コードポイントからグリフIDを取得するまで
今回は、前回触れたOpenTypeフォントに含まれる代表的なテーブル、cmap
についてお話しします。
こちらはすべてのOpenTypeフォントに含まれる必須の情報です。
cmap
: Character to glyph mapping
cmap
は文字コードのコードポイントをグリフID (GID) に変換するものです。
グリフというのはフォントの中に入ってる描画要素≒文字のことでした。
見つかったGIDに対応するグリフを描画することで、我々のディスプレイには正しい文字が表示されるのです。
もしここでコードポイントが見つからなければ、GIDが0のグリフが使用されます(.notdef
と呼ばれることもあります)。
これはNotoフォントの名前の由来にもなった豆腐というやつですね。
cmap
には複数の変換表が存在する
cmap
には複数のマップ: 文字コード↦GIDが存在し得ます。
これは例えば、Shift_JIS↦GIDとUnicode↦GIDがある場合であったり、UnicodeだけだとしてもUCS-2↦GIDとUSC-4↦GIDが存在する場合であったりします。
ここで、
- GID = [0,グリフ総数) ⊆ {0,1,...,65535},
- UCS-2 ⊂ UTF-16 ⊂ UCS-4 = UTF32.
複数の変換表があるため、cmap
の先頭には自身がいくつの変換表を持っているかという情報を持ちます。
そして、それぞれの変換表はplatformID
とplatformSpecificID/encodingID
を持ちます。
-
platformID
- Macintosh, Microsoft, Unicodeのどれか(すごいね)
-
platformSpecificID/encodingID
- Unicodeのバージョンや符号化方式、文字コード
これの情報から自分の求める変換表を見つけ出し、その表に従ってコードポイントからGIDを取得します。
ここは仕様に唯々諾々と従うのみです。
今のフォントには多くの場合、Unicodeからの変換表があるので安心して大丈夫です。
cmap
の変換表は基本的にはひとつのコードポイントからひとつのGIDへの変換になっています。
ただし、2つほど例外があります。
Format 13
これはひとつのコードポイント範囲からひとつのGIDへの変換になっています。
この変換表の主な用途はフォールバックフォントです。
つまり、他にそのコードポイントのグリフがない場合に、Unicodeの範囲ごとに異なるグリフを返すことができるようになります。
(どの言語のグリフなのかという程度の情報を人間に授けることができます)
Format 14
これはUnicode Variation Sequences (UVS) と呼ばれるもので、日本では異体字セレクタなどと呼ばれています。
これは漢字の後ろに異体字セレクタと呼ばれるUnicodeのコードポイントを置くことで、
- 東京都葛󠄁飾区の葛󠄁
- 奈良県葛󠄀城市の葛󠄀
といった字体の違いを表現することができます。
ここでは
- 葛󠄁: 葛の後ろにU+E0101が続く
- 葛󠄀: 葛の後ろにU+E0100が続く
というように1文字が漢字+異体字セレクタで構成されています。
あれ? ということはつまり、コードポイント2つがcmap
で1つのグリフに変換されていますね。
(リガチャなどの合字とは違ってcmap
のレベルで変換されているのが面白ポイントです。そしてリガチャの話はGSUB
テーブルのところで説明します)
cmap
のつらい制約
グリフIDの最大値は65535 ( = 2^16 - 1) です。
一方Unicodeのコードポイントの数は(定義されているかどうかは別にして)100万以上あります。
素晴らしいですね。
(はやく最大グリフ数が増える仕様が策定されないかなあ)
おわりに
フォントのグリフ数が65535個(.notdef
を除く)という制約は思いの外厳しく、Source Hans Sansなどはそれをフルに埋めたことで話題になりました。
さて明日、明日こそOpenTypeの仕様入門を完結させます。
内容は、
-
GSUB
テーブル- 文字列から
cmap
で変換されたGID列をさらに別のGID列に変換する
- 文字列から
-
GPOS
テーブル- グリフとグリフの位置関係をGIDベースで調整する
です。