公共交通オープンデータの現在 ロンドン編

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この記事は、オープンデータをテーマにした、「オープンデータ Advent Calendar 2015」企画のための原稿です。2015年6月に第51回土木計画学研究発表会で発表した「オープンデータによるコミュニティバス基盤データの整備」の一部に大きく書き加えたものであり、このあとアメリカ編、日本編と続く予定です。

背景

公共交通、つまり鉄道やバス、飛行機や船舶などの路線図や時刻表などのデータは、それを使って何かアプリやサービスを作りたい人が多い、魅力的なデータのひとつです。東京メトロが2014年に開催した「東京メトロ オープンデータ活用コンテスト」には、281件の応募がありましたし、2013年6月のG8サミットにおいてまとめられたオープンデータ憲章においても、価値が高いデータの例として公共交通機関の時刻表が挙げられています。ここでは、先進事例のひとつであるイギリス ロンドンの事例について、文献調査を行いました。

ロンドンの公共交通オープンデータの状況

ロンドン交通局(Transport for London, TfL)とは、ロンドン市長をトップとし、ロンドン市の鉄道、地下鉄、バスを統括、運営する公共機関です。多くの公共交通事業者が民間企業であり、いくつもの会社に分かれている日本とは、大きく形態が異なりますね。

ロンドン交通局のオープンデータは、公式サイト「Open Data Users」に、29種類のデータがAPIやCSVファイルなどの形で掲載されています。この中には,駅やバス停の位置や時刻表、リアルタイムのバス車両位置だけでなく、APIとして提供されている乗換経路案内サービスや、リアルタイムの道路通行止めデータや道路状況のライブカメラ画像なども含まれています。また、地下鉄駅の乗降客数やオイスターカード(乗降用ICカード)による乗降データなどの一部などの統計データも提供されています。また、個人のオイスターカードを登録することで,乗車履歴や運賃データなどにもアクセス出来るそうです。
LondonOpenDataUsers.jpg

APIの利用にはメールアドレスや利用目的などの登録が必要であり、データのライセンスは,イギリス政府の標準的なライセンスでありCC-BYと互換なOpen Government Licence (Version 2.0)を一部修正したものとなっています。

経緯

そもそもイギリス政府が2010年にdata.go.ukを開始するようなオープンデータ推進の流れの中、ロンドン交通局も2010年に「TfL Digital Strategy 2010-13 (2010)」を発表します。このなかで、時刻表や路線、乗換案内情報など交通に関する様々な情報の公開を段階的に進めることを示しています。2012年にはバス到着データを公開する(当時のニュース)など進化を重ね、現在の姿になっています。より詳しい経緯は、後述の日本語文献の中で紹介されています。

効果の検証

イギリスの事例の興味深い点は、オープンデータ化による効果がしっかりと検証されている点です。イギリスでの実績を評価したレポート「Market Assesment of Public Sector Information (2013)」によると,交通に関するデータ(公共交通だけでなく道路交通も含む)の閲覧や、それを利用したアプリケーションの開発数が、経済や医療関係の様々なデータが公開される中で群を抜いた数となっており、2012年10月時点で47のアプリケーションが開発されているそうです。下のグラフでも、Transport分野が群を抜いていることがよくわかります。
 data.gov.uk dataset apps versus page views.png
ロンドン交通局のデータに関しては、それを利用したスマートフォンアプリのダウンロード数が2012年11月現在で400万件と見積もられています。これらを通して、バスの待ち時間や最適経路を知ることで、2012年の1年間で1500万〜5800万ポンドに相当する時間が節約できたと推計しています。また、白書「Open Data White Paper: Unleashing the Potential (2012)」によると、Google Mapsにも,このオープンデータを元にロンドンの乗換案内機能や地下鉄のリアルタイム位置情報が組み込まれているそうです。

個人開発者でも本格的なアプリケーションを開発することが可能であり、オープンデータを利用した地下鉄の位置情報可視化事例であるLive London Underground Mapなどがよく紹介されています。livelondon.jpg

ロンドンから他の街へ

前掲の「Market Assesment of Public Sector Information (2013)」では、ロンドンの成果を受けた今後の取り組みについても紹介しています。人口や公共交通の規模においてロンドンに及ばない街でも、ロンドンでの事例に似た取り組みが始まっており、例えばグラスゴーでは、オープンデータのために2013年に2400万ポンドの政府資金を得たそうです。

日本語の文献

イギリスの公共交通オープンデータに関する日本語の資料としては、国土交通省 総合政策局 総務課による「英国政府における交通分野のオープンデータの取り組みについて(海外現地調査報告) (2014)」という資料がよくまとまっており、私の文献調査では見つけられなかった情報もいろいろと掲載されています。同課が発行するメールマガジン「総合交通メールマガジン 第67号 (2014)」によると、これは「ICTを活用した歩行者の移動支援に関する勉強会」(座長:坂村健 東京大学大学院情報学環教授)の取り組みとして行った海外現地調査の報告概要だそうです。