「昆虫―驚異の微小脳」は、「ヒトの脳に比べてなきに等しい昆虫の脳。ところが、この一立方ミリメートルにも満たない微小脳に、ヒトの脳に類似した構造が見られることが明らかになってきた。」ことを述べている。
最近よく知られてきているように、顕花植物と昆虫とは共進化してきた。顕花植物は、花をつけ蜜を出すことで、昆虫に受粉の仲立ちをさせることで相互に依存する関係を作り上げてきた。植物が、蜜を出す花を、昆虫には見つけてもらう必要がある。しかもやみくもにいろんな花の蜜を集めてもらうよりは、その植物の蜜だけを集中的に集めてもらうことの方が、その植物の受粉に役立つ可能性が高まる。そのためには、花が昆虫にとって見つけやすく、種類を区別しやすい特徴をもっていることがのぞましい。この本では、昆虫がどのような視覚をもっているのかについて、どのような実験によってあきらかにされてきたのかを示している。
昆虫は、エピソード記憶を持つこと、場所に関する記憶を持つことなども、同様に実験に基づいて語られている。
昆虫の視覚としての特性については、次のような興味深い指摘があった。
・体の大きさを基準に視力を換算すると、人と同程度になること
・昆虫の視覚の応答時間は、哺乳類の視覚の応答時間よりも短い。ヒトには自覚できない蛍光灯の高周波のon/offが昆虫には認識できる。
・複眼による視覚のほかに、単眼による視覚もあり、用途が違っている。
・トンボのオス・メスによって目のつくりが違う例があり、立体視が重要性を持つかどうかが関係しているとのこと。
・「オプティカルフロー(画像の流れ)をみる」
OpenCV Optical Flow
・「側抑制による輪郭線の強調」
網膜における側抑制の概念図
エッジ検出・エッジ強調・ぼかし
・図形の対象性の有無を認識できること
・全空での太陽光の偏光を認識できるので、太陽が雲に隠れている場合でも、太陽の方向を知ることができること。
哺乳類の視覚でも実現できていない機能も含んでいる。
このような視覚が昆虫の微小な神経系で実現されていることに驚きを感じる。
このような微小な脳で、少ないエネルギー消費で、視覚機能を実現している。
画像屋として夢想するのは、これら昆虫の微小な脳で実現しているように、ディープラーニングがFPGAや専用の回路で小さく、少ないエネルギー消費で実現できるのではないだろうかということだ。
昆虫の脳で実現しているということは、物理的には不可能ではないということを意味する。
イメージセンサーと信号処理回路部分を積層した構造のデバイスが作られだしている。これが並列性の高い画像処理を可能にし、ディープラーニングなどの成果をイメージセンサに対して与えることを期待する。
付記:
昆虫の視覚についての記載は、上記の本の中にもっと詳しい記載がある。新書本であり、購入しやすい価格ですから、興味を覚えた人はぜひ買って一読することを勧める。