車椅子ユーザーがソフトウェアエンジニアとして働く話

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Toreta Advent Calendar 2016 14日目担当の大野です。
私はToretaの社員ではないのですが、色々と縁があり書かせていただくことになりました。
普段はToretaのiPadアプリ開発のお手伝いをさせていただいています。
(ちなみに、所属は株式会社Glucoseです。)

思いの外長くなってしまった。

TL;DR

Toretaは車椅子ユーザーでも気兼ねなく働くことが出来る素晴らしい会社です。
自らのソフトウェアエンジニアとしての知識・技術に自信があり、かつToretaの事業に興味がある方は、車椅子ユーザーであることはひとまず置いておいてWantedlyなどを経由して話を聞きに行ってみるのも良いのではないでしょうか。
ただ、その際は車椅子ユーザーであることは事前に伝えてください。

はじめに

障害者であることを含め、いろいろな面を加味すると恐らく結構レアな人生を歩んでいる割には、それをアウトプットとして残したことが無いことに気付きました。
良い機会なので、車椅子ユーザーでソフトウェアエンジニアを目指している (or 目指そうとしている) 方の参考になればと思い書くことにしました。

想定読者(大事)

日常的な車椅子ユーザーで、

  • ソフトウェアエンジニアとして働こうとしている方
  • 将来的にソフトウェアエンジニアとして働こうかどうか迷っている方
  • 既にソフトウェアエンジニアとして働いていて転職しようか迷っている方

なお、胸椎以下の脊髄損傷及びそれと同程度の障害をお持ちな(手は自由に使える)方を想定しています。
手にも麻痺がある方や内部・五感に障害がある方、そして逆により軽度な障害をお持ちの方の場合はまた事情が変わってくると思います。

また、非エンジニアな方が自発的にここを読む可能性はあまり無いと思うので、思い当たる方が知り合いにいる場合は是非広めてください🙇

筆者について

プロフィール (2016年12月現在)

年齢とか

  • 1985年生まれ31歳
  • 2004年7月、18歳のときに事故で脊髄を損傷し車椅子生活に。(車椅子歴12.5年くらい)
  • 現在の所属 : 株式会社Glucose. iOSとAndroidのアプリを作ってます。(iOSのほうが得意)
  • 好きなキーバインド : vim (だけどvim自体は簡単なスクリプトを書くときくらいしか使ってない)
  • 好きなキーボード : HappyHackingKeyboard英字配列 (他のキーボードは使えない身体になりつつある。墨色かっこいい。)

略歴 (2016年12月現在)

  • 1985年11月 (0歳)
    福島県で生まれた。このときは健常だった。
  • 2004年7月 (18歳)
    京都大学理学部に入学して3ヶ月後、北海道小樽市で事故に遭い脊髄を損傷し車椅子生活に。
    そのまま大学を休学し、翌年1月まで北海道美唄市の病院に入院し治療、リハビリ。
  • 2005年4月 (19歳)
    京都大学理学部に復学。以降、これまでずっと一人暮らし。
  • 2011年4月 (25歳)
    京都大学大学院理学研究科で生物化学の修士号を取得後、ソニーに入社。モバイルアプリ開発を担当。
  • 2015年4月 (29歳)
    ソニーを退職しGlucoseに入社。現在に至る。

障害の程度

  • 胸椎6/7番損傷の完全麻痺で車椅子常用。1級身障手帳保持。

勤務形態など (2016年12月現在)

  • 東京23区内で一人暮らし
  • 株式会社Glucoseに正社員として勤務
  • 出勤5日/週、拘束9時間/日
  • 月火は麻布十番のGlucoseの職場で、水木金は五反田のToretaの職場で(常駐) それぞれ稼働。

まぁ、これだけ見るとどこにでもいるような普通の会社員です。

本題

1. 働き始めるまで

エンジニアとしての話

「車椅子ユーザーでも、ソフトウェアエンジニア(= パソコンを使う仕事) なら健常者と同等のパフォーマンスを発揮できるんじゃないか」という考えでソフトウェアエンジニアを目指す方は結構多いのではないでしょうか。
斯く言う私もその一人であり、新卒のときにはソフトウェアを作る仕事が出来るだろう、とソニーを何となく受けてみて、運良く受かったためそのまま入社しました。

ですが、当然といえば当然なのですが、「同等のパフォーマンスが発揮できる」 ということは 「同等のアウトプットが期待される」 ということです。
何かしらソフトウェアに関する経験や知識が無いと、働き始めてから確実に辛い思いをします。
完全に未経験の場合は何か自主的に勉強しておくことをおすすめします。
自主的な勉強をする気が起きないようでしたら、別の業界に進まれることをおすすめします。
なお、筆者は授業や研究で簡単なスクリプトを作ったりLinuxのコマンドライン操作をした程度の経験はありましたが、やはりなかなか辛い思いをしました。
ちなみに、大学・大学院での専攻はタンパク質のX線結晶構造解析でした。
(生物化学の中では比較的コンピュータを使う分野。)

未経験な場合に何を勉強すればいいか、は車椅子ユーザーに限った話ではなく、そのへんに溢れているので適当にググってみてください。
また、働き始めてからも、(特にスマホアプリやWebアプリに関わる仕事の場合) 技術の進歩やそのときの流行などを追い続ける必要があります。
それを認識した上で働き始めないと確実に辛い思いをします。
(他の業界でも勉強を続けるのは当然の話だ何言ってんだこいつ、と思われた方がいたらごめんなさい。)

求人に応募する話

1. 障害者採用に絞って求人を探すのはあまりにもったいない。

一般的に障害者専用の求人は事務ばかり、良くても社内SEとかです。
(もちろん、社内SEとして働きたい、という場合は別ですが。)
一般の求人に対して応募しても、採用されてしまえば(法的な意味では) 障害者枠です。
面接の過程で確認する機会はいくらでもあるので、入ってみたけどインフラが整っていなかった、ということはまず無い。
実際私は今の会社にCodeIQの一般の求人経由で入社しました。
ただし、当然ですが一般の求人に応募する場合には1回目の訪問に先立って必ず自分が車椅子ユーザーであることは伝えてください。
障害者採用の場合と違い、採用担当者はこちらが障害者だと思っていません。
プロフィールなどに書けば大丈夫だろう、と思われるかもしれませんが、以前転職ドラフトでいただいたスカウトに対して「車椅子を使っていますが大丈夫でしょうか?」という返答をしたところお断りされた、という経験があります。
プロフィールに「下半身不随のため車椅子常用」と書いているにも関わらず、です。

なお、一般の求人に応募した場合は障害者採用では恐らく可能な時短勤務や、平日の定期的な通院などは難しいかもしれません。
その辺の話は採用試験の初期の段階で話しておいたほうが良いと思います。
ちなみに私は定期的な通院は土曜日に行い、失便などで帰宅する必要がある場合は有給を使っているため、その辺りの条件は他の社員と同等で働いています。

2. (少なくとも新卒では) 採用試験を受ける上で学歴はとても便利。

障害者で、かつ高学歴だとそれだけでいきなりレアになりとても目立ちます。
実際、恐らく私は京都大学かそれと同程度の大学に通っていなかったら新卒でソニーでは働けていませんでしたし、ソニーの同期の障害者(確か私以外に3人) はみんな高学歴と言えるような大学の出身だったように記憶しています。新卒でソニーで働くのがいいことかどうか、は全く別の問題ではありますが。
ちなみに私自身は、本格的なソフトウェア開発未経験の状態で入る会社としては適切だったと思っています。

受験勉強もソフトウェアエンジニアとして働くことと同様、車椅子ユーザーでも健常者と同等のアウトプットを出すことが出来る分野だと思うので、これから大学もしくは大学院を受験するような方はちょっと頑張ってみてはいかがでしょうか。こんなことを言いながら、私自身は大学受験時は健常でしたが…。

勤務地や移動の話

1. 首都圏の会社で働く手段を確保しよう
もちろん首都圏以外にも素晴らしい企業はあるとは思いますが、それでもやはり東京、神奈川あたりの企業が選択肢に入るか否かで働くことが出来る企業数は大きく変わってきます。
東京怖い、とか一人暮らし怖い、とか言っている場合ではありません。
確かに車椅子ユーザーでも問題無く生活出来るような部屋に絞った場合東京の家賃はとても高いですが、幸いなことに(想定している読者の場合) 大抵は障害年金がもらえるのでそれでなんとかなります。
そして手が問題なく使えてある程度の広さがあれば一人暮らしなんて工夫次第でどうとでもなります。
なお、実家が首都圏にあるならそれが一番楽かと。

2. 独力で電車を使えるようになろう
ここで言う独力とは、「ホームまでの移動と電車への乗り降りが他人の助力無しで可能」 な状態を指します。
自宅から徒歩圏内の職場ならそれが一番ですがそれはなかなか難しい。
また、車通勤が許可されるような企業であれば話は別ですが、首都圏の会社だとやはりそれはなかなか難しい。
加えて、都心での車の維持費はやばい。
理想としては、通勤経路では独力で電車を使えるようになりたい。
毎日の通勤で介助が必要か否かで、精神の摩耗具合は大きく変わってくると思います。
多少回り道をすることになっても、可能な限り駅員さん等の介助無しで電車に乗ることができる経路を確保しておきましょう。

3. 独力でエスカレーターを使えるようになろう
念のため、「エレベーター」ではなく「エスカレーター」です。
ここで言う独力とは、「他人の助力無しでエスカレーターが利用可能」 な状態を指します。
上記の 「電車を使えるようになろう」 と共通する部分がありますが、都内の駅はエスカレーターを使えるか否かで利便性が大きく変わってきますし、実際私は現在通勤経路の駅でエスカレーターを利用しています。
加えて、駅以外でもエスカレーターが使えれば利用できる経路が増えるはず。
そのことも合わせると、エスカレーターを使えるようになれば仕事ばかりではなく趣味や遊びの幅も広がると思います。
なお、未体験な状態からいきなり一人でエスカレーターを使うのはとても危険なので、働き始める前に家族なり友人なりに手伝ってもらって適当な場所でエスカレーターを使う訓練をしておきましょう。(実際、車椅子ビギナーなときはエスカレーターから降りるタイミングで車椅子から落ちたりしました。)
その際は、人が多いと危険なので可能な限り人が少ない場所・時間帯を選んでください。
なお、どう乗ればいいかわからない、という場合には私に言ってもらえればエスカレーターを使っているところを動画にでもして公開しようかと思います。

4. 雨具の話
車椅子ユーザーにとって、雨は天敵です。
無理やり傘を使ったり諦めて突っ切ったり車椅子向けのレインコートを使ってみたり、いろいろと試しましたが、最終的にはこれがベストだという結論に至りました。
https://www.rakunew.com/items/73000
自転車向けに作られたものではありますが、車椅子でも問題なく使えています。
車椅子のアンダーネットに収まる程度のコンパクトさが魅力。若干お高いですが。

2. 働き始めたら

どうとでもなります。
ただ、強いて言うなら

劣等感と上手に付き合う
ソフトウェア開発未経験でこの業界に入ると、事前にある程度勉強していたとしても、凄い人が多すぎること、業界では当然とされているのに自分は知らないことが多すぎること、などに
劣等感を覚えることが絶対あります。
その劣等感と上手に付き合えるようにならないと胃をやられると思います。
ただ、劣等感は悪いことばかりではないはず。
上手に付き合えば、ソフトウェアに関する知識を身に着けるのに役に立つものだと思います。

感謝の気持ちを忘れずに
仕方のないことですが、どうしても何かと周りに助力をお願いする機会が出てくると思います。
そのときは感謝の気持ちを忘れずに。
助けてもらえるのは当たり前なことではない。

アクセスが悪い場所で開催される会社や部署の飲み会をスルーする方法
飲み会に参加する場合、階段の有無やトイレの利用可否など、気になることが多すぎます。
私は基本的に、幹事に
「階段があるかどうかとかは気にせず、人数などの都合がいい場所を確保してください。その上で、確保された場所が階段無しで入れる店だったら参加します」
と言うようにしていました。

もしくは、「調整さんやエクセルなどで参加の可否を確認して参加可能な人が一番多い日に飲み会を設定する」 というシステムを採用している場合に限って、以下の方法で飲み会をスルーできます。

他の人がある程度記入するのを待ち、
参加できる人が多い日に×を、
参加できる人が少ない日に◯を付ける

今だからぶっちゃけてしまうと、ソニーでの最後の2年間くらい?はこの方法で可能な限り部署の飲み会に参加しないようにしていました。
(幹事には気付かれていたかもしれませんが。)

ただ、自分が主役の飲み会(歓送迎会とか) には参加しておいたほうが無難かと思います。

最後に

私は今GlucoseとToreta、2つの会社の事業所を行き来しながら働いていますが、双方ともに車椅子でも働きやすい、素晴らしい会社です。

RailsやiOSの技術に自信があるという方はWantedlyなどを経由してToretaに話を聞きに行ってみるのもいいのではないでしょうか。

また、Glucoseでも社員を募集しています。
PythonやiOS、フロントエンドの技術に自信があり転職をお考えの方は弊社サイトより是非お声掛けください。

Toreta Advent Calendar 2016 明日15日目の担当は、フロントエンジニアの @ryotah です。