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RPAの導入・展開がうまくいっている企業に共通するポイント

Last updated at Posted at 2020-01-26

こんにちは。米系RPAベンダーでカスタマーマーケティングを担当しています。
RPAを推進している企業を応援する仕事をしたくて入社し、現在は自社プロダクトのユーザーに取材をして導入事例をつくったり、ユーザーコミュニティの運用や支援などをやっています。

仕事柄、RPAを導入した企業に「どのように展開を進めたのか?」について聞くことが多く、これまで様々な規模・業種の企業のRPA推進担当者や開発者の方々に話を聞いてきました。
中でも最近は「内製」、つまりロボットの開発や運用を外部に委託せず、社内のリソースによってRPAを導入・展開を行う企業が増えています。「内製化」に成功した企業の話を聞いていると、取り組みにいくつか共通点があることに気づきました。

私は決してRPAの技術の専門家でもなく、コンサルティングを仕事にしているわけでもありませんが、これまで様々な企業さんからうかがってきた「内製でRPA導入を成功させた企業に共通するポイント」について、整理してみたいと思います。

※本記事は特定の企業の特定の取り組みを紹介するものではなく、様々な企業の実践例をエッセンスとして紹介するものです。また、ここに書かれた内容は私が所属する企業の公式見解ではなく、あくまで個人の観点での見解となります。ご理解ください。

はじめに:RPA導入・展開の課題はフェーズによって違う

企業がRPAを会社として導入し、社内に定着させることを考えてプロジェクトを開始しようとすると、だいたいこんな感じにフェーズが分かれてくると思います。
phase.png

  1. 検討・PoC
  2. 初期導入
  3. 全社展開
  4. スケール

ひとくちにRPA導入と言っても、実はこれらのフェーズで推進チームが直面する課題は実は全然違う、というのが私の印象です。
なので、フェーズの違うところにいる企業に話を聞いても、「ふーん」「すごいね」とは思っても、「じゃあ明日からやってみよう」とはなかなかならなかったりします。

例えば、これからプロジェクトを開始し、どのツールが良いか悩んでいる企業が、「全社に定着させるためにこんな取り組みをしました」という企業の話聞いたとしたら、どうでしょうか?参考にはなるかもしれないですが、自分が直面していない課題にはピンと来ないことも多く、今の自社の課題の解決にはつながりづらいですよね。

「なかなかRPAの導入が進まなくて・・・」と悩んでいる方は多いですが、これらのフェーズごとに課題やベストプラクティスがあるため、今自社はどのフェーズにいるのか?そのフェーズで参考になる事例は何か?を意識することで、推進プロジェクトのリーダーの情報収集はより楽になるのではないかな、と思っています。

ちなみに私はこの「フェーズと課題を分けて考える」というのはとても大事だと思っていまして、私が運営に関わっているユーザーコミュニティのイベントでも、「どのフェーズなのか」というのは参加者、登壇者に必ず明示してもらうようにしています。でないと話がかみ合わないことがあるからです。

ということで、これらのフェーズごとにポイントを整理してみたいと思います。
なお「検討・PoC」についてはまた別のトピックになると思うので、ここでは導入・展開に当たる2〜4についてお話ししますね。

導入フェーズがうまくいく企業は、現場に上手に「自分ごと化」させている

RPAを全社・社長直轄のプロジェクトとして肝いりで開始する企業は多いですが、スタートのフェーズでうまく行っている企業は、最初からトップダウンで号令をかけるよりも、現場にRPA導入のメリットを理解してもらい、うまく「自分ごと」として感じてもらう工夫をしている企業が多いように見えます。
たとえば、こんな感じ。

自動化業務棚卸しは、具体的なデモでユースケースを想像させる

「自動化できる業務をリストアップせよ」と言われても、RPAがどんなものか、何をどう自動化できるのかピンと来ない状態では、「自動化できるルーティン業務なんて、ありません」と言われてしまう、なんてことになっちゃったりします。
逆にRPAが「魔法のツール」だと思われて、どんなことでも自動でやってくれると誤解されているケースも。
AIとRPAを混同しているというのも、よく聞く話。

スタートがうまくいった企業で聞くのは、「いきなり業務の棚卸をせよとは言わない」「ツールの説明から入らない」ということです。

  • たとえば、はじめの説明会をやるときは、具体的な業務の自動化をデモで見せるなどの工夫をして、「自分の仕事だったら、どうか」を想像してもらうためにリソースを割く。

  • 勉強会をやるときも、RPAのツールの機能説明の前に、「RPAとは何か」「RPAでできること、できないこと」を丁寧に説明し、同時に「業務プロセス改善の考え方」をレクチャーする。

「BPRなくしてRPAなし」と言われるくらいですから、業務プロセスをどう改善するか、つまり現在の業務を棚卸し、分解し、要不要を仕分けしていく作業は、どの企業もとても力を割いていると感じます。

実際に、RPA導入のメリットとして、削減時間など目に見える効果の他に「業務の見える化ができた」「BPRまではいかなくても、業務改善ができた」という声を事例の取材でよく聞きました。まさにRPAの目的が何なのかを示していると言えるのではないでしょうか。

手を挙げた部署のみ、徹底サポート

RPAを社内で展開するというと、教育をきちんとやるべきという話が必ず上がりますが、いきなり特定の部署・社員を指名して呼んで教育をしても、その部署や当人にやる気がないと、当たり前のことですが、教育の効果は上がりません。

むしろ、「RPAを導入したい」と自ら手が挙がった部署を優先的にサポートしたことで、パイロットのプロジェクトが成功した、という話を聞きます。なぜなら、そういう部署こそ「困っている度合い」が高くモチベーションが高いので、成果が出やすいからです。

ただし、サポートすると言っても、「ロボットを推進側が作ってあげる」だとなかなか現場で自走しないので、「自分にもできる」体験をうまく最初に設定したり、ハードルを下げて簡単なところからはじめる、部品化して共有、などの工夫をしているところも多いようですね。

上からの押し付けはしない

上記とも関連しますが、導入を急ぐあまり、最初からたくさんの部署を対象にして満遍なくスタートするよりも、「導入したい」という強い希望のある部署を優先してサポートする方が、成功する確率は高まります。そして効果が出てくると、それを見た他の部署から「うちでもやりたい」という声が上がる、ということが起きてきます。

マーケティングで有名なジェフリー・ムーア氏が提案した「イノベーター理論」というものがありますが、この理論で考えてみると、とてもわかりやすいです。

アーリーアダプター、つまり「新しいもの好き」な人たちと、マジョリティとの間には深い溝(キャズム)があり、マジョリティ層は自分から新しいものを取り入れることに慎重なので、アーリーアダプターが取り入れて成功したのを見てから手をつけると言われています。そして、マジョリティ以降の人たちに浸透するには時間がかかるということも。
innovattor.png

マジョリティ層、つまり自分から手を挙げない部署に上から「やれ」と言っても、なかなか自分から始めることができないものです。なので、アーリーアダプターである手を挙げた部署のパイロットプロジェクトがうまくいってから、それを事例として横展開するのがうまく浸透を進めるポイントになるのかなと思います。

全社展開が成功した企業は、いい意味で「トップダウン」を活用している

パイロットプロジェクトが成功すると、他の部署からも手が上がるようになり、成功事例を他の部署にも横展開する動きになります。ボトムアップによりRPAが自走を始め、全社展開を進めるフェーズになると、いい意味でトップダウン(会社の力を使う)で、こんな取り組みをしているという話を聞きます。

教育制度や社内エバンジェリスト

全力で個別にサポートすればよかったパイロットプロジェクトと異なり、複数の部署に同時に展開していくには、「仕組み化」が必要になります。一気に大量のリクエストや業務が発生し、推進チームのリソースも足りなくなりがち。
組織の力を利用して、推進する部署の整備とともに、教育制度を整える企業が増えていくようです。

  • 最初の研修プログラムを準備する
  • 社内で認定制度を整える
  • セキュリティポリシーなどを整備する
  • パイロットプロジェクトの旗振り役となってくれた現場の導入リーダーに、他の部署への啓蒙活動を行ってもらうなど「社内エバンジェリスト」として活動してもらう

現場の取り組みを評価することや、先導役になってくれたメンバーへの評価にもなる上、推進チームの代わりに現場が自ら他の部署に宣伝してくれるなどのメリットもあるので、これは面白い取り組みだなーと思います。アンバサダーと呼ばれることもありますね。

ちなみに、ロボットに愛称をつけるというのもよく聞く話。名前次第で愛されキャラになるみたいですよ。

表彰などのレコグニション

上記のエバンジェリストにも近いですが、うまくいったプロジェクト事例を全社の会議などで紹介し、部署やメンバーを表彰すると、現場のモチベーションはやっぱりとても上がるようです。それはそうですよね。

RPAを適用して大きな成果が出る部署というのは、たいていがバックオフィス系の業務が多い部署。こういう部署で、それまで手作業でプレッシャーのかかる業務を、なかなか評価されない中で地道にこなしてきたような方々が、RPAを導入して業務効率化に成功して社内で注目されている、という話を聞くと、個人的にも拍手喝采、胸がジーンとします(笑)

普段見えないところで会社を支えてくれている方々が、RPAという武器を手に入れて自分たちの業務を効率化し、会社の主役になる、というのは本当にRPAならではの素敵なところだなあと思います。

上司からのサポート

実は、これが一番大事だという話もあります(笑)
ロボットを作るのが現場の人である場合、本業が別にあるため、RPAプロジェクトはあくまで副業ということになります。
どんなに当人がやりたいと言っても、それが業務として認められないと、たいていの人はやりきることができません。
逆に、部署として公式にRPA導入が認められ、上司からのサポートがあると、やる気のある人はどんどんやることができます。

ある企業では、RPAの研修をするときに、必ず担当者だけでなく上司にも同席してもらい、RPAについて理解をしてもらうようにしているそうです。これは納得ですね。

社内プロモーション

手を挙げてくれる部署を増やすために、社内外でのRPA認知向上を力を入れている企業も多いです。
全社会議での組織長や部門長への報告はもちろん、社員への認知を高めるための活動です。
さすがに社員一人ひとりに説明したり対話することは難しいため、いわば社内でのマーケティング的な活動を行うことで、認知をスケールさせている企業の取り組みをよく耳にします。

  • 社内でRPAのポータルサイトを立ち上げて、事例を発信したり、案件を募集する、ドキュメントや部品を配る
  • デモムービーや紹介ムービーを制作して載せているところも多い
  • 組織間での成功事例紹介を積極的に行う
  • RPAの取り組みを社外で発信(PRや社外事例、登壇など)することで、社外での評価を高め、逆に社内の認知を高めるというケースも。

ちなみに、社外事例でプロジェクトメンバーを登場させるのは、メンバーにとってモチベーション向上につながることが多いと聞いて、なるほどと思いました。このあたりの社外への露出をうまく活用している企業も最近は多い印象です。

さらなるスケールへ

全社展開が進み、特定の部署だけでなく、複数・多数の部署へのRPA導入が進んでくると、企業の課題はたとえば

  • 残った部署にどう展開するか
  • グループ企業や海外へどう展開するか
  • AIをどう活用するか
  • アナログ(紙、手書き)が残る部分をどう自動化するか

などに移っていきます。ここから先にまで進んでいる企業はまだそれほど多くなく、また個別の話になることも多いことから、現時点ではまだ共通するナレッジとしてお伝えできる内容がありません。
1年後や2年後に、更に進んだ企業が増え、ナレッジが溜まっていくことを期待しています。

さいごに:RPAは会社を変えるか?

これまで、RPA導入を内製で実現している企業の取り組みをご紹介してきました。
が、内製が良いのか?ということについては、いろいろな意見があるため、必ずしもすべての企業にとって正解とは限らないですし、私も決して内製化だけが正しいとは思いません。

とはいえ、RPAに限らず、自分たちが日々不便やストレスを感じている業務の一部分を、RPAという武器を手に入れることで、「ちょっとした改善を、武器を使って自分でやる」という雰囲気になるのって、とってもヘルシーな組織文化だと思うのですよね。デベロッパーでは当たり前の文化ですが、そうでない職種・経験の人たちにとっては、当たり前ではなかったりすると思うんです。

RPAというツールが登場したことで、技術が一部のエンジニアやプログラマー経験のある特定の人たちのものから、一般の人たちのものになり(いわゆる「ITの民主化」ってやつです)、「ちょっとした改善を、武器を使って自分でやる」が日本企業の「当たり前」になったら、日本企業はもっと強くなれるのではないかな、なんて思っています。

それではまた!

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