前回と同様の趣旨で、 Qiita内の圏論エントリを読んでいきます。前回まででだいたいの投稿はチェックしたと思いますので、今後は新着記事を読んでいきます。
【ハードルを下げつつ, 本質的なことから逃げない圏論の解説】に気になる記述を見かけたので
誤った記述は見受けられないエントリですが、互いに正しいことを主張していて論点が噛み合ってないという印象を受けましたので、読む際は気を付けるといいでしょう。
心構え的な内容が多く含まれていますが、それらについて真偽を判断するのは適切ではないため、真偽を判断できるセンテンスのみ取り上げます。なお、二重引用の部分は元の元の記事からの引用です。
「集合の元」はタブー
圏論でも集合は使われますので、元を利用することはあります。ただ、Setsなどで議論を進める場合の初学者への注意喚起としての限定的な意味であれば、適切であると思います。
整数(訳注: $\mathbb{Z}$)が対象であることから分かるかもしれないが, 対象は集合であることが多い.
集合ではないことも多いことを強調する方が好みですが、前述と同様限定的なコンテキストであれば適切です。
その集合の中身には言及せずに射の性質を語るのが圏論のやり方だ. 今まで「集合の元」を使って説明していたことと同じ内容を, 対象と射だけで説明するのが圏論だ.
前述したとおり、Setsなどに限定した話であれば適切です。
圏論では対象が集合かどうかにはお構い無しにただの抽象的な概念「対象」であるのだが,
正しい記述です。
まず圏でなるべく集合の元を取ろうとしないのは
そもそも対象が集合にならないことがあるためだ.
正しい記述です。
集合の元を直接取らずに射という
相互関係の取り扱いに着目する
正しい記述です。
圏論は比較的新しい数学の分野であり, その手法も一風変わっている.
比較的新しいと言える分野かと思います。一風変わっているかは読者のそれまでの経験によりますので、ここでの判断は致しません。
関手が対象, 自然変換を射とした関手圏は
対象が関手なので当然対象が元を持たない.
正しい記述です。
catamorphism を理解するために必要な知識を辿って行って, 芋づる式に「F-始代数」→「F-代数」→「直積, 直和」→「射, 対象」と遡った
(cocoatomo 氏)
正しい発言です。
今回の訳注
元記事のMacLane氏の引用にもある通り、圏論の主役は関手と自然変換であることは意識しておくといいでしょう。