2026年7月、クレジットカード決済代行の全東信(大阪市中央区、1987年創業)が破産した。負債は約1259億円。2026年に入って最大の倒産だという。
このニュース、最初ぼくは何が起きたのか、まるで理解できなかった。
頭の中にぼんやりあったイメージは、こうだ。全東信のような決済代行は、どこか——カード会社の側——から「数か月後にお金を受け取る権利」を手にする。カード払いの売上は、いずれ確実に入ってくるお金だ。その確実な権利を担保にして、銀行から金を借りる。借りた金で、加盟店に「先払い(早期入金)」のサービスをする。
この形なら、入ってくるお金は最初から決まっている。取りっぱぐれる場所が、どこにも見当たらない。だから——潰れようがないはずなんだ。なのに潰れた。しかも1259億という、途方もない負債を抱えて。
意味がわからなかった。だから、そもそも決済のお金がどこをどう流れているのか、というところから調べてみた。以下は、そのぼんやりした勘違いを、一つずつ潰していった記録だ。
勘違い①「お金は確実に入る」——チャージバックを知らなかった
ぼくの「潰れようがない」の土台には、「カード払いの売上は、いったん決済が通れば確実に入ってくる」という思い込みがあった。ここが、いちばん大きな勘違いだった。
先に、お金の流れだけ押さえておく。カード決済は、ざっくり6者で回っている。
- 客(カード会員)
- 加盟店(お店)
- 決済代行(全東信のような会社。数多くの小さな加盟店をまとめ、その下でカード業界につなぐ)
- 国際ブランド(VISA / Mastercard / JCB)
- アクワイアラー(加盟店側の会社。SMBC・UC・ニコスなど。売上を確定して送金する)
- イシュアー(発行会社。楽天カード・JACCS など。客にカードを出し、客の代わりに立て替える)
全東信がお金を受け取る相手は、このうちアクワイアラーからの送金だ。(ついでに言うと、VISA や Mastercard が取りっぱぐれたのかとも思っていたが、それも違った。ブランドは線路を貸すだけで、債権も立替も持たない。ただ、ぼくの本当の勘違いは、そこではなかった。)
本当の勘違いは、この送金が「後から取り消されることがある」のを知らなかった点だ。これをチャージバックという。
- 客が「不正利用された」と異議を申し立てる
- 注文した商品・サービスが届かない
- 加盟店が自作自演でカードを切って現金化する(空打ち)
こうしたとき、イシュアーの調査を経て、アクワイアラーから全東信への送金が取り消される。
早期入金を売りにしている全東信にとって、これがきつい。全東信は、送金が入るより前に、加盟店へ現金を立て替えて渡している。ところが後からチャージバックが起きると、立て替えた現金は出ていったのに、入るはずだった送金はゼロになる。差額はまるごと焦げ付き——純損だ。しかも、審査の甘い高リスクな加盟店ほど、このチャージバックや不正は起きやすいとされる。
「お金は確実に入る」は、ここで崩れた。入ると思っていた送金は、こちらが立て替えた後になって、巻き戻ることがあった。
勘違い② 本業は「決済をつなぐこと」じゃなかった
全東信が抱えていた加盟店は約20万。飲食店が中心で、いわゆる夜の街のような、審査の通りにくい層を多く受け入れていたとされる。
なぜそんな層が集まるのか。①で触れた「早期入金」こそが、この会社の売りだったからだ。
普通、カード払いの売上がお店に入るのは数週間から翌月。日銭で回る飲食店には、この時間差が重い。全東信はそこを埋めた。売上が入るより前に現金を立て替えて渡し、その立替手数料で稼ぐ——これが本業の実体だった。ぼくが「回線をつなぐ会社」だと思っていたのは、そもそも入り口から違っていた。
立て替える原資はどこから来るか。銀行からの借入である。構図にするとこうなる。
客がカード払い
→ カード会社から全東信へ売上代金が入る(数週間〜翌月のタイムラグ)
→ その前に、全東信が加盟店へ現金を立て替えて渡す ← これが本業
→ 立替手数料で稼ぐ。立替の原資は銀行からの借入
言い換えれば、決済代行の看板を掲げた短期金融である。そして金融業には、金融業のリスクがついて回る。
- 借入への依存が大きい: 資本金は45億。対して負債は1259億。自己資金に対して桁違いの立替を、借入で回していた。
- 焦げつく: 立て替えた先の加盟店が飛べば、渡した現金は返ってこない。
- 客層: 審査の甘い高リスクな加盟店を主力にしていた。報道で「最後の駆け込み寺」と表現される背景でもある。
ここまで調べて、ぼくの「潰れようがない」に最初のヒビが入った。入ってくるお金を待つあいだ、この会社は借りた金で立て替えを回している。つまり全体が借金の上に乗っている。
勘違い③「損失」と「詐欺」を、ぼくはごっちゃにしていた
チャージバックで焦げ付くのは分かった。それでも、まだ腑に落ちない。焦げつきが多少あっても、それは事業の想定内の損では? なんで一気に1259億まで膨らんで、しかも「一晩で」倒れるのか——。
ここで、ぼくは二つのものを同じ「損」としてまとめて考えていたことに気づいた。切り分けると、まるで性質が違う。
- 問題A = 構造的損失。①で見たチャージバックや、加盟店の不正で、立て替えた資金が回収できなくなること。合法な事業リスクだ。
- 問題B = 詐欺容疑。実態のない、あるいは水増しした債権を使って銀行から資金を引き出したとされる疑い。こちらは犯罪(組織犯罪処罰法違反の容疑)にあたる。
| 問題A:構造的損失 | 問題B:詐欺容疑 | |
|---|---|---|
| 中身 | チャージバック・加盟店の不正・焦げつき | 架空/水増し債権とされる手口で銀行から資金調達 |
| 性質 | 事業リスク(合法) | 犯罪の容疑(組織犯罪処罰法違反) |
| 単独で潰れるか | 潰れうるが、ゆっくり。途中で縮小すれば止められた | 即・倒産(不正の疑いが表面化→一括返済請求+送金停止) |
なお B は、あくまで報道時点の容疑である。手口の詳細も、A と B の金額の割合も公表されておらず、確定は今後の捜査・裁判を待つことになる。
この二つは、持病と発作にたとえると分かりやすい。
- A(構造的損失)= 持病。じわじわ弱る。途中で気づけば、事業を縮小して止められた可能性がある。
- B(詐欺容疑)= 心臓発作。疑いが表面化した瞬間に止まる。
A だけなら、縮小して生き延びる道もあり得た。逆に A がなくても、B の疑いが表面化すれば即座に終わる。潰した直接の引き金になったのは、B のほうだと見られている。そして A の負担が B へと向かわせたのではないか——動機の連鎖として、そう読むこともできる。
なぜ「一晩で」潰れたか——ここでやっと腑に落ちた
調べていて、いちばん腑に落ちたのがこの部分だった。
不正の疑いが表面化したときの反応は、普通の融資トラブルとまるで違う。新規の融資が止まるだけなら、事業を縮めてしのぐ余地がある。ところが不正の疑いが持ち上がると、銀行は「期限の利益の喪失」——つまり、すでに貸している分を、今すぐまとめて返せと請求できる。
なぜ焦げつきなら猶予があって、詐欺だと一気なのか。ここがぼくの最後の引っかかりだった。ふつうの焦げつきは、あくまで融資という約束の枠の中で起きる損失だ。ところが、担保に差し出していた債権そのものが偽りだったとなれば、融資が成り立っていた前提が崩れる。銀行が返済を待つ理由も、そこで消える。
そして同時に、カード会社の側も送金を止める。入り口(カード会社からの送金)と出口(銀行への返済猶予)が、同じ瞬間に閉じる。返せと言われる分が一度に重なり、入るはずのお金は止まる。手元資金は一瞬で底をつく。
回転ビジネスは、信用というたった1本の車輪で走る自転車に似ている。漕いでいる間は倒れないが、信用が切れて足が止まれば、数日で横倒しになる。全東信は、まさにその倒れ方をした。
ぼくが最初に「潰れようがない」と思ったのは、入ってくるお金ばかりを見て、それが丸ごと借金で回っていることを見ていなかったからだった。借金で回るということは、信用が切れた瞬間に止まるということでもある。
負債1259億の正体——「溶かした額」ではない
もう一つ、ぼくが誤解していたのが、あの1259億という数字だった。「そんなに損を出したのか」と思っていたが、これは違う。「負債1259億」は、チャージバックされた金額でも、詐欺で引き出したとされる金額でもない。
正体は、積もり積もった「未払い・未返済の総額」だ。中身をざっくり分けると——
- 加盟店20万店への未払い売上: 最大の構成要素とみられる。立て替えられる前のカード売上が、宙に浮いた。内訳は公表されていないが、仮に1店あたり平均50万とすれば、それだけで1000億規模になる。
- 銀行への借入: 公表されているだけでも地方銀行5行で165億(後述)。ほかにメガバンクやノンバンクの分がある。
チャージバックによる損失は、会計上は「貸倒れ(損失)」であって、この「負債」とはまた別物だ。
正直に書いておくと、A(構造的損失)と B(詐欺)のどちらがいくら、という内訳は公表されていない。だから、ここは推測で数字を埋めない。言えるのは、1259億の大部分は「加盟店への未払い+銀行借入」であって、損失額そのものでも詐欺額そのものでもない、ということだけだ。
積み上がった順序を追うと、こうなる。焦げつきで手元資金が減る → 加盟店に早期入金できず、未払いが債務として残る → 銀行への返済も滞る → つなぎのために架空債権で追加調達したとされる(=B)→ 疑いが表面化し、送金停止と一括返済請求が重なって、すべてが「未払い・未返済」として確定する。破産時点で積もっていた、その総額が1259億だった。
だから1259億は、「この会社がいくら溶かしたか」ではなく、「最終的に、誰にいくら払えなくなったか」の合計として読むのが正しい。ここを取り違えると、話がまるごと分からなくなる——実際、ぼくがそうだった。
波及——加盟店20万と、地方銀行
破綻の影響は、二方向に広がった。
一つは加盟店20万店。破産管財人が全端末の使用停止を通告し、決済インフラがその日で消えた。立て替えられる前の売上は破産債権となり、通常どおりには入ってこない。数日分の入金遅れが即、資金繰りの危機になる小さな飲食店にとっては重い。日本飲食団体連合会(食団連)が緊急声明を出す事態になった。
もう一つは地方銀行。時事通信の報道によれば、少なくとも5行が貸出を公表している。
| 地方銀行 | 貸出額 | 補足 |
|---|---|---|
| 東和銀行(群馬) | 80億円 | 無担保58.8億円を引当(貸し倒れに備えた計上)。連結純資産の8.83%にあたる |
| 三十三銀行 | 50億円 | 約27億円を引当 |
| 大光銀行(新潟) | 15億円 | — |
| 高知銀行 | 12億円 | — |
| 島根銀行 | 8億円 | — |
地方銀行が利回りを求めて中堅の金融関連企業へ融資を広げてきたと指摘されるなか、その運用のリスクが表面化した形とも読める。
なお、この5行のような直接の融資とは別に、全東信の私募債(社債)を保証する形で名前が挙がった銀行もある(たとえば愛媛銀行は2020年に2億円の無担保社債を全額引き受け・保証していた)。こちらは今回の損失として開示されたものではないが、地銀の与信が融資以外の形でも広がっていたことがうかがえる。
調べ終えて、残ったこと
一通り追ってみて、ぼんやりした勘違いの正体がやっと見えた。ぼくは「決済代行」を回線をつなぐだけの地味な事業だと思い込み、そこに「早期入金」がつくと実質は金融業になる、というところを見落としていた。
決済代行に「早期入金」がつくと、それはもう金融業だ。にもかかわらず、金融としての管理や規律が薄いまま走ってしまう構図があり得る。「審査が甘い・入金が早い・手数料が安い」で加盟店を集め、借入で立替を回すモデルは、便利さと引き換えに、信用が崩れた瞬間の脆さを抱えている。
売上金を外部の事業者に預けるということは、その事業者の資金繰りに自分の日銭を乗せるということでもある。決済会社を選ぶときに見るべきは、手数料の安さだけではない。入金のサイクル、資金保全の仕組み、そして事業が止まったときにお金がどう扱われるか。全東信の一件は、そのことを静かに思い出させる。
そして、ぼく自身への教訓もひとつ。「潰れようがない」と感じたら、たいていは自分がどこかを見落としている。今回で言えば、それは「全部が借金で回っている」という一点だった。
注記: 本稿は2026年7月時点の報道をもとに、破綻の仕組みを素人なりに整理したものである。詐欺(組織犯罪処罰法違反)はあくまで容疑であり、手口の詳細や、A(構造的損失)と B(詐欺)の金額の割合は公表されていない。確定は今後の捜査・裁判による。
主な情報源
- ITmedia NEWS「全東信、破産を招いた『2つの事件』 カード決済の"駆け込み寺"消滅」
- 時事通信「全東信破産の影響、地銀に波及」
- 日本経済新聞「クレジットカード決済代行の全東信が破産 負債1259億円」
- 帝国データバンク「今年最大の倒産『全東信』が破産、負債約1259億2900万円」
- 朝日新聞/ABCニュース/Yahoo!ニュース エキスパート(三輪大輔・中村智彦)各記事
