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自社開発メインの会社に新卒で入ってしまった人のための業務委託に関する基礎知識まとめ

Last updated at Posted at 2016-09-26

僕もそうなのですが、自社プロダクトだけで成り立っている(この記事では「自社開発」と表現します)会社に新卒で入ってしまうと「業務委託?請負?なにそれおいしいの?」状態で他社と一緒に開発をすることについて何も知らないまま何年も社会人生活が過ぎてしまうパターンも珍しくないかと思います。

しかし、たとえ自社開発企業だからと言っても一部の部署では業務委託をしていたり、自分が退職して業務委託する(される)会社に転職することになったり、またはフリーランスとして独立するなんてことも可能性としては十分あり得る話です。また、今までは自社開発でやっていたとしても、もし全くノウハウのない領域にも手を伸ばそうと会社が判断したときに「よし、じゃあこの開発はノウハウのある会社に発注しよう」となる可能性もあります。

そうなった場合に法律や契約について知識がないと契約の際に何を検討、注意しておかなければならないかが分からず自分に不利になる条件で話が進んでしまったり、契約した相手との接し方で失敗をしてしまう危険性があります。

まさに自分がそんな感じだったので、業務委託の仕組みを理解する上での前提となる法律や契約について調べてみました。その理解を深める目的も兼ねて、この記事にまとめようと思います。

注)僕は法律の専門家ではありませんし、実際に身をもって他社とのやりとりを体感したわけでもありませんので、ここに書いてあることはあくまで本やネットで得た知識のまとめだということにご注意ください。また、内容に何か間違いがありましたらご指摘いただければと思います。

参考にした書籍など

業務委託に関する法律

委任と請負

さて、いざ開発業務を他社へ発注するとなった際、基本的な契約の形態は2つあります。それが「委任」と「請負」です。
ゴールが決まっている開発なのか、期間はどれくらいなのか、どの工程を発注するのか、といった要素でどちらにするかが決まるのですが、それぞれの内容は一旦置いておいて、まずはなぜ2つなのか、誰が決めたのか、という点を説明していきます。

先に答えを言ってしまうと、この2つは民法で規定されている枠組みです。IT業界に限定せず、民法では他社にプロダクトの製造を依頼する際の契約のし方について、請負と委任、という2種類を規定しています。

民法第2章(契約)の第9節(第632条〜第642条)には請負についての法律が、第10節(第643条〜656条)には委任についての法律が書かれており、業務を委託する側、される側それぞれが守らなければならない決まり事や、それが守られなかった場合の対処などが定められているのです。

例えば、民法の第633条には報酬の支払い時期として、

報酬は、仕事の目的物の引渡しと同時に、支払わなければならない。ただし、物の引渡しを要しないときは、第六百二十四条第一項目の規定を準用する

とあり、第624条第1項には

労働者は、その約した労働を終わった後でなければ、報酬を請求することができない。

とあります。
つまり、請負で業務を受注した事業者は、システムなどの成果物の納品後に初めて報酬を得ることができる、というような決まりが民法に規定されています。

ですので、企業や個人事業主(フリーランス)はここに書かれている法律に従って委任、もしくは請負という枠組みで業務委託の契約を結ぶ、ということになります。

「準委任」という言葉について

委任についてはよく「準委任」という言葉が使われていて、何が違うのか混乱することがよくあります。

これについてまず理解する必要があるのが、民法の第9節で説明している「委任」とは開発業務ではなく「法律行為」という漠然とした行為を「委任」することだということです。このことは第643条に書かれています。

委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。

委任する内容は「法律行為」ですので、特に開発業務の委託について書かれているわけではないのです。

ではなぜこの形態をシステム開発の業務委託の現場で用いるのでしょうか。
9節の最後、第656条を見るとこのように書いてあります。

この節の規定は、法律行為でない事務の委託について準用する

つまり、「委任」に関する法律を「準用」するため、開発委託を含めた事務についての委任には「準委任」という言葉が使われる、というわけですね。

つまり、エンジニアとして仕事をしている限りは、「委任」も「準委任」もその言葉が差し示す内容は変わらない、ということになります。おそらく「準委任」と言った方が正確ですので、使う際は「準委任」が良いかと思います。

「契約」とは

さて、これで委任・請負についての決まり事が民法で定められているのだということが分かりました。では「契約」とは一体なんなのでしょうか。決まり事は民法に書いてあるのであれば、小難しい契約書なんていらないような気もしてきます。

なぜ契約書を作るのか

まず、そもそも契約とはどんな行為なのかということを考えてみます。
一般にお金とモノのやりとりは、

売り手:「○○を××円で売ります!」
買い手:「買います!」

で決まります。比喩ではなく、本当にこれだけで売買の契約が成立します(コンビニなど、一般的なお店を想像していただくと分かりやすいかと思います)。つまり、誰かが条件を提示し、それを相手が了解してモノとお金のやりとりをしても良いという意思表示をすれば、それで契約が成立します(「諾成契約(だくせいけいやく)」と言うそうです)。

システム開発についても、「システム開発(という技術や工数)を××円で売ります!」「買います(委託します)!」というやりとりですので基本的には同じです。ただし、企業間のシステム開発ともなると金額も大きく、また、目に見えないシステム開発は何をもって納品とするかも非常に曖昧で、口約束だけでは後でもめ事が起こった際に水掛け論になってしまうことが予想されます。また、民法でも特定の業界に限った内容までは規定していません。

そこで、「納品物についてはこのように決めて、開発の進め方についてはこのように決めて、最終的に両社が合意しましたよ」という、約束の詳細についての証拠となるドキュメントが必要になります。これが契約書です。契約書があることで、お互いが何をすべきなのかが明確になり、何か問題が起こって裁判となっても、裁判所は契約書を頼りにどちらの言い分に利があるかを判断することができる、ということになります。

契約書と民法の関係

では、契約書と民法はどのような関係なのでしょうか。
それを理解するために、まずは「契約自由の原則」について理解する必要があります。

契約自由の原則

民法には「契約自由の原則」という考え方があります。これは、原則として「民法の規定よりも個々の契約における契約内容が優先される」という考え方です。つまり、契約書は法律で明確に定められていない部分を補完するだけではなく、法律で定められている内容を上書きして変えてしまうほどの効力があるのです。

例えば、先ほど請負の場合は「納品されたら報酬が支払われる」と説明しましたが、これも契約時に両者が合意すれば前払いでも分割払いでも何ら問題はない、ということになります。(もちろん、前払いだと途中で問題が発生して納品に至らなかった場合に揉め事になってしまいますので、その場合の処置などについても一緒に検討しておく必要があります)

国が定めた法律よりも企業(さらに言えば企業で働く人)が決めた内容が優先されるなんてちょっと理解しづらい部分ではありますが、民法の条項を見ると分かる通り民法には数十文字の条文が10項目程度が並んでいるだけで、業界特有の事情まで考慮した細かな決め事はしていません(できません)。そのため、「基本的な考え方は示すから、あとは両者で事情に合わせて自由に決めてよ」というスタンスなようです。

それほどまでに契約内容が重要だということを理解すると、普段は読み飛ばしてしまうような細かな契約内容に対しても真剣に向き合わなければならない、という気になるのではないでしょうか。

任意規定と強行規定

いくら契約自由の原則によって民法の規定を上書きできるとは言っても、さすがに限度があります。それが「強行規定」です。
強行規定として定められている法律は、たとえ契約内容に明記されていたとしてもそれを上書きすることはできません。これによって、公序良俗に反する内容や、明らかに一方を不利にするような内容が契約書に乗ってしまうことを防いでいるのです。

例えば、民法の第90条では、

公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効となる

と書かれていて、これは強行規定ですので、いくら契約内容に盛り込まれていて、両者が合意していたとしても、その契約は無効になります。

逆に、契約自由の原則として規定を上書きできる法律を「任意規定」と呼びます。

問題は、どれが強行規定でどれが任意規定か、という明確な記述は民法の中にはない、ということです。
このあたりは、各条文の意図などを考慮し、紛争になった際に個別に判断する、という感じのようです。また、そこでの判断が判例として蓄積され、各法律の線引きが明確になっていくようです。

ということを知ると、民法がいかに曖昧で、詳細な判断は裁判での状況や解釈に委ねられている、というスタンスなのだということを知ることができ、法律が機械的なものなのではなくとても人間的なものであることを実感します。

まとめると、 強行規定 > 契約内容 > 任意規定 という優先順位になっている、ということになります。


さて、ここまで説明した内容を元に、準委任と請負の特徴や違い、フリーランスのエンジニアがエージェントを通して企業と契約する場合どのような契約になるのか、等、さまざまなケースについて説明できればと思ったのですが、そのあたりはすでにとてもわかりやすくまとめてくださっているブログや記事がありますので、そのリンクを貼る程度としておきたいと思います。

まとめ

今回調べていて、他社への開発業務の発注には請負と準委任という形態が民法に定められていること、細かな決まりごとは契約書に書かれている内容が重要な意味を持つこと、契約のし方はとても柔軟であること、などを知ることができました。

準委任ならこれ!、請負ならこれ!と契約のテンプレートがあるわけではなく、プロジェクトの内容や会社(フリーランスなら個人)の強みや立場によって柔軟に契約内容が変化することを考えると、契約時の交渉もそのプロジェクトの成否を左右する大きな要因となることがイメージできました。

一方で、今回書いた内容はあくまで法律から読み取れる「原則」であり、実態がどのようになっているのかはまだ全く知らない部分ではあります。(ネット上には明らかにアウトなことを当たり前のようにやっているというような書き込みもあったりします)

実際は契約を締結する段階、締結した後プロジェクトを進める段階、プロジェクトが完了し報酬を受け取る段階で現実にはいろいろと契約や法律上のやりとりが発生することが予測されますが、この記事にまとめた内容が頭に入っていれば、ある程度は自信を持って自分の利益を確保するための主張をすることができるのではないかな、と思います。

その他

今回は記載できなかった内容として、「派遣」という形態があります。
こちらはまた別の法律で規定があり、考え方も請負・準委任とは違うため、同じ記事にしてしまうと長くなりすぎてしまうので今回は記載していません。

他にも、紹介した書籍には労働法についての説明がありました。このあたりも自分事として非常に勉強になる内容でしたので、一度さらっと読んでみるのがオススメです。出版が2006年とちょっと古いですが、法律の基本的な考え方はそう変わるものではないと思うので、この本を読んでから現在の法律を検索してみるのが良さそうです。

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