Self-introduction
えーと、RICOH(あるいはRICHO)の生方です。
ここに来ておられる皆さまとのつながりができ、THETAを世に生み出して本当によかったな、としみじみしているおっさん/サラリマンであります。そんなハッピーな目にあえるなんて、運がよかったとしか言えません。
いろんなところでお話をさせていただいておりますが、僕は2010年4月にTHETAのコンセプトを経営陣に提案し、2013年10月に発売に持ち込み(←米英独仏、日本は11月~)、現在は技術戦略セクションで次世代のもにょもにょを仕込む毎日です。
ついったー @ubu369 では日々うるさくtweetしており、お騒がせしております!
本稿について
TLにてTHETA Advent Calendar 2015なるものを知り、情弱としては何のことかわからなかったのですがw、まずはとにかく何かをブッ込んでみようと思ってノリで登録してみた次第です。僕がブッ込もうとしたときには、12/24、12/25ともすでに埋まっていましたのでw、12/23にしてみました。
ちょうどドワンゴMIRO @MobileHackerz さんと組んだ「ニコニコ超パーティー2015」における8時間耐久全天球ライブ中継がありましたので、そこに実戦投入した 魔改造こと「全天球ライブカム実験機(断じてTHETAじゃない)」 について書きます。
当日、PANORAとEngadgetに取材いただきましたので、参考として記事リンクを載せておきますね。
【PANORA】
http://panora.tokyo/3413/
http://panora.tokyo/3422/
【Engadget】
http://japanese.engadget.com/2015/10/26/theta/
また、年の瀬でもありますので、僕が目指す未来への展望を書いてみようと思います。
このような場、THETA Advent Calendar 2015を起動してくれた @itachin さんに感謝いたします!
全天球ライブカム実験機の概要
目 的:
- 全天球動画をリアルタイムに出力できる技術の開発
背 景:
- 現行THETA Sにおいて、ライブストリーミング出力が実現されている
- THETA Sをライブストリーミングモードで起動することにより、HDMIまたはUSBに「2つの魚眼のままの映像=Dual Fisheye」がFull HDまたはHDのフレーム載せられて出力される
- HDMI: Full HD 1920 x 1080 60i(インターレース)
- USB: UVC1.1/UAC2.0 1280 x 720 MortionJPEG 15fps
- 一方、一般的に全天球画像/映像で用いられる形式はEquirectangular Projection(正距円筒図法)なので、一般的に取り扱えるようにするためには、THETA S出力であるDual FisheyeをEquirectangularにスティッチングする必要がある
- ★このAdvent Calendarにも様々な関連技術が集積されていますね!★
- ライブ中継における映像ハンドリング、ワークフローにおいては、あらかじめEquirectangulerになっていたほうが扱いやすいと考えられるため、元々のDual FisheyeをリアルタイムにEquirectangularにスティッチングできる技術開発を行う
- この「簡便性」であるが、カメラ側であらかじめスティッチされていれば、既存の映像機器をそのまま活用でき、既存ワークフローとの親和性がよいということであり、例えばLiveShell等の配信機器を用いた場合は、極めて簡単に全天球ライブ中継が可能となる
全天球ライブカム実験機 仕様:
- 2K全天球動画のリアルタイム出力を実現
- HDMIよりFull HD出力
- Equirectangular 1920 x 960ドット 1080p 29.97fps
- Equirectangular形式は横:縦が2:1になるためFull HDにおいて下側120ドットは黒帯となる
- カメラサイドにあるモノラルマイクよりモノラル音声同時出力
- 外部ACアダプター接続によりONとなり映像出力が開始される
- USB経由にてリアルタイムに映像コントロールが可能(EV, RGBゲイン)
- 24時間以上の連続動作
ちょっといい話:
- 「本体下部はヒートシンクなんでしょ?」: よく言われるのですが、本体下部のヒートシンクのような部分ですが、実はプラ製です。最初は金属製を考えていたのですが、部品屋さんに見積もりをとったら非常に高かったので、断腸の思いで断念しました。プラではありますが、放熱特性を考慮してあります。
- あと、本体のみで自立できるよう、スタンドの機能も持たせた大きさになっています。
- 本体底面には三脚穴があり、標準的な三脚、スタンド等に取り付けやすくなっています。
- デザインテイストについて: 上部はTHETA Sの部品を流用することにしていましたので、まぁなんと言いますかTHETAがニョッキリな感じになってしまいます。ゆえに、魔改造としてのアイデンティティを押し出すべく、デザイナーに対して「 禍禍しいヤツ で頼む」と発注しましたw 実は今回の実験機のデザインは、ファーストTHETAと同じキレッキレの若手デザイナーが担当しています。
- 「下だけ売ってよw」: 無理www 上部と下部は接合されており、切り離せません。デモすると上部を引き抜こうとするおっさんがいますので、「コラー!壊す気か~^^」となります。さらに今回の実験機はTHETAの部品は使っていますが、 中身は別物 です。下部にも基板が入っています。ゆえに、下だけ売って取り付けても動かんのぢゃいw
- 通称⇒ RICHO ライビュビュー *凹 @hecomi さん命名、いつも使わせていただいてありがとうございます m(_ _)m
ライブの現場から
ドワンゴ主催による「ニコニコ超パーティー2015」は、2015年10月25日(日)にさいたまスーパーアリーナで開催されました。さいたまスーパーアリーナという超デカいハコを満席にして、12:00~20:00の8時間にわたって行われた超ビッグイベントです。
このイベントは有料ネット視聴ができ、通常の2D画面視聴に加え、パソコンのブラウザー内で「VR視点 360°視聴」ができました。この360°視聴用のカメラとして「全天球ライブカム実験機」を使っていただいたのです。
ハンドメイドの実験機を いきなり本番投入 したわけですが、2015年の夏頃、僕がドワンゴのMIRO @MobileHackerz さんと話をしたのが事の始まりでした。
ぼく 「ゴニョゴニョゴニョ・・・ということで、全天球でライブストリーミングができるような試作機を作ろうと思っているんですよー。せっかくなんで、単に作るだけじゃなくて、どこかで試したいと思っています。何かいい案ないですかねー。」
MIROさん 「いつ頃できるんですか?」
ぼく 「これから始めるんですが、もたもたしてても仕方がないので、何とか秋口には完成させたいですね。」
MIROさん 「秋にニコニコ超パーティーというイベントがあるんですよ。そこでどうですか?」
ぼく 「あ、ぜひお願いします。」
・・という ノリだけで即決 しましたw 内容も確認せずww
結果的に幾多の調整を乗り切って開発が本格化したのが8月で、完成は本番直前でしたけどね、えぇ。
メインステージ前とサブステージ前の2ヶ所に全天球ライブカムを設置し、2台のカメラを切り替えながらライブ中継を行いました。2台体制にしたおかげで、不測のトラブル時にもカメラを切り替えながらノンストップの中継を行うことができました。
そして、前々日設営⇒前日リハーサル⇒本番当日というという流れなのですが、何しろ8時間もの長丁場で大人数の演者さんが入れ代わり立ち代わりパフォーマンスを行うので、リハーサルから本番は 普通に考えたら無茶だろ 非常に計画的に事が運ぶわけですが、とにかく現場の皆さまの現場力で乗り切った感じです。ここらへんはホント、修羅場をくぐり抜けた者のみが先へと進めるんですよね。プロとして。
いくつか打ち合わせの中で決めていったライブのための仕様があります。
一つは電源部です。本番中に何かあったとき、例えば本体がフリーズしたりしたとき、本体電源スイッチを操作することは難しい、ということです。ゆえに、ACアダプターから通電したら、自動的に映像を出力し始めることができるようにしました。
また、演目によってライティング環境は激変しますし、一つの演目の中でもライティングは変化します。その時、カメラの露出(明るさ=EVやホワイトバランス)をオートにしておくと、最も見せるべき場所に露出や色合いが合わなくなる場合があります。例えば、強烈な光に露出が引っ張られ、演者の顔が暗くなってしまう、などです。よって、パソコンの向こう側の視聴者に見せたい部分がキチンと伝わるよう、カメラのコントロールを演出に合わせてダイナミックに行うことが必要になります。具体的には、USB経由でEV値とRGBゲイン(ホワイトバランス)をリアルタイムにコントロールできるように機能実装しました。映像ブースのパソコンから実際にカメラをコントロールするツールはドワンゴが開発しました。
熱意とプロの仕事とテクノロジーとセンスで乗り切った8時間耐久全天球ライブ中継ですが、会場内の特設ブースでは一足先にGear VRで体験ができました。
これが遂に自宅で体験できるようになるとは・・・未来キタ。
来るべき2016年
2015年末、遂にGear VRが発売されました。そして、2016年第一四半期にはOculus Rift、上半期中にはPlayStation VRが発売されます。いよいよVR時代が幕を開けるのです。
僕の中では「VRがクル」というのは当たり前の認識で、「視覚のハック」をトリガーにして様々な技術が新しい進化を始めると考えています。すなわち、VRが新しいテクノロジードライバーとなって、いろいろな技術の進化を引っ張っていくのです。例えば、コンピュテーショナルパワーはさらに必要となりますし、データの伝送経路もいまのままでは不十分です。小型・軽量化技術も一段と高いレベルに行く必要があります。
VR技術とその周辺技術が実現する全天球ライブは、当面「臨場感伝送」というユーザーエクスペリエンスを追求していくことになります。全天球動画を伝送する、という技術ワードだけでは捉えられない「臨場感・空気感・場」を伝えるテクノロジーを編み出していくのです。
テクノロジーという側面では、僕たちは2K全天球ライブという世界の一部を切り開いたわけですが、空間解像度を高めていくことは必須ですし、立体音響をどうしていくのかという課題もあります。映像の高品質化を軸としたリアリティーの追求はとどまるところを知らないでしょう。
ここで僕自身が追い求めていくこの世界を一言で表現するため、キーワードを創作しました。
Tele-Vivid Reality = TVR
「ビビッドな現実感」を時空を超えて共有するイメージです。英語っぽく「ティービーアール」という語感。鮮烈で瑞々しい(単純なビジュアルではない)現実感の伝送/コミュニケーションである TVR は、TVも想起させますし、VRの語感も埋め込まれています。VTRのアナグラムにもなっています。
そして、 TVR の世界は新しいユーザーエクスペリエンスのみならず、新しい文化、新しい価値観を生み出していくことでしょう。
来年の僕は、 TVR を追求し続けます。
いつの日か、VRヘッドセットの中、そしてリアルで皆さまとお会いできることを祈りつつ。
Ω