はじめに
開発の現場ではよく、
「工数を削減したい」「とにかく早くリリースしたい」
といった言葉を耳にします。
しかし、一口に「工数削減」と言っても、その中にはまったく性質の異なる2種類の工数削減が存在します。
- 立ち上げフェーズ(最初に作る段階)の工数削減
- ローンチ後(運用・改修フェーズ)の工数削減
この2つを混同してしまうと、短期的には早くリリースできても、長期的には運用が破綻する、技術的負債が膨らむ──そんな状況を招きかねません。
工数削減の「2つのフェーズ」
1. 立ち上げフェーズの工数削減
これは、最初に作るときのスピードを重視する工数削減です。
要件を最低限に絞り、設計も必要最小限にして、まずはプロダクトを市場に出す。
このアプローチは、
- 仮説検証を素早く回したい
- ユーザーの反応を見て次を決めたい
といった「スピードが命」のフェーズでは非常に有効です。
ただし、この時点で“短期的なスピード”だけを最優先してしまうと、後々大きなツケを払うことになります。
2. 運用・改修フェーズの工数削減
一方で、リリース後の運用や改修をスムーズにするには、
立ち上げフェーズの段階で「将来のことを見据えて設計する」ことが不可欠です。
- コードの再利用性
- 拡張しやすいアーキテクチャ
- 運用時の自動化設計(監視・CI/CDなど)
- 設計思想の共有
こうした仕込みを立ち上げフェーズでやっておくと、運用時の工数を劇的に減らせることがあります。
逆に、ここを省略してしまうと、運用負荷が大きくなり、結果的に別案件の開発に割ける工数がどんどん減っていくという問題が起こります。
チーム全体で見ると、リリース後に“新しい価値を生み出す時間”が失われていくわけです。
「早くリリースする」と「長く楽をする」はトレードオフ
短期的にリリースを早めることと、長期的に運用を楽にすることは、しばしばトレードオフの関係にあります。
早くリリースしようとするあまり、
- テストが不足する
- 設計が曖昧なまま進む
- 拡張を想定していない構成で実装する
といった状態になると、リリース後の改修や運用の工数が爆発的に増えます。
そしてその運用負荷が積み重なると、本来やるべき新規開発や改善に使える時間が奪われるという悪循環に陥ります。
つまり、
「早くリリースするための工数削減」は、
「長く運用するための工数削減」とは別物。
ここを正しく理解していないと、目先の成果に囚われて、後から何倍ものコストを払うことになります。
見落としがちな「運用フェーズ」の存在
特に、非エンジニアのステークホルダーからは
「とにかく早く出してほしい」という要望が多く聞かれます。
もちろん、ビジネスの観点から「スピード」は重要です。
ただし、その要望の裏にはしばしば、運用・改修フェーズの工数やリスクが十分に考慮されていないという課題があります。
エンジニアは、単に「言われた通り」に動くのではなく、
長期的な構造の健全性を守るための責任ある提案が求められます。
そのためにはエンジニア主導での開発が不可欠となります👇
「しっかり作る」は悪ではない
「早くリリースする」が美徳とされがちな現場では、
「しっかり作る」ことがまるで遅い・無駄なことのように扱われる場合があります。
しかし、目的によっては立ち上げフェーズに時間をかけることが、結果として最も効率的な選択になるケースも多いのです。
- 将来的に機能追加が見込まれている
- 運用体制を最小限に抑えたい
- ユーザー数の増加が前提となっている
こうしたケースでは、立ち上げフェーズでの設計の緻密さが長期的なコスト削減の鍵になります。
長期的に見れば、「立ち上げに時間をかけた分だけ、運用・保守の負荷が減り、
新しい開発に集中できる時間が増える」──という構造が成り立ちます。
まとめ:短期と長期のバランスを意識する
エンジニアに求められるのは、単に「早く作る」ことではなく、
「長く楽をできる構造を設計する」ことです。
- 立ち上げフェーズでは、将来の拡張や運用を見据える
- スピード重視の判断には、リスク説明を添える
- 技術的負債を「後払い」ではなく「先払い」で解消する意識を持つ
- 運用負荷が高まると、新規開発に時間を割けなくなることを理解する
これらを意識することで、プロジェクト全体の持続性が高まります。
おわりに
「早く作ること」も「しっかり作ること」も、どちらが正しいという話ではありません。
重要なのは、どのフェーズで何を削減するかを意識的に選ぶことです。
立ち上げフェーズの工数削減しか見ていないプロジェクトでは、運用で苦労する未来が待っています。
逆に、運用を見据えた設計を意識できるチームは、長期的に見て圧倒的に強いです。
エンジニアは、「工数削減の本当の意味」を理解して設計をリードする立場にあります。
短期と長期、どちらを優先すべきかを正しく判断できる力こそ、真のプロフェッショナリズムだと思います。