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お菓子の力を推定してみました

Last updated at Posted at 2016-12-02

この記事は Stan Advent Calendar 2016の12月5日の記事です。

またこの記事は,山口大学教育学部・教育心理学コースにおける「心理学研究演習」という授業の一環で行われた実験報告書をもとに作成されています。

この研究は,九州心理学会第77回大会で報告されました。

問題 

 柴崎(1963)は,お菓子を「嗜好にかなうことがおもな目的とされる」「自然物ではない,加工製造された食品である」「そのまま調理せずに食べられるようにつくられている完成食品である」「それ自体固有の形を有する食品である」と定義している。また,菓子が菓子らしくあるために,「菓子は見て美しく,嗜好をさそうことができるように美的に形成されなければならない」「食べておいしい,よい風味のある味覚が形成されなければ本質が失われる」とも述べている。
 お菓子には心理的効果もある。例えば佐田(2001)は内田クレペリン検査を用い,ガムの咀嚼により誤答数が減少する傾向があることを示している。
しかし,ここでは咀嚼運動の効果を検討している。ガムは腹にたまらない点や口腔保健用として食べられる点で他の菓子と比較して大きく異なっており,お菓子の摂取することで得られる満足と快感には焦点が当てられていない。そこで本研究では,お菓子の咀嚼が課題成績にどのような影響を及ぼすかについて検討することを目的とする。
 お菓子には,1口サイズで,ガムに比べて咀嚼が少なく食べられ,表面にうっすら糖掛けされた64層にもなるパイ生地で,パイとうまく混ざり合うように口どけスピードまで考えられた高品質なチョコを包んでつくられており,こんがりとしたきつね色でおいしそうな見た目とさくさくした食感が味わえる ロッテ社製パイの実 が最適であろうと考えた。ガムは先行研究にならい,カフェインなどの薬物を全く含まず,添加物の比較的少ないと思われたガムを使用した。
 お菓子の効果を検討するために,本研究では種類の違う3つの実験を行った。実験1では内田クレペリン検査を,実験2では図形パズルを,実験3ではマス埋めパズルを用い,単純な作業,ひらめきを必要とする作業,両方を必要とする作業,それぞれについて,ガムとお菓子の効果を検討した。

実験1

方法

  • 実験参加者 大学生96名(男性53名,女性42名,不明1名,平均18.49歳)。
  • 手続き 実験参加者を休憩時間に何も食べない群(統制群37名),ガムを噛み続ける群(ガム群27名),お菓子を食べる群(パイの実群31名)に分けた。その後,解答用紙を全員に配布し,ガム群にはガム(ロッテ社製,「キシリトールガム<ライムミント>」)を1人2粒ずつ,パイの実群にはパイの実を1人6粒ずつ配った。検査は前半作業15分,休憩5分,後半作業15分の構成となっている。検査の説明後,前半作業を行ってもらった。休憩時間になったら,ガム群にはガムを必ず2粒噛むように,パイの実群にはパイの実を最低1粒食べるよう伝えた。また,どの群の参加者にも休憩中に話をしないよう伝えた。休憩後,後半作業を行ってもらった。

結果と考察

以下の分析には,R3.2.3及びrstanパッケージ(2.12.1)を用いた。モデルは次の通りである。

data{
  int<lower=0> N1; // Numner of members of Group 1
  int<lower=0> N2; //                      Group 2
  int<lower=0> N3; //                      Group 3
  int<lower=0> P1[N1,30]; // Performance of Group 1
  int<lower=0> P2[N2,30]; //                Group 2
  int<lower=0> P3[N3,30]; //                Group 3
  int<lower=0> ko[N3]; // How meny Pai-no-mis they eat
}
parameters{
  real<lower=0> nouryoku_mu;
  real<lower=0> nouryoku_sd;
  real<lower=0> gum;
  real<lower=0> pai;
  real<lower=0> nouryoku1[N1];
  real<lower=0> nouryoku2[N2];
  real<lower=0> nouryoku3[N3];
  real<lower=0> gosa_sd;
}
transformed parameters{
}
model{
	// First period. 1-15 rows
  for(j in 1:15){
    for(i in 1:N1){
      P1[i,j]~normal(nouryoku1[i],gosa_sd);}
    for(i in 1:N2){
      P2[i,j]~normal(nouryoku2[i],gosa_sd);}
    for(i in 1:N3){
      P3[i,j]~normal(nouryoku3[i],gosa_sd);}
  }

	// Second period after 5 mins rest. 16-30 rows    
  for(j in 16:30){
    for(i in 1:N1){
      P1[i,j]~normal(nouryoku1[i],gosa_sd);}
    for(i in 1:N2){
      P2[i,j]~normal(nouryoku2[i]+gum,gosa_sd);}
    for(i in 1:N3){
      P3[i,j]~normal(nouryoku3[i]+(pai*ko[i]),gosa_sd);}
  }
    
  nouryoku1~normal(nouryoku_mu,nouryoku_sd);
  nouryoku2~normal(nouryoku_mu,nouryoku_sd);
  nouryoku3~normal(nouryoku_mu,nouryoku_sd);
  gosa_sd~cauchy(0,2);
}
generated quantities{
  real nouryoku1_mean;
  real nouryoku2_mean;
  real nouryoku3_mean;
  real diff12;
  real diff13;
  real diff23;
  real <lower=0,upper=1> rate;
  nouryoku1_mean <- mean(nouryoku1);
  nouryoku2_mean <- mean(nouryoku2);
  nouryoku3_mean <- mean(nouryoku3);
  diff12 <- nouryoku1_mean - (nouryoku2_mean+gum);
  diff13 <- nouryoku1_mean - (nouryoku3_mean+(pai*17));
  diff23 <- (nouryoku2_mean+ gum) - (nouryoku3_mean+(pai*17));
  rate <- step(diff23);
}

個人の能力の平均,分散と正答数は正規分布に従うと仮定し,誤差の標準偏差は平均0,標準偏差2のコーシー分布に従うとして,ベイズ推定を行った(反復回数10000回,バーイン期間5000を4セット)。結果は次の通り。

Table1 事後平均 事後SD
能力平均 57.07 1.40
ガムの力 7.84 0.49
パイの実力 1.62 0.09
誤差 7.03 0.09

また,パイの実を17粒(一箱分)食べたときの各群の差を推定した。

Table2 事後平均 事後SD 95%確信区間
統制ーガム -4.73 0.40 [-5.53,-3.94]
統制ーパイ -24.25 1.36 [-26.91,-21.55]
ガムーパイ -19.52 1.39 [-22.25,-16.76]
パイの実の勝率 100% 0.10

Table1から,誤差よりガム力が高いのでガムを噛んだ効果があったといえる。また,パイの実を5粒以上食べるとガムを噛んだときよりも効果が出ると考えられる。
Table2より,各群の成績には差があり,パイの実を17粒(1箱におおよそ含まれている粒数)食べると,100%の確率でガム群より正解数が多くなるといえる

実験2

方法

  • 実験参加者 大学生及び大学院生16名(男性10名,女性6名,平均20.81歳)。
  • 手続き 実験参加者を休憩時間の過ごし方によって,統制群5名,ガム群6名,パイの実群5名に分けた。課題のパズルには,イージーキューブ(クロノス制作)を使用した。まず,問題カードのQ1を見せながら,パズルの解き方を説明した後,練習として10分間でQ2~Q17を解いてもらった。その後5分間の休憩をとった。その際,ガム群にはガムを1人2粒渡し,噛み続けるように,パイの実群にはパイの実シェアパック1袋を出し食べ放題であることを伝えた。休憩後,本番として制限時間15分でQ18から解けるところまで解いてもらった。

結果と考察

 個人iの本番で解けた問題数は,問題数i=能力i+誤差,問題数i=能力i+ガム力+誤差,問題数i=能力i+パイの実力*食べた粒数+誤差というモデルを考えた。
 解けた問題数はポアソン分布に従うと仮定して,誤差は実験1と同じ設定でベイズ推定を行った。モデルは次の通りである。

data{
	int<lower=0> N1; // Numner of members of Group 1
	int<lower=0> N2; //                      Group 2
	int<lower=0> N3; //                      Group 3
	int<lower=0> P1[N1]; //Performance Group 1
	int<lower=0> P2[N2]; //            Group 2
	int<lower=0> P3[N3]; //            Group 3
	int<lower=0> ko[N3]; //How meny Pai-no-mis they eat
}
parameters{
 real<lower=0> gum;
 real<lower=0> pai;
 real<lower=0> mu1;

 real<lower=0> gosa_sd;
 real<lower=0> err1[N1];
 real<lower=0> err2[N2];
 real<lower=0> err3[N3];
 
}
model{
 for(i in 1:N1){P1[i] ~ poisson(mu1+err1[i]);}
 for(i in 1:N2){P2[i]~ poisson(mu1+gum+err2[i]);}
 for(i in 1:N3){P3[i] ~ poisson(mu1+(pai*ko[i])+err3[i]);}
 
  err1~normal(0,gosa_sd);
  err2~normal(0,gosa_sd);
  err3~normal(0,gosa_sd);
  gosa_sd~cauchy(0,2);
}
generated quantities{
  real diff12;
  real diff13;
  real diff23;
  real <lower=0,upper=1> rate;
  diff12 <- mu1 - (mu1+gum);
  diff13 <-mu1 - (mu1+(pai*17));
  diff23 <- (mu1+gum) - (mu1+(pai*17));
  rate<-step(diff23);
}

結果をTable3に示す。

Table3 事後平均 事後SD
能力平均 3.24 2.09
ガムの力 1.92 1.44
パイの実力 0.81 0.30
誤差 6.60 2.56

また,パイの実を17粒(一箱分)食べたときの各群の差を推定した(Table4)。

Table4 事後平均 事後SD 95%確信区間
統制ーガム -1.92 1.46 [-5.40,-0.88]
統制ーパイ -13.63 5.18 [-23.79,-3.48]
ガムーパイ -11.70 5.11 [-21.70,-1.51]
パイの実の勝率 99% 0.10

Table3より,ガムの効果がでるというには8粒以上,パイの実の効果がでるというには9粒以上食べればよいといえる。
Table4より,各群の成績には差があり,パイの実を17粒食べると99%の確率でパイの実群が多く問題を解けるといえる。

実験3

方法

  • 実験参加者 実験2と同じ。
  • 手続き 実験参加者を休憩時間の過ごし方によって,統制群5名,ガム群5名,パイの実群6名に分けた。課題のパズルには,Webサイトnikori.comに掲載されているお試しパズルの中から使用した。最初にパズルのルールと回答方法の説明をし,練習問題を解かせた。15分以上かかった場合はその時点で打ち切った。その後5分間の休憩をとった。その際,ガム群にはガムを1人2粒渡し,噛み続けるように,パイの実群にはパイの実シェアパック1袋を出し,食べ放題であることを伝え,実験者は退出した。休憩後,本番として1題解かせた。

結果と考察

本番の問題を解くのにかかった時間について,実験2と同様のモデルを考えた。
解くのにかかった時間は対数をとり,正規分布に従うと仮定して推定した。モデルは次の通りである。

data{
  int<lower=0> N1; // Numner of members of Group 1
  int<lower=0> N2; //                      Group 2
  int<lower=0> N3; //                      Group 3
  real<lower=0> P1[N1]; //Performance Group 1
  real<lower=0> P2[N2]; //            Group 2
  real<lower=0> P3[N3]; //            Group 3
  int<lower=0> ko[N3]; //How meny Pai-no-mis they eat  
}
parameters{
  real<lower=0> mu1;
  real<lower=0> gum;
  real<lower=0> pai;
  real<lower=0> err1[N1];
  real<lower=0> err2[N2];
  real<lower=0> err3[N3];
  real<lower=0> gosa_sd;
}
model{
 
 for(i in 1:N1){log(P1[i]) ~ normal(mu1,err1[i]);}
 for(i in 1:N2){log(P2[i]) ~ normal(mu1-gum,err2[i]);}
 for(i in 1:N3){log(P3[i]) ~ normal(mu1-(pai*ko[i]),err3[i]);}
  err1~normal(0,gosa_sd);
  err2~normal(0,gosa_sd);
  err3~normal(0,gosa_sd);
  gosa_sd~cauchy(0,2);

}

generated quantities{
  real diff12;
  real diff13;
  real diff23;
  real <lower=0,upper=1> rate;
  diff12 <- mu1 - (mu1-gum);
  diff13 <-mu1 - (mu1-(pai*17));
  diff23 <- (mu1-gum) - (mu1-(pai*17));
  rate<-step(diff23);
}

結果をTable5に示す。

Table5 事後平均 事後SD
能力平均 6.68 0.20
ガムの力 0.36 0.22
パイの実力 0.66 0.06
誤差 0.81 0.01

また,パイの実を17粒(一箱分)食べたときの各群の差を推定した(Table6)。

Table5 事後平均 事後SD 95%確信区間
統制ーガム 0.36 0.22 [0.33,0.87]
統制ーパイ 0.95 0.45 [0.07,0.65]
ガムーパイ 0.60 0.45 [-0.37,0.90]
パイの実の勝率 88% 0.32

Table5より,ガムの効果が出るには6粒以上,パイの実の効果が出るには14粒以上食べればよいといえる。Table6より,ガム群とパイの実群の差があるとはいえなかったが,パイの実を17粒食べたときは88%の確率でガム群より早く問題が解けるといえる。

総合考察

 本研究の目的は,お菓子の咀嚼が課題成績にどのような影響を及ぼすかについて検討することであった。
 各実験で,ガム力とパイの実力を推定することで,課題の種類によって成績にプラスに働くお菓子の量を推定した。
 また,ガム群とパイの実群の比較では,パイの実を1箱食べると高い確率でガム群より良い成績が出せることが明らかになった。
 ガムは数分後には糖分,香料分が溶けだし,ただのガムベースとなりおいしさが続くわけではないし,何粒も食べられるものでもない。それに比べパイの実は,1口サイズで気軽に食べられ,何粒食べてもおいしさは変わることがない。よって,より休憩後の成績を上げるならば,休憩中の過ごし方としてはガムよりパイの実を食べる方が適しているだろう。
 今後は,お菓子がどういう気分の変化をもたらしたことで課題成績に影響したのか検討するために,課題の前後に現在の気分を従属変数とするような研究計画に展開できると考えられる。

 11月27日にテレビ朝日系列で「お菓子総選挙2016」が放送されました。パイの実は,数ある有名お菓子の中から30位にランクインしました。私はTOP10には入っているだろうと予想していたので少し残念でしたが,みんなに愛されるお菓子であると再確認することができました。これからもパイの実を食べて,学業に励みたいと思います。
みなさんも作業のお供にパイの実はいかがですか?

 

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