(この記事は WWDC 2014 の直後に書かれました。内容は2014年時点のものです。本文中の「Swift」や「iOS 8」は当時まだベータ版だったソフトウェアを指します。)
TL;DR
WWDC で発表された情報と、一般公開されている Apple のドキュメントに含まれる情報は NDA に抵触しない。よってそれらの範囲で Swift や iOS 8 に関する情報はセーフ。しかしスクリーンショットの公開は不可。
この記事の内容に法的な保証はないので、不安なら Mac (or iOS) Developer Program License Agreement の条項10.1 Information Deemed Apple Confidential を参照のうえ、弁護士に相談すること。
関連リンク:自分の Apple Developer アカウントで同意した契約書の一覧ページ(要ログイン)
本文
まず NDA (Non-Disclosure Agreement) とは何か。 Registered Apple Developer Agreement (PDF) によれば、登録済開発者(“Registered Apple Developer”)として入手できるプレリリースソフトウェアなどの情報は機密情報(“Apple Confidential Information”)に該当し、同じく登録済開発者である同僚を相手にする場合を除いては、その情報を公開してはならないとされている。
ただし、“Apple Confidential Information will not include: … (ii) information that is generally made available to the public by Apple” とあるように、すでに Apple によって一般に公開されている情報は、 NDA の対象外である。
Swift に関しては、 The Swift Programming Language が iBooks で公開されているので、ここに書かれている内容については NDA の対象に該当しないと思われる。
では iOS 8 についてはどうか。 iOS 8 のリリースノートや新規フレームワークのドキュメントを含むプレリリース版 iOS Developer Library は、登録済開発者としてログインしなくとも閲覧できる状態にある(ただしリンクはログイン後のメンバーページにしか見当たらない): https://developer.apple.com/library/prerelease/ios/navigation/
ログインしなくても読める情報は「Apple によって一般に公開されている情報」に該当すると思われるのだが、どうだろう。仮に Apple が不注意で公開してしまっただけだとしても、 NDA 契約者の過失または契約不履行によらず合法的に得られる情報であるから、 “Apple Confidential Information will not include: (i) information that is generally and legitimately available to the public through no fault or breach of yours” に該当し、やはり NDA 対象外ではないだろうか。
なお、 Xcode 6 は登録済開発者しかダウンロードできないので、 Swift で書いたコードのコンパイル手順や実行結果は間接的に機密情報に該当する可能性がある。 Xcode 6 の機能の詳細やスクリーンショットは明らかに機密情報に当たる。→下に追記したように、 WWDC のセッションで紹介された範囲なら機密情報に当たらない。スクリーンショットの公開は明示的に禁止されている。
追記1
Apple Has (Partly) Lifted the NDA for Beta Releases – Ole Begemann によれば、 Mac Developer Program License Agreement (PDF) が WWDC 2014 の開催に合わせてアップデートされ、機密保持に関する条項10.1に以下の記述が追加されたという:
Further, Apple agrees that You will not be bound by the foregoing confidentiality terms with regard to technical information about pre-release Apple Software and services disclosed by Apple at WWDC (Apple’s Worldwide Developers Conference), except that You may not post screen shots, write public reviews or redistribute any pre-release Apple Software or services.
WWDC で発表された内容については機密情報保持の制約を受けないと明示されている。また WWDC のセッションのビデオは、今年からログイン不要で視聴できるようになっている:WWDC 2014 Session Videos - Apple Developer。 WWDC のセッションには、次期 OS で導入される API や開発ツールの解説が含まれる。新技術の情報公開について、 Apple は以前より寛容な態度に変わったようだ。
追記部分で気になるのは “You may not … write public reviews” の部分だ。「パブリックレビュー」が何を指すか不明確だが、プレリリース段階の機能についてあまりに詳細な記事を書くとこれに該当する可能性があるので注意されたい。→追記2から想像するに、「パブリックレビュー」とは、一般発売された製品をレビューするようなやりかたでβ版製品をレビューすること(そしてβ版の機能が現行の製品にも備わっているかのような誤認を招くこと)かもしれない。
追記2
https://www.facebook.com/groups/ios.dev.jp/permalink/741904485830935/ このページによれば、WWDC 会場で Apple のスタッフから NDA に関する回答を得られたという。
・β版はあくまで開発検証用に開発者だけが使えるというだけで情報自体は公開してよい(そうだったの・・)
・AppleとしてはiOS8のAPIについても資料は公開してもよいと考えている(ええぇ!)
・SlideShareにも公開していいとのこと。本当はね。
・ただ一般の人がその資料を見て、iPhoneってこんなことができるんだ、と誤解されてしまうのは困る。
・StackOverFlowにiOS8関連の質問が出ると、NDA違反だ!と騒ぐ人もいるがそれは別に問題ない。
現行の iPhone の機能または次期 iPhone に確実に搭載される機能であると一般消費者に誤解されることがなければ、技術情報の公開は問題ないようだ。
また、 Swift の勉強会を開催することも可能で、登録済開発者以外も参加してよい。 Swift のコードを GitHub などで公開してもかまわない、とのこと。
追記3
NDAについて、WWDCでAppleの中の人に聞いてみましたによれば、 Apple から得られた回答は「Developer Program License Agreement を読んでお前の弁護士と相談しろ」とのこと。