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UAFを核としたエンタープライズアーキテクチャ・ライフサイクルガイド

Last updated at Posted at 2025-10-13

前置き

UAFを思考のフレームワークとして活用したエンタープライズアーキテクチャの設計・構築・運用プロセスを、一つの体系的なガイドとして超具体的に整理してみました。

これは、UAFを静的な「設計図」ではなく、ビジネスと共に進化する 羅針盤として使いこなすための実践的な方法論です。

このガイドは、戦略(Why)から物理実装(How)までを一気通貫で繋ぎ、
継続的なフィードバックによって進化し続けるアーキテクチャを構築・維持するためのプロセスを定義してくれるでしょう。

大きく5つのフェーズに分かれており、これを何度も運用過程でサイクルを回し続けて、
改善し続ける必要があります。

フェーズ1:戦略的アラインメントとアーキテクチャ仮説の策定 (St-V, Sc-V)

このフェーズのゴールは、
ビジネス戦略とIT戦略を完全に整合させ、アーキテクチャ全体の「北極星」となる目的と、その実現に向けた大局的な方針を決定すること。

📜 ステップ1-1:事業目標とケイパビリティの定義 (St-V)

①. 事業ビジョンの理解

経営層と対話し、中期経営計画や事業戦略から「3年後にどんな事業体になっていたいか」を明確にします。

②. ケイパビリティの洗い出し

事業目標達成のために 「何ができるようにならなければならないか (What)」 を、
永続的な能力 (Capability) として抽象的に定義します。

事例
・「リアルタイムな顧客行動分析能力」
・「グローバル規模でのサプライチェーン最適化能力」

③. ケイパビリティマップの作成

ケイパビリティを一覧化し、現状の成熟度(As-Is)と目標とする成熟度(To-Be)を評価し、投資の優先順位を決定します。

⚖️ ステップ1-2:アーキテクチャ原則と戦略的トレードオフの決定

①. アーキテクチャ原則の定義

今後の意思決定の拠り所となる原則を定義します。(例:「再利用性を独立性より優先する」「データは戦略資産として管理する」「内製化を推進する」)

②. 【※最重要】再利用性 vs 独立性の戦略決定

問い

「複数の事業で共通のケイパビリティが必要な場合、それを共有サービスとして構築するか? それとも各事業が個別に構築することを許容するか?」

再利用性重視の場合

効率性、一貫性、コスト削減を狙う。

後のフェーズで共有サービスのガバナンス、セキュリティ、性能設計が極めて重要になる。

独立性重視の場合

各事業のスピード、自律性を最大化する。
つまり、意図的な 技術的負債(重複実装) を許容する。

これは、DRY原則には反するが、ビジネス上の合理的な判断となり得る。

この決定をADR (Architecture Decision Record) として明確に記録します。

さらに、事業の壁を越えて、その重複業務部分に対する情報交換として、定期的な
ギルド活動の時間を設けておきましょう。

フェーズ2:論理オペレーションの概念設計 (OV-V)

このフェーズでは、戦略的ケイパビリティを実現するための具体的な業務シナリオ(仮説)を構築し、システムが扱うべき「情報」「活動」「実行者」を論理レベルで定義する。

🗺️ ステップ2-1:High Level Operational Concept (OV-1) の策定

シナリオの定義

優先度の高いケイパビリティを実現するための代表的な業務シナリオを、5W1Hで記述した一枚の概念図として作成します。 これが 「アーキテクチャ仮説」 そのもの。

・Why:(St-Vのケイパビリティ)

・What:主要な活動(この中のいずれかが、コア業務の候補)

・Who:参加者 (Operational Performer)

・Where/When:地理的・時間的文脈

・How:参加者間の大まかな連携

🧠 ステップ2-2:Operational Performer の定義とドメイン分割

①. Performerの洗い出し

OV-1に登場する「Who」をOperational Performerとして定義します。
これは人、組織、システムなどです。

②.【DDDとの接続】Performerを論理モジュールと見立てる

各Performerを

「データと、そのデータを操作するロジック(活動)が強く凝集した論理的な塊」

と捉えます。
これはDDDにおける境界づけられたコンテキストの初期仮説と非常に近しい概念です。

Operational Performerが所有・責任を持つ情報 (InformationElement) と活動 (Operational Activity) を割り当てます。

③. ACID/BASEによる境界の検証

仮説としては、

「Operational Performerの境界は、ACID特性を満たすべきトランザクション境界と一致するのではないか?」

・正常系・異常系のシナリオをアクティビティ図 (OV-5b) などで分析し、情報の一貫性(アトミック性)が絶対に保たれなければならない範囲を見極めます。

・もし、ある活動が複数のPerformerにまたがり、かつそれがアトミックでなければならない場合、それらのPerformerは後続のフェーズで一つのサービスコンポーネントにまとめるべき強力な候補となります。

・逆に、結果整合性で十分な(BASE特性が許容される)連携であれば、それらは分離されたコンポーネントとして実装し、Sagaパターンなどを適用すべき候補となります。

フェーズ3:サービスコンポーネントの論理設計 (SvcV)

このフェーズでは、論理的なOperational Performer群を、具体的な マイクロサービス(Service Component) の単位に凝集・分割し、APIを定義する。

🧩 ステップ3-1:サービスコンポーネント(マイクロサービス量子)の定義

①. Performerのグルーピング

フェーズ2のACID/BASE分析に基づき、Operational PerformerをService Componentへとマッピングします。

必ず守らないといけない原則

トランザクション境界をまたげないPerformer群は、1つのService Componentに凝集させる。

②. サービスTaxonomyの定義

Service Componentを一覧化したマトリクス(SV-1)を作成します。
これがマイクロサービスアーキテクチャの全体像となります。

③. データ所有権の明確化

各Service Componentが、どの情報(論理スキーマ)のSystem of Record (SoR) であるかを明確に定義します。これにより、データの責任の所在が明確になります。

🔌 ステップ3-2:サービスインターフェース(API)の設計

①. 情報隠蔽と公開

Service Component内部のOperational Activityのうち、外部に公開する必要があるものだけをサービス仕様 (Service Interface) へと昇華させます。

これが具体的なAPI(例: REST APIのPOST /orders)の設計の元になります。

②. サービス間の連携定義

ビジネスプロセスを実現するために、どのService ComponentのどのAPIが、どのような順序で呼び出されるのかをシーケンス図 (SV-10c) などで定義します。

この連携が 分散トランザクション(Saga)

を形成します。

※③. 共有サービスのリスク分析

もし複数の事業で共有されるService Componentがある場合、この段階でマルチテナント性を考慮した設計を行います。

脆弱性

テナント間のデータ漏洩を防ぐための論理的な分離機構(テナントIDによるアクセス制御など)をAPI仕様に組み込みます。

この段階で素早く、脅威モデリングをしておくことを推奨します。

「データは漏洩してしまう」という前提でリスク分析をしましょう。

契約

事業間で満たすべきSLA(性能、可用性)を定義します。

フェーズ4:物理・技術アーキテクチャの設計 (Rs-V)

このフェーズでは、論理的なサービスコンポーネントを、具体的なインフラストラクチャや物理データモデルにマッピングし、非機能要件を満たすための技術的な仕組みを設計する。

🖥️ ステップ4-1:システムアーキテクチャの配置

①. コンポーネントの物理配置

Service Componentを、サーバー、コンテナ(Kubernetes Podなど)、サーバーレス関数などの物理リソース (Artifact) にどう配置するかを決定します。

②. ネットワークセグメンテーション

セキュリティ要件に基づき、VPCやサブネットの構成を設計します。
特に、個人情報などを扱うサービスは、より厳格なネットワーク境界内に配置します。

③. インフラ要件の具体化

・共有サービスの場合

ノイジーネイバー問題を防ぐため、テナントごとのレートリミット、リソースを分離するためのPod分割、負荷増大に対応するオートスケーリングなどのインフラ要件を定義します。

・高可用性

冗長構成、マルチAZ/マルチリージョン配置などを定義します。

💾 ステップ4-2:物理データアーキテクチャの設計

論理から物理へ

Servicesビューで定義した論理スキーマを、具体的なデータベース製品(PostgreSQL, DynamoDBなど)の物理データモデル (PhysicalDataModel) に落とし込みます。

テーブル定義、インデックス設計などを行います。

データストアの選択

Service Componentの特性(トランザクション性、検索性、スケーラビリティ)に応じて最適なデータストア技術を選択します。

フェーズ5:運用、監視、そして進化 (フィードバックループ)

このフェーズでは、構築したアーキテクチャを実際に運用し、その結果を観測・分析することで、初期の仮説(High Level Operational Concept)を検証し、モデルを継続的に改善していきます。

🚀 ステップ5-1:実装とデプロイ

アーキテクチャと開発の接続

Service Componentを開発チームの責務範囲と一致させます(逆コンウェイの法則)。
UAFモデルは、チームが開発するべきマイクロサービスの仕様書となります。

CI/CD自動化

CI/CDパイプラインを構築し、Resourceビューで定義されたアーキテクチャに従ってデプロイを自動化します。

📊 ステップ5-2:監視とSLOによる仮説検証

①. SLI/SLOの設定

High Level Operational Conceptが達成すべきビジネス目標を、定量的なサービスレベル目標 (SLO) に落とし込みます。(例:「注文完了までのレイテンシ99%タイル値が500ms未満」)

②. 観測

SLI(サービスレベル指標)を継続的に計測し、SLOが達成できているかを監視します。

🔄 ステップ5-3:アブダクションとクリティカルシンキングによるモデル進化

①. 問題の検知

SLOが未達、あるいは頻繁にアラートが発生する場合、それは

「初期仮説(OV-1)が現実と乖離している」

というシグナルです。

②. アブダクション(仮説形成)

「もし、ユーザーが〇〇という想定外の操作をしていると仮定すれば、この性能劣化は説明できる」といったように、観測された事実を最もよく説明できる原因仮説を推論します。

③. クリティカルシンキング(仮説検証)

「その仮説は本当に正しいか?」
をログ、メトリクスなどの客観的データに基づいて検証します。

原因はOperationalな業務フローにあるのか、Resourceの技術的な問題なのか、あるいはその両方かを切り分けます。

④. モデルへのフィードバック

原因が業務フローにあった場合 →

Operationalビューのモデル(OV-1, OV-5bなど)を現実に合わせて修正します。

この修正がサービス境界の見直しを必要とする場合 →

Servicesビューのモデルを修正します。

このループを回し続けることで、UAFモデルは陳腐化することなく、

事業の現状を最も正確に反映した「生きたドキュメント」

として価値を保ち続けます。

まとめ

この一連のプロセスを通じて、UAFは単なる設計ツールから、戦略と実装を繋ぎ、ビジネスの変化に対応して自己進化を促すための、強力な思考フレームワークとなるのです。

非常に高難易度ではあるものの、再現性のあるエンタープライズアーキテクチャを構築し、
運用し続けるためには、必須の思考になっております。

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