はじめに
AIエージェントが社内で増えてくると、こんな悩みが出てきませんか?
- どのエージェントが、どのデータやツールにアクセスしているのか分からない
- エージェントが想定外の操作をしないか不安
- 社内にどんなエージェントがあるのか、そもそも把握できていない
エージェントが増えるほど、こうした "管理の抜け漏れ" が起きやすくなります。
こうした課題に対して、Google Cloudの Gemini Enterprise Agent Platform にどのような機能があるのかを調べてみました。
Agent Platformにはエージェントを管理するためのガバナンス機能が一通り用意されており、2026年6月には主要な機能がGA(一般提供)になっていました。
この記事では、各機能で何ができて、どんな課題の解決につながるのかを整理します。
3行まとめ
- 「エージェント専用のID」「エージェントの台帳」「通信の関所」の3つが、ガバナンスの基本セット
- この3つに加え、Gatewayで使うIAMポリシーとModel Armorも、2026年6月までにすべてGA
- 自然言語のルールでツール呼び出しを審査する「Semantic Governance」は、現在Preview
2026年9月時点の情報です。
GA/Previewのステータスは変わることがあるので、最新情報は各セクションの公式リンクを確認してください。
エージェント開発に関する前回記事はこちら
そもそも「Agent Platform」とは?
Gemini Enterprise Agent Platformは、Vertex AIを統合・発展させた新しいプラットフォーム です。2026年4月22日(Google Cloud Next '26の期間中)に初回リリースされました。
このリリースで次の変更が行われています。
- Vertex AIとAgent Builderが、Agent Platformに統合
- 「Agent Engine」が「Agent Runtime」に名称変更
ガバナンス機能の全体像
Agent Platformのガバナンスは、主に次の4つの要素で構成されています。
| 要素 | ひとことで | 答えてくれる問い |
|---|---|---|
| Agent Identity | エージェント専用のID | このリクエストは「誰(どのエージェント)」から? |
| Agent Registry | エージェントやMCPサーバーの台帳 | 接続先は「承認済み」のものか? |
| Agent Gateway | すべての通信が通る関所 | この通信を通してよいか? |
| ポリシー | 関所で適用するルール | どんな条件なら許可するか? |
ポイントは、エージェントの通信をAgent Gatewayに集約し、そこで「誰が・どこへ・何をするか」をまとめてチェックする 構成になっていることです。
Agent Identity:エージェント専用のID
エージェント1つひとつに、SPIFFEという標準規格に基づいた固有のID を割り当てる機能です。エージェントはこのIDを使って、MCPサーバーやクラウドリソース、他のエージェントに認証します。
公式ドキュメントの説明をもとに、これまでよく使われていたサービスアカウントと比べると、次のような違いがあります。
| 観点 | サービスアカウント | Agent Identity |
|---|---|---|
| 共有 | 複数のワークロードで共有できる | デフォルトではエージェントごとに固有 |
| なりすまし | 権限があれば別の主体が借用できる | 借用(impersonation)できない |
| 鍵の漏洩リスク | 長期間有効な鍵を発行できる | 長期間有効な鍵は発行できない |
エージェントごとにIDが分かれることで、次のことができるようになります。
- 「どのエージェントが何をしたか」を監査ログで追える
- 権限をエージェント単位で細かく絞れる
Agent RuntimeやGemini Enterprise上のエージェントには、Agent Identityが自動で割り当てられます。
Gemini EnterpriseでのAgent Identity対応は、執筆時点ではPreviewです。
参考:
Agent Registry:エージェントとMCPサーバーの台帳
組織内のエージェントやMCPサーバーを、一元的に登録・検索できるカタログ です。API・クライアントライブラリ・Terraformで管理でき、A2Aプロトコル v1.0 にも対応しています。
台帳があることで、次のことができるようになります。
| 効果 | 内容 |
|---|---|
| 見える化 | 組織内のエージェントやMCPサーバーを一か所で把握・管理できる |
| 検索 | 必要なエージェントやMCPサーバーを台帳から探して見つけられる |
| アクセス管理 | Agent Gatewayが台帳の情報をもとにアクセス制御を行うので、「どのエージェントが、どの接続先を使ってよいか」を台帳ベースで管理できる |
Gemini Enterpriseからも利用でき、台帳から選んだエージェントやMCPサーバーを、Gemini Enterpriseのアプリに追加できます。
Agent Gateway:すべての通信の関所
エージェントに関わる通信の出入り口 となるネットワークコンポーネントで、対象になるのは、次の3種類の通信です。
Gatewayを通る通信には、次のポリシーをまとめて適用できます。
| ポリシー | 役割 | ステータス |
|---|---|---|
| IAMポリシー | どのエージェントが、どのMCPサーバー・ツール・他のエージェントにアクセスできるかを許可・拒否 | GA(2026年6月24日) |
| Model Armor | プロンプトやレスポンスに含まれる個人情報の漏洩やプロンプトインジェクションを検知 | GA(2026年6月24日) |
| Semantic Governance | ツール呼び出しが意図やルールに沿っているかを判定(後述) | Preview |
公式ドキュメントで説明されている主なメリットは、次の3つです。
- 一元管理:アクセス制御のポリシーを1か所で作成し、まとめて管理できる
- 想定外のアクセス防止:エージェントが許可されていない外部サービスにアクセスするのを防げる
- 安全な導入:「ドライラン」モードで、いきなりブロックせずにルールの影響をログで確認してから適用できる
Agent RuntimeやGemini EnterpriseはAgent Gatewayとネイティブに連携しており、エージェントの通信をGateway経由にできます。
参考:
Semantic Governance:自然言語のルールでツール呼び出しを審査
エージェントがツールを呼び出そうとしたときに、LLMが次の2点を判定し、問題があれば呼び出しをブロックする機能です。
- ユーザーの本来の意図に沿っているか
- 社内ルールに違反していないか
ルールはプログラムではなく、普通の文章で書けます。
公式ドキュメントでは、次のような例が紹介されています。
| 状況 | 判定 |
|---|---|
| ユーザーは「カレンダーを要約して」と頼んだのに、エージェントがメール送信ツールを呼ぼうとした | 意図と合わないのでブロック |
| 「75ドルを超える返金は自動処理しない」というルールがある状態で、89ドルの返金を実行しようとした | ルール違反なのでブロック |
IAMは主に「権限があるかどうか」で判定する仕組みですが、Semantic Governanceは 「権限はあるけど、今それをやるのはおかしい」 を止められる点が大きな特徴です。
| 観点 | IAM | Semantic Governance |
|---|---|---|
| 判定方法 | 静的なルール | LLMによる意味の解釈 |
| 見ているもの | 権限の有無 | ユーザーの意図・会話履歴・社内ルール |
| 防げること | 権限のないアクセス | 悪意あるメールなどに誘導された不正操作、業務ルール違反 |
また、ルールを変えてもエージェントのコードを再デプロイする必要がないため、頻繁に変わる業務ルールにも対応できます。
なお、IAMを置き換えるものではなく、IAMなどの既存の対策に重ねて使う追加のレイヤー という位置付けです。
Semantic GovernanceはPreview機能です。
公式ドキュメントでは、LLMによる判定のため誤判定の可能性があること、VPC Service Controlsに対応していないことが明記されています。
まとめ
- Agent Platform(旧Vertex AI)では、Identity・Registry・Gateway の3つがエージェントガバナンスの基本セット
- エージェントの通信を Agent Gatewayに集約 し、IAMやModel Armorのポリシーをまとめて適用できる
- 基本となる機能は 2026年6月までにすべてGA となっている
- Semantic Governance は「権限はあるけど、今それをやるのはおかしい」を止められる新しいレイヤー
エージェントの数が増えるほど、「作る」より「管理する」ほうが難しくなっていきます。
今回調べた機能を組み合わせることで、冒頭で挙げたような「管理の抜け漏れ」の課題はかなり解消できそうだと感じました。
本番でエージェントを動かしている方、これから動かす予定の方は、公式ドキュメントもあわせて確認してみてください。
