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請負契約と準委任契約、どっちで契約すればいいの?〜請負契約・準委任契約・労働者派遣契約の違い〜

Last updated at Posted at 2015-12-21

この記事は個人の見解であり、所属する組織の公式見解ではありません。

背景

 チームのリーダーや組織のマネージャーになると、パートナー会社との仕事の進め方にも気を配らなくてはならなくなります。契約の結び方や仕事のお願いの仕方、それらのちょっとした思い違いが、思いがけないリスクになることもあります。とはいえ、そういった知識をエンジニアが改めて学ぶ機会というのは、なかなかないのではないでしょうか。

 この記事では、新たにチームのリーダーや組織のマネージャーになったエンジニアに向けて、パートナー会社と上手に仕事を進める上で知っておきたい「請負契約」「準委任契約」「労働者派遣契約」の知識を、主に発注側の視点から解説します。

ショートストーリー1

佐藤先輩「山田くん」
山田くん「あ、佐藤先輩。おつかれさまです」
佐藤先輩「例のプロジェクトのリーダーになったんだって?」
山田くん「そうなんですよ。今日もこれからX社と打ち合わせです」
佐藤先輩「そうか、起ち上げはいろいろ忙しいからね。X社との契約はどう結ぶの?」
山田くん「業務委託契約ですね」
佐藤先輩「タイミング的には準委任契約になるのかな?」
山田くん「法務部とは業務委託契約で、と話していますね。まぁ、派遣契約でないことは確かですね(笑)」(準委任契約ってなんだろう?)
佐藤先輩「X社は一般労働者派遣はやっていないからな。大変だろうけど、いいチャンスだ。頑張れよ」(契約形態はまだ検討中なのかな?)
山田くん「ありがとうございます!」

 この会話の中で、山田くんと佐藤先輩の会話が噛み合っていないポイント、おわかりですか?
 山田くんはパートナー会社との契約は業務委託契約という契約形態だと思っています。法務部との会話も「業務委託契約」という単語で(いまのところは)通じていますし、もしかしたら受け取った契約書のテンプレートに「業務委託契約書」というタイトルが書かれていたのかもしれません。
 さてさて山田くん、無事にX社と契約を締結できるのでしょうか?

業務委託契約とは

 民法では「贈与」「売買」「交換」「消費貸借」「使用貸借」「賃貸借」「雇傭」「請負」「委任」「寄託」「組合」「終身定期金」「和解」の13種類の契約について特に名前を付けて定めており、それらの契約を典型契約有名契約)と呼んでいます。

 この中に「業務委託」という名前がないことからもわかる通り、法律上、業務委託契約というものは存在しません。業務委託契約とは、請負契約と準委任契約をひっくるめた実務上の呼称なのです。

ショートストーリー2

山田くん「あ、佐藤先輩」
佐藤先輩「お、例のプロジェクトは順調かい?」
山田くん「それが、先日のX社との打ち合わせで契約の詳細を詰めていたところ」
佐藤先輩「ふむふむ」
山田くん「もう少し要件がはっきりしないと契約を結べないと言われてしまって」
佐藤先輩「なるほど」(なんだか雲行きが怪しそうだな)
山田くん「X社の担当者からは、請負契約じゃなくて準委任契約も検討しませんか、という提案を受けているんですけど」
佐藤先輩「なかなか前向きな提案じゃないか」
山田くん「業務委託契約について話していたのに、突然、請負契約とか準委任契約と言われてもなにがなにやら」
佐藤先輩「なるほどね」

 システム開発にかかわる業務をパートナー会社に委託する場合、一般的には次の三つのうち、どれかの契約を結びます。その三つとは、成果物の完成を約束する請負契約、業務の処理を依頼する準委任契約、エンジニアなどの人材を供給してもらう派遣契約、です。
 どうやら山田くん、この三つの違いを理解できていないようです。

システム開発にかかわる三つの契約形態

請負契約

 請負契約とは、民法第632条に規定されている契約の形態です。請負契約のポイントは、仕事を完成することを約する契約であるということです。

民法第632条(請負)
請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。

受注側に完成責任がある

 受注側には仕事を完成させる責任があります。そのため、受注側から一方的に契約を破棄することはできません。

受注側に瑕疵担保責任がある

 世間一般の常識として、仕事の完成には、その成果物が問題なく動作することへの期待が含まれます。そのため、発注側は成果物に問題(民法では「瑕疵」という)を発見した場合、それを無償で修正(民法では「修補」という)することを請求したり、損害賠償を支払うことを請求することができます。

民法第634条(請負人の担保責任)
1. 仕事の目的物に瑕疵があるときは、注文者は、請負人に対し、相当の期間を定めて、その瑕疵の修補を請求することができる。ただし、瑕疵が重要でない場合において、その修補に過分の費用を要するときは、この限りでない。
2. 注文者は、瑕疵の修補に代えて、又はその修補とともに、損害賠償の請求をすることができる。この場合においては、第533条の規定を準用する。

 ただしこれらの請求ができるのは、原則として成果物の引き渡しから1年以内です。

民法第637条(請負人の担保責任の存続期間)
1. 前三条の規定による瑕疵の修補又は損害賠償の請求及び契約の解除は、仕事の目的物を引き渡した時から一年以内にしなければならない。
2. 仕事の目的物の引渡しを要しない場合には、前項の期間は、仕事が終了した時から起算する。

 また瑕疵担保責任は、民法上は無過失責任とされています。そのため、問題が生じたことについて受注側に明らかな非がなくても、発注側は修正や損害賠償を請求することができます。

発注側に指揮命令権はない

 発注側に指揮命令権はありません。そのため発注側は、「業務の遂行方法」「業務の遂行に関する評価等」「労働時間」「残業、休日出勤」「服務上の規律」「勤務配置等の決定及び変更」に関する指示を行ってはなりません。

報酬は成果物を検収した後に支払う

 仕事を完成することを約した契約ですから、契約の達成は仕事が完成したとき、ということになります。そのため、受注側から成果物の納品を受け、発注側で成果物に問題がないことを確認(「検収」という)した後、一括して報酬を支払うことが一般的です。

要件定義が重要である

 「仕事を完成することを約する」ためには、最終的な完成の姿を詳細に決めておくことが重要です。

実態上の条件

 発注側と受注側の関係において、実態として、受注側は以下の条件を満たしている必要があります。この条件を満たさない場合は偽装請負と見做されることがあります。

  1. 仕事の完成について、事業主として財政上及び法律上のすべての責任を負うこと
  2. 自らの設備や資材を使って作業を行うもので、単に肉体的な労働力を提供するものではないこと
  3. 指揮命令を受けないこと

準委任契約

 準委任契約とは、民法第656条に規定されている契約の形態です。準委任契約のポイントは、業務を処理することを約する契約であるということです。

受注側に善管注意義務がある

 受注側に仕事を完成させる責任はありません。
 しかし、業務を委託されるということは、専門家として業務を委託するに足る知識や経験を持っていることが背景にあり、プロフェッショナルとして一般的に期待されるレベルの注意を払うことへの期待が含まれます。
 そのため受注側には、善良なる管理者の注意をもって委任された業務を処理する義務(善良な管理者の注意義務=善管注意義務)があり、これを怠ると債務不履行責任を問われることになります。

民法第644条(受任者の注意義務)
受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。

発注側に指揮命令権はない

 発注側に指揮命令権はありません。そのため発注側は、「業務の遂行方法」「業務の遂行に関する評価等」「労働時間」「残業、休日出勤」「服務上の規律」「勤務配置等の決定及び変更」に関する指示を行ってはなりません。

報酬は期間ごとに支払う

 「仕事の完成」という明確なゴールがないため、報酬は一定期間ごとに支払われるのが一般的です。例えば、受注側は毎月最終日に業務報告書を提出し、発注側は内容を確認の上、翌月末に報酬を振り込む、といったものです。

業務の種類とプロセスの定義が重要である

 「業務を処理することを約する」ためには、業務の種類やプロセス(どういった業務を、どのように処理して欲しいのか)を詳細に決めておくことが重要です。

実態上の条件

 発注側と受注側の関係において、実態として、受注側は以下の条件を満たしている必要があります。この条件を満たさない場合は偽装請負と見做されることがあります。

  1. 業務の処理について、事業主として財政上及び法律上のすべての責任を負うこと
  2. 自らの設備や資材を使って作業を行うもので、単に肉体的な労働力を提供するものではないこと
  3. 指揮命令を受けないこと

委任契約と準委任契約

 13種類の典型契約を見ると、「準委任」という名前がありません。「委任」という名前はありますが、「準委任」という名前はどこにもないのです。準委任契約もまた、法律的には存在しない契約なのでしょうか?
 いいえ、準委任契約は存在します。ずばり、委任契約=準委任契約です。エンジニアとしては、準委任契約という名前だけを覚えておけば問題ありません。
 「わかった。委任契約のことは忘れよう」と思えた方は、この後の説明を飛ばして次に進んでください。忠告します。この後の説明は実務ではまったく役に立ちませんよ。






 民法第643条では、当事者の一方が相手方に、法律行為を委託する契約を規定しています。この契約は委任契約と呼ばれます。事件の弁護を弁護士に委託する契約は、委任契約の典型的な事例です。

民法第643条(委任)
委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。

 民法第656条では、法律行為でない事務の委託についても、委任契約の規定の準用を認めています。委任契約の規定を準用した契約、という意味で、この契約は準委任契約と呼ばれます。

民法第656条(準委任)
この節の規定は、法律行為でない事務の委託について準用する。

 法律的には、委任契約は法律行為を委託する契約、準委任契約は法律行為以外を委託する契約、という違いがあります。しかし、準委任契約は委任契約の規定を準用しているため、委託する行為以外の違いはありません。
 エンジニアが委任契約を扱うことはほとんどない(仮にあっても、そのときは法務部が一緒でしょう)ので、実務上は準委任契約という名前を覚えておけば問題ありません。

労働者派遣契約

 労働者派遣契約とは、労働者派遣法に規定されている契約の形態です。労働者派遣契約のポイントは、指揮命令権が派遣先(発注側)にあるということです。

労働者派遣法 第一章 総則 第二条(用語の意義)
一 労働者派遣 自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることをいい、当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするものを含まないものとする。

三つの契約形態のまとめ

「請負契約」「準委任契約」「労働者派遣契約」についてまとめてみましょう。

請負契約 準委任契約 労働者派遣契約
契約内容 仕事の完成 業務の処理 労働への従事
指揮命令権 受注側 受注側 派遣先(発注側)
報酬支払い 検収後一括 一定期間ごと 一定期間ごと
完成責任 あり なし なし
瑕疵担保責任 あり なし なし
規定のある法律 民法 民法 労働者派遣法

ショートストーリー3

山田くん「なるほど。一口に業務委託契約と言っても、請負契約と準委任契約があるんですね」
佐藤先輩「そういうことだね」
山田くん「僕がX社と詰めていたのは、請負契約のイメージでした」
佐藤先輩「システム開発では一般的なイメージだからね」
山田くん「X社の担当者が準委任契約を提案してきたのは、今回のプロジェクト、彼らは準委任契約が適していると思ったってことですよね」
佐藤先輩「たぶん、そうだろうね」
山田くん「先輩、結局どの契約形態を選べばいいんでしょうか?」

 三つの契約形態に違いがあるということは、それぞれの契約形態によって得意な仕事が違うということです。それを踏まえて適切な契約形態を選択することが、パートナー会社と上手に仕事を進める上では重要です。
 いよいよ山田くん、核心に踏み込んできました。

契約形態の選択

 システム開発にかかわる三つの契約形態の特徴は、先に述べた通りです。それらの特徴を踏まえて適した契約形態を選べばいいのですが、いざ選ぼうとすると、ある面においてはこちらの契約形態が適しているが、別の面においてはあちらの契約形態が適している、ということも多いでしょう。
 ここでは契約形態を選択するときに考慮するとよい、幾つかのポイントを取り上げます。

選択のポイント

目的

 契約を結ぶ目的はなんですか?
「なにかを完成させること」であれば請負契約が、「知恵やノウハウを借りること」であれば準委任契約が、「労働力を補うこと」であれば労働者派遣契約が適しています。

指揮命令権

 指揮命令権は必要ですか?
 業務の種類やプロセスが定まっておらず、業務を処理してもらう上でたびたび指示が必要であれば、おそらく労働者派遣契約が適しています。

要件定義

 要件定義は定まっていますか?
 要件が流動的で、最終的な完成の姿が定まっていなければ、請負契約は困難です。そのような場合は、準委任契約や労働者派遣契約を検討しましょう。

報酬の支払いタイミング

 パートナー会社に報酬を支払うタイミングは、成果物を検収した後でも大丈夫ですか?
 パートナー会社によっては、成果物を検収するまでいっさいの支払いが行われないと、途中で資金繰りが苦しくなることがあります。そのためパートナー会社から、一定期間ごとに報酬を受け取れる準委任契約や労働者派遣契約を希望されることもあります。

モデル契約におけるフェーズの分類と契約類型

 経済産業省が策定した「情報システム・モデル取引・契約書」では、フェーズごとに適した契約形態がまとめられています。
 パートナー会社に委託したい業務がどのフェーズの業務か、あるいはどのフェーズの業務に似ているかを考えることで、適した契約形態を選ぶ参考になるかと思います。
※ 以下は「情報システム・モデル取引・契約書」をもとに一部変更しています。

フェーズ 契約形態
企画・要件定義 システム化の検討 準委任
要件定義 準委任
開発 外部設計(概要設計) 準委任/請負
内部設計(詳細設計) 請負
プログラミング 請負
単体テスト 請負
結合テスト 請負
総合テスト 準委任/請負
受入・導入支援 準委任
運用 ユーザーテスト(運用テスト) 準委任
運用 準委任/請負
保守 保守 準委任/請負

ショートストーリー4

山田くん「佐藤先輩!」
佐藤先輩「山田くん、ひさしぶりだね」
山田くん「すみません。X社との契約締結に忙しくて」
佐藤先輩「ということは、無事に契約を結べたのかな?」
山田くん「はい。まだ要件定義が固まっていないので、要件定義〜外部設計までは準委任契約でお願いして、X社には要件定義にも参加してもらうことになりました」
佐藤先輩「それはよかった」
山田くん「X社が準委任契約を提案してくれたのは、こちらの要件定義が曖昧だったからですね」
佐藤先輩「そうだね。要件定義が曖昧だと、仕事を完成させるまでの作業量を見積もることができないし、変更管理も大変になりがちだからね」
山田くん「プロジェクトの状況によって契約形態を考慮する必要があるなんて、思いませんでしたよ」
佐藤先輩「逆に言えば、結ぶ契約形態によってプロジェクトの準備も変わる訳だから、リーダーとしてそこのところは把握しておかないとね」
山田くん「リーダーって技術以外のことも勉強しないといけないんですね」

参考資料

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