良いハックには、周囲からの隔離集中、そして精神高揚、そして最後に安らぎの沈潜が必要です。
そんな自分の環境構築のツールとして使える音楽を、「高揚」「ふつう」「鎮静」の3つのジャンルにわけて、いくつかご紹介してみます。街やテレビで流れる音楽も良いですが、このような専門性と用途性のある音楽も立派なライフハックツールです。
ハックツールになる音楽
仕事や趣味でハックしているとき、音楽やノイズをヘッドホンで聴くことがあります。
理由のひとつは、自分を本来の性能に戻すため。職場や家庭の環境に起因する「電話や会話やテレビがうるさくて、気が散って集中できないよ!」という問題を回避するためです。
もうひとつの理由は、自分を高いコンセントレーションに持っていくため。さらなる高度集中に自分を遷移させ、没入・恍惚のゾーン状態に高めます。
このように、周りの環境から自分を守って高める方法には、個室を作ったり在宅勤務したりカフェにこもるなどいろんな方法がありますが、音楽をヘッドホンで聴くのは、コスト低くすぐ実施できて汎用性も高い方法です。
別に音楽でなく「音」でも構いません。精神集中の収斂を高める持続で、思考を妨げず、思考の送り風になるようなものであればいいわけです。だからホワイトノイズやピンクノイズでもいいんですが、どうせなら何かひと工夫したレシピでいきましょう。
カテゴリー1: 防御と高揚
どんな音楽を聴くかの選択は個人の趣味で自由ですが、このようにツールとして用いる音楽には、歌詞のないインストゥルメンタル音楽が適切です。ことばを伴った「うた」は、言語中枢に歌詞が割り込んできますからなるべく避けましょう。日本語(母国語)の歌はもってのほかです。馴染みのない外国詞なら比較的よいでしょう。墓碑銘のように無意味なことを連続している歌詞ならさらに良し。何を言っているかわからない遠い言語も良いでしょう。特に「歌」であることを成立させるためだけの、意味を持たない人工言語の歌もおすすめです。
以下、「高揚」「ふつう」「鎮静」のジャンルにわけて、いくつかご紹介してみます。
周囲の雑音防御、特に「会話ノイズ」から自分を守るためには、ある程度の音量レベルも必要です。なので、まずはある程度のリズム・ビートもあって、高揚成分も高いものから。ひとつずつ試していきましょう。
以下、画像をクリックするとYouTubeの再生画面が開きます。別タブで開くことをお勧めします。
1-a: 思索・高揚 (動的言語向け)
課題思索から解決思索へ、そして高揚へと展開する、申し分ない8分間です。
Orbital (オービタル)は1990年ごろ結成された、イギリスの老舗エレクトロユニットです。ハートノルさん兄弟2人でやってました。
Beezlebeat / Orbital
1-b: 思索・高揚 (静的言語向け)
同じくオービタルの曲。思索と高揚の、申し分ない10分間です。
こちらはC, C++, Javaなど, 静的言語に向きます。ユースケースに応じて使い分けてください。
ほんとかよ。
The Girl With The Sun In Her Head / Orbital
1-c: 実装フェーズ
さて、充分に思索が済んだら、あとはパワフルな実装フェーズが待っています。Two Months Off (Underworld) は使いやすくてお薦めです。仮にyak shavingでも構いません。生産性の低いsetter/getter奴隷でも構いません。押し寄せるシンセ・ストリングスが、どんどん実装するぞというシナプスへの力になることでしょう。たしか昔ウォークマンか何かのTVCFに使われていた曲なので取っ付きやすいと思います。
Two Months Off / Underworld
いや……
そこまでハッピーな高揚は俺の性格じゃないな。
なんかテスト書くの忘れそうだし……
しっかり地に足をつけて、がしがし実装を進めたい。
むしろオノマトペ的にはゴリゴリか……
そんなあなたには、再掲ですがOrbitalの、今度はLushという曲のEuro Tunnel Disaster '94ミックスをお薦めしてみます。
Lush (Euro Tunnel Disaster '94) / Orbital
1-d: リファクタリング
そして、あらゆるコードは時を経て、ひとや技術の移り変わりを経て、あるいは経なくても、いつかクソコードになってゆきます。そのネガティブを腕で解決しなければならないときもあります。そして、その役目があなたに巡ってくることだってあるのです。
そんな、ややブラックめな作業をがががっとやらねばならないとき。たとえば貯まりに貯まったこの技術的負債、俺が今日片付けてやる! みたいなとき。「もう我慢できないこんな糞コード、俺がリファクタリングしてやる!」という負のポジティブさを引き出すには、1981年のBrian Eno & David Byrneのアルバムから、America is Waitingはいかがでしょう?
America is Waiting / Brian Eno & David Byrne
1-e: リファクタリング(強)
さらに、負債のコアに最後の一撃を加えるとき。怒りのリファクタリングをtenseに結実させたいとき。
「とうとう最後のプロダクトだ…… これより、register_globalsなコピペコードを殲滅する…… しばらく、人間界から連絡を絶つ…」
そんなダーク・コード・ヒーローが耳にまとうべき鎧は、ベルリンが産んだ工業ノイズパンクバンド、Einstürzende Neubauten (アインシュテュルツェンデ・ノイバウテン, 崩壊する新建築) のYu-Gung 12インチミックスです。
Yu-Gung 12'mix / Einstürzende Neubauten
カテゴリー2: 防御と安らぎ
2-a: 清涼剤
さて、高揚ばかりが保つべき精神状態ではありません。安らぎのもとに、穏やかにゾーンに入って集中するのが良きコードにつながる本来のすがたでしょう。フランスの古参シンセ・アーティスト、ジャン・ミッシェル・ジャールの「磁界 パート4」なら、落ち着いてスタックトレースやアセンブラ・レベルのデバッグをしていくとき、あなたのシナプスを仁丹のように落ち着かせ、整えてくれます。
Les Chants Magnétiques IV / Jean Michel Jarre
2-b: 陽光の外へ
もうすこしアクティブに手を動かしたい? ならばフランソワ・Kがリミックスしているバーバラ・メンデスのAwakeningでどうぞ。ただし、こちらはBPMあるスムーズ・ジャズというかなので、エディタを捨てて海に行きたくなってしまうかもしれませんね。
Awakening (Edit) / Francois K Feat Barbara Mendes
2-c: 夕暮れの内へ
陽光のイメージよりは夜の作業環境? ならばついでにもう一曲、ホアン・アトキンス率いるモデル500のthe flow. こちらも、エディタを捨ててクラブに行きたくなってしまうかもしれませんね。
The Flow (Juan Atkins Remix) / Model 500
2-d: いつでも
もっと気軽に、なんかとにかくサクサク書きたいとき。ある程度までの量のCSSやjsonとかを書きたいときには、サイキックTVのBlissはいかがでしょう。ある程度以上の量であれば、上のほうの「怒りのリファクタ」に切り替えましょう。
Bliss / Psychic TV
同じく、淡々とさくさくと書きたいときなど、汎用的に広く使えるUnderworldのCupsでここは締めましょうか。
Cups / Underworld
カテゴリー3: 防御と鎮静
3-a: 幻想と鎮静
そして、さらにさらに深く、ゾーン状態へ。幻想的な音響とギター、エコーの彼方から美しく高く響く女性ヴォーカルで沈潜していきましょう。もし気に入ったなら、コクトー・ツインズは「全部こういうやつ」なのでお勧めです。
Lazy Calm / Cocteau Twins
さらに声も抜いて、もっと幻想の音響へ。ピアノと、虫の声が聴こえる夜の草むらのような。沈潜しましょう。気に入ったなら、Harold Budd & Brian Enoや、Brian Enoのソロもどんどんdigしてみましょう。
A Stream With Bright Fish / Harold Budd & Brian Eno
3-b: あぶない涅槃
電子音響の方面にも曲がってみましょうか。エレクトロのシーケンスへ。4:00あたりから始まる涅槃系リズムで、あっちに入っちゃってください。この曲はなんと、西ドイツ(当時)のポルノ映画のサントラとして作られた曲です。
Stardancer II / Klaus Schulze
さらに、ジ・オーブ。徐々に仏教とかオウムな領域が垣間みられてくるかもしれませんが、ツールですツール。
A Huge Ever Growing Pulsating Brain That Rules From The Centre Of The Ultraworld / The Orb
3-c: 薬物のやすらぎ
さらに鎮静させていくには、よりメディシンというかドラッグな力が増してきます。タンジェリン・ドリームの「フェードラ」は、聴き込むと鎮静・高揚、すべてに使えます。このアルバムが売られていることは果たして合法なのだろうかというレベルで効きます。
Phaedra / Tangerine Dream
こちらも高揚・鎮静どちらにも。ややノイズ系に寄ってきます。あまり音階とか五線譜な世界ではないです。
Atem / Tangerine Dream
3-d: ミニマルへの最終解脱
最終的に、安らぎへのメンタル・ミュージックは、ミニマル・ミュージックに始まりミニマルに終わります。ミニマルの定番中の定番, マニュエル・ゲッチングのE2-E4. 集中鎮静してプログラミングする精神環境としてもっともcanonicalなものではないでしょうか。1曲59分です。
E2-E4 / Manuel Göttsching
そして最後は、ミニマル・ミュージックの巨匠、スティーブ・ライヒにいたしましょう。
「ピアノ・フェーズ」は、12個の音符の並びを、ピアニストふたりが、ひたすら弾いていきます。しかし人力なので、ふたりの弾くテンポは、徐々にずれてきます。音の並びに差分が発生し、干渉縞ができ、音のモアレが発生していきます。そこをたっぷりと味わってください。
ひたすらややこしいcommitlogを味わって冷静に差分を解決していくときなどに、どうぞ。先日開催した, gitの無理難題を解決していくイベント「git challenge」でも、後半のBGMに使わせていただきました。
Piano Phase / Steve Reich
同じくスティーブ・ライヒの代表作「18人の音楽家のための音楽」
同イベントの前半のBGMでした。多くの楽章から成っていますが、管弦楽の生演奏による、ヒューマンでロジックで、安らぎと集中の1時間です。
Music for 18 Musicians / Steve Reich
以上、ちっともコードが出てこないエントリでした。
Have Your Happy Hacking!