はじめに
電波干渉計の観測データであるビジビリティから、素子アンテナ毎の特性(遅延, 位相, 利得)などを求める方法を考察します。電波干渉計の較正に必要な処理で、精度と処理速度の両方を追求します。
一般定式化と記号
##観測方程式
観測されたビジビリティ${\cal \hat{V}}_k$は、素子アンテナ毎の複素ゲイン$G$と真のビジビリティ${\cal V}(u,v) $との間に以下のような関係を持ちます。
{\cal \hat{V}}_k \sim G_j G^*_i {\cal V}(u,v) \tag{2.1}
ここで$k$は基線番号, $i, j$はアンテナ番号, $u, v$は基線の空間周波数(それぞれ東西方向成分と南北方向成分), $*$は複素共役を表します。以下で$k$を$i, j$との対応はcanonical orderingに従うものとして一般性を失いません。記号$\sim$は、左辺の量は右辺の量に加えてランダム誤差を含むという意味で、計測で得られる左辺の量を用いて最小二乗法で右辺の値を解くことを意図しています。
ビジビリティ${\cal V}(u,v)$は、空間周波数$u, v$に依存しますが、時間$t$や観測周波数$\nu$によらず一定であるとします。時間変動する天体では要注意ですが、観測時間が変動のタイムスケールより十分短ければ問題ありません。周波数依存性はスペクトル線の観測では問題になりますが、周波数分解能を十分細かくした分光観測をすれば、分光チャネル内では周波数の依存性を持たないとしてよいでしょう。周波数依存性は帯域通過特性の較正のところで後述することにします。
もし天体が点源とみなせるコンパクトな天体であれば、ビジビリティは空間周波数によらず一定になります。点源でない場合でも、惑星のように天体の構造が既知であれば${\cal V}(u,v)$は既知とできます。電波干渉計の較正は、ビジビリティ${\cal V}(u,v)$が既知の天体を観測したときに得られるビジビリティ${\cal \hat{V}}_k$を観測方程式に当てはめて、素子アンテナのゲイン$G$を解く処理です。
素子アンテナのゲイン$G$は複素数で、振幅$|G|$および位相$\phi$を使って$G = |G| \exp(2\pi i \phi)$と表せます。
#具体的な解法
遅延・位相・振幅・複素ゲインについて個別にページを設けて、解法を議論します。