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実物貨幣としてのビットコイン

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ビットコインは、経済学の文脈で、実物貨幣と信用貨幣のどちらに分類されるべきかという議論があります。実物貨幣をどう定義し、信用貨幣をどう定義するかで結論が変わりますし、実物貨幣でも信用貨幣でもない第三の分類を定義することも可能だと思います。早稲田大学大学院教授の岩村充さんは、2014年の3月頃に放映されたあるテレビ番組で、信用貨幣と実物貨幣の大枠を示した上で、ビットコインは実物貨幣だと発言しました。私は筋の通った議論だと思っています。以下は、そのときの発言の一部です。

岩村 
ビットコインは、法律的にはともかく、貨幣です。正確に言うと、貨幣として以外に全く使いようがないという意味で、見事に貨幣ですね。電子ファイルの一種だと言ってもいい訳ですけど、例えば、音楽ソフトなら楽しめるんですけど、ビットコイン持ってても何にも楽しくない。人に渡すしかない訳で、これは貨幣ですね、やっぱり。だから、貨幣ってくだらないものなんですよ。貨幣としてしか使えないほどくだらない代物だというふうに意地悪言ってもいいですね。

岩村 信用貨幣というのは、発行者の信用に依存すると。日本政府の徴税能力と日本国債の信頼と金融政策に依存すると。こういうふうに価値ができてる。それに対して、大麦とか銀ってメソポタミアの時代からあったんですが、金貨っていうのは比較的新しいし、銭というのはかなり長い伝統があるんですが、そういうものっていうのは、もともと持ってる素材の価値が重要な訳ですね。素材の価値で通用するものを実物貨幣と言う訳です。さあ、ビットコインはどっちかと、こういう話ですが、実物貨幣です。

岩村 金の価値っていうのは、金自体たいしたものじゃないんですよ。金歯になるとかね。飾るとか。他に使いようがないから貨幣向きなんですが、じゃあなんであんなに金に高い値段がつくかというと、地金採掘費とか、鋳造費とか、流通管理費とか、そういうのが非常にかかる。だから1グラム何千円もするんですね。こういうのを限界費用っていうんですが、過去どのくらいの値段で金を掘ったかじゃなくて、今新しく金貨を1枚作るとしたらなんぼかかりますかと、1枚作るのに10万円かかりますというなら、そういう意味で10万円なんです。なぜかっていうと、価値が10万円より高いとマーケットで評価されれば、どんどん金貨作られるし、安くなると誰も作らなくなるから、結局そういうのを限界費用価格って経済学者は言うんですけどね。金は限界費用で価値が出てると。ビットコインはどうかということですよね。ビットコインについても同じように考えると、ご説明があった通りで、一定の手順を取って探し出した特別な数字の塊なんですね。その条件を満たす数字を見つけるのに、すごいコンピュータコストがかかる。電力代もかかる。それがビットコインの価値だよといふうに考えることができるとすれば、仮想で実物貨幣というのは変ですけれども、でも論理的には金や銀と同じ価値の構造を持ってるという意味で、実物貨幣に分類した方がいいと。

ところで、2013年12月にシカゴ連邦準備銀行が発行したレター論文では、ビットコインは信用貨幣だとしています。この論者は、計算機資源とエネルギーが、ビットコインの市場価格を決めることを認めながらも、金と違って一旦生成されたビットコインには交換以外の価値がないから、実物貨幣とは認められないという論理展開を披露しています。これは、岩村さんのように貨幣価値の構造の違いによって貨幣を分類するのではなく、貨幣の受領性の構造によって貨幣の分類を試みているのでしょう。つまり、内在的価値によって受領を期待できる実物貨幣と、内在的価値がないにも関わらず受領を期待できる信用貨幣で区別する試みです。

この論文のまずいところは、実物貨幣と信用貨幣を何によって分類するのか明確に書いていないことです。また、内在的価値(intrinsic value)の意味も曖昧だと言わねばなりません。金にしてもビットコインにしても、概ね限界費用のみでその価値が決まっていることを認めるなら、ビットコインにも内在的価値があるという結論になってしまうでしょう。常識論として、価値移転以外に利用価値のない電磁的記録を実物貨幣に分類するのは抵抗があるから第三の分類を作ろう、というのなら理解できますが、この論文にそのような提案はありませんでした。

ハイエクの『貨幣発行自由化論』の第10章にもあるように、経済学的見地からは、貨幣と貨幣でないものとの間に明確な区別はありません。区別が必要なのは法律の世界です。たとえ骨董品だったとしても、その流動性(受領性)と価値を分析することで、骨董品が貨幣として機能する程度を議論することができるということです。このように、様々な貨幣がある中で、それらを実物貨幣と信用貨幣に分類する試みは面白いと思いました。分類の結果は定義次第であり、上手に定義すれば、分類数が減ったり、固定観念を打ち破る分類結果になったりすることもあるのではないでしょうか。

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