そんな単純な人じゃないさ」


4. 「技術的にはNo」?

「そりゃそうだよな。さっきの図はこの記事で見つけたんだよ。色々ブロックチェーンを使うか?の判定モデルを紹介してる。最後に『今んところこれがいいんじゃね?』と挙がってるのがこれ1

「なるほどね。これに当てはめてチェックしていけばいいのか。会社間人材移動サービスを念頭においてみてみるか」


問1 状態を保持する必要があるか?

答え: YES → 次の質問へ

「これはさすがにYESだね。転職情報や人事評価、エンゲージメントの情報を保持するから」


問2 書き込む主体が一つしかない?

答え: NO → 次の質問へ

「各会社やエージェントが書き込むのでNO」


問3 データベースの機能性をコントロールしたい?

答え: YES? → 中央DBを共有して使うべき

Need to control functionality?だけだと意味が取りにくい。元の論文の定義を読む限り、データベースのテーブル作成やデータ削除などの権限を特定の団体がコントロールしたいか?というニュアンスのようだ。人材移動サービスを発展させていくことやプライバシー問題を考えると、管理は必須だよな。この時点で既にイエスな気がするな・・ 聡どう思う?」

「そのサービスが具体的にどんなものかわからないから、はっきりは言えない。でも、少なくともそのシステムの全てのデータに関してブロックチェーンに載せたいという話になっているのだとしたら、それはおかしい、というのがこの問いで見えることだろう。君の友達の会社はなんらかの利益のためにこれを作ろうとしてるはずだ。そういう主体がいるときに、システム全体のデータベースについて一切のコントロールを手放してもいいとは考えにくい」

「逆に言えばこういうことか。『DBへのコントロールを手放してでも達成したいことは何か?』という問いに答えられないといけない」

「ああ。人材移動システム全体じゃなくても、何か特定の部分に関して、という話になってくるはずだろう」

「キヨにフィードバックしてやるわ。とりあえず今夜はありがとう、おやすみ」

(続く)





  1. 元の論文: Tommy Koens and Erik Pol "What Blockchain Alternative Do You Need?"