ガートナー、人工知能 (AI) に関する10の「よくある誤解」を発表 には誤解の解説が2つしかないので残りの8つを私なりに書きまする。
誤解3 AIと呼ばれる単一のテクノロジが存在する。
人工知能学会の「人工知能研究」にあるように、人工知能を目指して多数の研究・技術分野があります。「AI」という単一の何かがあるわけではありません。今注目を浴びているディープラーニングは人工知能を目指す技術である機械学習の更に一つの技術です。
誤解4 AIを導入するとすぐに効果が出る。
問題設定を、どう的確に出来るかに依ります。囲碁のように勝ち負けがはっきりしているものであれば結果が分かりやすいですが、ビジネスにおいて結果が分かりやすいものは意外とありません。
例えば売上予測をすると問題設定が出来たとして高精度な予測が出来たとします(これ自体もなかなか難しいですが)。ただ、売上予測が出来ても必ずしも嬉しくないはずです。行いたいのは売上を向上することでしょう。予測の根拠は何かを探り、その変数を操作できるかどうかを探り、その操作に幾ら費用がかかるかを探り、と続けて行って費用に見合うだけの効果があるかと問うとなかなか満たされるものはありません。
誤解5 「教師なし学習」は教えなくてよいため「教師あり学習」よりも優れている。
教師なし学習と教師あり学習は根本から異なります。教師なしで出来るのは基本的には、似たものを見つけるクラスタリングか、多数の変数から重要な因子のみに削減する次元削減か、のどちらかです。教師あり学習で出来る回帰(予測)や分類(判別)は教師なし学習では出来ません。
誤解6 ディープ・ラーニングが最強である。
問題に依ります。誤解4にも関わりますが、例えば売上予測を精度良くディープラーニングで出来たとしましょう。で、売上向上を目指したいとなった時に何をどうしたら売上を上げられるのかディープ・ラーニングは答えてくれません。例えば重回帰分析で売上予測を行い
売上 = 1.5×営業訪問数 + ……
となったならば、営業訪問数を増やせば売上が上がると分かります。この問題設定であれば、ディープ・ラーニングよりも重回帰分析の方が優れています。
誤解7 アルゴリズムをコンピュータ言語のように選べる。
ここで言う「アルゴリズム」は分析手法のことだと思いますが、これも問題設定に依ります。選ぶというよりも、持っているデータと求めたい答えにより決まるというものです。
- 拙記事「氷解!データ分析、機械学習手法ってたくさんあるけどいつどれを使えばよいのか」
- scikit-learn algorithm cheat-sheet
- Microsoft Azure Machine Learning Studio の機械学習アルゴリズム チート シート
あたりが参考になるかと思います
誤解8 誰でもがすぐに使えるAIがある。
学習用のチュートリアル的なものとしていろいろありますが、問題解決できるようなすぐに使えるAIがあるわけではありません。また以前のように一からプログラムをすべて書かずともライブラリとしてあるいはAPIとして開発環境が整備されて敷居が下がっているのは事実ですが、「犬と猫の写真を見分けたら利益向上につながる」というあり得ない状況でもない限り、誰でもがすぐに使えるAIがある、とは言えません。
誤解9 AIとはソフトウェア技術である。
これは「ソフトウェア技術」の用語の捉え方にも寄るかとは思いますが。AIを実行するのに必須な技術の例示として「R, Python, Hadoop, Spark」のような挙げ方をされているのをよく見かけます。これは一面では正しいですが、否です。これらはただのツールであってこれらの使い方に慣れるのは必要条件に近いですが十分条件ではありません。AIの技術の中で、問題設定、データの準備、手法の選択、「R, Python, Hadoop, Spark」等での実装、……という一要素に過ぎません。この意味では「AIはソフトウェア技術である」というのは誤解(少なくとも誤解を招く)と思います。
誤解10 結局、AIは使い物にならないため意味がない。
AIはまだまだまだまだまだまだ発展途上です。
囲碁がプロに勝てて、音声認識が向上したとはいえ小学生でも出来る挨拶も的確にはできないAIを見るとキワモノ扱いしたくなるのかも知れませんね。コンピュータが得意分野と人間が特異な分野は異なります。
囲碁は実はコンピュータには「簡単」なのです。相手が考えていることは分からないにしても盤上に結果はすべて出ており、ルールも明確です。こういった、情報がすべて明かされ、ルールが明確なものはコンピュータは得意です。ただ計算量が膨大なため今まで解けなかったものが、莫大な計算量かつディープラーニング技術で今年大きなブレークスルーがありました。
ところが挨拶ひとつとってもルールがあるようで曖昧です。「こんにちは」だけならまだしも、目上目下、知人か他人か、好意を持って近づきたいか悪意とは言わずともスルーしたいか、によっても挨拶が異なってきますし、挨拶を越えた応対となると千差万別曖昧模糊としています。こういったものは人間は得意ですがコンピュータは苦手です。
裏返すと計算量は多くとも問題設定が明らかに出来るのであればAIは威力を発揮します。100万枚の写真を分類するなんて人間には拷問以前に不可能でしょうが、ディープラーニングを手にしたコンピュータはいとも簡単に解決します。
繰り返しますがAIはまだまだまだまだまだまだ発展途上です。適切な問題設定が出来れば超人的な解決能力を示しますが、問題設定があいまいならば小学生にも劣ります。そしてまだ、専門家の手に委ねないといけない状況です
AIとは、手のかかるそして将来有望な可愛い子です。