トレタ アドベントカレンダー土曜日担当の増井です。
IT芸人とは
最近、深津さんが「IT芸人」について書いていました。
一般的にIT芸人枠のエンジニアを揶揄する流れがあるけど、会社に一人はいた方がいい。IT芸人がいると、コスト0でサービスがメディアに露出し、ユーザー数万人をタダで獲得でき、求人サイト使わずに人材が募集でき、VCから1億ぐらいは余裕で調達できる上に、色んなサービスと提携しやすくなる。
— 深津 貴之 (@fladdict) 2016年11月22日
「一社に一人いた方がいい『IT芸人』」ってなんでしょう?
私が初めて「IT芸人」という言葉を聞いた時は「プロダクトや技術より人物の知名度が高いIT系の人」という意味だったと思います。いつだったか忘れましたが、"小飼弾さんが何者かわからない"って話とセットで聞いた記憶があります。
2014年頭ぐらいからよく見るようになり、「IT業界で広く知名度を持ちながら継続的・積極的に情報発信をしている人の属性。発信内容により笑い、もしくは失笑を買いやすい人を指す」という感じになってきたと思います。
要するに「IT業界の賑やかし」です。
IT芸人の価値
「IT芸人」の一番の価値は注目される事です。例えば伊藤直也さんが何か書けば無条件で注目する人が多数います。当人もTwitterやrebuild.fm、各種講演などで積極的に情報発信をしています。
直也さんが発信する新しい技術や興味深い考え方など、テック系のメディアの記事より信頼している人が多くいると思います。
先ほど深津さんが言っていた状態も広く注目を浴びて信用されている人と定義するとマッチしそうです。
ネット時代には、人々から関心を持たれるという事に大きな価値があるという、アテンションエコノミーという考え方があります。
一人が1日に注目する情報の量には上限があり、それを奪い合うのが現在のメディアであり、大きな注目を集めることは非常に大きな財を持っているのと同等と見なせます。
必要要件
ではこの「関心」を集める人になるにはどうすればいいのでしょうか?
一番大きなものは「信頼」でしょう。過去の作品や行動、発言から信頼を得て、その信頼から「この人の話す事・行動には価値がある」と思われている人は当然関心を集めます。このためには自分がやったことなどを、なんらかの形でアウトプットする必要があります。
次に「話の面白さ」があるでしょう。技術的な話は難しくなりがちですが、これを理解しやすい形に噛み砕いて受け入れやすい形にするには、論理的に正しいだけでなく、面白さが必要です。特に技術の話で笑いが取れる事は必須要件と言えます。
もう一つに「公平であること」があると思います。偏った意見に寄らず複数の意見を見ながら自分の意見を通して行くには、公平な視点が大事です。広く受け入れられるのは難しいでしょう。そのためには「自分を技術の下に置ける」必要があります。「芸=技術」が主であり「人」が偉いわけでないことを理解して考えられることは大事だと思います。
「秀でたキャラクター」も必要でしょう。広く一般的に受け入れられやすいキャラクターもあれば、尖っているキャラクターもありですが、自分のターゲット領域に合わせたキャラクター作りをする必要があります。
どんなキャラクターでも「アイコン」や「代名詞」となるモノはあるといいでしょう。「お風呂」とか「ネトゲ廃人」とか。
IT芸人の機能
一番大きな機能は新しい技術や考え方の「広報」でしょう。「IT芸人」は「エバンジェリスト」と違い特定の技術にこだわらず、その人の興味のあることを広めます。
IT芸人と呼ばれている人の多くがCTOである事は、その役割の広さが興味の広さに直結するからでしょう。
もう一つ大きな機能として「代弁」があります。多くのエンジニアが発言力を持たない中、自分たちに近い考えを代弁してくれる人がいることは大きな支えとなります。「業界で注目されている人」が発言している事は業界外の人にも信頼されます。そのため、「IT芸人」が発信する事はエンジニアを超えて影響を及ぼします。
最後の機能は「タレント」でしょう。多くの人の共通認識として存在し、話を円滑にする役割です。IT系のイベントや勉強会などで、話慣れていないエンジニアに混じって、話しやすい環境を提供します。壇上もそうですし懇親会でもそうでしょう。
IT芸人の使い道
「IT芸人」はその話の幅や集客力などから、IT系イベントに呼ばれ壇上で話すことが多くあります。その内容が記事になりまた知名度を上げるというサイクルもあります。
しかしこの知名度を使った集客の幅や力は思ったほど広くありません。
「IT芸人」のキャラクターにあったテーマであれば強い集客を誇りますが、テーマと合わない場合は集客にはほとんど寄与しないでしょう。
ただ「IT芸人に会いたい」という需要はないのです。そのキャラクターにマッチした活動でしか使い道がありません。
そして、あまりテーマに合わないイベントに登壇したり、「正しくない情報」「偏りすぎた意見」などを発信していると信頼を失い、IT芸人という価値はあっという間になくなってしまいます。
IT芸人は会社の役に立つのか?
よく聞かれる質問に「IT芸人がいると会社の役に立つのか」というものがあります。先ほどの書いたように「IT芸人」という概念は会社でなく個人に付くものです。しかし、その個人の知名度が所属する会社の知名度を伸ばす事はあります。
特に設立直後のスタートアップや、技術的知名度や信頼度の高くない会社の場合、エンジニア認知が高まり採用がスムーズに進む場合があります。
私の場合、年に数回、街を歩いていると私のことを知ってくれていたエンジニアに声をかけられることがあります。そこで話をして仲良くなり、今トレタで働いているメンバーが2名います。
トレタはレストラン向けの予約管理プラットフォームを開発しているので、エンジニアが直接、接点や興味を持つ事は少ないのですが、私が色々なところで話すことを通じて興味を持ってくれることもあります。
また「IT芸人」がその会社のカルチャーを体現していると見られ、そのカルチャーに惹かれて興味を持ってくれるケースもあるでしょう。
「IT芸人」は通常の社内業務だけでなく、講演や執筆など社外と接点も多く、その二つをつなぐ役割も持ちます。トレタでは社内勉強会に私の繋がりで、社外の著名な方を招くことがあり、これも私の一つの役割になっています。
エンジニアのキャリアとしての「IT芸人」
「IT芸人」はエンジニアというより広い意味での広報的な役割を持ちます。しかし業務や技術的知識も強く要求されます。
強い技術力などを評価されてこその「IT芸人」です。「IT芸人」はあくまで補助的な役割で、「IT芸人」が主たる業務になった時点では既に終わっていると言えるでしょう。そのため、「IT芸人」は目的ではなく、何かをするための手段となります。「IT芸人」として注目を集めたあと、それを使って何を成し得たいのか、それを気をつけるといいでしょう。
私が「IT芸人」を名乗り始めたのは「偉くなりたくない」からでした。執筆や講演をしたりCTOなど役職がつくと「偉い人」という扱いになってしまいます。それより「アホなことやっていて話しやすい人」という方が、技術を伝える上では良いと思っています。
もし「IT芸人」を目指すなら分かりやすく多くに評価されるだけの技術力をつける必要があります。代名詞となる技術やプロダクトは必須要件です。
その上で、その技術を元に外へ出て行き、色々なところで話をしたり書き物をすることで、面白い人と思われるようになれば自然と「IT芸人」と呼ばれるようになるでしょう。