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GAFAの量子コンピュータ戦略


GAFAと量子コンピュータ

量子コンピュータは次世代の大量データ処理の基盤として現在のコンピュータに代替されるものとして世界中で開発が進んでいます。その中でも量子コンピュータの開発やソフトウェア基盤、ユーザー基盤を主導しているのがGAFAと呼ばれる巨大IT企業です。

最近では中国のAlibaba,Tencent,Huawei,Baiduなどもこぞって量子コンピュータに参入をして着実に成果を出し始めています。

なぜIT企業がこれまで量子コンピュータに力を入れるのかを分析し、そしてそれぞれの企業の取っている戦略の違いをビジネス背景とともにみてみたいと思います。


GAFAのアイデンティティに関わる量子コンピュータ

量子コンピュータはこれまでのコンピュータを凌駕する性能を持つと言われている一方で、より現実的に現在のコンピュータの機能の互換性をもつという汎用性があります。

量子コンピュータでは、01のデジタルで計算を行う他に、量子の波動を利用した重ね合わせやもつれなどを使った新しい高速性を実現することが期待されています。既存計算機で行う計算は全て再現できると言われており、将来的に量子コンピュータの動作速度が速くなれば既存計算機を入れ替えることも理論的にはできます。

ただ、現状は性能として汎用性が既存計算機に比類するほどの性能を持たせるのは困難で、日々世界中で技術開発が行われています。

一方で、現在私たちが利用しているコンピュータに搭載されているプロセッサの微細化と性能が限界に近づいていると言われており、既存計算機のCPUの性能はしばらく進歩が衰えており、それらがintelなどの半導体メーカーの業績などにも影響を与えています。CPUの性能が上がらず、ムーアの法則と呼ばれる性能向上のルールが崩れたため、現在ではGPUのように、複数のコアを並列に並べて性能を出そうという方向に技術発展しています。

並列計算はスパコンやGPUのようなマシンに利用されており、1つのコアを改善する他に並列にたくさんの処理を行い、単独コアの性能向上を助けるような使われ方がされますが、たくさん並べるほどに性能をあげようとしています。使われるアプリケーションも画像解析などCPUの得意分野と少し異なりますが、並列に並べるほどに消費電力が増大するという問題が発生し、それらがコストに跳ね返ってきています。

ソフトウェアの性能改善だけでは限界があり、ハードウェアの性能が上がらないといけないわけですが、常にGAFAなどのIT大手はハードウェアの進歩とともにソフトウェアを両輪で活用して業績を伸ばし、現在のシステムやビジネスモデルを維持しきたわけですので、それらの両輪がなりたたないとビジネスが成り立たなくなってしまいます。

それらGPUの次の技術として「現実的」に検討され、開発が進んでいるのが量子コンピュータです。次のハードウェアを発展させるというのは、GAFAにとっては彼らのアイデンティティの確保と同じ意味を持ちます。


量子コンピュータはもはや夢のマシンでない

量子コンピュータは夢のマシンと言われていますが、現在の開発進捗を見る限りは極めて現実的なマシンと言えそうです。量子コンピュータは現在のコンピュータとは動作原理が異なります。現在コンピュータが01のデジタル計算をベースに構築されている一方で、量子コンピュータはデータの01を連続値の複素数で取ることができます。その分動作速度が遅くなりますが、そのような連続的に操作するアナログ性にデジタル化する機構を加えることでデジタルに近づける動作原理になっています。

現状の開発状況は20-100量子ビット程度の開発が進んでおり、デジタル化はまだ進んでおらずアナログ計算のまま行い、アプリケーションも量子シミュレーションと呼ばれるエラーを少し許容するようなものや、組合せ最適化問題と呼ばれる厳密解が求めにくいもともと確率計算になっているようなものが中心に開発が進んでいます。

量子コンピュータの開発は世界中で行われていますが、1980年代から着々と進んできた理論構築により、計算理論は世界中で共通化されています。そのため、計算のゴールは比較的明確であるためにハードウェア開発の目標は定まっており、これまで開発が困難と言われていた量子コンピュータも現実的に開発が進んでおり、技術的な障壁を1つずつ解決している段階です。


GAFAの異なる戦略

GAFAはGoogle,Amazon,Facebook,Appleのような大手IT企業が中心となっていますが、それぞれの開発戦略は大きく異なります。

まず、現在の量子コンピュータ開発を積極に行なっている大企業はGoogle,IBM,Microsoftのような企業が中心となっています。 Amazon,Facebook,Appleが直接的に量子コンピュータを開発しているという声は聞こえてきません。

それらを少しずつ見ていきましょう。


Google

Googleは量子コンピュータを積極的に開発しています。彼らが進めているのは量子超越性と呼ばれる既存コンピュータの性能を量子コンピュータが超えるということを目指しています。超えるというのは、現在の最も性能の良いスパコンに対して、手のひらサイズの小さな量子コンピュータのチップがその速度を超えるということを目指しています。

量子コンピュータは手のひらサイズの量子コンピュータですが、コヒーレンス状態と呼ばれる量子状態を保持したまま計算を行う必要があり、その量子状態は現在並列化を行うことができません。また、計算時間も決まっています。

手のひらのチップが量子コンピュータの計算能力を超えるということがまさに今行われており、その実証に開発を進めているのがGoogleです。計算自体はランダムな計算回路で、なんでも計算が速くなるというわけではないですが、まずはそこから実証を始めるということを進めています。

また、後述しますが、Google本体とは別にGoogle Venturesはイオントラップと呼ばれる別型の量子コンピュータにも投資をしています。

また、Googleは量子コンピュータ向けのツールを非公式で提供しています。

https://github.com/quantumlib/Cirq

CirqやOpenfermionは量子コンピュータを使うためのSDKであったり、それを利用できる現実的なアプリケーションを提供しますが、これらは「非公式」で提供されています。

また、Googleはクラウド環境であるGoogle Cloud Platformを持っていますが、それらに量子コンピュータを搭載するということは数年前に明言しているものの、肝心のチップ自体がまだ量子超越を実現していないため、計画が進んでいるという話は聞きません。

https://gigazine.net/news/20170718-google-quantum-computing-cloud/

グーグルはまだ達成できるかわからない量子超越に対してソフトウェアやその他を非公式で準備しながら、イオントラップにも出資を行なって保険をかけている状況です。


Amazon

アマゾンが量子コンピュータ単体を作っているという話は聞きません。その代わりにamazonはイオントラップと呼ばれる超電導とは異なるタイプのマシンに投資を行っています。イオントラップは原子核をイオン化し、それをレーザーで操作することで量子計算を行う汎用量子コンピューターです。

https://ionq.co/

イオントラップ自体はノーベル賞を多々取っているレーザーの精密技術ですので、その技術を使って量子計算を行うということが計画されていました。しばらくその情報はあまり外には出ず、IonQというベンチャー企業がクラウドでイオントラップ計算を提供するというアナウンス以外はあまり明らかになっていませんでしたが、つい最近その性能が明らかになり、160量子ビットを実現し、79量子ビットの演算を実現というように超電導量子ビットを超越するような性能をアピールしています。

https://pc.watch.impress.co.jp/docs/news/1158837.html

アマゾンはそのIonQに出資を通じてビジネス展開を狙っていると思われ、つい最近Amazon Primeの技術責任者をIonQのCEOに据えて事業化を拡大するものと思われます。

http://fortune.com/2019/05/21/amazon-prime-google-quantum-computing-startup-ceo/

IonQはGoogle Venturesも出資しているため、AmazonとGoogleがイオントラップのクラウド化を狙っている構図が浮かび上がります。

アマゾンは自社開発を行わず、出資を通じて有力技術を獲得しそれらのクラウド搭載を狙っています。


Facebook

Facebookも量子コンピュータの開発を進めている気配はありません。その代わりMicrosoftが開発を進めています。MicrosoftはFacebookの株主でもあり、facebook自体は開発している気配はありませんが、Microsoftには戦略があります。

Microsoftは量子コンピュータに力を入れていますが、それらはGoogleやAmazonとも戦略が異なります。MicrosoftはQ#と呼ばれる量子コンピュータ向けの言語を提供しており、ユーザーの囲い込みを加速させています。

https://wired.jp/2017/10/10/microsoft-wants-coders-take-a-quantum-leap/

ハードウェアはマヨラナフェルミオンを使ったトポロジカル量子コンピュータというのを作っているとアナウンスしていますが、数年でできるような技術ではないのでハードウェアに力を入れている雰囲気はありません。マヨラナフェルミオン自体の粒子が厳密に見つかっておらず、マヨラナが見つかったとしてもそれらを操作して量子計算する過程がまだ不明確で机上の計画というレベルで落ちつています。

ハードウェアの進捗が芳しくない一方で、ソフトウェアにはとても力を入れており、Q#言語およびそれらを利用したライブラリの利用など、また大手のアプリケーションとの連動によって魅力的なニュースを繋げることでユーザーを増やしています。

最近では、Q#の開発環境をオープンソース化し、さらなるユーザーの囲い込みを進めています。

https://jp.techcrunch.com/2019/05/10/2019-05-06-microsoft-open-sources-its-quantum-computing-development-tools/

マイクロソフトはハードウェアは重視せずソフトウェアの開発環境の構築とユーザーの囲い込みを進めています。マイクロソフトとつながりの深いintel社は超電導および量子ドットと呼ばれるintelの強みを生かした量子コンピュータ技術を開発しており、intel社自体はユーザーの囲い込みをしていないためそれらの役割分担が明確に行われているようにも見えます。

intel社はフィンランドの有力冷凍機メーカーのBlueforsとの協業を発表したりと着実に開発環境を構築しつつあります。それらの役割分業を通じて量子コンピュータ業界を見ることでより展開を予想することができます。


Apple

アップルは基本的にiPhoneを中心にハードウェアを販売して利益を取っており現実的な方法でビジネスを行なっており、量子コンピュータには大きく注目はしていないように見えます。量子コンピュータは超電導と呼ばれる冷却をしながら特殊な環境下に置いて大型の設備で運用されますのですぐにはユーザーの手元に届くことはありません。

GAFAでもクラウド経由でのサービスの提供が強いところは量子コンピュータをクラウド経由で提供することを目指していますが、そうでない場合にはあまりすぐに巨額を積んで開発を行う必要性もなさそうです。


中国勢

AlibabaやTencentのような中国勢は量子コンピュータの技術ではあとを追う立場です。Alibabaや中国科学院は多額の投資を行なっており、技術力が急速に高まっています。Alibaba社はGoogleと同様の超電導量子ビットの開発に加えてスパコンでの量子コンピュータのシミュレータの開発を行なっています。Huaweiもシミュレータに力を入れています。

また、Tencentは最近世界中の量子コンピュータの会議に積極的にスポンサードや発表を通じて参加が始まっているのでいよいよ中国の勢いも増してきました。


業界まとめ

現在業界は、主にハードウェアを開発する大手IT企業、主に開発言語や開発ツールキットを提供する大手IT企業など企業によって大きく戦略が異なりました。それぞれの企業が出している利益や戦略の違いがそのまま量子コンピュータにも現れています。

アプリケーションを作成するベンチャー企業やエコシステムの構築が世界中で加速度的に実現されてきておりその勢いはとどまるところを知りません。

しばらくはGAFAなどの大手企業を中心に量子コンピュータの市場が開発され、気づいたら身の回りに自然に量子コンピュータが利用されていたというような状況になると思われます。

夢のマシンから身近なマシンに変貌しつつある量子コンピュータをぜひ未来動向を予測するために把握して置きたいと思います。