はじめに
私が仕様書を書くようになったのは30歳を過ぎてからと遅く、仕様書の書き方が分からなくて悩んだことがありました。通常は先輩たちが作成した仕様書等を見て書き方を覚えていくのでしょうが、仕様書も無く直接プログラムを組むような体制の仕事をしていたため、SI系に転職してから苦労したのであった。
仕様書を書く際に、ボタンを「Enterキーを押す」か「クリックする」かで考えて「押下」にすれば両方満たすだろうと、それ以来ずっと使用しています。
押下については、コンピューター雑誌やマニュアル等を読んで憶えていた用語で特に気にも止めていなかったのですが、別ブログの仲間が過去に「ボタン押下?」について書いていたことを思い出し、調べてみることにしました。
調べていくと自分は誤用して使っている気がしますw
押下について
読み方
押下は「おうか」と読みます。ちなみに苗字の押下さん(読方:おしした)は全国でおよそ10人いるそうです。
意味
押下とは、キーボードのキーを押すこと、押し下げることを示す語である。(中略) キーを押してから離す(戻す)までの一連の動作のうち、キーを押し下げる動作のみを示す語として用いられている場合もある。この場合、キーが押された後に元の状態に戻ったかどうかは特に関係がないことを意味として含む。
出展: 押下 - IT用語辞典バイナリ
使用例
「対象のファイルを選択後、enterボタンを押下してください。」
「画面上の修正ボタンを押下する」というのは誤記である。正しくは 「画面上の修正ボタンをクリックする」である。
画面に表示されたボタンを「押して」「下げる」ことはできないのと、本来の押下はクリックすることと区別するための用語であるため。
参照:押下 - しらべるが行く
クリックとの違い
クリックとは「ボタンを押すこと」ではなく「ボタンを押してすぐ放す」ことであり、「押す~放す」一連の動作を含んだ言葉になっている。
「クリック」と一言で片付く操作も、実はボタンを押すことと放すことの2つに分かれています。そして、押したときに何かの動作が起きる場合と、放したときに起きる場合がある以上、「クリックする」ことと「マウスのボタンを押す」ことが同じだとはいえません。
参照: マウスのボタンを押すこととクリックすることの違い
例えば、メモ帳のメニューの[ファイル]のところでマウスの左ボタンを押すと、押した時点でメニューが表示されます。ボタンを放しても何も起こりません。これはクリックするとは言えません。
デスクトップ画面上のアイコンで右ボタンを押した場合は何も起きませんが、右ボタンを放した時点で初めてメニューが表示されます。これはクリックするとなります。
メモ帳で保存する際に保存ダイアログボックス画面が表示されます。この際にキャンセルボタン上でマウスの左ボタンを押して、押したままキャンセルボタンの外へ動かして左ボタンを放すと何も起きません。これはキャンセルボタンが押されなかったことになります。
再びキャンセルボタン上でマウスの左ボタンを押して、押したままキャンセルボタンの外へ動かしてからキャンセルボタン上で左ボタンを放すと、キャンセルボタンが押されたことになり保存ダイアログボックス画面が閉じられます。
クリックの利点として、マウスのボタンを押してしまっても、別のところでボタンを放せば、操作を無かったことにすることが可能なのです。
言葉が生まれた瞬間
「ボタン押下?」のブログのコメント欄に、それは私かもと「押下」を生み出したかも知れない方の告白がありましたので引用します。
u_2 Posted @ 2008/11/18 9:40
1984年頃、ある大手生保の端末システムの基本設計書を記述しているとき、画面の操作説明を記述する際、「F2キーを○○する」と言う文章の○○に何を使うか半日ほど悩みました。
「押す」では前方の物を向こうに押すニュアンスがある、「打鍵」ではピアノの様に叩くニュアンスがあり、字面的に「押下」が一番ピッタリで、広辞苑で調べても載って無く、漢字辞典で調べてもソンな言葉はありません。
しかし一度「押下」と言う字を頭に刷り込むとそれ以外は思いつかなくなり、「押下」で基本設計書を作成し、提出しました。
設計書のレビューの時に「この字はなんて読むの」と聞かれたとき赤面しながら「”おうか”と読んでます」と応えたのを覚えています。
その頃は、まだワープロもなく手書きで設計書を作っていた頃でしたので、どこかの文章を引用したのでは無いと思います。
その大手生保の端末システムは、日本の大手コンピュータメーカで、ホストシステムはIBMでしたので、その後主にその2社を中心に「押下」が蔓延していったのだと思います。(グーグってもその傾向が分かります)
変とは思っても他に適当な言葉が無いのですねコレが。
だから蔓延したのだと思います。
【追記 2016/08/19】
昔の文献から「押下」の使用について調べて頂いたようです。
ボタンを「押下(おうか)する」という言い方はかなり昔から存在していた(文献引用つき)
最後に
これまであまり深く考えずに押下を使用していましたが、今回調べてみると押すとクリックとの操作の違いも分かったので、仕様書で押下を使わないで素直に押すとクリックを分けて書くようしていきます。
最近ではスマホでタップ等の別の用語が出てきていますから、外に向けてマニュアルを書くようであれば、意味を理解した上で書くといいでしょう。
参照:クリックとタップの違い
調べている途中に、マウスボタンを「放す」か「離す」か というのもあったのですが、掴んでいるものをリリースするってことで「放す」の方にしました。