おはようございます。ようやく春らしい季節になってきましたね。今日は前回に引き続いてもう少し株価の話をします。前回の話ではどうやって分析するかという話で、理想株価の算出式と移動平均線について触れました。忘れてしまった方はもう一度前回の記事の後半を読んでください。
まず余談
さて話はそれていきなり余談ですが、先週は有名ソーシャルゲーム「パズドラ」をめぐる炎上騒ぎが大変なことになりましたね。
パズドラといえば 3,000 万ダウンロードを越える人気ゲームであり、あのコンプガチャ騒動の後にあらわれて、無料でも楽しめる仕様として課金額を低額に抑え人気を博しガンホーバブルが発生、まさに新しいソーシャルゲーム時代の代表格みたいなものですから四方や知らない方はいないかとは思います。
もっともその後バブルがはじけ最近ではパズドラ一本ではだいぶ苦戦しているようですが、先週はそのパズドラにおいてスクエニとのコラボによる新キャラクター「曲芸士」が強すぎるというわけで大騒ぎとなりました。あれだけソーシャルメディア等でも話題になりましたし、ゲームのキャラクターが強すぎるという話題が Yahoo! のトップニュースにも乗るというほどでしたから、みなさんもご存知のことかと思います。
ソーシャルゲームというのはインフレするのが常でこれは誰もが昔から知っています。なぜなら人々がお金と時間を投入すればみんなが強くなりますし、先行して強くなった人を後から参入した新規が追い抜けるようにするにはよりレアリティの高いアイテムを投入するなどしてどんどんインフレさせていくしかありません。クイズ番組で言う「はいそれでは次の問題からはなんと得点が 10 倍になります!」というお約束のパターンですね。こんなものはオンラインゲームなら世の常でいまさら問題意識を持っても何を今さらというところです。
しかし今回のように急にインフレが発生しますと、今まで課金してきた人々の成果は何だったのかと反発を買いますし、インフレが加速した先にはサービス終了しかありませんからゲームの寿命が縮みます。今回はコラボ側のスクエニ担当者がパラメータを決めたようでスクエニの担当者が炎上する騒ぎになってしまいました。この手のゲームは微妙なバランスの上に人々のお金が乗っている世界なので、一度バランスの調整をミスするとたちまちシステムが崩壊しかねない事態を招きます。
スクエニといえば従来は FF (ファイナルファンタジー) や DQ (ドラゴンクエスト) など家庭用ゲームを製作していた会社でしたが、最近は「拡散性ミリオンアーサー」でソーシャルゲーム業界にも進出、今や 100 億円の売上を 400 億円にまで伸ばしたいなどという力の入れようです。そんな看板タイトルである拡散性ミリオンアーサーも昨年末突如終了するというアナウンスがなされ、今年の三月末には全サービス終了するという事態です。しかもその主な原因は核となる人材が抜けたから。たとえいま昇り調子のタイトルでも、人材の流出やバランスの調整ミスなどちょっとした要因で一気に人気が凋落しサービス終了ということもありえる話です。なんという不安定で移り変わりの激しい業界なのでしょう。
このようにソーシャルゲーム関連銘柄というのは大変に値動きが激しく、一夜にして栄枯盛衰、非常にトレンドの移り変わりの激しい世界なのです。日経平均株価に対して比較的忠実に推移する一般的な製造業などのエンタープライズ系業種とは事情が異なり、リスクが高いため株式の長期保有にも向いていません。ゲーム内やあるいは周辺の事情を追いつつチャートも日々トレースしていくことのできる人以外にはまったくオススメできません。この連載では最近株式に関する話をインターネットに不特定多数閲覧可能な形で発信してはいますが、そもそもインターネットの断片的な情報をもとに株式に手を出すような軽率な行動は絶対にやめてください。だいたいその程度の見識と分析能力で株に手を出して安定した利回りを確保できるわけがありません。理論の伴わない株などただのギャンブルです。損失が発生し痛い目を見ようとも当然ながら筆者は一切の責任を追うことはできません。 ギャンブルでたまたま一時的にもうけようともそれは決して投資家としての実力ではありません。
テクニカル分析の第一歩
さて、上に書いたようにインターネットのうわさ話に翻弄されるような事態を防ぎ、自らの目で経済指標の数値を科学的に分析し、きちんと見極めをするためにはテクニカル分析が欠かせません。これは株式だけではなく、さまざまな業務分析にも言えることです。人間の文明の基礎は科学ですし、これだけ計算機の発達した時代に数値計算をしない時点で競争において圧倒的不利です。計算機がそれほど普及していなかった二十年前とは時代が違うのです。とはいっても、なにも高度な数学を駆使しろと言っているわけではありません。高校生でもできる程度の数学力でかまわないのです。もちろんテクニカル分析だけでなくファンダメンタル分析も大切なのですがその話はまた後日にします。
まずは第一歩として理想株価を PER から算出してみましょう。
PER をもとに理想株価を算出する
みなさん毎年の健康診断はきちんと受診していますか。人間でも、身長が決まればある程度の理想体重が求まるはずです。健康診断の結果を見て「やせ気味」「太りすぎ」などと書かれ、それを見る度に一喜一憂しているのではないでしょうか。それと同じで、株価にも理想株価というものがあります。前回は単純に PER 理想株価を算出する式を紹介しました。もう一度掲載してみます。
理論株価 = \frac {予想年間純利益} {発行済み株式数 × PER}
上の式のうち、発行済み株式数と PER は Yahoo! ファイナンスなどのサイトから取得できます。前日の終値も同様に取得できますね。さてここでポイントになるのが予想年間純利益です。執筆時点で 2 月、この時点で当期純利益は確定していませんから、それぞれの会社の IR 情報などをもとに予想年間純利益を推定します。ここでは第三四半期決算報告や株主向け説明資料から、ひとまず各社が目標として掲げている数値をそのまま抽出した上で計算してみました。これは簡単な計算ですから表計算ソフトウェア (LibreOffice) でやってみます。
弊社 (DTS) と同じ業界の似た数社について例として挙げてみました。現在株価には先週末の終値を当てはめています。いかがでしょう、だいたいどの会社もそれらしい数値になったのではないでしょうか。実は上に挙げた数社はだいたいどこも第三四半期に増収増益となっています。そして実際に株価を見るとその数字が反映されたのか、ごくわずかに割高になっているということが裏付けできています。なおこれはあくまで PER (株価収益率) を基礎にした単純計算ですからそのまま鵜呑みにしていいわけではありません。とはいえまずは現在の株価が割高なのか割安なのかの指標として目安にできることがおわかりになるかと思います。これを参考に皆さんも注目企業の PER から理想株価を算出してみるということを試してみてください。
移動平均線を算出しプロットする
現在株価の目安はわかりました。次にチャートからトレンドという価格の流れを見つけることが大切です。ここでも人間の感覚的な判断ではなくテクニカル指標を用いるべきです。この指標としてもっともシンプルかつ有用なものがトレンドラインと移動平均線です。
トレンドライン
トレンドラインとは上昇相場においては安値と安値の二点を引いて支持線、下降相場においては高値と高値の二点を結び合わせることで抵抗線とするチャートを描く線です。非常に簡単ながら、プロのトレーダーでも愛用している基本となる分析です。トレンドラインを正しく引くことができるようになると、為替レートがどう動くのかを視覚的に把握し、利食いの目標値だとかストップロスなどの売買のポイントをつかむことができます。
トレンドラインは基本中の基本かつシンプルでありながら、素人とプロではまったく異なる線を引くことになってしまうとも言われる奥深い指標です。このようにどうしても属人性を排することができない部分もありきちんと読み取るのが難しいものでもあります。
移動平均線
移動平均線も簡単な計算方法でありながら、トレンドを一目瞭然に明かにし、売買のポイントをつかむという点で非常に有用なトレンド系テクニカル指標です。
前回説明した移動平均線について計算してみましょう。計算式は前回に乗せましたが、たとえば単純平均というのは平たく言うと 5 日移動平均ならば (5 日分の終値の加算 / 5 日) で求められます。簡単ですね。
金融分野の現場で生まれた pandas は豊富で高機能な時系列分析機能と R ライクなデータフレーム、そして多数の統計学やデータ分析で扱うような関数が実装されています。移動平均も pandas を使えば簡単に計算して可視化することができます。また、少し計算が複雑な指数加重移動平均 (Exponential Weighted Moving Average) も pandas の関数で求まります。このあたりはさすがです。
次の例では調整後終値に対する移動平均線を求めています。
# SMA5 と SMA25 を求める
sma25 = pd.rolling_mean(stock_tse['Adj Close'], window=25)
sma5 = pd.rolling_mean(stock_tse['Adj Close'], window=5)
sma25.plot(label="SMA25") # プロットする
sma5.plot(label="SMA5")
ewma = pd.stats.moments.ewma
# EWMA5 と EWMA25 を求める
ewma25 = ewma(stock_tse['Adj Close'], span=25)
ewma5 = ewma(stock_tse['Adj Close'], span=5)
ewma25.plot(label="EWMA25") # プロットする
ewma5.plot(label="EWMA5")
plt.legend(loc="best") # 各線のラベルを表示
冒頭で挙げたガンホーとスクエニのローソク足チャートに移動平均線を重ねてみましょう。いずれも先週末終値時点のものです。
#####ガンホー
#####スクエニ
少しはそれらしいチャートになってきましたね。
一般的に短期のトレンドは 25 日移動平均を、長期では 75 日移動平均を見ると言われています。また、指数加重移動平均は単純移動平均と比較すると相場の動きにより早く反応し、トレンドの転換を早めに察知することができます。ただしその分ダマシも多くなりますので注意が必要です。
まとめ
今回は実際に数社の例を挙げ経済分析の一環として株式相場の分析例を挙げました。テクニカル分析を実際のデータに対しておこなってみると、生きたデータを把握することができますから実感が伴うのでやりがいがあるのではないでしょうか。
なお重ねて記しますが、これらの連載の内容をもとに株式に実際に手を出されたとしても筆者は一切の責任を負いかねます。あくまで参考程度にしていただいて、実際の分析は必ず皆さんの手で自らおこなってください。また単なる伝聞だとか、カンと度胸による株式投資は怪我の元となりますのでくれぐれもお控えください。