はじめに
一連のタスクがある。このタスクは、例えば「ある初期値をもらって、その初期値からある終了条件まで探索する」というもの。初期値によって探索の時間は大きくゆらぎ、かつ実行前にその時間がわからない。こういうタスクを並列処理したい。
以前同様なことをMPIで実装してみた。それをスレッド並列でやることを考えたい。最初、MPIでの実装をそのままスレッド並列に移植しようとして、pthreadとセマフォでなんとかしようと思ったんだけど、「あれ?OpenMPのスケジューリングに任せればいいんじゃ?」と思って、やってみたらできたので、その覚書。
コードは
においておく。
実装方針
メインスレッドであらかじめタスクリストを作っておき、あとはスレッド並列でそのタスクをばらまく。単にそのタスクを処理する関数を呼んでも良いのだが、将来ややこしいことをするので、探索用のワーカークラスをスレッド数分だけ作っておき、そいつに委ねる。MPIでの実装では「いまどのプロセスの手が空いているか」をメインプロセスからポーリングで調べていたが、これをコンパイラに任せる。具体的には、forループの中でomp_get_thread_num()
を呼ぶのだが、これが返す番号=手が開いているスレッド番号のはずなので、それをそのまま使う。
実装
メイン処理
タスクリストtasks
があり、その総数がN
とする。ワーカークラスWorker
の配列workers
があって、手が開いている奴のidを使ってworkers[id]->work()
みたいに呼びたい。つまり、メイン処理はこんな感じになっていてほしい。
#pragma omp parallel for
for (int i = 0; i < N; i++) {
int id = omp_get_thread_num();
workers[id]->work(tasks[i]);
}
その為には、まずワーカークラスをスレッド数分だけ作っておかないといけない。まず
int nthreads = 0;
#pragma omp parallel
{
nthreads = omp_get_num_threads();
}
とやって、スレッド数を取得する。そして、スレッド数分だけワーカーを作るために、ワーカーのvectorを作っておく。とりあえずスマートポインタのvectorにするのがいいんですかね。
std::vector <std::unique_ptr<Worker> > workers(nthreads);
#pragma omp parallel for
for (int i = 0; i < nthreads; i++) {
workers[i].reset(new Worker(i));
}
タスクは単純に整数の配列にして、その数字(ミリ秒)だけ処理に時間がかかるものとしよう。とりあえず0から1000までの一様乱数にするが、タスクのロードインバランスを表現するため、10%の確率でタスクの重さを3倍にしてみる。
std::mt19937 mt;
std::uniform_int_distribution<int> ud(0, 1000);
std::vector<int> tasks;
const int N = 20;
for (int i = 0; i < N; i++) {
int task = ud(mt);
if (task > 900) {
task *= 3;
}
tasks.push_back(task);
}
あと、最後に「理想的にタスクが分散できた場合にどれくらいの時間で終わるべきか」も表示しておきたい。こんな感じかな。
auto end = std::chrono::system_clock::now();
int sum = std::accumulate(tasks.begin(), tasks.end(), 0);
double ideal_task = static_cast<double>(sum) / static_cast<double>(nthreads);
auto diff = std::chrono::duration_cast<std::chrono::milliseconds>(end - start).count();
printf("Total Tasks: %d\n", sum);
printf("Ideal Tasks per thread: %d\n", static_cast<int>(ideal_task));
printf("Elapsed time [ms]: %d\n", diff);
printf("------------\n");
ワーカーの実装
実装っていってもいろんな重さのタスクを受け取って処理するルーチンのエミュレートに過ぎないからアレだけど、とりあえずコンストラクタでidを受け取って、Worker::work
がタスクを実行する処理(単に受け取った時間だけsleepするだけ)という感じ。後、終わった時に自分がどれくらいのタスクを実行したのかのレポート機能もつけておく1。
class Worker {
private:
std::vector<double> mytask;
const int id;
public:
Worker(int i) : id(i) {}
void work(int task) {
mytask.push_back(task);
printf("%d: %d\n", id, task);
auto start = std::chrono::system_clock::now();
while (true) {
auto end = std::chrono::system_clock::now();
auto diff = std::chrono::duration_cast<std::chrono::milliseconds>(end - start).count();
if (diff > task)break;
}
}
void show_summary(void) {
int sum = std::accumulate(mytask.begin(), mytask.end(), 0);
printf("%d: total num = %d, total tasks = %d\n", id, mytask.size(), sum);
}
};
メイン処理が終わったあたりに、レポートを表示させよう。
printf("------------\n");
for (int i = 0; i < nthreads; i++) {
workers[i]->show_summary();
}
実行結果
まずはシングルスレッド実行。
$ OMP_NUM_THREADS=1 ./a.out
(snip)
------------
0: total num = 20, total tasks = 27740
------------
Total Tasks: 27740
Ideal Tasks per thread: 27740
Elapsed time [ms]: 27760
------------
全部で20個のタスクがあり、その総量は「27740」で、それを「27760」の時間で実行したよ、ということ。
次はデフォルトのスケジューリングで4スレッド並列。
$ OMP_NUM_THREADS=4 ./a.out
(snip)
------------
0: total num = 5, total tasks = 4630
1: total num = 5, total tasks = 6810
2: total num = 5, total tasks = 1657
3: total num = 5, total tasks = 14643
------------
Total Tasks: 27740
Ideal Tasks per thread: 6935
Elapsed time [ms]: 14648
------------
20個のタスクを5つずつ4つに分割しているので、おそらくschedule(static)
が適用されているんだと思う2。
理想的には6935ミリ秒で終わってほしいが、実際には14648ミリ秒かかっている。
次はdynamicスケジューリング。omp parallel for
にschedule(dynamic)
を指示する。
#pragma omp parallel for schedule(dynamic)
for (int i = 0; i < N; i++) {
int id = omp_get_thread_num();
workers[id]->work(tasks[i]);
}
$ OMP_NUM_THREADS=4 ./a.out
(snip)
0: total num = 9, total tasks = 8801
1: total num = 4, total tasks = 6043
2: total num = 4, total tasks = 6444
3: total num = 3, total tasks = 6452
------------
Total Tasks: 27740
Ideal Tasks per thread: 6935
Elapsed time [ms]: 8822
------------
20個のタスクを[9,4,4,3]個に分割し、理想的に6935ミリ秒で終わってほしいところ、8822秒で終わっている。これは、たまたま最後にスレッド0番が重いタスク(2904)を引いてしまったからで、許容範囲だろう。
まとめ
スレッド並列によるパラメータ自明並列を実装してみた。パラメータにより実行時間にゆらぎがあるので、「手があいた奴が次の処理を取りに行く」という処理を書かないといけないのかなぁと思い、実際MPIでそう実装したのだが、スレッド並列でよければOpenMPのスケジューラに任せれば一発だった。
もともとMPIでの実装があったので、フラットMPIで同じことができるんだけど、今回は「各スレッド間で探索のためのハッシュ(メモ)を共有させたい」というニーズがあって、そのためにスレッドで同じことをやらせる必要があった。スレッド並列部分はハッシュを共有し、プロセス並列部分はハッシュを個別に持つハイブリッド実装は、全部ハッシュを個別に持つフラットMPIよりも探索効率が良いと思われるわけでこういうことをしているのだが・・・いつも思うけど、二種類の並列パラダイムを別々に扱うのは面倒くさいなぁ。でもハッシュをプロセス間で共有するためにMPIで同期とってたら流石に遅いだろうし・・・
追記
Twitterで「TLSをうまく使えばWorker
クラスの配列が不要になる」という指摘をうけ、thread_local
指定を組んでみた。
実行結果は同じ。
-
どうでもいいけど、プロセス並列でもスレッド並列でもなんでも、並列コード書いてると
std::cout
よりprintf
の方が便利だったりしません?std::cout
だと<<
のところで処理が割り込まれるからデバッグ用の表示が乱れちゃうんだよね。いちいちstringstream
に書いて・・・とかやるくらいなら、とprintf
使っちゃう・・・。 ↩ -
僕がOpenMPの仕様を読んで理解した限りにおいては、
schedule
を指定しない場合は内部制御変数def-sched-var
のschedule kind
を使用するとあるが、def-sched-var
の値の参照方法はなく、かつその値は実装依存とあるので、デフォルトスケジューリングは実装依存なんだと思う。 ↩