はじめに
米国発のショックは比較的わかりやすいです。
S&P500が下がる。VIXが上がる。翌朝のアジア市場がそれを受けて下がる。
これはよくある「米国発 → アジア波及」の形です。
一方で厄介なのは、VIXがまだ低いまま、KOSPIや日経平均だけが先に崩れるケースです。
この場合、VIXだけを見ていると、
米国市場はまだ落ち着いている
だから大丈夫そう
と見えてしまいます。
しかし実際には、VKOSPIやNikkei VIなど、アジア側のボラティリティ指数はすでに反応していることがあります。
そこで今回は、アジア発ショックと米国発ショックを分けて検証しました。
詳細なCSV、図表、英語版の技術ノートはGitHubに置いています。
検証期間
この検証で使用したデータ期間は 2023年1月〜2026年6月 です。
Nikkei VI / VKOSPI の派生統計は 2023-01-04 以降の重複期間のみ対象です。
重要なのは日付の扱い
この検証で一番大事なのは、同一日付の扱いです。
アジア市場は、同じ日付の米国市場より先に開きます。
つまり、アジア発ショックを見る場合、同日米国市場は「事前条件」ではなく「結果」です。
アジア発:
同一日付のアジア市場が先に動く
→ その後、同一日付の米国市場が反応する
米国発:
前日の米国市場が先に動く
→ 翌アジア市場が反応する
この2つを同じ日付処理で混ぜると、発生源と結果が混ざります。
イベント定義
アジア発・低VIX局地ショック
前日米国VIX < 20
前日S&P500リターン > -1%
同日の日経平均またはKOSPIが -2% 以下
これは、
前日の米国市場は落ち着いていた
しかしアジア市場が先に崩れた
という状態を拾う定義です。
米国発・低VIXショック
条件A: 米国VIX < 20 かつ S&P500リターン <= -1%
条件B: 米国VIX < 20 かつ S&P500リターン <= -2%
これは、米国市場が先に崩れた後、翌アジア市場がどう反応したかを見る定義です。
結果1: 米国発ショックは翌アジアに素直に波及しやすい
| Event type | n | Nikkei next / fwd1 | Nikkei fwd5 |
|---|---|---|---|
| アジア発 2%局地ショック | 139 | +0.18% | +0.75% |
| 米国発 低VIX -1% | 192 | -1.10% | -1.41% |
| 米国発 低VIX -2% | 14 | -1.96% | -2.70% |
注意: 条件B(-2%超)は n=14 と少数のため参考値です。
方向性は一貫して弱いですが、統計的信頼性は低いものと捉えてください。
米国発ショックは、条件Aでも条件Bでも翌アジア市場へ比較的素直にリスクオフとして伝わっています。
特に条件A(-1%以上)はn=192と十分なサンプルがあり、翌日・5日後ともに日経平均が明確に弱くなっています。
結果2: アジア発ショックは米国VIXへ必ず感染しない
アジア発2%局地ショックは139件ありました。
ベースライン参考: 通常時(非イベント日)の日経5日後リターンは約 +0.4% の目安です。
このため、アジア発ショック後の+0.75%は、通常時と比較して悪い数字ではなく、むしろ回復が速い側面があります。
同日その後の米国リターン: -0.30%
同日米国が1%以上下落した割合: 19.4%
同日VIX変化: +2.94%
日経5日後: +0.75%
5日以内の日経安値更新率: 70.5%
平均で見ると、日経平均は5日後にプラスでした。
ただし、5営業日以内に安値を更新した割合は70.5%あります。
つまり、アジア発ショックは、
最終的には戻ることも多い
でも途中のパスはかなり荒い
という性質に見えます。
結果3: KOSPI単独下落は警戒フラグだが、単独ルールでは弱い
KOSPIだけが先に崩れた場合、日経平均が後追いで崩れやすいのではないか、という仮説も確認しました。
結果は少し慎重に見る必要があります。
日経が既に2%下落:
5日後 +0.75%
5日以内安値更新率 65.9%
KOSPIだけ2%下落:
5日後 +0.75%
5日以内安値更新率 78.4%
KOSPI単独下落のほうが安値更新率は高いです。
ただし、5日後リターンの差は統計的に強くありません。
したがって、ここはこう扱うのがよさそうです。
KOSPI単独下落 = 警戒フラグ
KOSPI単独下落 = それだけで売買するルールではない
結果4: VIXが低くても、VKOSPIやNikkei VIは反応している
追加でNikkei VIとVKOSPIも統合しました。
Nikkei VIの元CSVには転載制限の注意書きが含まれていたため、GitHubには生系列を置かず、イベント単位の派生集計だけ置いています。信頼性評価の観点から、派生集計も参考値として捉えてください。
| Sample | n | Avg Nikkei VI | Avg VKOSPI | Nikkei VI top-20% rate | VKOSPI top-20% rate | 同日米国 -1%以上 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 全重複期間 | 790 | 23.69 | 23.85 | 34.3% | 38.7% | 9.7% |
| アジア発2%ショック | 23 | 26.15 | 33.31 | 47.8% | 73.9% | 30.4% |
| 前日米国 calm 非イベント | 558 | 22.18 | 21.73 | 26.3% | 30.6% | 7.2% |
アジア発ショック時は、特にVKOSPIが上位20%に入りやすい結果でした。
これは、
VIXが低い = 世界が安全(に見える)
ではなく、
VIXがまだ鳴っていないだけで、
アジア側のボラティリティ指数(VKOSPI, Nikkei VI)では
すでにストレスが価格発見されている可能性がある
可能性を示しています。
まとめ
今回の実務的な結論はこうです。
注意: この検証は事後的な記述統計であり、統計的検定や取引コストは未考慮です。
KOSPI→日経→...の順番は現時点での観察パターンであり、将来の順番を保証するものではありません。
検証方法の補足: 事後的な平均リターンの比較であり、p値や信頼区間は算出していません。
標本の期間制約(2023年以降)と単一時点の性質に注意してください。
米国発ショック:
翌アジア市場へ素直にリスクオフが伝播しやすい。
アジア発ショック:
米国VIXへ必ず感染するわけではない。
ただし、KOSPI、日経、VKOSPI、Nikkei VIでは局地的ストレスが出ている可能性がある。
KOSPI単独下落:
警戒フラグ。
ただし、単独の強い予測ルールではない。
VIXが鳴っていないから安全、とは限りません。
アジア発ショックでは、まず見るべき順番はこのあたりだと思います。
KOSPI(韓国)
→ 日経平均
→ VKOSPI(韓国)
→ Nikkei VI(日本)
→ その後にVIX(米国)
この順番は現時点での観察であり、常にこの順で出現するわけではありません。
あくまで「VIXだけを見ていては遅れる可能性がある」という注意喚起のための順番と考えてください。
米国の火災報知器が鳴る前に、アジア側では煙が出ていることがあります。
ただし、煙が必ず火事に繋がるわけではなく、また煙の単位(VKOSPI vs Nikkei VI)が毎回同じ順とは限りません。
詳細
検証の詳細、英語版ドキュメント、図表、派生CSVはこちらです。


