『おもしろい』とは何か(2)
『おもしろい』とは何か(1)の続きです。
前回は「おもしろいっていうのは感情が動くこと」というお話をしました。
今回は感情の動き方の個人差の話です。
あなたにとって嬉しいことはみんなにとっても嬉しいこと?
唐突ですが、外食店で「いただきます」を言うことは恥ずかしい、といった内容のまとめ記事を最近読みました。店員さんに「ありがとうございます」と言うことも人によって賛否あるらしいですね。
どちらも感謝を表現する言葉で、賛成派の人にとっては温かい気持ちになる=和むという感情の動きが発生、もしくはその人たちにとっては当たり前のことなので何も感情が動かない、というパターンが考えられます。一方で否定派の人には不快な気持ち=嫌悪の感情の動きが発生します。
このことから、同じシチュエーションでも人によって感情の動き方が違うことがある、ということが考えられます。
補足:
このエピソード自体は日常の風景の描写であってエンタメではありません。ですが、人の感情が動くという点で『おもしろい』を考える上で参考になる事例です。日常には感情の動かし方のヒントがたくさん転がっています。
町娘が働くことは褒められること?
もう1つ事例をお話します。
時代劇で病気の父と暮らす町娘が家事をしながら働いて生活費を稼ぐ、というテンプレ的な描写があります。そしてこういう描写の後にはだいたい町娘が悪者におそわれ、それを正義のヒーローが助けるといった展開が待っています。
家事もしながら仕事もする町娘、かわりそうだなぁという同情、偉いなぁという尊敬といった感情を視ている人は抱きます。そして、そんな町娘に悪さをする悪党には許せないという嫌悪感を抱き、そんな悪党をこらしめる正義のヒーローには憧れや感謝の感情を抱くことになるでしょう。
この話を考えた脚本家さんもこういった感情の動きを考えて書いたと推測できます。
さてこの感情の動き方。視た人は全員同じ感情の動き方をするでしょうか?
少し昔の日本の高視聴率テレビ番組でこのような話の展開がみられることから、日本に住む多数の人はこの感情の動き方をすると考えられます。しかし、女性が人前に出て働いて生活費を稼ぐことを宗教上の理由などによって良いと考えない人がこの時代劇を視たときはどうでしょうか?
女性に対する同情・尊敬は嫌悪になり、その結果、悪党に対する嫌悪はなくなり、正義のヒーローに対しての憧れや感謝もなくなってしまうかもしれません。
そしてこうなってしまうと脚本家さんが想定した感情の動き方とは大きく異なる結果となります。
感情も動き方は人それぞれ
外食店と時代劇の2つの事例を話しました。
この2つの例からお伝えしたかったことは人は成長環境によって感情の動き方が異なるということです。
どういう人たちに育てられてきたのか、周りにどういう人たちがいたのか、どういう本やメディアに触れてきたのか、どういう宗教や文化のもと育ってきたのか、そういったありとあらゆる成長環境によって人の感じ方というのは変わります。
まとめ
感情の動き方は成長環境によって人それぞれなんだよというお話をしました。
これを別の表現にすると、あなたの考える『おもしろい』は全人類が『おもしろい』と思うものにはらないとも言えます。エンタメを作る上でとても大切なことですのでぜひ覚えておいてください。
第3回へ続きます。
おわり
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