はじめに
「上流工程をやりたい」「設計や要件定義を担当したい」──
そう考えるエンジニアは多いと思います。
ただ、上流工程という言葉が “手を動かさない立場” や “マネジメント寄りの仕事” と誤解されることも少なくありません。
しかし実際のところ、上流工程こそ“設計・開発の感覚”が最も求められる仕事です。
なぜなら、要件定義や設計の判断は、コーディングやシステム設計のリアルな感覚に支えられていなければ、現場を正しく導くことができないからです。
コードは「動けばなんとかなる」けれど、上流ではそうはいかない
プログラムの世界では、多少命名が甘くても、責務の分割が少し雑でも、
最終的にユーザーが期待する結果を返せれば、サービスを提供することはできます。
つまり「動くもの」を作るという意味では、多少の曖昧さも許容されます。
しかし、上流工程ではそうはいきません。
ここで定義される設計や用語、責務の分担があいまいだと、
そのズレは開発フロー全体に波及してしまいます。
- チーム間で認識がずれる
- 設計書や仕様の整合性が取れなくなる
- 実装段階で手戻りが増える
- サービスの品質やスピードに影響する
上流工程の判断は、開発全体の「設計図」を描く行為です。
その基礎となるのが、設計・開発の感覚、すなわち現場の構造を理解する力です。
上流工程こそ、設計・開発の経験が生きる場所
上流工程の仕事は、要件をまとめたり、会議で意思決定することではありません。
本質的には、「構造を定義すること」です。
たとえば、まだコードを書かない段階でも、
- どの概念をどの粒度で扱うか
- 責務をどこで区切るか
- モジュール同士をどう連携させるか
といった設計的思考が求められます。
これらの判断は、実際に開発を経験していないと、現実的な精度を持って行うのが難しいものです。
クラス設計や命名の感覚、アーキテクチャを考える力など、
日々の開発で培った実装の思考こそが、上流工程での強さになります。
設計・開発の感覚が、抽象的な議論を現実に落とす
上流工程では「何を作るか」「どう作るか」という抽象的な議論が多くなります。
しかし、これを現実的な仕組みに落とし込むには、
実装や設計のリアルな感覚が欠かせません。
- 「この設計だと依存関係が複雑になりすぎる」
- 「この粒度ならテストがしやすい」
- 「この仕様だと運用フェーズで詰まる」
こうした判断は、手を動かしてきた経験があるからこそ、
実感をもって言語化できます。
つまり、上流工程で求められるのは、
抽象を扱う力ではなく、抽象を具体に変える力です。
そのための軸になるのが「設計・開発の感覚」です。
開発の現場を理解している人ほど、上流で強くなる
上流工程に関わる人は、チーム全体の方向性を決める立場にあります。
そのとき、開発現場の構造を理解しているかどうかは、結果に大きく影響します。
現場を理解している人なら、
- 実装者の視点で設計の複雑さを見積もれる
- 現実的なスケジュールを立てられる
- 将来的な運用コストまで考慮に入れられる
つまり、上流工程に立つほど「現場の感覚」が必要になります。
上流と下流を分けるのではなく、現場を理解した上流がチーム全体を強くするのです。
設計・開発の感覚は、日々の実践から生まれる
上流工程に関わりたいときほど、
まずは設計・開発の基礎を丁寧に磨くことが大切です。
- 命名を丁寧にする
- 責務を意識して分割する
- コードを構造的に考える
- 設計意図をドキュメントに落とす
こうした地道な積み重ねが、
「構造を整理し、言葉で定義する力」を育てます。
そしてそれこそが、上流工程で求められるスキルの核です。
設計・開発の感覚は、上流に進むための条件ではなく、
上流で価値を発揮し続けるための基盤になる。
まとめ
上流工程で活躍するために必要なのは、
特別な管理スキルや会議の上手さではありません。
日々の開発の中で培われる、
設計や実装の現場感覚、
そして「動くものを作る」ための構造的思考こそが、
要件定義や設計判断の精度を高めます。
上流工程は、現場の上に立つものではなく、
現場の理解を土台として成り立つ仕事です。
おわりに
「上流工程=考える仕事」「開発=作る仕事」と分けて考えられがちですが、
実際にはその二つは地続きです。
開発を理解しているからこそ、上流で現実的な設計ができる。
上流の視点を持っているからこそ、開発の中で全体を意識できる。
この往復の中にこそ、エンジニアとしての成長があり、
チーム全体の品質を引き上げる力があります。
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