この記事は流体解析のオープンソースソフトウェアであるOpenFOAMのバージョンv1606+を,CentOSにインストールした際の手順を備忘録としてまとめたものです.結果としては,メッシュ生成ユーティリティであるfoamyMesh
のコンパイルに失敗しましたが,残りのソルバー・ユーティリティのビルドはできました.
OpenFOAMのダウンロード
OpenFOAMのバイナリパッケージ及びソースコードは以下のサイトから入手できます.
1つめのサイトはESIグループによるものでLinux版以外にもWindows版も入手できます.一方,2つめのサイトはOpenFOAM Foundationによるものです.過去の記事でバージョン4.0のインストール方法を紹介しましたが,今回のv1606+は前者のESIのサイトからのみ入手できます.同時期に4.0とv1606+がそれぞれ異なるグループからリリースされている現状です.
インストールの種類
ESIのサイトでは,Dockerでインストールする方法と,ソースからビルドする方法が掲載されています.Windowsに関してはインストーラーが提供されていますが,内部はDockerとなっています.ソースからビルドする方法については,Ubuntu 15.10, Ubuntu 14.04.3 LTS, CentOS, OpenSUSE Tumbleweed に対してインストールが可能であることが公式に確認されています.この記事ではOpenFOAMをCentOS上でソースからビルドすることを試みます.CentOSのバージョンは6.xを対象としています.
インストールの方針
- OpenFOAMはコンパイラやライブラリの要件があり,システムにインストール済みのものではバージョンが古いことがあります.システムにインストール済みのコンパイラ・ライブラリはアップデートせずに,OpenFOAMのサードパーティディレクトリで別途ビルドして環境構築を行うことにします(もとのシステム環境を汚さない).
- 通常のデスクトップPCへのインストールでは
$Home
にインストールすることがよくありますが、今回は他のユーザも利用する計算サーバへのインストールを想定し,/opt
以下にインストールします.
インストール手順の概要
- 管理者権限で必要なrpmパッケージをダウンロード・インストールする.
- OpenFOAM本体,サードパーティのビルドに必要となるソースパッケージをダウンロードし,展開する.
- 環境設定ファイル・ビルドスクリプトを編集する.
- サードパーティ(ツール,ライブラリ)のビルドする.
- 可視化に用いるParaViewをビルドする.
- OpenFOAM本体をビルドする.
- ビルドしたOpenFOAM本体(ソルバー)の動作検証を行う.
- 可視化用データリーダーをリビルドする.
- 流体解析の一連の流れである,前処理(メッシュ生成),計算実行, 後処理(可視化)ができることを確認する.
手順5.のParaViewのビルドは失敗することが多々あり,どうしてもうまくいかないときはあきらめます.ParaViewはCentOSサーバ以外にも別途インストールできるので,計算データを手元の環境にダウンロードして可視化を行うことができます.
必要なrpmパッケージのインストール
必要なパッケージは以下のとおりです.
- git, gcc-c++, bison, flex, m4, glibc-devel, glibc-devel.i686, zlib-devel
管理者権限でyum
を使って上記のパッケージをインストールします.
$ yum install gcc gcc-c++ bison flex m4 glibc-devel glibc-devel.i686 zlib-devel
OpenFOAMソースパッケージのダウンロード・展開
OpenFOAMのパッケージは本体ソースコードとサードパーティパッケージの2種類から構成されています.ここでは異なるバージョンも管理できるように/opt/OpenFOAM
というディレクトリを作成し,その下にwget
でダウンロードして展開します.
$ mkdir /opt/OpenFOAM
$ cd /opt/OpenFOAM
$ wget https://sourceforge.net/projects/openfoamplus/files/OpenFOAM-v1606+.tgz
$ tar zxvf OpenFOAM-v1606+.tgz
$ wget https://sourceforge.net/projects/openfoamplus/files/ThirdParty-v1606+.tgz
$ tar zxvf ThirdParty-v1606+.tgz
各パッケージを展開したのちのディレクトリ・ファイルの構成は以下のようになります.
OpenFOAM-v1606+/
Allwmake README.md bin etc tags wmake
COPYING applications doc src tutorials
ThirdParty-v1606+/
Allclean ParaView-5.0.1 makeCCMIO makeGcc makeParaView3
Allwmake README.org makeCGAL makeGperftools makeQt
CGAL-4.8 boost_1_61_0 makeCmake makeLLVM openmpi-1.10.2
COPYING etc makeFFTW makeParaView scotch_6.0.3
OpenFOAMのビルド方法はOpenFOAM (R) Build Guideに詳しく掲載されていますが,展開したOpenFOAM-v1606+
及びThirdParty-v1606+
にあるReadme.md
及びReadme.org
も熟読します.
最小限のシステム要件
公式サイトで指定されている要件は以下のとおりです.
- gcc: 4.5.0
- cmake: 2.8.11 (ParaViewとCGALのビルドに必要)
- boost: 1.48 (CGALのビルドに必要)
- Qt: 4.7.2 (ParaViewのビルドに必要)
QtのバージョンはCentOSに元々入っているものはバージョンが古く,4.7以上が必要とされます.
サードパーティパッケージに必要なソースのダウンロード・展開
上記のThirdPart-v1606+
以下で必要となるコンパイラ・ライブラリは以下のとおりです.
- gcc-4.8.5, gmp-6.1.0, mpfr-3.1.4, mpc-1.0.3, openmpi-1.10.2, scotch_6.0.3, boost_1_61_0, CGAL-4.8, cmake-3.2.1, qt-4.8.6, fftw-3.3.4, libccmio-2.6.1
コンパイラはGCC以外のintelコンパイラなどでも可能ですが,OpenFOAMの実行速度はそれほど変わらないようです.GCCのバージョンは4.8.5より新しいものでも大丈夫ですが,後で出てくる設定を合わせて変更する必要があります.
GCC
$ cd ThirdParty-v1606+
$ wget https://ftp.gnu.org/gnu/gcc/gcc-4.8.5/gcc-4.8.5.tar.gz
$ tar zxvf gcc-4.8.5.tar.gz
GNUライブラリ(gmp, mpfr, mpc)
$ wget http://ftp.gnu.org/gnu/gmp/gmp-6.1.0.tar.bz2
$ tar jxvf gmp-6.1.0.tar.bz2
$ wget http://ftp.gnu.org/gnu/mpfr/mpfr-3.1.4.tar.gz
$ tar zxvf mpfr-3.1.4.tar.gz
$ wget http://ftp.gnu.org/gnu/mpc/mpc-1.0.3.tar.gz
$ tar zxvf mpc-1.0.3.tar.gz
OpenMPI
すでにサードパーティディクトリにあります.
Scotch
すでにサードパーティディクトリにあります.
Boost
すでにサードパーティディクトリにあります.
CGAL
すでにサードパーティディクトリにあります.
Cmake
$ wget https://cmake.org/files/v3.2/cmake-3.2.1.tar.gz
$ tar zxvf cmake-3.2.1.tar.gz
認証の関係でHTTPSのダウンロードができない場合は,--no-check-certificate
をオプションを付けるか,.wgetrcの設定などによって回避してください.
Qt (qmake)
$ wget https://download.qt.io/archive/qt/4.8/4.8.6/qt-everywhere-opensource-src-4.8.6.tar.gz
$ tar zxvf qt-everywhere-opensource-src-4.8.6.tar.gz
FFTW
$ wget http://www.fftw.org/fftw-3.3.4.tar.gz
$ tar zxvf fftw-3.3.4.tar.gz
libccmio
STAR-CCM+のメッシュコンバータが必要な場合のみビルドします.
$ wget http://portal.nersc.gov/svn/visit/trunk/third_party/libccmio-2.6.1.tar.gz
$ tar zxvf libccmio-2.6.1.tar.gz
環境設定ファイル・ビルドスクリプトを編集
OpenFOAM本体の環境設定
OpenFOAM本体の環境設定を,vi
やemacs
などの適当なエディタで編集します.シェルはbash
利用で説明します.
$ vi ../OpenFOAM-v1606+/etc/bashrc
修正箇所
# Location of the OpenFOAM installation
# ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
#foamInstall=$HOME/$WM_PROJECT
# foamInstall=~$WM_PROJECT
foamInstall=/opt/$WM_PROJECT
#- Compiler location:
# WM_COMPILER_TYPE= system | ThirdParty (OpenFOAM)
export WM_COMPILER_TYPE=ThirdParty
#- MPI implementation:
# WM_MPLIB = SYSTEMOPENMPI | OPENMPI | SYSTEMMPI | MPICH | MPICH-GM | HPMPI
# | MPI | QSMPI | SGIMPI
export WM_MPLIB=OPENMPI
注意!
バージョン3.0以降ではexport WM_LABEL_SIZE=
でメッシュのラベルサイズを32ビットから64ビットに拡張できるようになりましたが,現状のv1606+ではexport WM_LABEL_SIZE=64
とするとコンパイルエラーとなります(2016/7に確認).
コンパイラ・GNUライブラリの指定に関して,GNUライブラリの指定を変更します.
$ vi ../OpenFOAM-v1606+/etc/config.sh/compiler
変更箇所
case "$WM_COMPILER_TYPE" in
OpenFOAM | ThirdParty)
# Default versions of GMP, MPFR and MPC, override as necessary
gmp_version=gmp-6.1.0
mpfr_version=mpfr-3.1.4
mpc_version=mpc-1.0.3
GCCビルドの設定
$ vi makeGcc
変更箇所
gmpPACKAGE=gmp-6.1.0
mpfrPACKAGE=mpfr-3.1.4
mpcPACKAGE=mpc-1.0.3
gccPACKAGE=gcc-4.8.5
CGALビルドの設定
CGALのビルドスクリプトを編集します(なぜかmakeCGAL
のみ実行権限がないので付ける).
$ chmod u+x makeCGAL
$ vi makeCGAL
変更箇所
boostPACKAGE=boost_1_61_0
gmpPACKAGE=gmp-6.1.0
mpfrPACKAGE=mpfr-3.1.4
cgalPACKAGE=CGAL-4.8
OpenFOAM本体でのCGALの設定を変更します.
vi ../OpenFOAM-v1606+/etc/config.sh/CGAL
変更箇所
boost_version=boost_1_61_0
cgal_version=CGAL-4.8
FFTWビルドの設定
FFTWのビルドスクリプトを編集します.
vi makeFFTW
変更箇所
_foamSource $($WM_PROJECT_DIR/bin/foamEtcFile config.sh/FFTW)
fftwPACKAGE=fftw-3.3.4
OpenFOAM本体でのFFTWの設定を変更します.
vi ../OpenFOAM-v1606+/etc/config.sh/FFTW
変更箇所
fftw_version=fftw-3.3.4
export FFTW_ARCH_PATH=$WM_THIRD_PARTY_DIR/platforms/$WM_ARCH$WM_COMPILER/$fftw_version
サードパーティのビルド
GCCのビルド
はじめにOpenFOAMの環境設定を読み込みます.
$ . /opt/OpenFOAM/OpenFOAM-v1606+/etc/bashrc
このとき,下記のようなメッセージが出力されますが,GCCがビルドがまだなので当たり前のエラーであり,GCCのビルドを進めます.
Warning in /opt/OpenFOAM/OpenFOAM-v1606+/etc/config.sh/settings:
Cannot find /opt/OpenFOAM/ThirdParty-v1606+/platforms/linux64/gcc-4.8.5 installation.
Please install this compiler version or if you wish to use the system compiler,
change the 'WM_COMPILER_TYPE' setting to 'system'
$ ./makeGcc
サードパーティパッケージのビルド
Gccのビルドが完了したら,残りのパッケージのビルドをAllwmake
で行います.実行する前にもう一度OpenFOAMの環境設定を読み込みます.
$ . /opt/OpenFOAM/OpenFOAM-v1606+/etc/bashrc
$ ./Allwmake
Cmakeのビルド
Cmakeをビルドします.
./makeCmake
ParaViewのビルド
Qtのビルド
makeQt
を編集します.
$ vi makeQt
変更箇所
qtVERSION=4.8.6
qtTYPE=qt-everywhere-opensource-src
Qtをビルドします.
$ ./makeQt
次にParaViewをビルドしますが,ビルドスクリプトmakeParaView
の中ではqmake(Qt)及びCmakeのパスが設定されていないので追記します.
$ vi makeParaView
追記箇所
# Set the path to the Qt-4.5 (or later) qmake if the system Qt is older
QMAKE_PATH="/opt/OpenFOAM/ThirdParty-4.0/platforms/linux64Gcc/qt-4.8.6/bin/"
# Set the path to cmake
CMAKE_PATH="/opt/OpenFOAM/ThirdParty-4.0/platforms/linux64Gcc/cmake-3.2.1/bin"
また,ParaViewでPythonスクリプトを使いたい場合は,makeParaView
中でwithPYTHON=true
とし,PYTHON_LIBRARY=""
に適切なパスを設定します(今回は設定しない).
注意!
今回のビルドスクリプトではParaView 5.0.1がビルドされ,OpenGLに関する設定が増えています.しかしながら,システムで利用できるOpenGLのバージョンが2.xより古い場合,ビルドできてもParaViewが起動しません.OpenGLのドライバをアップデートするか,もしくは以下のようにOpenGLライブラリ2.x以上の機能を利用しないようにします.
$ vi makeParaView
変更箇所
# new rendering backend (starting with paraview 5.0)
withGL2=false
if [ "${ParaView_VERSION%%.*}" = 4 ]
then withGL2=false
fi
ParaViewをビルドします.
$ ./makeParaView
以上のサードパーティ,ParaViewのビルドが終わったら,OpenFOAM本体ビルドのための条件を満たしているかどうかを以下のコマンドでチェックします.
$ foamSystemCheck
OpenFOAM本体のビルド
再度OpenFOAMの環境設定を読み込んでからビルドします.Allwmake
スクリプトを利用しますが,-j
オプションで並列コンパイルのcpu数を指定できるので,環境に合わせて設定します.また,エイリアスコマンドfoam
を用いると,OpenFOAMのプロジェクトディレクトリ(インストールディレクトリ)$WM_PROJECT_DIR
に移動できます.
$ . /opt/OpenFOAM/OpenFOAM-v1606+/etc/bashrc
$ foam
$ ./Allwmake –j4
もしエラーが出て正常終了しないときは,エラーメッセージから足りないライブラリがないかどうかなどを確認します.今回のビルドではメッシュ生成ユーティリティであるfoamyMesh
のコンパイルがエラーとなってしまいましたが,原因はまだわかっていません(2016/7現在).foamyMesh
は必須ではないので今回は我慢します.
OpenFOAM本体のビルド検証
OpenFOAM本体のビルドが正常終了したら,環境設定読み込みを再度行い,テストのためのプログラムを実行します.
$ . /opt/OpenFOAM/OpenFOAM-4.0/etc/bashrc
$ foamInstallationTest
ライブラリパスなどの確認結果が出力され,最後に以下のような要約が出力されればOKです.
Summary
-------------------------------------------------------------------------------
Base configuration ok.
Critical systems ok.
Done
引き続いてParaView Readerをビルドします.一度クリーンしてからビルドします.
$ cd $FOAM_UTILITIES/postProcessing/graphics/PVReaders
$ ./Allwclean
$ ./Allwmake
ここで$FOAM_UTILITIES
はOpenFOAMのユーティリティがインストールされたパスを表すOpenFOAMの環境変数です.
OpenFOAMでの前処理,計算実行,後処理の動作確認
上記のインストール作業がすべて終了したら,OpenFOAMによって流体解析の一連の流れである,前処理(メッシュ作成),計算実行,後処理(可視化)が正常にできるかどうかを,チュートリアルケースであるcavity
を利用して確かめます.
$ . /opt/OpenFOAM/OpenFOAM-4.0/etc/bashrc
$ mkdir –p $FOAM_RUN
$ run
$ cp –r $FOAM_TUTORIALS/incompressible/icoFoam/cavity/cavity ./
$ cd cavity
$ blockMesh
$ icoFoam
$ paraFoam
ここで出てくるOpenFOAMのコマンドの意味は以下のとおりです.
-
run
: ユーザの計算実行ディレクトリ$FOAM_RUN
に移動する. -
blockMesh
: 基本的なメッシュを生成する. -
icoFoam
: 非圧縮性流体計算用の基本ソルバーicoFoam
の実行. -
paraFoam
: OpenFOAMの計算出力をParaView Readerによって読み込み,ParaViewを起動して可視化する.
ここで行った動作確認では並列計算の確認ができていません.並列計算を行うチュートリアルケースはどれも計算時間がかかるので気軽に動作確認ができませんが,比較的軽い計算としてpipeCyclic
を実行してみます(並列数はデフォルでは5).
$ run
$ cp -r $FOAM_TUTORIALS/incompressible/simpleFoam/pipeCyclic ./
$ cd pipeCyclic
$ ./Allrun
Allrun
はメッシュ生成から解析条件設定・計算実行を自動的に行うスクリプトです.cavity
及びpipeCyclic
がエラーなしで計算実行できれば無事にインストール完了です.