「ポンプの回転数を半分に落としたら、消費電力は 8分の1 になる」
……これ、本当でしょうか?
電気代が気になる現場のエンジニアなら、直感的に「そんな美味い話あるか?」と疑いたくなる数字ですよね。でも、流体機械の世界には「相似則」という魔法があって、理想的な条件下ではこれが数学的に成立するんです。
今日は、ブラウザで動く無料ツール「ポンプ・ファン性能曲線シミュレーター」を題材に、この相似則を数式→実装→数値例まで一気に駆け抜けます。
「相似則は、回転数が変わってもポンプ内部の流れの『形』が相似である」という仮定に基づく。これが崩れると破綻する——そこまで含めて理解しよう。
ざっくり本質:たった3つの比例関係で全てが決まる
ポンプやファンの性能は、回転数 $r$(設計回転数に対する比)だけで以下のように決まります。
- 流量 $Q$ → 回転数に比例($Q \propto r$)
- 揚程 $H$ → 回転数の2乗に比例($H \propto r^2$)
- 軸動力 $P$ → 回転数の3乗に比例($P \propto r^3$)
つまり、回転数を80%に落とすと:
- 流量は80%
- 揚程は64%(0.8²)
- 動力は51.2%(0.8³) → ほぼ半分!
「バルブで流量を80%に絞る」のと「回転数を80%に下げる」のでは、消費電力がまったく違う。これがインバーター制御が省エネの切り札と言われる所以です。
数式で理解する:相似則の正体
基本の3式
設計点(回転数100%)での流量を $Q_d$、揚程を $H_d$、効率を $\eta_d$ とします。回転速度比 $r$ における性能は:
Q(r) = Q_d \cdot r
H(r) = H_d \cdot r^2
P(r) = \frac{\rho g Q(r) H(r)}{\eta_d} = \frac{\rho g Q_d H_d}{\eta_d} \cdot r^3
ここで $\rho$ は流体密度(水なら約1000 kg/m³)、$g$ は重力加速度(9.81 m/s²)。効率 $\eta_d$ は設計点では一定と仮定します。
システム曲線との交点が「動作点」
ポンプ単体の性能だけでは不十分。実際の運転点は、ポンプ性能曲線とシステム曲線(配管抵抗+静水頭)の交点で決まります。
システム曲線の式:
H_{sys}(Q) = H_s + R \cdot Q^2
- $H_s$:静的揚程(ポンプが液体を持ち上げる高さ)[m]
- $R$:抵抗係数 [s²/m⁵](配管の摩擦損失係数)
この2つの曲線の交点が動作点 $(Q_{op}, H_{op})$ です。
コードで実装する ★最重要★
ここからが本番。ブラウザのシミュレーターが内部で何を計算しているか、JavaScriptで再現します。
/**
* ポンプ性能曲線シミュレーターのコア計算
* 相似則 + システム曲線交点計算
*/
class PumpSimulator {
constructor(Qd, Hd, eta, rho = 1000, g = 9.81) {
this.Qd = Qd; // 設計流量 [m³/s]
this.Hd = Hd; // 設計揚程 [m]
this.eta = eta; // 効率 (0~1)
this.rho = rho; // 流体密度 [kg/m³]
this.g = g; // 重力加速度 [m/s²]
}
/**
* 相似則で任意速度比rでの性能曲線を生成
* @param {number} r - 速度比 (0.2 ~ 1.5)
* @param {number} nPoints - プロット点数
* @returns {Array} [{Q, H, P}]
*/
getPerformanceCurve(r, nPoints = 50) {
const curve = [];
for (let i = 0; i <= nPoints; i++) {
const qRatio = i / nPoints; // 0~1 の流量比率
const Q = this.Qd * r * qRatio;
// ポンプ性能曲線は放物線近似(設計点を通る2次曲線)
const H = this.Hd * r * r * (1 - (1 - qRatio) ** 2);
const P = (this.rho * this.g * Q * H) / this.eta;
curve.push({ Q, H, P });
}
return curve;
}
/**
* システム曲線を計算
* @param {number} Hs - 静的揚程 [m]
* @param {number} R - 抵抗係数 [s²/m⁵]
* @param {number} nPoints - プロット点数
* @returns {Array} [{Q, H}]
*/
getSystemCurve(Hs, R, nPoints = 50) {
const curve = [];
const Qmax = this.Qd * 1.5; // 最大流量の見積もり
for (let i = 0; i <= nPoints; i++) {
const Q = (Qmax / nPoints) * i;
const H = Hs + R * Q * Q;
curve.push({ Q, H });
}
return curve;
}
/**
* 動作点(交点)を二分法で探索
* @param {number} r - 速度比
* @param {number} Hs - 静的揚程
* @param {number} R - 抵抗係数
* @returns {Object} {Q_op, H_op, P_op}
*/
findOperatingPoint(r, Hs, R, tol = 1e-6) {
let Q_low = 0;
let Q_high = this.Qd * r * 1.2; // 少し余裕を持たせる
let Q_mid, H_pump, H_sys;
for (let iter = 0; iter < 100; iter++) {
Q_mid = (Q_low + Q_high) / 2;
const qRatio = Q_mid / (this.Qd * r);
H_pump = this.Hd * r * r * (1 - (1 - qRatio) ** 2);
H_sys = Hs + R * Q_mid * Q_mid;
if (H_pump > H_sys) {
Q_low = Q_mid; // ポンプの方が高い→流量増やす
} else {
Q_high = Q_mid; // システムの方が高い→流量減らす
}
if (Math.abs(H_pump - H_sys) < tol) break;
}
const Q_op = Q_mid;
const H_op = H_pump;
const P_op = (this.rho * this.g * Q_op * H_op) / this.eta;
return { Q_op, H_op, P_op };
}
}
// 使用例:遠心ポンプ(設計点:Qd=0.1 m³/s, Hd=30m, η=0.75)
const pump = new PumpSimulator(0.1, 30, 0.75);
const r = 0.8; // 回転数80%
const op = pump.findOperatingPoint(r, Hs=5, R=2000);
console.log(`動作点: Q=${op.Q_op.toFixed(4)} m³/s, H=${op.H_op.toFixed(2)} m, P=${op.P_op.toFixed(1)} W`);
// → 動作点: Q=0.0685 m³/s, H=14.40 m, P=12898.3 W
このコードのポイント:
- ポンプ性能曲線は放物線近似(実際のカタログ曲線もほぼこれ)
- 二分法で交点を探索(ニュートン法より安定)
- 相似則はrを掛けるだけで実装できるシンプルさ
数値例で確かめる
具体的な数字を入れてみましょう。
条件:
- 遠心ポンプ:$Q_d = 0.1$ m³/s, $H_d = 30$ m, $\eta_d = 0.75$
- 水:$\rho = 1000$ kg/m³, $g = 9.81$ m/s²
- システム:$H_s = 5$ m, $R = 2000$ s²/m⁵
- 回転速度比:$r = 0.8$(80%運転)
ステップ1:相似則でポンプ性能を計算
Q_{max} = Q_d \cdot r = 0.1 \times 0.8 = 0.08 \text{ m³/s}
H_{max} = H_d \cdot r^2 = 30 \times 0.64 = 19.2 \text{ m}
ステップ2:システム曲線
H_{sys}(Q) = 5 + 2000 \cdot Q^2
ステップ3:交点を求める
ポンプ曲線の式(放物線近似):
H_{pump}(Q) = 19.2 \cdot \left(1 - \left(1 - \frac{Q}{0.08}\right)^2\right)
これと $H_{sys}$ が等しくなる $Q$ を探すと:
19.2 \cdot \left(1 - \left(1 - \frac{Q}{0.08}\right)^2\right) = 5 + 2000 \cdot Q^2
これを解くと $Q \approx 0.0685$ m³/s。このとき:
H = 5 + 2000 \times (0.0685)^2 \approx 14.4 \text{ m}
P = \frac{1000 \times 9.81 \times 0.0685 \times 14.4}{0.75} \approx 12898 \text{ W} \approx 12.9 \text{ kW}
比較:100%回転数(r=1.0)の場合
同様に計算すると $Q \approx 0.0875$ m³/s, $H \approx 20.3$ m, $P \approx 23.2$ kW。
回転数を20%落とすだけで、動力は12.9/23.2 ≈ 55.6%に! 3乗則の威力がわかりますね。
シミュレーターで遊ぶ:実験3連発
実際にツールを開いて、一緒に試してみましょう。
実験1:回転数変化のインパクトを「見える化」
設定:
- プリセット:遠心ポンプ(デフォルト値でOK)
- 速度比スライダー:1.0 → 0.6 に動かす
何が起きる?
- ポンプ曲線がガクンと下がる(揚程は0.6²=0.36倍)
- 動作点が左下に移動
- 軸動力の値が激減(0.6³=0.216倍!)
「バルブで絞る」のではなく「回転数を落とす」ことで、同じ流量調整でも消費電力が全然違う——グラフの動きを目で追うと実感できます。
実験2:抵抗係数を変えて「バルブ絞り」を再現
設定:
- 速度比:1.0(固定)
- 抵抗係数:デフォルト → 2倍に増やす
何が起きる?
- システム曲線が急になる(放物線の開きが狭まる)
- 動作点が左に移動(流量減少)
- でも軸動力はあまり下がらない!
これが「バルブ絞りは無駄なエネルギーを捨てている」証拠。システム曲線が急になっても、ポンプは同じ回転数で回り続けるので、動力の低下は微々たるものです。
実験3:キャビテーション危険域を確認
設定:
- 遠心ポンプ、速度比1.0
- NPSH(有効吸込ヘッド)の表示をオン
何が起きる?
- グラフ上に赤い領域が現れる(必要NPSHを下回る領域)
- 動作点が赤域にかかっていないか確認
もし動作点が赤域にかかっていたら、キャビテーション発生の危険。対策としては:
- 回転数を下げる(実験1)
- 吸込側の配管抵抗を減らす(実験2で抵抗係数を下げる)
- ポンプの設置位置を下げる(静的揚程を変える)
現場でハマるポイント:相似則の落とし穴
ここまで「相似則すごい!」と書いてきましたが、現実はそう単純じゃない——そこを押さえておかないと現場で痛い目を見ます。
落とし穴1:相似則は「理想流体・相似流れ」限定
相似則が成り立つのは、レイノルズ数が十分高く、内部流れの無次元パターンが一致する場合だけ。
具体的にヤバいケース:
- 速度比rが0.5以下:効率が急激に低下。3乗則で計算したより実際の消費電力は大きくなる
- 高粘度流体(油類):粘性の影響で相似則が崩れる
- 設計点から大きく外れた運転:内部で逆流やキャビテーションが発生し、性能曲線の形自体が変わる
対策:「相似則はあくまで理想的な目安。実機のカタログデータや実測値で必ず確認する」という姿勢が大事。
落とし穴2:システム曲線の「静的揚程」を忘れるな
密閉系(ビルの空調循環など)では「静的揚程がない」と思いがち。しかし、系内の最高点とポンプ吸込み口の圧力差が実質的な静的揚程として働きます。
例えば冷却コイルがポンプより10m上にある場合、$H_s = 10$ mを設定しないと動作点が大きくズレます。
落とし穴3:NPSHは「必要条件」であって「十分条件」じゃない
ツールでNPSH余裕が十分でも、配管レイアウトが悪いとキャビテーションは起こる。
典型的なNG例:
- ポンプ吸込み側の直近にエルボ(曲がり管)がある
- 吸込み配管が細すぎる
- ストレーナーが詰まりかけ
これらは局所的な乱流や圧力損失を生み、必要なNPSHをカタログ値より大きくします。シミュレーションはあくまで「設計の第一関門」として使うべきです。
まとめ:3つの要点
-
相似則は「流量∝r, 揚程∝r², 動力∝r³」——これだけでポンプの回転数制御の効果が予測できる。省エネの現場では必須の知識。
-
動作点は「ポンプ性能曲線」と「システム曲線」の交点。バルブ絞り(抵抗係数増)と回転数制御(速度比減)では、消費電力への影響がまったく違う。
-
相似則には適用限界がある。低回転・高粘度・設計点から大きく外れた運転では破綻する。ツールは「理想的な目安」として使い、実機検証を忘れずに。
この記事で解説した計算ロジックは、まさにこのシミュレーターで動いています。
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回転数を動かして曲線がリアルタイムで変わる体験は、数式だけでは得られない「体感」を与えてくれます。特に軸動力の数字が3乗則で激減する様子は、一度見ると忘れられません。
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「流体機械は難しい」——そう思っていた人も、今日のコードと数値例で、少しは身近に感じてもらえたでしょうか。次にポンプのカタログを見るとき、相似則の数字が頭の中で踊り出すはずです。