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カメラ不要!? Wi-Fiの"電波"を使った3D姿勢推定モデル「WiPose」

Last updated at Posted at 2020-10-01

はじめに

遂に、テクノロジーがここまで来ました。

** カメラなしで、姿勢推定できる時代が来ます **

Wi-Fiの電波を使って、障害物の向こうにいる人の姿勢や動きを高精度で推定する技術 『WiPose』 がニューヨーク州立大学の研究チームから発表されたので、ご紹介します!

この技術で驚くべき点の1つは、市販のWi-Fi電波送信機1台と、受信アンテナ数台だけで、3次元の姿勢推定ができる点です。

q2.png

また、RGBカメラでは推定が難しかった「暗闇での姿勢推定」ができるのも驚きです。

q3.png

どんな仕組み?

この技術でベースとなっている原理は「ドップラー効果」です。
救急車が目の前を通り過ぎるときに、サイレンの音の高さが変わるあの現象ですね。
一般に、波が発生している空間内で物体が動くと、波長が長くなったり短くなったりします。

今回の場合、Wi-Fiシグナルが発生している空間内を人が動くことで、波長が"わずかに"変化します。このわずかな変化を複数ヶ所で収集し、ディープラーニングモデルに流し込むことで姿勢を推定する、というのがWiPoseの推論の仕組みになります。

システム全体図

システム全体図は、下図の通り、①データ収集→②データ処理→③骨格構築の3ステップになっています。

データ収集
 一台のWi-Fi電波発信機と、6〜9台の受信機を使って、データを収集。
データ処理
  Wi-Fiシグナルから、CSI(チャネル状態情報)を抽出。
骨格構築
  CSIをインプットに、ディープラーニングモデルを使って、骨格を推定。

q4.png

【WiPoseのここがすごい】

WiPoseの平均誤差はわずか2.83cmです。2019年のSOTAモデルより、1.5cm(約35%)も精度が改善されています。
高精度を達成できた理由を2つ紹介します。

①骨格モデルの導入

1つ目は、人体骨格モデルを導入した点です。Wi-Fiシグナルは空間分解能が低く、シグナル情報が誤りがちなので関節点を独立に推定すると、最終的に不自然なポーズができあがることがあります。
彼らはこの課題を解決するために、「身体の各部位の長さは一定である」という特徴をモデルに組み込み、それぞれのボーンが親ノードを中心に何度回転しているかを考えることにしました。その結果、腕や足の長さは常に一定になり、自然な見た目を実現し、推論を安定させることができました。

q5.png

②時系列情報の利用

2つ目は、時系列データを利用した点です。通常、身体の動きは複数のタイムフレームにまたがるため、連続するデータサンプル間には強い時間依存性があります。彼らはこの連続するデータサンプル間の関係を学習するために、RNN(再帰型ニューラルネットワーク)を使う手法を考案しました。

q6.png

損失関数

損失関数についても少し触れておきます。

損失関数は、位置に関する損失 $L_p$、動きの滑らかさに関する損失 $L_s$、回転に関する損失 $L_r$の3種類を組み合わせて定義しています。

J = L_p + \beta L_s + \gamma L_r

(a)位置に関する損失
  正解座標と推定座標との距離を計算します。($p$は位置座標。)→正確な位置に近づけるための定義です。

\left|\left| \, p_{ground \, truth}^{t} - p_{predicted}^{t} \right|\right|_2

(b)動きの滑らかさに関する損失
  ground truthと同じ方向に動いているかを計算します。($||\cdot||_H$は、Huber損失。)→不自然な動きを抑制し、より人間らしい動きに近づけるための定義です。

\left|\left| \, v_{ground \, truth}^{t} - v_{predicted}^{t}\right|\right|_H

(c)回転に関する損失
  推定されたボーンの向きが、ground truthの向きと同じかを計算します。($u:=p_{(child)}-p_{(parent)}$ 親ノードから見た子ノードの相対位置ベクトル)→手足の振れ幅や曲がり具合をより正確にするための定義です。

\left|\left| \, u_{ground \, truth}^{t} - u_{predicted}^{t}\right|\right|_H

WiPoseの応用先

WiPoseは、市販の機器の組み合わせで安価に作ることができ、また物隠れにも強いため、以下のように幅広い応用事例が論文にて紹介されています。

  1. ヘルスケア:プライバシーを侵害せずに、高齢者や患者をモニタリングし、アラートを出す。(RGBカメラで24時間モニタリングされるのは嫌ですよね)
  2. VR/ゲーム:障害物などにより手足が物に隠れてしまうような環境でも、人を正確に認識し、バーチャル空間に投影する。(十分に広い部屋でなくても、バーチャル空間に自分を投影し、ゲームを楽しめるようになります)
  3. 盗難検知:カメラだと検知が難しい、服やカバンで手を覆って行う万引きを検知する。(犯罪の抑制が期待できます)

まとめ

今回は、Wi-Fiを使った姿勢推定モデルについて、解説しました。
Wi-Fiの普及率は70%と言われており、今後、様々なシーンでの応用が期待できる技術です。

もっと詳しく知りたい!という方は、ぜひ論文を読んでみてください ↓↓

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