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ヨーロッパはAI時代の競争においてなぜ絶望的なのか

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ヨーロッパはAI時代の競争においてなぜ絶望的なのか

日本では「欧米」という言葉のもと、ヨーロッパとアメリカを一緒のようなものとして扱ってしまうことをよく見受けます。

例えば、アメリカがすごいという分野があると、それによってヨーロッパも同じようにすごいのだ、というかんじです。

ところがじっさいにアメリカやヨーロッパに住んでみると、この2つは大きく異なる価値観をもった2つの異なる世界なのだと実感することになります。もちろん、そのヨーロッパの中でも、西と東で大きく違い、西ヨーロッパの中でも北と南、もしくはカトリック系とプロテスタント系では大きく違ったりします。さらにアメリカの中でも、例えば東海岸と西海岸では考え方や文化が大きく異なります。

私も日本に行くたびに、いかにシリコンバレーの企業がソフトウェアとデータを使うのがうまいかという話を多くの場面でしますが、こういう話をするとついつい、日本が遅れてて欧米が進んでいると言う話をしていると受け止められがちです。

しかし、実際にはシリコンバレーが特別な場所であって、世界の中でも一人勝ちだというだけです。実際、ニューヨーク、ボストン、シカゴなどのアメリカの別の都市と比べても、シリコンバレーは圧倒的に「異なる」場所であり、ヨーロッパ何かと比べると「天と地」ぐらいに「異なる」場所です。

つまり、日本が特別に遅れているのではなく、シリコンバレーが他に比べて進みすぎているのであって、シリコンバレー以外のアメリカやヨーロッパと比べると、日本は特に遅れているわけではないのです。

そして、こういうふうに思っているのは私だけではありません。

今回は、もとGoogleの中国の社長で現在は主に中国でのAI分野で積極的に投資活動をしているベンチャー・キャピタリストのKai-fu Leeが、「なぜヨーロッパのAIセクターは絶望的なくらいだめなのか」という話を最近していたので、こちらで紹介したいと思います。


Kai-fu Lee: No hope for Europe’s artificial intelligence sector - Link

質問:あなたはAI分野でのUSと中国の大きな進展に関してよく話しておられますが、ヨーロッパの可能性というのはどうでしょうか?

ヨーロッパは現在のいわゆるAI競争と言われるレースの中では、銅メダルさえ獲得することができないでしょう。

たしかに歴史的にみて研究の領域では強いですが、USや中国が成功している要因のうち、一つたりともヨーロッパは持ち合わせていません。

なぜシリコンバレーや中国が先頭に立って走っているかについて上位5つの理由をリストしたとして、ヨーロッパはそのうちの1つの点のその半分もあるかどうかわかりません。

ヨーロッパにはVC(ベンチャー・キャピタル)と起業家のエコシステムがありません。ヨーロッパの起業家はアメリカの起業家の革新さ(イノベーティブ)には遠く及びませんし、中国の起業家の粘り強さにも及びません。

さらに、ヨーロッパの起業家は今の時代に必要なソフトウェアとAIの問題を解決するのに必要になる経験を持ち合わせていません。

ヨーロッパにはかつてすぐれたハードウェアと通信の企業がありました。そしていくつかのとてもよいエンタープライズ・ソフトウェアの企業がありました。しかし、コンシューマー・インターネット、ソーシャルメディア、モバイルのアプリケーションの分野で大きく成功した企業を作ったことはほとんどありません。

つまり、すでに3つの重要なリンクを逃してしまっているのです。それゆえに、ヨーロッパには大量のデータと大きなAI企業を作っていくだけの経験がないのです。

USが世界のトップを走っているのは、研究と導入の分野で両方同時に強く、世界でトップクラスのVCと起業家のエコシステムがあり、すでにこのデータとAIの世界を牽引しているGoogle、Facebook、Amazonといった企業があるからです。

アメリカにはすでに40年、50年に渡る、異なる分野を超えたコラボレーションが行われています。半導体業界の人たちはPCの人たちを助け、PCの人たちはソフトウェアの人たちを支え、ソフトウェアの人たちはインターネットの人たちを助け、インターネットの人たちはソーシャルメディアの人たちを助け、ソーシャルメディアの人たちはモバイルの人たちを助けるといったようにです。

そうして培われてきた全てのリソースが現在AIの人たちを助けているのです。

こうしたネットワークと、昔から受け継いできた資産が今日も活躍しているというのがシリコンバレーです。

中国に関しては、運が良かったのは、多くの分野でかなり遅れていたということです。それによりモバイルの世界に一気に飛び込むことができ、クレジットカードを飛ばしてモバイル・ペイメントに飛び込み、ショッピングモールを飛び越えてオンラインのリテールに飛び込むことができたのです。

産業の歴史的遺産はそう簡単に捨てることができません。それは変えることの難しい悪い習慣を作り出し、置き去りにすることのできない荷物を作り出してしまうからです。

最後に中国は政府という優位さがあります。必要なインフラを構築し、必要な投資を行い、進むべき方向を国として提示してくれるからです。

質問:ヨーロッパの規制に関するイニシアチブ、例えばデータの保護、テック企業による独占に対する規制、イノベーションを試すことのできる環境の構築などはヨーロッパがAIの分野で独自の強さを発揮することに役立つでしょうか。

そんなものははっきり言って学問の場での議論に過ぎません。

ヨーロッパがほんとうの意味で競争したいというのなら、全てをやり直す必要があります。全ての人の電話とインターネットを捨てて一からやり直す必要があります。しかし、歴史や人々の習慣をやり直すことはできません。

ヨーロッパの人々はGoogle、Amazon、Facebookを使いますし、そうしたものが実際好きです。たとえそれらの一部を嫌いだと言っていたとしても。

Googleが誰が何をタイプし、何を言い、何をサーチしているかを知っているというのはとてつもなく強力なことです。GoogleやFacebookはあなたをターゲットにした広告を出すことができ、そのことで史上最大のお金を儲けることができるのです。

規制を持ち込み、これからそういったことができないようにしてしまったところで、新しい会社がどうやってGoogleやFacebookといった相手と競争していけるというのでしょうか。ヨーロッパにGoogleやFacebookを置き続けた上で、彼らがやっているのとは別のアプローチを取る他の企業をどんなにプロモートしたところで、そうした企業はあなたをターゲットに広告を出すために必要なデータをまったく持っていないのですから。

GoogleやFacebookはつまるところお金の輪転機を持っているのです。ヨーロッパの新しい規制のもとに作られる新しい企業がGoogleやFacebookといった企業よりももっと多くのお金を儲けることができる仕組みを作れるとは思えません。

確かにそうした規制は人々のプライバシーを守ることには役立つかもしれません。しかしそのことと、お金を儲ける仕組みを作ることとは別の話です。

つまるところ、もしヨーロッパが本気で成功したいのであればGoogle、Facebook、Amazonといった企業をヨーロッパから追い出すしかありません。

しかし、こうした大きなテック企業の力を制限することでヨーロッパが先ん出ることができると考えているなら、それは甘すぎます。そんなことはまずできないでしょう。

なぜならヨーロッパはテックに関してはあまりにも遅れていて、ヨーロッパの人々は例えばGoogleのような彼らが愛してふだん使っているものから得られる利便性を諦めようとはしないでしょう。

これは資本主義の世界の話なのです。

ヨーロッパで聞く理想主義は尊敬しますし、人々のプライバシーを守るための努力も素晴らしいと思います。しかし私のヨーロッパに対するアドバイスは、「全く新しいアプリケーションを作りそれを構築していくことに集中すべきだ」ということです。

あなた方の持っている理想主義に対するエネルギーを、次のパラダイムシフトを見つけ、そこでイノベーションを起こすことに費やすべきなのです。


要約、終わり。

あとがき

いかがだったでしょうか。ひどい言われようですね、ヨーロッパ。。。😱

しかし、私もシリコンバレーにいる感覚から言うと、彼のコメントは全然大げさでもなく、とくに厳しいということもないと思います。ただ事実を述べているだけという感じです。

それくらい、今のヨーロッパは、現在のソフトウェアとデータをもとにしたプロダクトやサービスに飲み込まれていっている競争時代についていけていないのです。

GDPRというオウン・ゴールのような無駄な規制を行ったり、現在では著作権を守るためにインターネットの恩恵を規制するための法律を導入しようとしたりと、全くセンスがないことばかりです。

ドイツとフランスの官僚的な体制が強い今のヨーロッパでは、こうした流れは当面変わることはないでしょう。そして現在イギリスがEUから抜け出したいというのはここに理由があると思います。

しかし、今回この記事を紹介したかったのは、対岸の火事を笑うためではありません。結局日本も、程度の差こそあれ、ソフトウェアやAIの世界ではアメリカと中国といった二強に大きく差を開けられているのが現実です。

ほんとうの理由は、間違えても今ヨーロッパで起きていることを「欧米」だということで、「お手本」として日本が参考にはするべきでないという思いがあったからです。(もちろん、「反面教師」というのはありですが。)

現在、参考にすべきなのは、アメリカであり中国であり、アメリカの場合は特にシリコンバレーなのです。日本には日本にあったやり方があるので、何も真似をしろと言うことではありません。ただ、こうした本当に「うまくいっている」ところでは何がうまくいっている原因なのかを考えるのは重要だと思います。

もちろん、これはビジネスやイノベーションに関する話ですので、それ以外ではヨーロッパが今でも参考になることはたくさんあると思います。


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