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エンジニアこそ知っておくべき日本語の作文

Last updated at Posted at 2021-06-24

 こんにちは、とみーです。
 レポート・報告書・プレゼン資料・メールなど、文章を書くことって意外に多いですよね。
最近ではSNSへの投稿が誤読されることで意図せず炎上してしまったり、ニュース記事のタイトルが誤読を誘うような構文であるせいで間違った知識を覚えてしまったりします。
 そんなことがフォーマルな場面で起きてしまったら大変です。メールの文面に「資料は16:9の白いタイトルの下に赤線が引いてあるフォーマットとしてください。」なんて書いてあったら皆さんはどういうフォーマットを想像しますか?

スクリーンショット 2021-06-22 20.07.50.png

 少し考えただけでこれだけの誤読パターンがあります。文を見返す習慣が多少でもある方ならこんなことは起きないと思いますが、明らかに正しく意図が伝わらない文章です。
 しかし文章を一字一句変えることなく口語で説明してみてください。こんなにはちゃめちゃな文章でも頑張れば正しく伝えることができそうだと思いませんか?
 それはなぜかというと、口語では抑揚・息継ぎなどで文の成分を強調できるためです。しかし当然ながら文章でそのようなことはできません。

 話す時に比べて書く時は考慮すべきことが桁違いに多いのです。人に何かをわかってもらうために文章で何かを伝えるときは、少なくとも誤読が生まれない構文にすること、もっと言えばストレスなく理解できる構文で同じ文章を何度も読み返させない技術が必要です。
 しかしこれほど重要なことを教育された記憶は僕にはありません。学校では、この辺りを"センス"でどうにかなると教わります、そんなことないのに。

 そんな作文の技術を今回は最低限まとめておきます。参考書籍は−本多勝一著・<新版>日本語の作文技術−です。
 ただしここで言う作文技術とは、心に響く文章を書く技術では決してなく、誤読のないように文の意味を伝える最低限の技術です。紹介する技術が全て正しいわけではなく、守らなくても意味が成立することも多いことを念頭においてください。

日本語の文法はまだわかっていない!!(らしい)

この章は追記です。
 日本語の文法っておそらく中学校あたりでそれとなく教わるのですが、前提として日本語の文法理論は完成していません
 私は日本語に興味を持つまで大きな勘違いをしていたのですが、日本語の文法というのは現在も理論化されていないものだそうです。なのであらゆる文章を書くにあたって「この文は読みにくい。」という忠告はあっても、「この文は文法がなってない。」という忠告はとんだ的外れということです。もしそんな人がいたら、まず文法の講義をしてもらい、こちらから反例をバシバシぶつけてあげましょう。
 以上より、参考書籍から根本のエッセンスだけを噛み砕いて説明しますが、それらは文法の研究者がそう結論づけたものではなく、著者がそう分析して私が共感しただけのものであることをお忘れなく。

また、Qiita内にも文章作成についての記事がいくつも存在します。中にはこの記事と言っていることが違うものもありますが、自身で納得するものを選んで仕事などに活かしていってください。

(私が思う)日本語の基本構造

 参考書籍の著者は、欧米的文法を無理やり日本語に当てはめる作文を非常に嫌っていて、日本語は述語がメインでその他の要素は全て述語を説明するための修飾語(修飾節・修飾句)である、と述べています。
 私もこの理屈には非常に共感していて、例えば以下の文では明らかに2の方が自然です。

  1. 山﨑は渡邉が藤吉が笑った写真を楽しそうに撮っているところを見て嫉妬した。
  2. 藤吉が笑った写真を渡邉が楽しそうに撮っているところを見て山﨑は嫉妬した。

しかし、欧米的文法に近いのはどちらかというと1の方だと思いませんか?SVOに関係代名詞をつけるなどして記述する文法なら1が正しいことになりますが、どう見てもその構造をとっていない2の方が読みやすいです。

 この文で言うと「嫉妬した」という述語をその他の要素が入れ子的に修飾しています。日本語には、述語である「嫉妬した」を修飾する要素をどのように並べても良いという原則があります。
 上の例で言うと修飾・被修飾のツリーはこのようになっていて、同じ階層の修飾語はどのように並べても意味が通ります。その中には誤読を招いたり読みにくかったりするものが存在しますが、それをうまく並べることが作文術なのです。

スクリーンショット 2021-06-22 21.18.29.png

  1. 藤吉が笑った写真を渡邉が楽しそうに撮っているところを見て山﨑は嫉妬した。
  2. 藤吉が笑った写真を楽しそうに渡邉が撮っているところを見て山﨑は嫉妬した。
  3. 渡邉が藤吉が笑った写真を楽しそうに撮っているところを見て山﨑は嫉妬した。
  4. 渡邉が楽しそうに藤吉が笑った写真を撮っているところを見て山﨑は嫉妬した。
  5. 楽しそうに渡邉が藤吉が笑った写真を撮っているところを見て山﨑は嫉妬した。
  6. 楽しそうに藤吉が笑った写真を渡邉が撮っているところを見て山﨑は嫉妬した。

他にも書きようはたくさんありますが、これだけ列挙してみても全て文法的な意味は通ることがわかります。ただ、より自然で誤読のないのは1もしくは2だと思います。ここからは、①日本語は述語がメインでその他の要素は全て述語を説明するための修飾語(修飾説・修飾句)である、②修飾節(句)はどのように並べても良い、という原則に則りつつ、理解しやすい文章を書く方法を説明していきます。

言葉の並べ方の原則

節を先に、句を後にする。

述語を修飾する要素には節と句があります。簡単に言うと節は句の集まりで、先の例で言うと「藤吉が笑った写真を」などが節で「渡邉が」などが句です。
上で読みやすいと思った1・2の文の「撮っている」より前の部分を節と句に分解すると、

  • 藤吉が笑った写真を|渡邉が|楽しそうに|撮っている〜
  • 藤吉が笑った写真を|楽しそうに|渡邉が|撮っている〜

どちらも節が先になっていて、後半の句の順番はさほど読みやすさに関係ないことがわかります。逆に、読みにくい3・5の文を区切ってみると、

  • 渡邉が|藤吉が笑った写真を|楽しそうに|撮っている〜
  • 楽しそうに|渡邉が|藤吉が笑った写真を|撮っている〜

読みにくいものはことごとく句が前になっています。ここまでで、私が欧米的文法に支配されたがために今まで疑うことのなかった構文があります。それは「私は、〇〇と考える。」などの"主語"を先頭にする文です。これは間違いではないし、後述しますが効果的な場面もあります。しかし、"主語"を先におけばとりあえず読みやすい形になるというのは大間違いです。意図がない限りやらない方が良いでしょう。

※"主語"にダブルクォーテーションをつけているのはそれが欧米的文法要素だからです。日本語ではあくまで修飾の一種としてみるべきでしょう。

長い修飾を前にする。

 節を前にしたほうがわかりやすいことはいいとして、節どうしや句どうしの順番はどうでしょうか?これについてはおおよそこうした方がいいという程度ですが、長い方を前にするとうまくいくことが多いです。

  • グループのみんなと|誰とでも平等に接する菅井は|仲が|いい。

「仲が」は句なので後ろのほうがよいですが、「グループのみんなと」「誰とでも平等に接する菅井は」はどちらも節です。これを長い修飾を前にするに従って並べ替えると、

  • 誰とでも平等に接する菅井は|グループのみんなと|仲が|いい。

かなりスッキリと読みやすくなりました。欧米的文法を規定に持つ人は「そんなの"主語"を後にしているから読みにくいのだ。」と思うかもしれませんが、そんな人のために別の例を示します。

  • 菅井はみんなと仲がいい。
  • みんなと菅井は仲がいい。

どうでしょうか?修飾がすべて同程度に短い場合はどう並べかえてもわかりやすくなりますね。これが上の例のように修飾が長いだけで読みにくくなるのです。

前提であるものを先に書く

  • 藤吉が笑った写真を|渡邉が|楽しそうに|撮っている〜
  • 藤吉が笑った写真を|楽しそうに|渡邉が|撮っている〜

の例では、前者が明らかに読みやすい文です。それは前提が前に来ているからです。「渡邉が」と「楽しそうに」はどちらも句で長さに差はないですが、楽しそうにしているのは渡邉であるので「渡邉が」のほうが前提にあります。そういった場合には前提のほうを前にするのが自然な文になりやすいです。他の例では、

  • 自分たちだけでは|わからないことが|多い。

これも節の順番が逆でも意味は通りますが、前提である「自分たちだけでは」が先のほうが読みやすいです。
そして、短い修飾が前提である場合は修飾の切れ目に適度に読点を打ちます。

  • 職員1名が、新型コロナウイルスのPCR検査を受けた結果陽性であることが確認されました。

このように原則に背かざるを得ない場合、原則通り記述しても誤読が起きる場合に読点が登場します。それ以外の読点は打つべきではありません。

句読点

句点

句点とは「。」のことです。句点は文が完結したら打つ、ただそれだけのルールです。

読点

読点の役割は文の要素の切れ目を意図的に示すことです。使い方にはある程度のルールがあります。

  • 句・節の境目に打つ。
  • 述語に近い修飾に打つことを優先する。
  • 語順の原則を破ったり、節が長くなったりして読みにくい場合に打つ。
  • 何かを強調したい時に打つ。
  • 必要以上に打たない。

句・節の境目に打つ。

これを守らないと大変な目にあいます。

  • 藤吉が笑った写真を渡邉が楽しそうに撮っているところを見て山﨑は嫉妬した。

この文に対して読点を打てるだけ打つとしたら

  • 藤吉が、笑った、写真を、渡邉が、楽しそうに、撮っている、ところを、見て、山﨑は、嫉妬した。

こうなります。そのほかのところに打つのが不自然なことは明らかでしょう。
しかしこれで読みやすいかというと違いますね。句・節の境目に打つのは必要なルールで合って十分ではありません。

語順の原則を破ったり、節が長くなったりして読みにくい場合に打つ。

ルールとして明記すると難しいですが、要するに―読みにくくなった時に仕方なく打つ―ということです。
当然そのようなことが起きないように努力すべきですが、前提を前に書くことをして仕方なく句が前に来た時などに打つといいでしょう。
上の文であえて読点を打つなら以下のように打つのがよいでしょう。

  • 藤吉が笑った写真を、渡邉が楽しそうに撮っているところを見て、山﨑は嫉妬した。

なぜここかというと、並列な修飾の境目だからです。修飾ツリーを見ると「撮っている」に並列にかかる修飾は「藤吉が笑った写真を」「渡邉が」「楽しそうに」ですので、この境に読点を打つのが原則ですが、「渡邉が楽しそうに」はリンクする内容なのでひとつなぎにするのがいいでしょう。

スクリーンショット 2021-06-22 21.18.29.png

何かを強調したい時に打つ。

これは先ほど紹介した「私は、○○」構文などが代表例ですが、それ以外にも接続句や感嘆の後などもこれにあたります。

  • しかし、彼女たちの時代はそう長く続かなかった。
  • しかし彼女たちの時代はそう長く続かなかった。
  • 私は、勉強ができるだけでも素晴らしいと思う。
  • 勉強ができるだけでも素晴らしいと私は思う。
  • さあ、はじめよう。
  • さあはじめよう。

必要以上に打たない。

修飾の区切りやイレギュラーを明確にするのが読点の役割です。したがってそれ以外の用途で使用すると、かえって混乱を招くことがあります。趣味の問題ですが、単語を列挙する場合などに読点を使われるケースがあります。

  • 世界の主な自動車メーカーにはトヨタ、フォルクスワーゲン、フォードなどがある。

個人的には、読点の役割を明確にするため、列挙の読点は使わないようにしています。
その代わりに・「『 − … / などの記号を使うようにした方が良いと思います。記号の使い方で重要なことは、その記号の役割を決めて、そのポリシーを崩さないことです。

ここまでで、最初に出したひどい文

  • 資料は16:9の白いタイトルの下に赤線が引いてあるフォーマットとしてください。

はどうにか改善できます。

スクリーンショット 2021-06-23 20.31.16.png

このフォーマットを指定する場合、文の構造は以下のようになります。

スクリーンショット 2021-06-23 20.37.25.png

まず、一番深層の修飾句「赤線が」「下に」ですが、これは同程度の長さなのでどちらを先にしてもいいでしょう。これらを「引いてある」につなげて、「下に赤線が引いてある」を作ります。その次に競合する修飾は「下に赤線が引いてある」「白いタイトルの」「16:9の」です。節を先に、長い修飾を先にの原則に従うと、「下に赤線が引いてある白いタイトルの16:9の」になります。次も同様にやると「下に赤線が引いてある白いタイトルの16:9のフォーマットと資料はしてください。」になる。しかし、このメールの場合は資料のフォーマット指定という前提があるので、「資料は」はやはり先頭に持っていった方がいいでしょう。あとは修飾節を明確にする読点を打てば、

  • 資料は、下に赤線が引いてある、白いタイトルの16:9のフォーマットとしてください。

となってかなり読みやすくなりました。他のフォーマットを指定したい場合でも、

  • 資料は、16:9の白いタイトルの下に、赤線が引いてあるフォーマットとしてください。
  • 資料は、タイトルの下に赤線が引いてある、16:9の白いフォーマットとしてください。
  • 資料は、白いタイトルの下に赤線が引いてある、16:9のフォーマットとしてください。

などのようにすればいいでしょう。これでも読みづらくなる場合は、使う単語を変えてみたりして工夫しましょう。

実例紹介

ここで、いろんな会社のホームページにある文言を並べてみましょう。

  • Microsoft 365で毎日の必要事項を管理しましょう。 最新のAI搭載アプリ、1TBのクラウドストレージ、最も重要なものを守れるデジタル保護機能を利用して、常に一歩先を行くことができます。 会議の予定、計画、予算管理など、Microsoft 365があればあらゆることを簡単に管理できます。 −Microsoft Office 365の紹介−

企業のページにある文章ですから、特別読みにくいことはないでしょう。これで問題があるとすれば列挙の区切りに読点を使っていることです。先ほども書いたようにこれは趣味の問題ですが、私ならこうします。

  • Microsoft 365で毎日の必要事項を管理しましょう。 最新のAI搭載アプリ・1TBのクラウドストレージ・最も重要なものを守れるデジタル保護機能を利用して、常に一歩先を行くことができます。 会議の予定・計画・予算管理など、Microsoft 365があればあらゆることを簡単に管理できます。

他の例では、

  • 国際社会において、近年、気候変動がもたらす異常気象などが、世界や日本各地で頻発しています。 これらの課題を解決するために、2015年に、パリ協定が採択され、世界の平均気温上昇を産業革命前と比較して2度未満に抑えることが掲げられ、長期目標として、人間活動による温室効果ガスの排出量を実質ゼロにしていくことが掲げられました。 −デンソー エコビジョン | 環境への取り組み−

これは全体的に読点を打ちすぎであるのと、長い修飾の間に修飾句が入っていることもあってたいへん読みづらい。例えば以下のようにすべきでしょう。

  • 近年、国際社会において気候変動がもたらす異常気象などが、世界や日本各地で頻発しています。 これらの課題を解決するためにパリ協定が2015年に採択され、世界の平均気温上昇を産業革命前と比較して2度未満に抑えることが掲げられ、人間活動による温室効果ガスの排出量を実質ゼロにしていくことが長期目標として掲げられました。

次の例はかなり悪文な類です。

  • Max Böglは、2002年に運行を開始した商業磁気浮上式高速鉄道、上海トランスラピッドの軌道を敷設した実績を生かし、完全に自動化された新しい都市モビリティソリューション、Transport System Bögl(TSB)を設計しました。 −Autodesk 磁気浮上技術で公共輸送の未来を加速−

「商業磁気浮上式高速鉄道」の後に読点があるせいで、「商業磁気浮上式高速鉄道」と「上海トランスラピッド」が別物のように見えてしまいます。続いて「新しい都市モビリティソリューション、Transport System Bögl(TSB)」の部分も一瞬つまづいてしまいます。これは読点を本来の役割とは別の用途で使っているために生じる煩わしさです。以下のように工夫するのが良いでしょう。

  • Max Böglは、2002年に運行を開始した商業磁気浮上式高速鉄道「上海トランスラピッド」の軌道を敷設した実績を生かし、完全に自動化された新しい都市モビリティソリューション「Transport System Bögl(TSB)」を設計しました。
  • Max Böglは、2002年に運行を開始した商業磁気浮上式高速鉄道−上海トランスラピッド−の軌道を敷設した実績を生かし、完全に自動化された新しい都市モビリティソリューション−Transport System Bögl(TSB)−を設計しました。

英語文法との差

ここまでが、エンジニアがイチから作文するときに意識すべき作文の最低限度の知識かなぁと思います。エンジニアの皆さんは英語を日本語に訳すことも頻繁にあると思いますので、ここからはほかの言語、特に英語と日本語の差分について例を示して説明します。

英語の主従関係

英語において最も重要なのは主語と動詞(述語)です。たとえば「AがBにCを与える。」という文では、

  • A gives B C.
  • A gives C to B.

のように書けます。英語において主語・述語の位置関係はぶれることはなく、「A B gives C」などのようにはできません。(命令法など、法によっては主語がどこかに行くことはある。)同じ文を日本語で書くと

  • AがBにCを与える。
  • BにAがCを与える。
  • CをAがBに与える。
  • CをBにAが与える。

どれも正解ですが、「AがBに与えるCを。」というのはありえません。日本語においては述語のみがその文の主体であって、その他の要素はすべて同列に述語を修飾するものとしてとらえることができます。

主語のない日本語

 あまり頭の強くない人に論文などを添削させると、主語がないという旨の忠告を受けることがあると思います。特にプレゼンテーションにおいてそれは顕著で、プレゼンテーションは口で説明することが前提の媒体ですが、検閲する側がそのことを踏まえないでいると、トンチンカンな忠告を受けることになりやすいです。
 先ほども書いた通り日本語に主語となるものは必要なく、それがないと文の意味が通らないときに登場します。

  • クレーム対応では相手の気分を逆なでしないようにすべきだ。

これを英語で書く場合はItなどの形式上の主語を半ば無理やりおいてやらなくてはいけませんが、日本語にはその必要はありません。

蛇足:「は」の役割

題目提示

最後にあまり役に立たない話を書いておきます。
学校では「は」「が」がついたら主語だと教わった記憶があるのですが、書籍内に登場する三上章氏はそれを否定しており、日本語に主語は存在しないと主張しています。その代わりに「は」というのは題目提示という役割があり、「が」「に」「の」「を」などの意味を兼務することができるとしています。例えば「AがBにCを与えた。」という文を考えてみます。英語だと以下のようになり、

  • A gave B C.
  • A gave C to B.

この2択以外に書きようはなく、BとCをひっくり返す際にはtoという別の単語を必要とします。これが日本語の場合に順序がさほど重要でないことは前述しましたが、「は」をつかって以下のようにもできます。

  1. AはBにCを与えた。
  2. BにはAがCを与えた。
  3. CはAがBに与えた。
題目提示 述語
Aは Bに Cを 与えた。
Bには Aが Cを 与えた。
Cは Aが Bに 与えた。

1の例では「は」が「が」を、2では「には」が「に」を、3では「は」が「を」を兼務しています。では題目提示とは何なのかというと、「今からAについての話をしますよー。」と宣言することです。そのため「は」がつく句は強調すべき語として認識できるため、文の先頭に置かれることが多いのです。そして、「は」が登場した後の文についても主題提示は継続しており、後の文にまで影響が継続するという特徴があります。

  • 弊社はこの発明によって業界トップの企業になりました。決して楽な道のりではありませんでしたが、すべて熱心な従業員たちの不屈の努力によるものと考えています。
  • タコには8本の足があります。そのほかにも切られた足を自己修復する機能もあります。

これらは英語に直訳することができません。するとしたら「タコは8本の足と、切られた足を自己修復する機能をもつ。」などの構造変換を仲介するほかありません。題目提示ですからプレゼンではこのように使うといいでしょう。

「が」の場合は明らかに不自然です。

 よくある誤解に「は」と「が」は意味が同じというものがありますが、それは全く違っています。「が」の方が断定的で意味がはっきりするから「は」を使うな、などということをしばしば言われがちですが、「は」と「が」はそもそもの役割が異なっているので、その差を認識して使い分けるのが正解だと私は思います。
 「が」の方が意味がはっきりすると言われるのは、「が」がその後の内容にのみ効力を持つのに対して、「は」は後ろのいくつもの文に対して効力を持つので、ものを限定する作用が薄いためだと思います。

対照・暗黙の比較(追記)

 「は」の役割としてのメインは助詞の兼務ですが、一般に印象が強いのはこちらの方かと思います。

  1. 井上は虫に弱い。
  2. 井上は虫には弱い。

この2文では明らかに意味が違います。1の場合はただ「井上=虫に弱い」を述べているだけですが、2の場合は「虫以外には強いことがある」ということを暗に示しています。以下のように文を続ければ同じ意味で取れますが、

  1. 井上は虫に弱いが動物に強い。
  2. 井上は虫には弱いが動物につよい。

2の方が虫にだけ弱いことが強調されています。このように「は」には比較を強調するような作用もあるのです。

 また、面白いことに「は」が2つ登場する文の場合は、はじめの「は」が題目提示と受け取られ、続く「は」が比較対照と取られやすいと感じます。「は」と「には」の差ではないのです。

  • 渡辺はパンには目がない(が、〇〇には疎い)。
  • パンには渡辺は目がない(が、原田は疎い)。

このあたりは特別意識しなくても良いことだと思いますが、題目提示を使って主張を明確にしたり、対照効果を使って他者との比較を強調したりと、うまく使うとアピール力の高い文章にできるかもしれません。

(追記)エンジニアがやりがちな個人的にむかつく文

追記することじゃないかと思いますが、個人的に鼻につく分を紹介しておきます。

○○ですが、○○が、○○である。

「が」は逆接の意があるので文中に2回登場すると頭がこんがらがります。やらないほうがいいでしょう。「余談ですが、」などの逆接でない「が」の用法には注意です。あまり登場させすぎないほうがいいなと思ってます。

Yesです。

「そうです。」でいいだろ。

・・・のそれ

日本語にはあまり代名詞を登場させないほうがきれいで、致し方なくつける程度にしたほうがいいです。題のような文はエンジニア界隈で結構見かけます。省けることが多いのでやめてください。

まとめ

繰り返しますが、ここに書いたことは「わかる文章を書くための最低限の技術」です。重要なことは自分の書いた文章を見直すことであって、それで困った時にだけ技術を使いましょう。

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